例の如く原作新キャラにちょい名前つけ足して登場して貰います。
作中に登場するガーランド軍の旅団長は5人となっており、既に登場しているカトレア、ダヴァロス、レイスと今回登場する一人+未登場のもう一人となっています。(余談ですが、旅団長クラスの人が単独で動いてたりする理由は何処かのタイミングで清水君の話に書こうと思ってます)
帝国軍が魔人族の前線基地設置に気づく数日前のこと。
ガーランド軍第二旅団の最高責任者である”デイヴォフ・フォン・ファーレンハイト”はバルバルスにある将軍フリードの居城で彼と話をしていた。
「デイヴォフ旅団長。此度の作戦は広報官の働きでバルバルスの住民達に大きく喧伝されている。魔王様より直々に命令を下された我々にとって、作戦失敗は死を意味する…分かっているな?」
並の兵士であれば恐怖で身が竦む魔人族で二番目に権力を持つ男の視線と圧に対して、薄い水色の瞳のデイヴォフは落ち着きを払って毅然とした態度で言葉を返す。
「理解しておりますバグアー将軍」
「…そうか、それなら良い。俺はこの作戦に最適の人員を配置したと自負している。軍内部でお前に勝る知略の持ち主はいない…人間共に格の違いを見せつけてやれ」
「ハッ!」
踵を合わせてフリードに対し最敬礼を送り、デイヴォフは居城を後にする。
彼が正門の前に来ると、見計らったかのように副官が馬を連れて現れた。
外套を頭から被って顔を隠した副官はデイヴォフにしか聞こえない声量で話しかける。
「旅団長。第一、第二大隊の準備は完了しました。
「…分かった。第三、第四大隊の隊長達に第一次攻撃地点へ移動の伝達を」
「了解です」
言うや否や副官は雑踏の中に消えた。
デイヴォフは暫く彼の立っていた場所を見つめていたが、やがてゆっくりと歩き出す。
陽が沈んだ後もバルバルスは豊富な魔力資源の灯りに照らされている。
住民達の多くは戦時下にも関わらず事ある毎に宴を至る所で催していた。
まだ勝敗も明らかになっていないというのに、国民の多くは戦勝ムードに沸いている。
暢気なものだ…とデイヴォフは内心彼らに呆れていた。勇猛さと清廉さを併せ持ち、智将として名高い彼や一部の慎重派な旅団長は人間族を侮ってはいない。
土地の広さと魔法技術では確かに魔人族が遥かに上回っているが、これまでは兵士の質と数では僅かに人間族が優勢だったのだ。
虎の子と言われている支配種は個としての戦闘力は脅威だが、それ以上に制御出来る者が限られている。更に言ってしまえば食糧の消費が馬鹿にならなかった。
飼い慣らしているとはいえ支配種にも最低限の食事や睡眠は必要であり、それをしなければ使役し続ける事は不可能だ。その為だけに食料や土地を確保するのは労力の無駄である。
魔王アダム直属の
フリードや旅団長達が集まってどれだけ懇願しても、恐らく彼は首を縦に振らないだろう。
「この戦いは、魔人族が持てる力を以て勝利しなければ意味がない」
かつてアダムが口にした言葉の真意を、デイヴォフは未だに掴めないでいた。
魔人族が持てる力とは具体的にどこまでを指すのだろうか?神代魔法によって得た支配種や、人間達から盗んできた技術もその中に含まれるのだとしたら…
(…私如きでは、あの方の真意を探るなど不可能か…)
この世の誰にも…神エヒトルジュエやその眷属ですら魔王アダムの領域には辿り着けない。
平和が愛おしいと声高に謳いながら、生に焦がれる以上、種としての争いは世の常であると自らの手で争いの火種をばら撒いて燃え上がらせる。
命として根底から狂っている存在。それがあの男だ。
(やめよう。今の私に出来る事は、深淵を覗き込む事じゃない)
煌びやかなに飾られた店の周りを行き交う人々を横目に歩き続ける。
幼い頃から、彼があの輪に入ろうと思った事は一度もない。今は亡きデイヴォフの両親に本の虫と笑われるくらい知識を貪る方が、彼にとって周りと群れるより有意義だったのだ。
軍に入ったのは没落しかけた家の財政を立て直す為。
それが偶々、士官時代に戦術論で革新的な発見をした事が出世コースへの第一歩となった。
彼個人としての強さは魔人族全体で見れば中の上程度である。
旅団長の中で強さ比べをしたら、恐らくダヴァロスが互角といったところ。
最前線で魔法の腕を振るう事もあるレイスや、人間の国で潜伏中のカトレアには遠く及ばない。
だが、それでいいとデイヴォフは思っている。
敵であろうと味方であろうと、彼は自分が侮られる事を苦にも思わない。
個人の評価など、戦場に於いては無意味であると彼は知っているから。
*
―――デイヴォフが副官に命令を出してから半日が経過した。
夜明けまではまだ時間があり、モンスター達の大半も寝静まっている。
王都バルバルスを囲む壁を抜け、少し緑が生い茂る草原を進むと景色は白一色に染まる。
シュネー雪原との境界線になっている小川は雪解け水が流れ、大陸の東側に流れる名もなき大河へと合流し、大河の向こう岸はアンカジの砂漠、河沿いに進めば海へ出るという。
雪や泥の中での移動を妨げない力を持つ
辺りは雪化粧を施した針葉樹に囲まれて、遠くからは視認出来ないようにしてあった。
デイヴォフと同じように雪原用の外套に身を包んだ大隊の兵士の一人が号令を発する。
「旅団長殿が到着したぞ!各員整列、傾聴!」
サッと機敏な動きで整列を終えた兵士達は何割かが寒さに凍えている。
デイヴォフは前の方にいる兵士達の顔色を一人一人確認しながら手短に話す。
「第三、第四大隊は第一次攻撃地点へと向かった。我々は後詰めとして雪原中央を進軍し、残敵を追撃。その後は第三、第四大隊と合流し、敵要塞の前に陣を敷く。この作戦は、敵に先手を取らせたうえで此方は奇襲を仕掛け、敵の兵力を出来る限り削ることが作戦成功の鍵となる」
「旅団長。遠視のアーティファクトにて、敵要塞の開門を確認。…餌に食いつきました」
見張りの声を聞いて兵士達の目に物騒な光が灯される。デイヴォフは報告に対して静かに頷き、ある方角へと視線を移した。
そこには
デイヴォフが第一、第二大隊を先行させて行ったのは本物の前線基地の隠匿と、遠目から見てまったく同じ規模に見える張りぼての設置である。
二十四時間監視している訳ではない帝国軍の目は、張りぼてに欺かれたのだ。
そこに食いついたところを第三、第四大隊が迂回路を通って敵に奇襲を仕掛け、同時にデイヴォフ率いる第一、第二大隊は雪原の中央を突っ切って山中の防衛砦手前まで進軍する。
―――数時間後、山の麓から轟くような大砲の音がシュネー雪原全域に響き渡る。
張りぼてが無残に吹き飛んで、爆風を横から受けながらデイヴォフは告げた。
薄い水色の瞳を細めて鋭利な刃物の切っ先を突きつけるように敵を見据えながら。
「―――進軍せよ」
今更ですが、作者はこういうものを書くのは初めてなので、戦闘の流れとか個々の動き、会話で分かり辛い描写とか多々あるかもしれません…ご了承ください。
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