もっと増えろ。
その三年間は。
その時は永遠に続くかと思っていたのに、
振り返ってみれば、短い、本当に短い泡沫のようなものだった。
たくさん楽しいことも、苦しいこともあったけれど。
その時があったからこそ、今の私がいると、
胸を張って誇ることが出来る。
これは、私の成長と、苦難の記録の物語だ。
讃州中学 勇者部 橋宮 縁
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「
声が聞こえる。
まだほんの少し肌寒い季節に、温かい布団は抗い難い魅力を放っている。
もう少し……いいか。
意識がすぅっと消えていこうとして、急にバッと心地よい温かみが消えてしまった。
「うぅ、寒い……」
「はいはい、良いから顔洗って来なさいって。そしたら少しはスッキリするでしょ」
「風姉は甘いな。この程度で起きられるなら苦労はしないのだ……」
コツン。
頭に手刀が当たる。
「良いから起きなって、樹はもうリビングに行ってるぞ。目は覚めてないみたいだけど」
「くぅ、頑張って起きる……」
「ほんっと縁は朝が弱いんだからさ」
と言って、
朝が弱いということは自覚していることでもあるので、これ以上手を煩わせたくなくて、とりあえずベッドから降りる。
もそもそと昨日のうちから準備しておいた新しい制服に着替え、洗面台の前まで移動する。
風姉とは似ても似つかない、青みがかった黒髪を後ろの方で結ってポニーテールに纏める。
それほど長い髪でも無いけれど、風姉を真似るようなこの髪型が気に入っている。
冷たい水で顔も洗ってしまえば、スッキリと目が覚めた。
朝の寝起きは悪いけれど、頭が回るまではそれなりに早いのだ。
リビングへ向かえば、風姉の実の妹である犬吠埼樹─私はいっちゃんって呼んでいる─が食パンに齧りついていた。
でも、目はとろんとしていて半分眠っているようだ。
「ふわぁ、風姉、いっちゃん、おはようー」
「あ、縁さん、おはよう」
「はい、おはよう。もうスープ持ってくだけだから、食べ始めといてねー」
そうして、席に着き、風姉の女子力の詰まった朝ごはんを食べ始める。
私たちに両親はいないし、風姉といっちゃんとは血も繋がっていない。
三年前、私の両親が事故で亡くなった。
それから、遠い親戚に当たるという犬吠埼家に引き取られて、新しい家族として過ごしていた。
けれど、一年前。
今度は犬吠埼家の両親が事故で亡くなってしまい、私たち三人は取り残されてしまう。
短いスパンで二度も家族を失ってしまった私はその頃、相当に精神が参ってしまっていた。
そんな私を見かねてか、風姉は三人で暮らそうと提案してくれて、大赦からの援助を受けながらも、今日まで過ごしてきている。
風姉は家事から何まで行ってくれていて、感謝してもしきれないくらいには恩があって。
直接言葉にするのは気恥ずかしいけれど、そんな温かさのおかげで、私が立ち直れたといっても過言ではない。
ありがとう、とはなかなか言えないけれど。
「あ、そうだ。縁って中学入ったら部活何か入ろうとか考えてる?」
「んー? 特に何かしたいとかは無いかなぁ」
「だったらさ。新しい部活を創ろうと思ってるから、入らない? 来年は樹にも入ってもらってさ」
「わ、私はお姉ちゃんがいる方が安心するから良いけど……何部を創るの?」
「ふふふ、それは後のお楽しみということで! というわけで縁! 放課後は家庭科準備室で待ってなさい。部室として許可はもう取ってあるから」
「……まあ、いいか」
風姉が創るというなら、応援したいし。
でも、あんまり熱血しないような部活が良いかなぁ。
寝るのが好きな私に、あんまり運動は似合わないはずだ。
その辺りも分かっていて誘ってきてるのだろうから、問題は無いと思うけど。
食べ終わって、食器を片付けてから、カバンを持って来る。
「しっかし、中学校の制服着てても、中学生に見えないわねぇ。来年には樹の妹と間違われている姿が浮かぶ浮かぶ」
「うるさいやい、これでも身長のことはちょっとだけ気にしてるんだぞ」
「あはは、それでも縁さんは私のお姉ちゃんに変わりは無いから」
「あぁ、いっちゃんのフォローしているように見えて、妹と間違われることを否定してくれない事実が胸に刺さる……」
よよよ、と崩れ落ちるようにしてみせるも、まあそれはそんなに気にしてないのだけれど。
私の身長は141cm。
まだ、これから伸びるところだから問題無し! だと良いな。
「さて、そろそろ出ますか! 樹は一年間寂しいかもしれないけれど、それは私も通ってきた道だから、頑張るんだぞー」
「そういうの過保護って言うんだよ、お姉ちゃん」
「真ん中の私が一番、お得って訳だね!」
と、そんなことを話しながら玄関を出て学校へと向かった。
今日から私は、讃州中学一年生だ。
今更ながらGWにゆゆゆを全部見て、ハマったので書き始めました。
これ以降の展開は出来ているものの、全く書けていないので、恐らく更新は非常に遅いです。
このあとがきは、次話更新と共に消去致します。