エンドオブワールド   作:Archdrive

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第6話

大筋版

 

1階層

見渡す限りの青空の下、雲の影が歩く平野は緑の天国が広がる。草は林へ森へと成長し、麓は険しい山の頂で終わりを迎える。

 

「悪くねえ」

 

ニムパスは剣を地面に刺し、ネックレスを弓へと変えた。

 

シルハ()

 

腰の筒から矢を番え、息を止めてコンポジットボウを引く。暖かい風に合わせてわずかに右へ向け、ランスチャージに等しい矢を射った。

 

「すごい、初めて見た」

「へへ、ありがとな。とりあえずこれで昼飯には困ねえ」

ヴレ(見よ)

 

三角錐の鏃は獲物を貫くに止まらず地面に埋まり、3本脚の鶏(ディングバード)は葉っぱに乗った鶏肉に早変わりした。

 

「おいおい、何もしてないのに肉になりやがった」

(ゲームでは普通だったけど、現実だと違和感があるな。かといってパックされた肉しか知らないし、過程は見せてもらうしかない)「死体のままの方が良いか?」

「……いや、ここで生活するのが目的じゃねーんだ。便利なのにこした事はねえよ」

 

肩をすくめた彼女は獲物を取りに出かけ、タウスは囁かれる。

 

「主よ、ここは本当に建物の中なのでしょうか。壁を見つけられないのですが」

 

その答えは地平線の向こうに確かにあった。夜空に輝く星と地面ほどに遠く、ほぼ無いに等しいものではあったが。

 

「一応有るみたいだ。山か海の果てくらいに。ところで怪我をしたらどう治す」

「傷口を洗い、イーアートリコン、薬草を煮出して作った軟膏を塗って布を巻きます。それでもダメなら縫います。最後は魔法です」

「飲み薬で治ることは無いよね?」

 

ワルプルギスは顔を見合わせて、返事に先立って訝しんだ。

 

「薬を飲んで怪我が治らないのは共通です。部品を交換するか、土から作るかです」

「なら安心だ。……これを飲んでみてくれ」

 

タウスは片手サイズの水袋を差しだし、ミューディエッテはモザイクが原料のアイテムに口を付けた。

 

「この、甘酸っぱい物はなんでしょう?」

「エナジーハイドレーション。疲労回復薬でそれは時間をかけて回復するもので……まあ、おいおい使ってみてよ」

 

タウスは強引に説明を終えると両腕と両手いっぱいに5種類の薬を作り出す。零れた薬を追ったワルプルギスは改めて凝視した。

 

「この竹筒に入ったのが吸って使う疲労回復薬で、霧薬で即効性が秀でてる。次にこの箱入りが事前に飲んで使う薬で、錠剤で持続性に秀でてる。こっちの青い蓋が冷静さを取り戻してくれる香水で、蝋燭に似てるのは火を使って燃える煙にに効果がある。性能は回復薬と同じだ」

 

サバトは手に取って懐にしまい込んだ。

 

「この世界に有る魔法について教えて欲しい。魔法の刷新を図りたい」

「言い難い事なのじゃが、我々も存ぜぬのです。とうの昔に魔法の全貌は失われたのです」

「創造主デウス・エクス・マキナは我々に授けてくだった3つの神器の1つ、マギア・ヴィヴリオ・メ・イコナス(賢者の象形魔本)はシロテノイア全ての魔法が載っていたと聞き及んでおりますが、コーヤより前の大戦で失っております。サバト様ですら直接見た事はありません」

「だけどオレ達の魔法なら教えるぜ。もう反対意見は無いだろ?」

 

サバトはそれに黙って頷いた。

 

(デウス・エクス・マキナは実在したのか、どうりで最初からすんなり崇めるわけだ)

 

「……おっし、魔法はここを出てからにして、先へ進もうぜ。まだこれを使うほど疲れちゃいねえからよ」

 

ニムパスが音頭を取り再び平野を歩き出す。穏やかな風景に時折風が撫でれば緊張も幾分か取れていった。

 

「川はどこでしょう? 喉が乾いたのですが」

 

ドーラの言葉が思い出された。

 

「これはエリクシル。ドーラはこれを飲んで調子がよくなったらしい」

「どうりで血色が良かったわけだ」

「100年は若返っておったぞ」

 

各口を付け、ドーラと同じ反応を示した。

 

「ぬる! !」

 

驚きに固まったサバトに腹痛が襲いかかり、タウスはトイレを作って駆け込ませた。

 

「これは効くな、本当に効くな!」

「魔力が上がったみたい」

「もしやクスィロスは毒だったのでは?」

 

井戸端会議に興じるサバトの傍ら、タウスはトイレを消した。

 

(看板があった方がいいのか? ゲームなら下に地図が表示されるから迷わないけど、TRPGだとマッパーがいるからな、それにGMがある程度助けてくれるし。罠が出てくる階層の合図に使ってもいいな)

 

タウスはスーパーマーケットにある様な光の看板を空に追加した。

 

「もしかして、あれが次の場所に行く階段ではありませんか」

 

何の前触れも無く現れた鳥居は忽然と平野を切り取り、灰色の螺旋階段が続いていた。サバトは様々な足音を響かせ白い光が落ちてくる階段を上った。

 

「は?」

 

金貨の砂漠に目が点になった。

2階層

煌めく宝石床の空は、貴金属の線雲は、宝石サンゴの木々は、絢爛豪華などでは筆舌に尽くしがたかった。

 

「な」

 

腕を突っ込んですくいあげると銀貨、銅貨までがおさまっていると言葉を失った。

 

「ここにドラゴンはいない、いくら持ち去っても咎める者はいない」

「我らを試さないでいただけると助かります。冒険者がいなければ、きっといまごろ取り憑かれていたでしょう」

「試したいのは勇者の方だ」

 

会釈したサバトはまだはかりかねている様子だった。

 

「冒険者はこの誘惑の虜になるだろう、それは仕方ない。でも勇者にはそうあって欲しくない。義理堅く信頼され、情に厚く諦めない、蛮勇と勇気をかぎ分け、事を見抜ける聡明さを持ち合わせた類稀な強者、それが勇者。その肩書きにふさわしいかを見たい」

「勇者の名前はブレイス・ピスドと申します。彼は現在仲間と共に旅へ出ています。すぐに呼び戻します」

「その仲間に俺も加えるよう、ワルプルギスから紹介してくれないか」

「そのように手配いたします」

 

誘惑に足を取られたサバトは空を飛んで振り払い、あっけなく次の階層に移った。3、4、5……と危うさも無く進み、9階層。

洞窟に立った鳥居の本来あるべき階段は、井筒模様の壁に塞がれていた。

 

「ここは試練の間へ続く特別な場所だ。ここで帰ることもできるし進むこともできる。帰りたければ鳥居から下がってる鈴鳴らせばいい、今持ってるものは持ち帰れる。もし進めばボスが待ってる。そうなったらもう逃げられない。力か知識か、あるいは運で乗り越えるしかない。どっちを選択するかは自由だ」

「もし死んでしまった場合はどうなりますか、持ち物は?」

「基本的にはその場に落とす。ボスで死ぬとそれまでの階層に撒かれる。10階なら1~9まで、20階なら11~19までといった具合だ。モンスターが拾えばもちろん武装するだろう。死んだ者は地下の専用部屋に追い出される」

 

サバト達は意見をぶつけ合った。進むか退くか散々話し合った末。

10階層

10メートル四方の砂場に歩を進めた。

 

「なんでしょう。このだだっぴろい空間は」

「待て! こういうのは危ないんだ、勝手に進もうとするな」

 

ニムパスが止めるとサバトは一斉にタウスを見る。がタウスはだんまりを通し、彼女達は考えをぶつけ合った。

 

「魔法で攻撃してみるのはどうですか?」

「それ、自分がやられたら腹が立たないか」

「では物を投げてみるのはどう?」

「オレ達はここにいますよって、教えてるようなもんだろ」

 

ニムパスが否定すると不服そうにサバトが見つめ、彼女は黄砂を示した。

 

「まず擬態を疑った方がいい、こういうのは表面か中に隠れてるよ。そうなら次は目やひげを探す。目は大体黒いからこんな色ならすぐ目立つ。無いから後はモルタージョー(砂漠の顎)みたいに砂の流れを感じとってると睨んでいい」

「飛んでいくべきか」

「そうだ」

(鋭いな、1人くらい罠にかかると思ってたのに)

 

ニムパスが最初に行動して証明し、サバトは次々と移動し10階層を後にした。

 

「森、ですか」

「気を抜くなよ、サッカーワーム(吸血虫)やらロープワーム(柔軟蛇)やらが枝から落ちてくるんだ。それよりなんだ、この立て看板は立ち塞がってるんだ」

 

11階層

木漏れ日に映える深い緑に湿気の多い空気、足元には枯れ葉が積もって独特のにおいを出し、絶え間無いさえずりに生き物の気配はあちこちに散乱していた。

 

「そこに紙を設置しておこうと思ってる」

「それなら仕方ないな」

(ま、体験版はここまででいいだろう)「帰ろう」

 

鳥居を創ると待機組のサバトが誰かと話し合っているのが見えた。

 

「やはり来たか」

 

と忌々しそうにサバトが呟いた。

 

「すぐに来てよかった。どうやらお客さんだ」

「俺はいないという体で話してくれ」(意外と早いな、10分程度だが)

「わかりました」

 

次々と背中を見送ったタウスは姿を消して最後に出て行った。

 

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