MHT/Apocrypha   作:綴れば名無し

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 以前書いていた人間族vs魔人族の戦い
まだ両種族の戦いに必要なメインキャラが揃っていないので此処で切り上げました。
最後の方にずっと先で出てくるモンスターのチラ見せもあります。


シュネー雪原の戦い「決着」/氷雪の中に幻は消える

 

――――――シュネー雪原の戦いが始まってから二日が経過した。

 

 初日の戦死者、帝国軍総勢400名中…死亡36名負傷23名行方不明3名、残存戦力は338名。

失ったのは全て第一中隊の兵士である。彼らは前線基地破壊作戦を中断、ウルディア山脈の砦へと撤退し防衛に専念する姿勢を取った。

 

 対するガーランド軍2500名中…死亡55名負傷153名行方不明30名、残存戦力は2262名。

圧倒的な兵力差をもってあたった彼らは初戦の犠牲が少なかったことで勢いづいた。だが翌日の朝に原因不明の大寒波が発生、進軍が困難となる。旅団長デイヴォフは進軍を中止。当初の目的であったシュネー雪原に部隊を戻して、前線基地を完成させる。

 

 兵力の乏しい帝国軍にとってこの敗戦は敵の侵攻を許しただけでなく、最前線で戦える兵士を失うといった大きな痛手となった。

対するガーランド軍は犠牲者こそ多いが、前線基地の完成はいずれ来る攻勢への足掛かりになる。

 

【―――此方からの連絡は以上だ。カトレア、お前の報告を頼む】

「はい。…数日前から潜伏拠点の店が目をつけられた為、放棄しました。以降は行商人に混ざって帝国内へと潜入に成功。敵軍の動向を調査します」

 

【―――そうか。王国が陥落した現状、最も警戒するべきは帝国だ。お前はこれまで通り情報収集に専念しろ。定時連絡の有無はお前の判断に委ねる。緊急の連絡は私個人へ直接繋げ】

「了解しました。……魔王様、あの少年の事をお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

【幸利のことか?奴なら別任務を遂行中だ】

「別任務…?ダヴァロス旅団長達の捜索でしょうか?」

【あぁ、それは既に達せられた。今は人間共の村にいた神の使徒を襲わせている】

「神の使徒を…!?それは―――」

【人間達の戦意を削ぐ…というのは建前でな。フリードを始めとする各旅団長に幸利が此方の陣営にとって利用価値のある味方だと証明する為だ】

 

 清水幸利は人間と魔人、どちらの陣営からも今のところ利用価値を低く見られている。

一度は味方を裏切ったというマイナス面が注視されている以上、また裏切るのではないかという疑いの目で見られるのは当然の帰結であった。

 

 カトレアは事情を少し知っていたから、幸利が自分達を裏切るとは考えなかった。

話し方や仕草から思春期特有の捻くれた部分はあるとしても、受けた恩を仇で返すほど魂の根底まで腐ってはいない。特殊工作部隊の指揮官として観察眼に優れた彼女は幸利をそう捉えている。

だが他の旅団長達は違う。特にフリードはアルヴの信者であったことから、人間嫌いも相まって幸利が彼の信用を得るのは容易じゃない。

 

「その任務…果たして上手くいくでしょうか?」

【フム。――――――少し上から覗き見してみたが、かなり苦戦しているようだな。フッ、奴め…無意識の内に殺しを躊躇したか。まだまだ甘いな】

 

「…魔王様。彼がどんなに強気を見せても、戦いを知らない子どもだった事実は変わりません。…いくら嫌悪していたとはいえ、面識のある同族を殺すなど…そう簡単に出来る筈が…」

【だから今回の任務が必要なのだカトレア。たった一度や二度の失敗で、奴が心折れるような軟弱であれば我が軍で利用する気はない。南方の未開拓地にでも飛ばしてコキ使うことも考えていた】

 

「…それは魔王様のご意思ですか?それとも―――」

【再三、幸利の待遇変更を俺に進言してきたフリードと決めた妥協案だ。その時は監視も兼ねて俺の使徒を一人と、いま付けている副官のニーベルを同行させるつもりだが――――――クククッ!どうやらこれは、没案になるやもしれんな?】

 

「…何か、動きがあったのでしょうか?」

【その副官が、不利な状況に追い詰められた上司(幸利)の援護をするべきだとレイスに詰め寄っている】

 

 アダムが愉快そうに笑みを深めているのが音声越しでもカトレアに伝わってくる。

幸利が今後どうなるのかは分からないが、せめて彼が無事に生きてバルバルスに帰還することを彼女は祈り、報告を終えてアダムとの通信を切った。

 

 

 ゲブルト村から派遣された若き伝令役は撤退戦の最中、殿(しんがり)の部隊にいた。

殿に配置されたのは軽装で足の速い兵士達ばかり。重装の兵士が先頭を警戒しながら進み、それ他が負傷者を抱えて雪山の斜面を登っていく。

大砲やバリスタといった兵器は殆ど戦場に放棄していった。それらを回収して、砦まで戻れる余力が彼らにはなかった。

寝る間も惜しんで翌朝に砦へと到着した本隊だったが、同時に大寒波が彼らを襲う。

あと少しというところで砦に辿り着くはずだった殿の部隊員達は、半数が行方不明となった。

 

「ふっ…ふぅ…ふぅ…っ!(さ、寒い…っ…!)ふぅっ…!」

 

 その行方不明者の中の一人、若き伝令役は猛吹雪の中をひたすらに歩き回った。

周りに居た筈の仲間が次々と姿を消して、遠くに見えていた筈の砦と山頂も見えない。

吐く息が凍り、息を吸えば唇から肺まで固まってしまいそうな息苦しさを感じる。

 

(僕は、こんなところで…死ねないんだ…!村に…帰るんだ…!)

 

 彼には農民として働く両親とまだ五歳になったばかりの妹がいる。

ついこの間まで樹海の開拓を命じられていて、妹と碌に遊んであげられなかった。

砦への出兵が決まった際、妹はそれはもう泣き喚いて彼を引き止めようとしたが、国からの命令を無視する訳にもいかない。だから兄として彼は妹に約束したのだ。

 

(…帰らなきゃ…帰って妹といっぱい遊ぶって約束したんだ…!)

 

 だが次の一歩を踏み出した瞬間、足下の雪が突然崩れた。

 

「なっ…うわあぁぁぁぁっ!?」

 

 ヒドゥンクレバス、雪渓の深い割れ目はこの猛吹雪で隠れて視認出来なかったのだ。

近くのものに捕まろうとしたが、彼の体は垂直な氷の壁面を滑って落ちていく。

落下中、自然に出来た氷柱に刺さらなかったのは不幸中の幸いだったのか。数十メートル近くまで落ちた彼は着地の衝撃で足の骨が折れる。

 

「うぎ、がぁ…っ!?あ、しが…!」

 

 骨折自体は過去に何度も経験している彼だったが、状況がまるで違う。

氷の壁面に寄り掛かり両足を伸ばして、折れた方の足をそっと手で触れる。

 

「いっ…っつ…!」

(足首が完全に折れてる…!添え木をしても、これじゃあ―――)

 

 折れた足で垂直の氷で出来た壁面を登ることなどまず不可能。

歩くにしても出口がある可能性は限りなく低い。折れた足を引き摺りながらでは歩けたとしても数十メートルが限界だろう。消耗した体力を回復する術もない。

 

(…食料も尽きて…種火石がない。…火も起こせない…)

 

「…嫌だ…死にたく、死にたくないよ…!」

 

 折れた足の痛みと、体から体温を奪う寒さが恐怖を加速させる。

震える両手に両目からボロボロと零れ落ちた涙が染みを作った。

 

「父さん、母さん…”アーリ”…!」

 

 それから数時間、意識が朦朧とするまで彼は家族の名前を呼び続けた。

もう立ち上がることも出来ず、低体温症になった体から生気が失われていく。

眠気で閉じようとする瞼の端に、彼は青白く光る足のようなものを見た気がするが、それが何なのかを確かめるより前に意識を失った。

 

―――シュネー雪原の戦いから三日後のことだった。ウルディア防衛砦の周囲を哨戒中だった兵士の一人が、凍った木の根元で倒れていた若き伝令役を発見したのは。

足は折れていたが出血がほぼ無く、無数のボロ布で覆われていた彼は奇跡的に低体温を免れていたのだと治療にあたった衛生兵が話した。

 

 だが意識を取り戻した彼の記憶では確かにクレバスに落ちて足を折った筈で、上まで登ることは絶対に無理だったという。布に覆われていたこともそんなことをした覚えは一切なかった。

誰もが助かった理由に首を傾げる中、若き伝令役は自分の服に何かがついている事に気がついた。

 

 それは僅かな電気を帯びた、白銀の美しい毛である。

性質上モンスターの毛であることに間違いはないと思われたが、その場にいる誰もその毛の持ち主が何であるかを確かめることはなかった。

真相は氷雪の中に一時の幻として消えてしまったのだから。

 




 下で書いてる未来のIF話を章で分けようかなと思います。

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