食後、各々が自由な時間を過ごしていく中でバラバラに睡魔が襲ってくる。
狩猟後のトレーニングで身体に疲労が溜まったハジメも例外なく、その日は趣味の錬成で鉱石弄りをする余裕もなくベッドで横になっていた。
彼は大きな欠伸をして微睡に入ろうとしたが―――
「…ハジメお兄ちゃん、起きてる…?」
「ミュウ?…あぁ、まだ起きてるよ」
まだ遅い時間とは言わないが、普段のミュウならとっくに寝ている時間の筈だ。
少し前までレミアと一緒の部屋のベッドで寝ていたミュウだが、最近はハジメの彼女になる為の成長の一環として一人部屋で過ごすようになっている。
扉越しに伝わってくる彼女の声にはいつもの明るさが感じられない。
「…お部屋に入ってもいい?」
「??構わないぞ」
ハジメが返事をしながらベッドから降りると部屋のドアが開いてミュウが入ってくる。
お気に入りのパジャマを着て、寝る準備は万全といった恰好だが彼女の顔色は悪い。
「どうしたミュウ?」
「…怖い夢見て眠れなくて…一緒に寝て欲しいの…」
「そうか。…よし分かった、おいでミュウ」
肉体的には十代後半だが、心はまだ幼子のそれである。夢見が悪くて眠れないという経験は多くの人が通る道であり、当然ハジメも何度か経験していた。
故に彼女の頼みを断る理由はなく、彼は再びベッドの上で横になって体の位置を動かす。
丁度ベッドの真ん中あたりにミュウの体が収まり、ハジメが優しく話しかける。
「怖い夢の話、思い出したくないかもしれないが…聞かせてくれないか?」
「…どうして?」
「どんなに怖い夢の中でも、俺が助けにいけるようにするため…かな」
自分で口にしておきながら恥ずかしい言葉を投げかけているという自覚はあるらしく、ハジメはミュウに見られないようそっぽを向いているが耳と頬は少し赤くなっている。
幸い彼の羞恥心にミュウが気づくことはなく、彼女は真剣に怖い夢の話をした。
「…見たことない町の中でミュウひとりぼっちだったの…寂しくてハジメお兄ちゃんとママを探してたら…怖い顔の竜が襲ってきて…それで起きちゃったの…」
「…そっか。…それじゃあ、また同じ夢を見ても今度は俺もレミアも、他の皆だってミュウの傍にいる。怖い竜が襲ってくる前に俺がそいつをやっつける…これならどうだ?怖くないだろ」
「…うん。お兄ちゃん達が一緒なら…ミュウ、怖くない!」
「よし!それじゃ安心して…おやすみ、ミュウ」
「おやすみなさいなの、ハジメお兄ちゃん」
まだ少し不安そうではあるが、自分以外の温もりを近くに感じてミュウの表情が和らいだ。
何度かの瞬きの後、ベッドの上で彼女は静かな寝息を立て始めた。
ハジメはほっと一息ついて、彼女が起きないようにそっと毛布を肩までかけてから目を閉じる。
*
「―――――――――ん、うぅ…あれ?ここは…」
眠りについた筈のハジメは、体を預けていたベッドの柔らかい感触が無くなっていることに気づいて目を開ける。いつの間にか彼は冷たい石畳の上で横になっていた。
「どこだ此処は?」
寝起きでまだ少し凝り固まった体を解しながら起き上がり、立って辺りを見渡すと、見覚えのない古びた建物が建ち並んでおり、はるか遠くには高い塔が聳えている。空は昼夜のどちらとも言い難い曇天に覆われていた。
突然の状況に混乱しながらも、冷静に思考を回すハジメはミュウとの会話を思い出す。
(見覚えのない町にひとりぼっち…ミュウの見ていた夢の始まりか…)
自分以外の人が見た夢の内容を疑似的に再現することは珍しい事だが稀にあるとハジメは聞いた事がある。もしこれが夢ならこの後は怖い竜とやらが出てきて目が覚める筈だが―――
「…夢にしちゃ、随分と感覚が生々しくないか…?」
握って閉じてを繰り返す指先に感じる自分の体温、覚醒した体の内側で規則的に活動する器官、鼻で息をするたび匂ってくる埃臭さ、耳に伝わる遠くにいる生き物の気配…ただ怖い夢を見ているとは思えない。
「……そうだ、ミュウ!ミュウいるかっ!?ミュウッ!!」
ハジメはこれが現実か夢か判断することを頭の片隅に置いてミュウを探す。
もしかしたら同じベッドで寝ている彼女が同じ夢を見ているかもしれないと思ったのだ。
(夢に干渉出来るかは分からないが、約束は守らなきゃな…)
ハジメの左手には、ハンターが装備やアイテムを保管する”アイテムボックス”の上位互換とあるアーティファクト”宝物庫”の指輪が嵌められている。夢の内容に沿ってモンスターが出てきた時にいつでも狩れるようにと一応の武器と防具を用意をした。
”赤龍ノ狙ウ弩・水”*1…これはハジメが仲間達と共にアンカジ公国の北にグリューエン火山である古龍を討伐して手に入れたライトボウガンだ。性能は彼が持つライトボウガンの中でもトップ10に入っており、並みの飛竜なら軽く殺せる。
更にこのボウガンの性能を活かすのが”龍紋シリーズβ”*2これもボウガンと同じモンスターの素材から作った防具であり、複雑な紋様が刻まれた赤い鱗と甲殻をベースに西洋甲冑のような見た目をしている。属性やられ耐性や回避性能といった生存に特化したスキルが発動する他、この防具でしか発動出来ない強力なシリーズスキルも存在し、古龍の攻撃をも耐え得る。
最後にグリューエン火山で上記の古龍討伐クエストと並行して行った採掘の成果、死んだ目をした仲間達と延々護石の厳選を続けた末、錬成師という天職を初めて悪行に使って手に入れた最高の性能を持ったお守り”護石”*3による火力の底上げでヘビィボウガン並の強さを誇る。
(こいつを使って負けるイメージが全然沸かねえな…)
遠き日のシュヴァルツ教官曰く「モンスターが獲物を狩るのは常に全力、よってハンターも持てる力の全てをもって狩りに望まなければ、相手に対して失礼だろう!」とのこと。
それを今ハジメが思い出したのは、まさに半日前の自分がその教えを蔑ろにして半端な装備で怪鳥イャンクックに挑んだ結果、危うくベースキャンプ送りになるところだったからだ。
(失敗を繰り返したりなんかしねえ。次は何が出てこようが全力で狩ってやる…!)
―――不意にハジメの背後で物音がして、彼は瞬時に振り返ると同時にボウガンを構える。
「っ!?………誰かそこにいるのか!」
モンスターであったなら、姿を現すと同時に声を上げて襲い掛かって来ただろう。
それならハジメも躊躇いなく引き金を引いて、既に装填済みの水冷弾Lv1が相手に命中している。
だが彼の前に現れたのは…
「…パパなの?」
「―――――――――ミュウ?」
ハジメの前に現れたのはミュウだ。
しかし彼がいつも目にする自分と同じ年くらいの頭一つ分しか背丈の差がない美少女のミュウではなく、商業都市フューレンで助けた幼女だった時のミュウだった。
ハジメの装備以下要約:MHW:IBの環境基準なら強者の部類(最強には一歩及ばず)本作のハンター基準なら例外の類(古龍装備持ってる奴はほぼ例外級)
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