エンドオブワールド   作:Archdrive

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第4話

(住む世界が、あんまりにも違い過ぎるな。農作業なんて十中八九機械がやって、人は修理と管理をするもんだろ? だけどここでは人がやっているのか)

 

海の端が届く砂浜にタウスは立ち尽くしていた。

 

(だからといって魔女だけ強くすればいいかといえば、その隙にカーニバルとかいう範囲召喚魔法でやられかねない。それに最後は総力戦に陥って、どのみち余すとこなく巻き込まれる。やはり全体のレベル上げは間違いではない。問題は今どうするかだ、少なくともダンジョンを攻略してて滅びたなら本末転倒だ。なにか対策が必要だ)

「こんなところにいたのか」

 

ドーラが鳴子の防衛線を跳び越えて、頭を悩ませているタウスに背後から近づいた。

 

「わるいな、せっかくいい案を出してくれたのに」

「的確な指摘だった、確かに考えが浅かったよ」

「いいや、あたし達は終わりが見えてるんだ。内の派閥争いが怖くて敵の攻撃を許すような、そんな間抜けな話があるか。あいつらだって子どもがいるんだぞ、わかっているはずだ」

 

彼女は今までの軽い調子が打って変わって、波と一緒に砕けてしまえと怒りを響かせた。

 

「じゃあな、あたしは説得に戻るよ。それと、次は1人で議場に帰れるよう話しておくから」

「また後で」

(いっそ国ごとダンジョンに格納するのはどうだろう。ダンジョンが共用で、国は次元門で隔離しておけば争いは起きないはずだ。……だめだその間土地が荒廃してしまう、それに自分の土地を手離すには抵抗があるだろう。これは逃避であって解決じゃないな。ではダンジョン内の時間を外の100倍にしてみるとか? これなら1分が1時間40分、助けを求めて冒険者達の応援を連れて戻るまで十分時間がある。これはいけそうだな)

 

1つ解決したかに思えれば、肝心なところが何一つ解決していないのだと思い知る。

 

(そういえば作れるのか? これじゃただの絵に描いた餅だぞ、でも下剤みたいなの作ってたし。いや、やってみよう。まずはダンジョンの取扱説明書を作ろう、あと図面も。この両手に出してくれ!)

 

タウスは祈るように両手を出すとモザイクが泡立ち、細かくなって消えれば書類が折り重なった。

 

「やった、やったぞ! 夢じゃなくなった!」

 

狂喜が自問自答に拍車をかけ、高かった太陽は西へ傾いていった。

 

「なんで内輪揉めを見せたんだ。あたし達で解決すればいいだろう!」

 

一方、ワルプルギスではドーラの怒号が響いていた。

 

「問題が出てくるのも事実だ、しかもワルプルギスのものじゃない」

「あたし達の世界だ。なぜ必死になれない!」

 

ドーラが立ち上がらんばかりに怒鳴るとマウアが即座に槌で止める。

 

「私達の現状を確認してみましょう」

「あたしに言わせろ!」

 

怒りも露わに机に亀裂を入れると静かになる。

 

「もしあいつが居なくなればあたし達は終わりだ、絶滅だ! 目の前で子供が殺さなきゃ気が付かない程、想像力は落ちぶれたのか?」

「しかしコーヤを倒した後、敵になるとも限らない。その時はどうするつもりなんだい」

「するつもりなら今やってるよ! 見たろ、フォールに何をしたか。ならあたし達の将来がもう、あいつの掌の上だってのはわかるはずだろ!? そうだよ、生き残るためには何1つ、選択肢は無いんだ。うるさく騒いでパッと滅ぶか、黙って頷いて未来を掴むかだ。大事なのはあたし達のメンツか、それとも責任か? 質問に感けてないで、今度はあたしの質問に答えな」

 

議会を無視した傍若無人な振る舞いが鳴りを潜め、着席したドーラに画期的な回答は返ってこなかった。当たり前だった、皆内心では受け入れるしかないのだとわかっていたからだ。

タウスが答えを見つけ、怯えと驚きが混じったマジシャンをやり過ごしてワルプルギスに戻った時には月が夜空に昇っていた。

 

『おかえりなさいませ』

「ただい、ま?」

 

ワルプルギスは荘厳に静まり返り、昼間の喧噪を知っていると違和感を禁じ得なかった。

 

「やはりダンジョンを造りたい。ルールに従うなら平等に使える設備としてだ。どうだろう」

「皆、賛同いたします」

「筋書きはこう、他の世界から謎の建築物が落ちてきて、調査のためまずワルプルギスが内部に入る。調べていくと階層構造で、各階はビバリウムの様に独立した自然環境と生態系が営まれている。最初の方は農業地帯の様に穏やかで、狩りさえすれば生活するのに困らない。が、上に行くにつれなにか秘匿するように、環境も生物も過酷になりトラップまで待ちかまえている。そこで思った、この世界とよく似ているなと。しかも出てびっくり、中で一週間過ごしたはずなのに出てみればわずか10分しか経過していない。未踏破の部分には危険もあるが、財宝もある。しかしカーニバルから世界を守る責任を負ったワルプルギスは仕方なく調査を中止し、義勇兵の訓練所として利用することを思いつく。これなら不思議があっても不思議を感じにくいと思う。誰もわからないんだし」

 

ワルプルギスは顔を見合わせ、話し合いを始めた。

 

「構いません。それで設置場所はどこになさいますか?」

「ここに落とそうと思う。それでもなお健在と力強さを主張できるし、コーヤを倒した暁には移転を名目に領土交渉のカードになり得るはずだ。もちろん出入り口は別に作る」(それに直接攻めに来てくれれば、こっちで倒しても知らぬ存ぜぬといくらでも誤魔化しようはある)

「ありがとうございます」

 

タウスが躊躇うほど何の抵抗も無く話は進んでいた。

 

「貨幣制度はある? お宝をわかりやすく評価する必要があるんだ」

「セレンというお金があります。このような物を中央銀行ギルドが発行しています」

 

すぐ側にいたサバトがクリアブルーの板を差し出した。

 

「こちらは籍を持つ者に与えられる物で、名をセルプレート。ギルドに預けられている貨幣"セレン"を足したり引いたりする物だとか、いずれにせよ数字のみのやりとりです」

(クレジットカード?)「そのギルドって信用できる?」

「ギルドの鑑定眼と格付けは信用できます。それにどの国においても非常に中立で真摯だと評価できます」

「ダンジョンの技術レベルをこちらに合わせたい。上水と下水を教えて欲しい」

 

それにいち早く反応した者がいた。小さく手を挙げ顔をのぞかせる。

 

「それならウォーターソーサー、イバタットに任せてください」

「ならば今夜は解散してしまいましょう。もうカーニバルは来ないでしょうし」

「ああ、すみません。一度家に帰ってからでいいでしょうか、私も家族が待っているので」

 

庇の下にランタンの灯が行列を作り、小さな滝が遠目に見える丸太組の家がタットの家だった。

 

「ただいま」

 

玄関を開けると窓から右へ左へ揺れている陰が揺れて足音が近づき、男の子がタットに抱きついた。

 

「おかえりお母さん」

「おかえり」

(あ、そっか。外見で違和感覚えるけど、結婚しててもおかしくないものな、母さんの3倍は年上のハズだし)

 

遅れて手を拭き拭きエプロン姿の男性が姿を現し、柔和な笑顔で優しい声をかけてきた。

 

「妻から聞いています。どうか私達の希望になってください」

「施設を案内してくるから、もう少し遅くなるの、先に食べていて」

「ほら、お母さんにいってらっしゃ~いって」

 

子どもはその声で父親へ飛び退き、タットが笑顔で言うと、夫は子どもの手を取って振らせて見送る。その姿はありふれた幸せではあったが、こうなれたら、と憧れるすがたの1つでもあった。

 

「今まで4人の夫と10人の子どもの葬儀をしました。彼は5人目、子どもは21人目」

 

夜道のわだちを行く中、タットは泣き出しそうに打ち明け始めた。

 

(何を急に)

「サバトというのは辛いものです。愛する我が子は誰一人、私をおいて逝くでしょう。この苦しみ、御身にわかっていただけませんか?」

「……わからない」

「では聴いてください!」

 

返事を聞く気もないと断言して、涙をちらし髪の毛を振り乱した。

 

「彼らは死ぬ時謝るのです、皆!! 悲しそうに自嘲して、幸せにできなくてごめんね、お母さんごめんねと、皺に老いた顔で私に言うのです。死の床で、無念そうに枕を濡らすのです。そうして私は妻として、母として、彼らの体が冷たくなるまで心を温めるのです。彼らはそれで満足でしょう、でも私は!? 彼らの善意で傷つけられている私は、一体誰が温めてくれるのでしょう。私が欲しいのは結婚式で向けてくれた笑顔、生まれてきてくれたあの感動。幸せだって、うれしいんだってわかり合えてた、そこに言葉なんか必要ない。目を見ればわかるんです。だというのに、死ねない私はどうすればいいのでしょう、この立場が付き添ってあげることを許さない。私のことを思うなら、幸せそうに死んでいって」

 

絶叫共に情熱的に動かしていた手が止まり、正気が慌てて呼吸する。

 

「なぜ御身は、私が私を嫌うよう産んだのですか」

 

憎しみ、悲しみ、疑惑に自嘲が絡み合った目線を最後に泣き崩れた。

 

(一緒に泣いてあげられればいいんだけど)

 

タットは赤裸々に泣き出し、手を伸ばしかけたタウスは親子の顔がちらついて、傍で見守ることに徹した。

 

「ごめんなさい、あなたじゃないのに。あたってしまって」

「仕方ないでしょう、こんな世界じゃ」

 

その深い謝罪も受け入れる前に、痛々しささえ覚える笑顔の前では心配が通せんぼする。

 

「R.W.C、K.M.Aでは川の水を引き込み下水として利用しています。下水管を通じて処理施設に回収し、処理してから河に合流させます。もちろん例外もあって、動物の糞と一緒に堆肥にしたり、ぶ、豚さんに食べさせたりする、ところもあるそうです」

(結構乙女ですね)

 

橋から見下ろしている巨大な水槽には汚水の川が流れ、道が折れ曲がる度に炭、水車と設備が増え、泡立つ川から臭いも色も比例して消えていき、石灰槽を経て川に戻されていた

 

(ちゃんと下水処理施設だ。これならダンジョンに公共トイレがついてても許容されるな。……なんで魔法で処理しないんだ?)

「そしてP.G.SやJ.T.Dは、そもそも生物が珍しいため施設がありません」

「たしかに」

「代わりにエネルギーやスチーム、瘴気といったものが欠かせません。もし平等に門戸を開かれるのであればご一考ください」

 

施設を最後まで見終わると帰路につく。

 

「なぜ、あなたは自分を隠すのですか? その力は私達の力を、この世界を遥か上回るもの。でもあなたはワルプルギスに隠れようとする。考えられません、力に優れた者は自己顕示を欠かしません。あるいはそれを根拠に周辺へ強要します。でも……私達は自由で、あなたは不自由。普通は逆です」

「外来種を倒すためにさらに強い外来種を呼んだのです、この世界は。俺がコーヤに代われば次が呼ばれるまで、無事役目を終えて自分の世界へ帰るのが賢明でしょう」

「この世界の神になってはもらえませんか。道端に捨てられた子猫を拾うように、見捨てられた世界を拾ってはいただけませんか」

 

またその話か、とタウスは彼女に頭を向けた。

 

「私達には親が必要です、あなたがいいんです」

「俺も親が待っている身なので帰りたいのです。子どもがいなくなった親の心痛、わかってもらえませんか?」

「そう、ですね。そうです。失礼しました」

 

情をくすぐるタットを静かに断り彼女を家まで送り届けた。

 

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