エンドオブワールド   作:Archdrive

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第5話

「まあ入れよ」

「ありがとう」

 

ドーラはパジャマ姿で奥を指したがそれどころではなかった。

 

「下水処理を見てきた。魔法がありながらなんであんな方法を取るんだ?」

「あたし達の魔法は、劣化するんだ」

 

タウスは存在しない耳を疑った、思わず話を否定しそうになった。深刻そうな、どこか諦めたような目つきの彼女を見れば、それは到底できそうになかった。

 

「魔法は理解した奴が増えるほど、効果が弱体化する。あたし達とおなじさ、神秘に覆われてこそ、魔法は奇跡を発揮する。公然になった今じゃ、失われた魔法さえある。それが及ばないのは、外からきた連中の魔法だけ。だけどこれでも持ち直した方さ、コーヤと戦ってた時なんて国家が魔術師隊とか作ってやがったから、デンドロ()

 

ドーラは籠手を着ける仕草をする。

 

「が無いとまともに魔法が出なかったからな。それでも今より強かったよ、段々衰えていく感じだ」

(なら魔法も作らないといけないな)「……それはいらない」

 

コップを突きだした彼女は断られると一気に飲み干した。

 

「で、ダンジョンを作るのは順調なのか?」

「まだわからない。段々住み難くくなる危険な家を考えてる。寝・食・排泄の問題を違和感なく解決しなくちゃいけないし、お宝だって見つけにくくて見つけられるように隠さないと。冒険者から勇者を見つけないと」

「冒険者っていうのは言わない方がいいよ、みんな機嫌が悪くなる」

 

銀色の眉根から毛先につれて赤が加わる柳眉を跳ねさせて、ドーラは釘を差した。

 

「94年前、禁忌の土地に踏み込んで最初に封印を解いたのは、冒険家ミアルマ・カインって奴だからな。罰として死ぬまで出られない無限迷宮の中をさまよわせてる。つまり冒険者は愚か者の代名詞さ、だから登頂者とかって言った方がいいよ」

「気を付けるよ」

「それと勇者なら、ワルプルギスが認定した予言の子がいる。ドゥームチャイルド(選ばれた生贄)ってことさ」

 

そこでドーラは首を傾けて左に消え、タウスが机で待っていると小樽を抱えて現れた。

 

「残酷だって思うか?」

 

葡萄の香りがする赤い液体をコップに受け、スパイスを振って唇を付ける。

 

「そうかな、要は養殖って事でしょ? ただ殺されためだけに生み出され、どんなに努力したって無駄だと知らされないまま、ある日突然理不尽に、その幸せを奪われる。悲劇だけど、生きるためにはしかたないって、みんな言い訳して気にしない。それに、それを今からやろうとしている俺には否定できないよ」

「……私達が決めたんだもんな。なのに同情してほしいなんて、ずるいよな」

 

ドーラが腕の囲いに蓋をすると肩が震え、漏れ出した嗚咽は号泣に雲行きを変え、タウスは彼女の肩に触れた。

 

(お母さんって大変だなあ)「きっとなんとかするから」

 

余計に泣き出したドーラの背をさすって、泣き終わるのを待った。

 

「今日は泊まっていかないのか?」

「やる事があるから」

 

ドーラは玄関口に身を預け泣きはらした目で、闇を切り取るタウスが見えなくなるまで見送った。

 

(家に戻りたいな。こんな、命の危険が道端に転がってる世界じゃなくて、親のいる世界に帰りたい。ああいや、今は集中しないと)

 

タウスは恋しい気持ちを切り替えて夜空からモザイクの中に入った。

 

「まずは外見だ、塔がいい、まるで太陽のオーラが伸びて地面に突き刺さる感じだ。次に色、白で清潔感があり回路を思わせる緑色の光が駆けめぐってる。最後に聴こうとすると不協和音が耳につく。そして四方には結界を思わせる数珠のロープが垂れ下がってるんだ」

 

それは目立つには十分高く、錨を思わせる根っこをもってタウスの前に姿を現した。

 

「ありがとうありがとう、これで内装に移れる」

 

体に礼を言ってから入った壁の中は潔癖なまでに真っ白な、ただ広だけの無の空間だった。

 

(始まりはオデッセイを再現したものでいいだろう。その方が異世界からやってきた物って印象が強くなる。あとは出入り口の次元門に記憶を読みとらせて再現、追加配置すればモンスター、アイテム共に充実していくだろう。ログの中から課金アイテムっぽいのを探していけば事態はわかるはずだ)

 

100枚の円盤に区切られ、自然から人工物の地面が広がり、太陽、あるいは火や光が闇をかき分け救いの手を差し伸べる。

 

(次にプレイヤーだが難しいな、実力を見誤ったからって訓練所で死んでもらうのはこっちとしても気分が悪い。死亡とみなして、死亡時の記憶を差し込んだ上丸裸でダンジョンの外に追放でいいな。骨折や毒はなんとか復帰手段を用意しよう。それに加齢の差はどうする、夢中になるあまりにコーヤと戦う時にはおじいちゃん、なんて昔話みたいなことはダメだ。この世界の人間は魔女みたいに長生きで、かつ若い時が長いか?

 

イバタットの言葉を思い出し、考え直した。

 

「ならあんな言い方はしないな。歳は名誉の負傷とあきらめてもらうしかない。次に生物・モンスターだ、他人に殺されるために生きろというのは、正直愛が無い、俺なら親を憎む。やはりデータだ、感触のあるデータでいい。倒されるまではそれで、後は肉や皮に差し替える)

 

森が広がり、城の残骸を引き連れ塔が建ち、海ができあがる。有機無機生命体に始まり、おおよそ生物とはいえないモノ達が賑やかに盛り上げる。そしてとうとう最大の悩みがタウスに立ちはだかった。

 

(で、宝はどうだ、宝箱に入っているのは論外として。モンスターに使わせるのはどうだろうか、優れた武器があるのなら逆に使わないというのは不自然だ。しかしそれだと人型以外のモンスターは丸裸で不公平、それに万が一にも冒険者を全滅させたら、次からは積極的にそれを行わなければそれも不自然、自然の中では人間も獲物でしかない。おもてなししてくれる敵なんてあり得ない。それは冒険者に勝ち目がないな、槍や盾で武装したゴブリンの群れなんてほぼ軍だし、トロールが矢なんか射ってみろ、当たった時には体が上下に泣き別れだ。……止めだ止め。もっとこう、特別に言い訳が必要だ)

 

大きな杖ともとれるダンジョンから出たとき、別の懸念を心が囁き振り返った。

 

(心配なのは、ダンジョンが与える恵みによって人々が信仰し、ワルプルギスを蔑ろにすること。それは避けなければいけない)

 

 

「ダンジョンに井戸があったら水を飲みますか」

「飲まないでしょうね。それなら魚が泳いでいる川の水を濾過と煮沸してから飲みます。それにニムパスも蔓から水を飲むでしょう。保証のされていない井戸は危険です」

(それなら罠に使えるかも。どのみち向いていな人間は篩にかけないといけないし)

 

石組の井戸から汲み上げた水を水袋に移したイバタットは蓋を閉じて背を向けた。

 

「体を洗うのは」

「共同浴場があります、場所によっては温泉もありますよ。アンスラキシロン(炭の石)があって、水さえあればお湯には困りません」

 

ワルプルギスに戻ったタウスは彼女達の知恵を借りていた。

 

「では武器の材料表を宝とするのはいかがでしょう。忘れないように記録をするのは自然ですし、紙なら珍しいですから回収いたします。それを侮る者はいずれ落後するでしょう。我々が文字を作って書けば、ワルプルギスの者以外に解読できないのは必然。それでモンスターが武器を手にできないのも納得できます。また我々も、材料を取りに行くなり買うなりしなければ作ることはできません。これならばお気持ちに寄り添えますが」

「素晴らしい! さて場所はどうしたものか」

 

タウスがボス戦後を想定しているとすぐに返事がやってきた。

 

「習慣化させるのはどうじゃ。最初の方は疑問を抱くじゃろうが、その内そんなものかと納得するじゃろ。ドラゴンを倒せば鉱脈や宝石床を得られるとか、砂漠のオアシスの様なものじゃ」

「優れた案だ。ちょっと失礼する」

 

モザイクに消えるとワルプルギスはどよめき、再び姿を現したタウスの一言に驚きを隠せなかった。

 

「もう下ろしていい?」

 

そんなことを言われたってという表情で魔女達は顔を見合わせ、頷くより仕方ないのも事実だった。

 

「大変ですワルプルギス様! 何か落ちてきています」

 

真っ青になってサバトが飛び込んできた。

 

「落ち着くのだ、ワルプルギスは健在。慌てることはない」

「しかしあんな物! 見たことありません!」

「我々も行ってみるとしよう」

 

半ば半狂乱でマジシャンが叫ぶと塔の外へ出て、陰に没している森に気付いて空を見上げた。

 

「あれは、あれはどうすればいいのでしょうか!」

 

必死に叫ぶサバトの声はワルプルギスの耳を素通りしていった。一様に目を丸くした彼女達は無言のまま、為す術が無いと語った。誰一人口を開くことがないまま、先が見えない塔は海に落ちた。

 

「きゃあぁ」

「くそ、なんて揺れだ。柱に捕まれ」

 

翼や羽のある生物は空へ逃げ、立っていた者は床に倒れる。

 

(そう感じているだけで、実際地面は揺れてないんだよね)

 

揺れが止むと、示し合わせてもいないのに一斉に話し始めた。

 

「新しい世界がやってきたのかもしれない、確認するべきじゃ」

「コーヤの罠だって事もありえるぞ」

「であれば、我々に直接攻撃をしてこないのは不自然です」

「なら偵察しに行こうぜ。半分はここで待機、半分が様子見だ。早くしないと他が来ちまう」

 

ワルプルギスは2手に別れ、タウスは共にダンジョンへと向かった。大陸間を繋いでしまうほど巨大で空さえ貫くほどに塔は長い。

 

「これはフサルマ(次元重合)ではありませんか!?」

 

ダンジョンと砂が重なり合った所1人が指さすと皆が注目した。

 

「サバト様の本でしか拝見してはないが」

「オレもこれがそれだと思うぜ、こんなものを見せられて疑えねえよ!」

 

ドーラ、良い方を連れてきてくださいましたね。小声で話した1人がおずおずと震える声でタウスに尋ねた。

 

「入口は、どこでしょうか」

「今から創造するよ」

 

2本の柱に2本の梁を抱えた門。赤い柱の間には引き込まれるような渦が広がっていた。

 

「これは何と?」

「次げ……鳥居という、いわば結界」

 

タウスはできたばかりの出入り口に意識を向け、言葉を想像する。

 

「真に求める物を祈れ、どういう意味じゃ?」

「諦めるなという意味だ。さあ入って入って」

 

中は城の一ヶ所を切り取ったようだった。

 

「なんとなんと……」

 

絵画のキャンパスになった天井からはシャンデリアが行列をなし、大理石の長く広い廊下は3階、あるいは2階のステンドグラスによって自在に彩を変化させ、特に天井が高くなった中央にはジャイロユニットに収められた巨大な水晶球が噴水に設置されていた。あちこちは彫刻に溢れ、宝石と金で装飾が施されて、抑えられた音量で音楽が奏でられていた。

 

(ま、ゲームならこのくらいするだろう。第一印象に残るんだから)

 

金に糸目をつけず作ったような場所にワルプルギスは言葉無く、何も入っていない軒先も相まって寂しささえ覚えた。

 

「ここはダンジョンの待機所、先を見果てぬ者達が目を輝かせるホールだ。1階は登頂用、2階は宿、3階は余暇を楽しめるといい}

 

両側に柱が等間隔並ぶ目抜き通りの先陣を切ると、ワルプルギス達は我に返って続いた。

 

「それぞれの角には受付を配置して、この水晶でダンジョンに入る。中で死んだら地下に送られる」

「よし、じゃあさっそく行ってみようぜ! そのために来たんだしよ」

「あ、じゃあ祈を」

「オレを一番に連れて行ってくれ!」

 

意気揚々と剣を掲げたニムパスは水晶体の中へ吸い込まれ、登頂者としての最初で盛大な一歩を踏み出した。

 

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