恋愛は謎解きのあとで 作:滉大
「お嬢様、今なんと?」
名門が集う秀知院学園といえど、一般の学校と同じように夏休みがある。
四宮かぐやが夏休みを迎えて少し経ったある日の事。四宮家と親しくている家柄の令嬢からパーティーの誘いを受けた。かぐやとしては、四宮との繋がりを強くしたいという思惑が透けて見えるパーティーなど行かずに、白銀とどうすれば連絡が取れるか策を練っていたかったのだが、そうもいかない。出席する旨の連絡を入れた。
会場、もとい令嬢の家は国立市にあるらしい。前日かぐやが行き先を告げると、使用人の讃岐光谷は目を丸くして聞き返した。
「明日、国立に行くと言ったのよ」
「クニタチ。あのクニタチでございますか?」
「どの国立を指しているか分からないけど。私が行くのは東京都の国立市よ」
途端に讃岐は顔を青くして、真面目くさった表情になった。
嫌な予感がした。この不真面目な使用人が真剣な表情をする時は決まって、どうでもいい事か、バカな事を言い出す時だ。
「どうかお考え直し下さい。お嬢様は、国立がどんな所かご存知ないのでございます」
失礼な男だ。幼い頃より英才教育を受ける、もしくは甘やかされてきた生徒が集う秀知院学園において、学年二位の成績を誇るかぐやだ。国立市くらい当たり前のように知っている。
「馬鹿にしないで。谷保天満宮や兼松講堂、大学通りがある所でしょう」
得意げに語るかぐやに、もう一人の使用人、早坂愛が横槍を入れた。
「全部付箋が貼ってあるスポットですね。デートにしてはお堅いのでは」
「ちょっと、勝手に見ないで!」
早坂は何故か、かぐやの私物である観光雑誌を勝手に捲っていた。毎度毎度どういう神経をしていたら、主の物を勝手に見れるのだろうか。
「別にそんなんじゃありません。明日時間があったら行ってみようと思っただけです」
かぐやは早坂の手から取り返した観光雑誌を机の上に放った。
讃岐は放られた観光雑誌を見つめながら、やれやれと肩をすくめた。
「お嬢様、その程度の雑誌で知った気になっているとは。片腹が痛うございます」
丁寧な口調で発せられた汚い言葉を受けたかぐやは、その意味を咀嚼して、自分が罵倒されたのだと理解するまで数秒の時間を要した。
「そこまで言うなら聞かせて貰おうかしら。貴方の知る国立市を」
承知いたしましたと、讃岐は慇懃に一礼した。
「国立市とは、知る人ぞ知る犯罪都市でございます」
言うまでもないが、国立市は知る人ぞ知る都市ではない。知る人ぞ知るのは国立市が犯罪都市である事実だ。
世界的にも治安の良い日本では、耳馴染みのない物騒な単語である。かぐやと早坂は顔を見合わせた。
「何で国立が犯罪都市なのよ」
「最近の国立市における犯罪発生率は増加傾向にあり、月刊誌と同様、月一の頻度で難事件が発生しています。さらに去年発売された雑誌『この犯罪都市がすごい』では、
市町村の名前を次々と挙げて盛り上がる讃岐と対照的に、かぐやと早坂の反応は冷たかった。
「国立以外聞いた事もないわ」
「貴方の知識も雑誌じゃないですか」
鈍感な讃岐も流石に温度差を感じ取ったようで、ゴホンと誤魔化すように空咳をした。
「とにかく、国立はお嬢様が思っている以上に危険な場所です。もし、どうしても行くというのならば、是非この私を──」
「貴方は留守番よ」
全て言い終わる前に、かぐやは言葉を放った。
讃岐は普段接している者にしか分からないくらいに肩を落としたが、一度自室に戻って御守りを二つ持って来ると、それをかぐやと早坂に手渡した。
「私にはこれくらいしかできませんが、お嬢様が事件に巻き込まれないよう祈っております」
どこまでも犯罪が起こると信じて疑わない様子。
かぐやは御守りの刺繍を視線でなぞった。
学業御守
事件から身を守る気概は一切感じられなかった。
○
翌日、かぐやは予定通り国立市にある会場へ向かっていた。
車窓からの景色は、何百回と見た学校の行き帰りの景色と違い新鮮だった。重い瞼を無理やり押し上げている学生や、人生に疲れたようなサラリーマンが亡者のように行進する景色はなく、学生たちの目は溌剌としていて輝いており、営業回りのサラリーマンの顔には滝のような汗が輝いていた。
楽しそうに笑みを浮かべながら話している男女の集団に、かぐやは眩しいものを見るように目を細めた。
車窓から目を背け、かぐやは使用人として同行している早坂に尋ねた。
「今日のパーティーは令嬢の妹の旦那の従兄弟の友人の兄の誕生日祝い、だったかしら」
「違います。妹の旦那の従兄弟の兄の再従兄弟です。興味がないのは分かりますが、ちゃんと覚えてください」
「大差ないじゃない。要するに他人でしょう」
何故金持ちは祝い事を盛大にやりたがるのか。憂鬱な気分を紛らわすように、再び車窓の景色に目を向けた。
かぐやにとってパーティーとは楽しいものではない。「四宮家の娘」に近づいて来るのは、腹に一物抱えた人間ばかりだからだ。波風を立てないようにいなすのも気疲れする。
かぐやの気分とは裏腹に空は雲一つなく澄み切っていた。
会場は大きな西洋風の屋敷だった。広大な敷地を迂回して正門から入ると、直ぐ右手に駐車場があった。
駐車場にはかぐや達が乗って来た可愛げのない黒塗りの高級車以外には、ほとんど車が止まっていない。
「早く着き過ぎたかしら?」
「遅いよりは良いかと」
早坂の言い分はもっともだ。かぐやとしては、むしろ遅く着いてくれた方がありがたかったが。
庭には数多くの植木があり、そのどれもが動物やキャラクターの形に刈り込まれていた。まるでテーマパークのような庭だった。屋敷は庭を通った先に堂々とその威容を晒していた。
かぐやが早坂を伴って庭を進んでいると、植木にハサミを入れていた初老のダークスーツの男が慌てた様子で駆け寄って来た。
「四宮様、お早い御着きで。出迎えが遅れて申し訳ございません」
使用人もしくは庭師らしき男は、白いものが混じった頭を深々と下げて謝罪した。
「いえ、私も少々早く着きましたから」
かぐやは微笑んでそう言った後、「本物ね」と感心した様子で早坂にそっと耳打ちした。
「はい。やはり本物は一味違います」
早坂も同じく感心したように同意した。
落ち着いた態度、一部の隙もない服装、そして何より礼節の籠った謝罪。どれを取ってもウチの無礼な使用人とは格が違う。アレに勝っている部分があるとすれば、図々しさと、主人を小馬鹿にする腐った根性、推理力くらいのものだろう。
「どうかなさいましたか?」
不思議そうに二人を見比べる初老の男に、かぐやは「いえ、なにも」と答え、誤魔化すように植木を指差した。
「これは全て貴方が?」
男は自分がハサミを持っていることに今気付いた、といった様子でハサミをポケットにしまった。
「はい。最初は趣味でやっていたのですが、今では執事の仕事の他に庭師のような仕事も任されまして」
どうやら男は使用人であり庭師でもあったようだ。それから、かぐやと早坂は執事に先導され屋敷へと向かった。
屋敷に入ってすぐに大きな玄関ホールがかぐや達を出迎えた。床は白一色で天井からはシャンデリアが吊り下がっている。正面の二階へと続く階段は幅が広く、両端にある手すりは格子手すりになっている。
階段の頂上から真っ赤なドレスに身を包んだ女性の姿が現れた。この屋敷の令嬢にしてパーティーの主催者である。
派手なドレスね。
金持ちというのは何かと目立ちたがる人種であると、かぐやはこれまでの経験から学んでいた。
令嬢は悠然と歩いていたが、階段の手に差し掛かると突如としてバランスを崩して、上半身から階段へと突っ込んだ。そのまま階段を、まるで漫画のようにゴロゴロと転がりかぐや達の目の前で、潰れたカエルのような格好になり停止した。
「お、お嬢様ぁぁぁー!」
唖然としてその場に固まるかぐや達だったが、執事の叫び声で我に返った。
そう、ギャグ漫画もかくやという見事な転倒を披露したからといって、結果までコミカルになるわけではない。
「早坂!」
「承知しました」
早坂が令嬢の状態を確認する。
あの不自然なバランスの崩し方、誰かに押された可能性もある。かぐやは階段の方に目を向けた。階段に敷かれてある絨毯が目に入った途端、ある考えが浮かんだ。
かぐやは一足先に階段へと向かっていた執事に向かって言った。
「上に人がいたら、階段に近付けないようにしてください! 特に絨毯を踏ませないように」
執事は何故そんな事を言うのか分からないという顔をしたが、頷いて階段を駆けあがった。
それを見届けると、振り返って再び階段から令嬢に向き直った。
「早坂、様子はどう?」
「命に別状はありません。骨折もしていないようですが、頭を打って意識を失っています」
死んではいないと知って、かぐやはホッと胸を撫で下ろした。
だが、早坂の表情は険しいままだった。
「どうしたの、早坂。何か気掛かりでもあるの?」
「はい。意識を失う前に御令嬢がこう言っていたのです」
かぐやは嫌な予感を覚えながら、緊張して言葉の続きを待った。
「やられた、と」
早坂に令嬢を任せて、かぐやは階段を上った。毛足の長い絨毯は掃除をしたばかりなのか、令嬢が転がり落ちた部分以外は綺麗に毛並みが揃っていた。絨毯は階段からそのまま廊下まで伸びていた。
階段の一番上では執事が、二人の人物に近づかないよう注意していた。一人は若い使用人。若いといってもかぐやよりはひとまわり歳上で、三十代くらいだろう。二人目は、二十代半ばと思われるメイドだった。
「悲鳴が聞こえましたが、何があったのですか!?」
三、四メートル離れた位置から、若い使用人が勢い込んで執事に尋ねた。追従するように、メイドもコクコクと何度も頷く。
「二人とも落ち着きなさい。お嬢様が階段から転倒なされた」
「何と!?」
「ええ!?」
使用人とメイドは驚きを露わにして、階段の下を覗こうと一歩踏み出そうとしたのをかぐやが制した。
「動かないでください。御令嬢の様子は私の従者に看させています。恐らく、命に別状はないでしょう」
使用人は突然現れたかぐやに面食らった様子だった。
「それは分かりましたが、何故我々が行ってはならないのですか?」
「事件の可能性があります」
「つまりお嬢様は、階段から突き落とされたと?」
「断定はできません。ですが、可能性がある以上、警察が来るまで無闇に現場を荒らさない方が良いかと」
警察と聞いて、使用人とメイドは絨毯を恐れるように後退りした。
階段と同様に廊下に続く絨毯も清楚されたばかりで、綺麗に毛並みが揃っている。
かぐやは歩いて来た階段を振り返った。深紅の長い毛を押し潰した自分の足跡がある。
状況から考えて、令嬢は背後から押されたかしてバランスを崩して転倒したと考えられる。
しかし、絨毯には令嬢の足跡が一筋あるだけで、それ以外の足跡は一切存在していなかった。
数時間後、屋敷の階段には制服姿の鑑識官が集い、砂糖に群がる蟻のように熱心に手掛かりを探していた。
かぐや達の証言もあって、警察は事故ではなく事件として捜査していた。かぐやと早坂も警察の取り調べを受けたが、二人ともアリバイがあり容疑者の線は薄いようで簡単な質問だけで早々と解放された。
令嬢はその後病院へと搬送された。意識はまだ戻らないままだ。
取り調べの後、帰宅の許可が降りなかったので、かぐやと早坂は屋敷の客間に通された。
「かぐや様、何故あの時、絨毯を踏まないよう言ったのですか?」
早坂に聞かれ、かぐやは口ごもった。あの場において正しい判断ではあったのだか、咄嗟にその判断が頭に浮かんだ時点で、ミステリマニアの使用人の影響を受けているようで癪だった。
「……足跡よ」
「足跡ですか?」
「絨毯は綺麗に清掃されていて、毛並みも一切乱れていなかった。その状態の絨毯を踏んだら、毛が押しつぶされて毛並みが乱れるから足跡が残る筈。被害者は背後から押された可能性が高いし、階段の上には犯人の足跡が残っていると思ったの」
「そういう事でしたか。かぐや様、探偵みたいですね」
早坂の賞賛を、かぐやは複雑な気持ちで受け取った。探偵とはつまり、讃岐と同類ということである。アレとは一緒にされたくない。
「ですが」と早坂は続けて口にした。
「絨毯には被害者の足跡しかありませんでした」
そうなのだ。犯人が被害者を突き落としたのなら、犯人の足跡がなければならない。だが、絨毯に残っていたのは被害者の足跡のみ。
棒のような物で遠くから押したのかとも思ったが、二階にいた使用人とメイドの持ち物に棒の代わりになる物はなかった。
かぐやは悶々と考えているのが馬鹿らしくなった。使えるものは何でも使うのが四宮の人間だ。
かぐやはポケットから携帯電話を取り出して、未だに事件現場にも現れない、遅かりし名探偵に連絡を入れようとボタンを押した。
後は通話ボタンを押すだけ。その時、かぐやの頭に天啓のごとく言葉が降りて来た。
『事件に巻き込まれた? だから私は忠告差し上げたのでございます。案の定、容疑者となられた御様子。で、私に何をしろと? 謎解きでございますか? 昨日申し上げた通り私を連れて行っていれば、こんな無駄なやり取りをせずに──』
かぐやは通話を開始してもいないのに、通話終了ボタンを力強く押した。
携帯電話を折り畳んで仕舞うと、早坂に命令した。
「早坂、讃岐に電話して」
○
『事件に巻き込まれた? だから言ったんだよ。しかも案の定容疑者だなんて。で、僕に何をして欲しいの? 謎解き? やれやれ、お嬢様も素直に僕を連れて行っていれば、こんな無駄なやり取りは──』
開幕早々たらたらと垂れ流された文句に、早坂はウンザリして通話を切った。
数秒後再度かけ直す。
『ひどいじゃないか。いきなり切るなんて』
「すみません、つい」鬱陶しくて
「まぁ、いいや。それで、どんな事件が起きたのかな?」
「それが──」
早坂は駐車場に着いてから事件発生までの経緯を、余す事なく讃岐に語って聞かせた。
最初の方は合槌を打っていた讃岐だったが、後半は黙り込んでしまった。
話が終わり、考え込むような沈黙の後にようやく讃岐は反応を示した。
『雪密室か。面白いね』
「雪密室? 何ですかそれは」
『雪山にある山小屋の中で殺人があった。山小屋の入口は一つだけしかないから、犯人はそこから入るしかない。だけど、入口近くに積もった雪には足跡がなく、人が出入りした痕跡がない。このように雪がある事によって出来た密室を雪密室と呼ぶんだよ。今回の場合は絨毯が雪の代わりだね』
蘊蓄を披露し終えた讃岐は、早速事件の調査に取り掛かった。
被害者が転落した階段の様子が知りたいと言うので、早坂はかぐやに断りを入れて階段に向かった。
道すがら讃岐は他の容疑者のアリバイについて尋ねた。
「容疑者は執事と、被害者が転落した際階段の近くに居た使用人とメイドの三人です。アリバイがあるのは、私達と一緒に被害者が転落するのを見た執事だけです。使用人はパーティーの準備で屋敷中を駆け回っていたようで、アリバイを証言できる人はいません。メイドも同様です」
『使用人とメイドは、階段の近くで何をしていたのかな』
「使用人はパーティー会場へ行くのに通りかかった。メイドは一階にある花瓶の水を替えようとしていました」
『聞いておいてなんだけど、ずいぶん詳しく知っているね。今どきの警察は、そこまで丁寧に教えてくれるのかな?』
「四宮の名は日本において多大な影響力がありますから」
皆まで言わずとも意味は伝わったようで、怖い怖いと、讃岐は電話口で囁いた。
「一応、伝えておきます。動機の面で怪しい人物が一人います」
『へえ、僕はあまり動機を重要視しないんだけど……。誰なんだい?』
「御令嬢の姉です。家督を継ぐ筈でしたが、病弱で体調を崩しがちだったので、妹が家を継ぎました。その事を恨んでいるようです」
『金持ちの犯行動機ってそんなのばっかりだね。まあ、事件に関係しているか判断するのは現場を見てからだ』
階段のあるホールに着くと、讃岐は階段の一番上に上がるよう早坂に指示した。
「上りましたが、ここに手掛かりがあるんですか?」
『僕の考えている通りならね。階段の右端に寄ってもらえるかな』
首を傾げながら右端の手摺へと移動する。
『手摺から身を乗り出して下を見ると何が見える?』
言われた通りに、手摺から顔だけ出して真下を見る。そこには真っ白な床が広がるだけだった。
「床が見えます」
『じゃあ、逆側は?』
何がしたいのか全く理解できなかったが、早坂は大人しく讃岐の操り人形に徹した。
階段の左端から下を覗いた。どうせ床だろうと思っていたがそこには、
「花があります」
『花ね。花だけが置かれてるわけじゃないよね。正確には何があるんだい?』
細かい男だ。室内に花だけが存在していたなら、それは置いているのではなく、捨てられている。
早坂が見た花は生けられていた。室内で花を生けるのに使われる物といえば決まっている。
「花と、花瓶があります」
真上からではどういうデザインか分からないが、棚の上に置かれた花瓶は、口が広くなっていて沢山の花を挿せそうだ。
『なるほどね。よし、もう階段はいいよ』
「これだけですか。絨毯は見なくていいのですか?」
絨毯こそが事件の肝である。讃岐も絨毯足跡がなかったと聞いて、事件に興味を持ったのではなかったか。
『もう君に聞いたからね。他に手掛かりになる物があったとしても、既に警察が回収してるさ』
「それはそうですが……」
気のない讃岐の返事に、なんだか釈然としないものを感じながら、早坂はホールを後にした。
スマホ片手に歩いていたせいか、曲がり角で人とぶつかりそうになった。
「きゃっ!」
ぎりぎり接触は免れたが、相手は驚いて声を上げた。
「こちらの不注意ですみません」
「いえいえ、私こそ」
恥ずかしいと、メイド服の女性は口元に手を添えた。相手は容疑者の一人であるメイドだった。
スマホのスピーカーから音が聞こえたので、スマホを耳に寄せた。
『もしかして近くに容疑者のメイドがいるのかい?』
「そうですが」
『聞いて欲しい事があるんだ』
讃岐は質問を早坂に託して通話を切った。通話を終えた早坂は、「ではではー」と隣を通り過ぎようとしているメイドを呼び止めた。
「少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。何ですか?」
早坂は質問内容を頭の中で反芻した。
「花瓶の水換えは、いつも貴女がやっているのですか?」
「はい。あっ、でも今日は違いました」
「ですが、貴女は水換えの為にあそこにいたのでは?」
するとメイドはバツが悪そうに視線を逸らした。
「私がやる予定だったんですけど、執事さんがついでにやるからって変わってくれたんです。それをすっかり忘れてて……」
「そうでしたか。貴女と階段にいたもう一人の使用人の方は、悲鳴を聞いてホールの階段に駆けつけたと伺いました」
「私はもともと階段に向かっていたんですけど、彼はパーティー会場に行く途中で悲鳴が聞こえたので、ホールの方に来たみたいです」
「階段の前に着いたのはどちらが先でしたか?」
「ほぼ同時でしたね。……どうしてそんな事を?」
訝しげに聞き返すメイド。早坂は「いえ、気になっただけです」とはぐらかすように答えて別れた。
聞かれて不味い話ではないが、何となく周囲に人が居ないのを確認して讃岐に電話を掛けた。
『どうだった?』
単刀直入に電話口で尋ねる讃岐に、早坂はメイドの回答を伝えた。
今まで指示通りに動いてきたものの、解決に近づいている気が全くしなかった。
「それで、犯人は分かりそうですか?」
『まあ、大体ね』
「本当ですか?」
『嘘ついたってしょうがないだろ。でも、証拠がないな』
しばらく電話口で唸って悩んでいたが、何か思いついたようで声に覇気が戻った。
『早坂さん、お嬢様に代わってくれるかな』
ところ変わって四宮別邸。
「お帰りなさいませ。お嬢様。ご無事で何よりでございます」
ようやく警察から解放され、屋敷に帰宅したかぐやと早坂を讃岐が恭しい態度で迎えた。
「貴方の言う通りにしたわ。説明はしてくれるんでしょうね」
「勿論でございます。しかし、その前にやる事があります」
「何をすればいいのよ?」
讃岐の勿体ぶった態度に、かぐやは苛立ち交じりの声をだす。そんなかぐやは次の讃岐の言葉を聞いて、苛立ちを忘れる程驚愕した。
「国立に戻りましょう」
「はあ!?」
二の句を告げなくなって口をポカンを開いたかぐやに代わって、早坂が理由を聞いた。
「それなら、わざわざ戻って来る必要がありましたか?」
「犯人に屋敷から外部の人間が去った、と思わせるのが重要なのです。お嬢様、警察は引き上げて行きましたでしょうか」
「ええ、引き上げさせたわ」
ありがとうございます。讃岐は慇懃に頭を下げて、車に向かって歩み出した。
「待ちなさい。貴方まさか、本当に何も説明しないつもり?」
讃岐は立ち止まって振り返ると、表情のない顔をかぐやに向けた。
「お嬢様は、私がお願いした内容を覚えていらっしゃるでしょうか?」
「当たり前でしょう。警察を引き上げさせる。意識は戻っていないけど、令嬢の容態が安定したから今夜屋敷に戻すと全員に伝える。その二つよね」
「はい。とりあえずは、それだけ分かっていれば充分でございます。それ以上の情報は、今夜の冒険の醍醐味を著しく損なうかと」
かぐやは胡散臭い訪問販売を見るような目をした。
「一体何をするつもりなの?」
「心配には及びません。此度の冒険は、今までで一番刺激的な冒険になると保証いたします!」
〇
「もうちょっと離れてください」
暗く狭い一室。早坂の隣には肩がくっつくくらいの近さに讃岐がいた。早坂は肘でグイグイと讃岐を遠ざける。
「無理な相談ですね。……まあ、ここまでスペースがないのは私の誤算ですが」
「二人とも騒がないで! 気付かれるでしょう」
現在かぐや、早坂、讃岐の三人は国立の屋敷、その中でも令嬢の部屋にあるクローゼットに身を潜めていた。クローゼット自体は大きいが、物が大量に詰まっており、早坂達は隙間に入り込むようにして収まっていた。
クローゼットの扉を少し開けて室内を監視する。視線の先のベッドには人一人分盛り上がりがある。
時刻は午前の0時を回ろうとしていた。普段は午後9時に就寝するかぐやも、緊張と興奮のためか眠気は襲ってこないようだ。
午前1時を5分過ぎた頃、ゆっくりと部屋の扉が開き人が一人、懐中電灯を持って入って来た。もう一方の手にも何が持っているようだった。
隣のかぐやが身を固くするのが分かった。讃岐は落ち着いたようすで、目だけが人影を追って、獲物を追い詰めた猟犬のようにギラギラと輝いている。
人影が懐中電灯の灯りを消した。室内が再び暗闇に包まれるが、目が暗闇に慣れていた早坂には、謎の人影の行動が全て見えた。
人影はベッドの側へ行くと立ち止まり、懐中電灯を持った手と逆の腕を大きく振りかぶった。手の先にきらりと怪しい光が宿った。刃渡り二十センチ程の刃物だった。
振り下ろした手に握っていた刃物が、深々とベッドの盛り上がった部分に突き刺さる。ボフッと布を叩く鈍い音がした。
そこで、讃岐はクローゼットの扉を勢いよく開いた。
「残念ながら御令嬢は留守ですよ。あっ、お嬢様明かりをお願いします」
何とも緊張感のない声と共に部屋の明かりが点灯した。部屋は一瞬にして白い光に包まれ、謎の人影の姿を白日の元に晒した。
撫で付けられた白い髪に、整えられた髭。シワひとつないダークスーツ。
「誠に勝手ながら、貴方の御主人は取り替えさせていただきました」
「あ、貴方は……?」
突然見知らぬ男がクローゼットから飛び出してきたら、例え殺人犯であったとしても困惑するだろう。
困惑した様子の殺人を企てた男は、側にかぐやと早坂の姿があるのを認めて状況を把握した。
「貴方が犯人だったのですね。執事さん」
自分の罪が暴かれたと知った執事の行動は早かった。
凶刃をベッドから早坂達に向けた。早坂はかぐやを庇うように前に出た。
だが、執事の突進が早坂に届くことはなかった。讃岐が取り出した伸縮式の特殊警棒でナイフを塞いだ。耳障りな金属音が響く。
「何でそんな物持ってるんですか?」
「君のおか……私の教育係に教わったのです。暗器は使用人の嗜みだと」
力では若者に勝てない執事は徐々に押されていった。執事は持てる力を使って警棒を弾いた。そのまま追撃か、と讃岐は身構えたが執事はそうはせず部屋の窓へと駆ける。
讃岐はハッとして、警棒を放り捨て全力で追いかけた。
執事は窓に肩から追突した。部屋は二階にあるので、落ちたら無事では済まない。一瞬遅れて讃岐は窓から上半身を乗り出した。
唯ならぬ事態に早坂とかぐやも窓際に駆け寄って、讃岐の体が窓から落ちないよう腰を掴んだ。
「讃岐、犯人は!?」
「ギリギリ間に合いました」
讃岐はダークスーツの襟を両手で掴んでいた。
一件落着かと思われたが、執事はジロリと上を向くとナイフを持つ手に力を入れた。
「ここまで邪魔されるとは予想外でした。であれば、貴方に一矢報いて死ぬとしましょう」
「えっ!? 私に一矢報いる必要あります?」
襟を掴んだ腕を狙って、後ろ手に振り上げられたナイフ。讃岐は咄嗟に腕を捻って凶刃を回避した。
「まあまあまあまあまあ、落ち着いてください。刺されたくらいで手を離すとは限りませんよ!」
「離すまで刺すだけです!」
「分かりました。貴方の要求を飲みましょう。この手を離します。なので貴方もナイフを捨ててください」
「信用できません。そっちが先に離してください」
「……」
「……」
怪しく光る刃が風を切って、讃岐の腕を狙った。しかし、不安定な体勢では狙いが定まらず、少し逸れて腕に掠った。讃岐のダークスーツがナイフによって切り裂かれた。
「十秒数えます。それまでに離してください」
「十、九」執事が無慈悲にカウントダウンを始めた。
打開策はないかと、早坂は周囲に視線を巡らせた。床に放られた讃岐の特殊警棒が目に入った。
早坂は警棒を取りに行く為、讃岐の体から手を離した。
「かぐや様。少しの間、彼を頼みます」
「えっ、早坂!? うっ、お、重い」
一人分の支えがなくなり、讃岐の体はさらに窓から乗り出した。
「お嬢様、重いとは御言葉が過ぎます。私の体重は、高校二年生の平均体重と同じです」
「つまらない事言ってないで! 自分の状況が分かってるの!?」
くだらない言い合いをしている間にも、執事によるカウントダウンは進む。残り五秒を切った。
「ところで、早坂さんは何を? ハッ、やはり私を見捨てて──」
「三」
執事は握り締めたナイフをゆっくり持ち上げた。
「ニ」
顔を上げて自分の襟首を掴んでいる腕に狙いを定める。
「一」
最後のカウントと共にナイフを振り上げる執事。
早坂は讃岐の背後から身を乗り出すと、ナイフを握った手を目掛けてコンパクトなサイズに縮んだ警棒を投擲した。
警棒は鈍い音を立てて指に直撃した。執事は痛みで、思わずナイフを取り落とした。ナイフは暗闇に飲み込まれるようにして地面に落ちた。
やがて隠れて待機していた警察が現れ、地面にマットを敷いたのを確認して讃岐は執事のスーツから手を離した。
早坂は窓の外から室内に上半身を戻した讃岐に一言。
「私を見捨てて──、何ですか?」
「ナイスアシストです。私は助けてくれると信じていましたよ」
嘘つけ。
○
その後、執事は警察署へと連行された。
事後処理を警察に任せてかぐや達三人は、刺激に満ち満ちた冒険を終えて別邸に戻った。
「腕は平気?」
ナイフが掠った方の手をかぐやが取ろうとすると、讃岐はその手を上げて無事をアピールした。
「服が破れただけですよ。御心配には及びません。それより、気になる事があるのではありませんか?」
白々しく尋ねる讃岐に、かぐやは眉を吊り上げた。
「あるに決まっているでしょう。犯人は分かったけど、肝心の謎が残ったままよ」
事件は確かに解決した。だが、かぐやには犯人が被害者を転落させた方法も、執事が犯人だと推理した過程も見当がつかなかった。答えを知っているのは、目の前に静かに佇む男のみ。
「夜も更けて参りましたが、夜更かしは学生の特権。僭越ながら只今より、推理の過程を語らせていただきます」
讃岐は姿勢を正し腕を後ろで組んだ。
「初めに被害者が転落した時の、容疑者の行動を整理しましょう。執事はお嬢様と一緒におりました。他の二人は悲鳴を聞いてホールへ駆けつけてました。駆けつけてたタイミングは同時だった、で合ってますね、早坂さん」
「そうメイドが証言していました」
「そして、階段の絨毯には足跡がなく、被害者に近付いた者がいるとは思えない状態だった。これらの事実から考えられる事は一つです。お嬢様、分かりですか?」
かぐやは暫し考え込んだが、ゆるゆるとかぶりを振った。
「分からないわ。誰も被害者を突き落とす機会がなかった、としか思えない」
「流石はお嬢様。正解でございます」
また皮肉かと讃岐を睨んだが、讃岐はいたって真面目な様子だ。かぐやは更に訳が分からなくなった。
「あの場で被害者を突き落とせる人物は居なかった。被害者は一人でに転落したのです」
「事件ではなく事故だと?」
「いえ。事故であれば、犯人は今夜あの場所には現れなかったでしょう。被害者の意識が戻れば、トリックがバレる恐れがありますからね。被害者は犯人のある仕掛けによって転落したのです」
仕掛けは事前に設置されたに違いない。だとすれば、容疑者のアリバイは全て無意味になる。犯行は事前に仕掛けを設置する機会のなかったかぐやと早坂以外、誰にでも可能だった。
「執事が犯人である根拠は何なの? アリバイがないのは他の二人も一緒でしょう」
「いえ、執事以外にはあり得ません。何故なら、仕掛けを現場からなくさなければならないからです」
なるほど、当然だ。しかし、かぐやが警察から聞いた話では、変わった物を所持している人物は居なかった。
「犯人の仕掛けについてお話ししたいと思います。といっても仕掛け事体は単純です。細い糸を足元くらいの位置で、左右の階段の手すりに通して一周させ輪っか状にします。御令嬢を転落させる為の仕掛けはこれで完成です。後は令嬢が糸に引っ掛かってこけるのを待てばいい。ただ、これで済ませないのが、犯人の狡猾なところです。犯人は糸に錘を吊るしました。錘の場所は左の手すり側だったと考えられます」
「何の為に錘を? それに場所まで……」
「糸を安全に現場から消し去る為です。犯人は被害者が転落した後、急いで階段を上りました。そして輪っか状になった手前の糸を持っていたハサミで切断。すると糸は錘で引っ張られて下へと落下します。階段な左側には花瓶があったので、その中に入るように調整したのでしょう。糸が花瓶の中に入りきるとは思いませんが、元々見えづらい事に加えて、犯行現場は階段の上です。当分は隠し切れると踏んだのでしょう。花瓶の水換えを自ら買って出たのも、糸が見つからないようにする為です」
早坂から聞いた事件の調査内容が、点と点で繋がって明確な意図が浮かび上がった。
階段から下を覗かせたのも、絨毯の足跡に関心を示さなかったのも、メイドに質問させたのもこの推理に基づいての指示だったのだ。
「犯行が絨毯を掃除した後だったのは偶然?」
「その可能性が高いかと。むしろ執事が待っていたのは、お嬢様の方です」
「私を?」
「正確には一番最初に屋敷に来た人物、ですが。執事である彼は、御令嬢が屋敷を訪れた客に挨拶をする為、ホールに下りると知っていた。執事はお嬢様を、自分の無実を証明する善意の第三者として利用したのです」
犯罪者に利用されていたとは腹立たしい話だ。だが、その犯罪者も逮捕された。讃岐の推理通りである確証はないが、大方間違ってはいないと思う。
讃岐の言う冒険は刺激的過ぎて二度と体験したくないが、全員怪我もなく無事。まさに大団円、一件落着だ。
それはともかく。かぐやはポケットから学業御守りを取り出した。
「やっぱりこの御守り、全然効果がなかったわね」
○
早坂は讃岐と共にかぐやの部屋を出た。並んで屋敷の長い廊下を歩く。
視線だけで早坂は隣の讃岐を見た。長い右腕は力無くダラリと垂れ下がっていた。
「じゃあね。おやすみ、早坂さん」
早坂の部屋に着くと讃岐は左手を軽く振った。何事もないかのような飄々とした振る舞いに、早坂は呆れたような、苛立つような気持ちが湧いた。
「待ってください」
「おや、まだ何か?」
「部屋に入ってください」
そう言って、早坂は自室の扉を指差した。讃岐は目を丸くして、珍しく素直に驚いた表情を浮かべた。
「お誘いは嬉しいけど、今日は疲れて──」
「治療をするので、部屋に入ってください」
「……バレてた?」
「バレバレです」
諦めたように、讃岐は肩をすくめた。
かぐやに腕を触られないように避けたり、腕を見られないように後ろに組んだりすれば、いかに平然を装うのが上手くても怪我をしていのは見抜ける。
「……お言葉に甘えようかな」
「最初からそうしてください」
部屋入ると早坂は、棚から手早く包帯や消毒液を用意した。その間、讃岐は物珍しそうに室内を眺めるという、デリカシーを落っことした男に相応しい行動に出た。
「ジロジロ見ないでください。大体、入るのは初めてじゃないでしょう」
「前は推理しに来ただけだからね」
準備が整うと讃岐はダークスーツを脱いで、シャツを捲って傷口を見せた。
傷は布で雑に縛られていた。白い布に赤い血が滲む。
布を取って傷口を消毒する。幸い傷は浅く、数日安静にすれば治りそうだった。
「どうして、あんな無茶を?」
身を挺して他者を助ける行為は尊い。だが、自分の身を危険に晒してまで、他者を助けるというのは讃岐の人物像と合致しない。善良は人ならともかく、相手が犯罪者なら尚更だ。
「確かに、二階からの紐なしバンジーを止める程酔狂ではないね」
「…………」
案の定はぐらかそうとするので、無言で睨んでやる。讃岐は逃げるように視線を外した。
「投身自殺なんてショッキングな光景を、君やお嬢様に見せる訳にはいかないだろ。僕もそれくらいは気を遣うんだよ」
これはこれで予想外の理由だった。この男に、他者を気遣う心が残っていたとは!
気遣われるのはありがたい筈だが、何故か早坂は気に食わなかった。
「お嬢様はともかく、私にまで配慮する必要はありません。私と貴方の立場は対等ですから」
「君の方が圧倒的に先輩だけどね」
それからはお互い無言になって、黙々と治療を進めた。酷い怪我でもないので数分後、治療が完了した。
讃岐は包帯が巻き終わり、治療が終わった腕をしげしげと眺めた。
「ふーむ、素晴らしい手際だ。これだけ優しく治療して貰えるなら、腕を切られた甲斐があったってものさ」
一歩間違えれば大怪我だったというのに。早坂は大きなため息を吐いた。
傷口に付ける薬はあっても、馬鹿に付ける薬はないようだ。
●
とある通信記録から抜粋
「妹様がご無事であった事、並びに犯人が逮捕された事。誠に目出たく存じます」
「ありがとうございます。ところで、アナタはどなたですか? 何故私に電話を?」
「前者は申し上げられません。後者に関しては、今回の事件について少々気になる点がありまして」
「それなら、警察に連絡すべきではありませんか」
「いえ、まずは貴女に連絡した方が良いかと判断した次第でございます」
「……どういう意味ですか?」
「気になる点とは、犯行の動機についてです。犯人は長らく貴女の家に仕える生粋の執事でした。忠義に厚い彼が犯行を行ったのだとすれば、やはりその動機も、忠誠心によるものではないかと推察しました」
「忠誠の対象が私だと? だとしても私には関係ありません。彼が勝手にやった事ですから」
「そうでしょうか? 執事は追い詰められ際、自殺を試みたそうです。何故自殺する必要があったのでしょう。私はこう思います。死人に口なしと」
「…………」
「年老いた執事は、自分が警察の尋問に耐え切る自信がなかった。なので、自らの命を絶つことで自分の口を封じようとした。万が一にも忠誠を誓った主に被害が及ばないように」
「私が執事をけしかけて、妹を亡き者にしようと画策した。面白い妄想ですね」
「はい、証拠も一切ない妄想です。ですが、私がこれを警察に伝えたらどうなるでしょう」
「どうにもなりませんよ。私は一切関わっていないのですから」
「とはいえ、痛くもない腹を探られるのは、貴女にとっても不都合でしょう。悪い噂が立てば貴女の復権も遠のくのでは?」
「脅しているのですか、この私を」
「まさか、交渉ですよ」
「その程度の材料で対等な立場に立てるとでも?」
「こちらが下なのは重々承知しています。なに、簡単な仕事をお願いするだけです。話を聞いてから判断していただいて構いません」
「……取り敢えず話を聞きましょうか」
「ありがとうございます──」
実在の国立市は良い町です。しょっちゅう難解な犯罪は起こりませんし、国立警察署もありません。
米花町、杯戸町、烏賊川市はとても危険な町です。しょっちゅう難解な犯罪が起こります。訪れない事を強く推奨します。