エンドオブワールド   作:Archdrive

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第7話

タウスは鳥居から出ると障子を閉め、手近な岩陰に身を隠す。

 

「これは我々の土地に落ちた、ワルプルギスの財産だ。解放するまで待っていればいい」

(スチームパンクとサイバーパンクってとこか、んであっちはスケルトンに悪魔。なんだあのシスターみたいなの、なんで仲良くしてるんだよ、敵同士喧嘩してろよ)

 

サバトの対面には、3つの人陰と 3つの陰があった。

 

「なら中を調査するでしょ? 替えの利く私達がいくべきよ」

 

シアンが話すのはガイノイド、PGn-01。一歩踏み出した彼女は文面上は献身的はあったものの、口調は高飛車で強引だった。

 

「死んでいる我々も行きたい」

「こいつが悪さしないよう私も見張りにいく」

(俺、あいつら嫌いだわ)

 

フォッシルドラゴン、アンデスに続いたエクソシスター、ラネット・レイナ―の笑いを含んだ声はタウスを苛立たせた。

 

「中は安全かまだわからない。端末に情報を飛ばせるかもわからないんだぞ」

 

タウスは声をかけられる相手を捜し、ちょうど良い所に見つけた。

 

『イバタット、この声はあなたにしか聞こえていない』

「なら予備のターミナルを設置しておくわ。これで問題は解消ね」

 

タットのビクリとした反応はニムパスの背に目隠しされ、横はレアヴが遮っていた。

 

「そういう問題ではない!」

『そいつらを通してくれ。俺の意志だと伝わるように、わからないように言ってくれ』

「そういう問題だろう」

「通してみましょう」

 

タットは発言でアイアンメイデンに放り込まれた。

 

『ごめんね』

「誰を中に入れるかは私達が選ぶのではなく、塔に選んでもらうのはどうでしょうか。これなら公平でしょう?」

 

サバトは押し出していた怒りをおさめ、そんな顔色の変わった彼女達に気付かずPGn-01は笑顔で拍手をした。

 

「そうそう、公平でないとね」

 

サバトが道をあけると彼女は鳥居に近づき、ふすまに手をかけた。

 

(神なら許すだろうが、俺は神じゃない)

 

取っ手に触れた指先が急激に朽ち、剥がれ落ちていった。

 

「パージだ!」

「クソ!」

 

電光掲示版に顔を表示した、磁器でできた人形を思わせる機械ヒルベルト・ガスケットが催促し、肩口から右腕を捨てた。

 

(パージしたって事は、そこまでなら替えが利くって事だろ。存分に朽ちてもらおうか、みせしめのために)

 

安心したのもの束の間、彼女は前に崩れ落ちた。膝下が散らばり、残った脚すでに支えられる強度を失い、右腕も崩壊し始めていた。

 

「早くデータリンクを!」

(つまり目の前にあるのはただの端末か、じゃあ消え去れ)

 

風化は急激に進行し、茶褐色の塵となって崩れ、霧散した。

 

「これでわかったであろう、お前達は望まれていないと」

(そうだ、もっと言ってやれ。この世界はお前達のものだ)

「もう帰るがいい」

(……大人だ、嫌みの一つでも言うかと思ったけど)

 

悲惨な結末に残りはたじろぎ大人しく帰っていった。姿が消えるとタウスは再びタットに声をかけた。

 

『ワルプルギスに戻ろう、訊きたいことが増えた』

「議場に帰りましょう。今後を話し合わないと」

 

 

「デウス様、ありがとうございました。おかげで面目が保たれました」

「いや、あれは俺が気に入らなかったんだ、あなた達を思ってした事じゃない」

「ですがこれで、ワルプルギスの嫌伺に少しは心を砕くようになるでしょう。これもお力添えあっての事」

 

マウアのお礼に謙遜するとコニットが持ち上げる。もう最初の様な緊張感や警戒は消え失せていた。

 

「外来種は全員あんな、侵略が好きなのか?」

「大方のJ.T.Dは興味本位です」

「黄泉帰りの者は政治に興味がないのじゃ。じゃが一部とP.G.Sは第2のコーヤになるやもしれん」

「私達と相性悪いですからね。コーヤと同時に攻められたら、今のサバトでは無理でしょう」

 

タウスはエリクシルを創り出し、注意喚起をして隣へ隣へと渡した。

 

「相手取るにしても数が多すぎます。彼らの魂? は中央塔に保管されているため体を壊しても効果は薄いのです」

「彼らは無限に成長できます。やがて我々にとって替わるでしょう」

(対抗魔法か生物が必要だな)「コーヤと繋がっている可能性は」

 

その懸念をサバトも抱えているのは、沈黙した口が肯定していた。

 

「コーヤが復活すればありえるでしょう」

(そういえば、ラアゼル・コーヤは見てないな)「ラアゼル・コーヤを封印した場所に案内してくれ、今すぐ」

(あの地か、できれば行きたくは無いが)

 

サバトは脈絡も無いタウスの言葉に凍ったが、我に帰るとすぐに立ち上がった。

 

「ダンジョンを落とした後だ、誰かが見ているかもしれないから俺は姿を消して進む。会話はできるだけ小声か、筆談で頼む。なにかあれば声はこっちでかけるから、少し後ろにいると思ってくれ」

「わかりました」

 

タウスは姿を消すと、サバトは北の地へ飛んだ。

 

「あの地こそラアゼル・コーヤが降り立った地、そして封印された土地です」

 

眼下には聞いていた地獄と反してK.M.Aとよく似た大地があった。

 

「封印にはナイトメアベッドメリー(迷衰の日々)ミッドナイトサン(闇の手上げ)マーキュリー・ドロップス(後背の鏡)の3種類を使用し、それぞれ3・6・9個ずつ施してあります。現在はナイトメベッドメリーが我らの手元に2つ戻ってきていますので、コーヤは恐らく棺の中より解き放たれ、土地のどこかにいると思われます」

 

人のいない、命あふれる大地は影さえ消え入りそうな白夜の包囲網に痛めつけられていた。

 

(この場所って、パソコンだとウイルスに感染したメモリーって事だよな)

 

タウスは閃めいた。

 

(だったらコネクタ外して物理的に切断すればいい。それならコーヤが強かろうが弱かろうが関係無いよな?)

 

みるみる成長していき、落とし込みは具体性を持っていった。

 

(だったらこの場所を指定して切り取って別レイヤーに分ければ、コーヤは下のレイヤーであるシロテノイアには手が出せない。足りない部分はK.M.Aを参考に場所を創ればいいんだし、上から重ねとけば外見上は何の違和感も無い。……やるか。ただ、モザイクでやれば派手に目立つ、透明に仕切れればいいんだが)

 

タウスが思うと大地は線に仕切られ、僅かに浮かび上がった。すかさずよく似た大地を創り出した。

 

(コーヤの命は今こいつが握ってるのか。……あとはデリートしたいと思えばいいだけ、それだけで俺は帰れる)

 

神の様な圧倒的全能はタウスの弱点に語り掛けてきた。

 

(それは安直だ、安直すぎる。それにこの行いは神話の中にある津波に等しい、俺は人間だ。耳を塞ぎ、目を瞑って、誘惑をやり過ごすんだ。手を、離すんだ)

 

苦労して振り切ると、大地が間違ってもシロテノイアに戻らないよう隔離した。

 

『帰ろう』

「少し疲れていませんか」

『魔が差しただけだ』

 

戻り次第サバトは手分けして準備にかかった。国々にでかけ、呼び戻し、議場からは半分のランタンが消えていた。

 

「よろしくお願いします」

 

日常生活ではまず聞きもしない甲高い声で、抑揚無いあいさつ、最後に礼をする。鏡の中ではハリボテの面が、飛び切り笑顔をタウスに返した。

 

(吐きそう!)

「さすが御身、かわいいですよ。自由自在な性別、うらやましいです」

 

鏡の脇から現れたピゾラ・オーザンの程遠い感想がタウスに靄の様な気持ちを抱かせる。

 

「なあ」

 

低い声で話すと、笑顔が一転、彼女は唇をへの字に曲げた。

 

「ねえ、これで勇者の気持ちが分かるの?」

「はい! 下心があれば話してるとわかります。それに目線が動くんです、見られている方はお見通しです」

 

ゾラはタウスの胸を片手で包み込んできたのだ。

 

「もう少し大きい方が私の好みですが、貴方の負担になってもいけませんからね」

(勇者の好み以外聞いても仕方ないだろう。それにこの魔女は外見が女の子なら、中身が男でも……化物でも構わないんだろうか)「これは卑怯だ、止めにする」

「あ、なぜ戻してしまうのですか!?」

 

体の表しか作られていないスキンを煙になって消えると声が裏返るほど彼女は食い下がった。本当に疑問そうだった。

 

「これは自分の時だけにする」

「私と一緒の時もお願いします」

「嫌」

 

あっけなく断るがかわいらしい声がいけなかったのかまだ表情で食らいつく。

 

(やはりこちらの方が落ち着く、家に帰って来たような気分だ。声帯が無いから関係ないだろうが、声も調子がいい気がする)

 

が、男で、しかも坊主にしてしまうとその興奮は一気に氷点下に下がったようだ。膝から崩れ落ち座り込んでこの世の終わりでも見たように元気を無くした。

 

「そんな、あんまりです」

(怖いし、抱き着かれて汗と涎でぐっちゃぐちゃにされそう。こういうのは気を抜いたらベッドの上だ)

 

烏帽子兜を皮切りに武装を固めていく。甲冑、大盾、矛、太刀、脇差、そして多くの投げ矢(ダーツ)。さらにしめ縄のたすき、鏡を盾に、大麻を腰に備える。最後に総面を兜に締める。

 

(見た目だけなら武士って感じだ。でもこれで戦ったことありませんは説得力に欠けるな。なにか理由が必要だ)

 

2日後、全ての準備が整い、ダンジョンの正式名称はエテンメンアンキに決まった。

ワルプルギスは勇者をR.W.Cに呼び寄せた。

 

「こっちは目を覚ました高蓑主巣(たかみのしゅす)だ、オノゴロという所から着たとか、仲間として同行させよ」

 

議場とよく似た一室でタウスは勇者の一団と顔を合わせた。砕ける波の音色が響き、会釈を終えたザヴォング・オックスレイは疑問を口にした。

 

「サバト様が仰られるのであれば、その様にいたします。しかしながらなぜこの時期なのでしょうか?」

「それは、お前の口で確かめるがよい」

(エテメンアンキ突入への戦力増強として? わざわざK.M.A(母国)を差し置いてまで外の人間を使うだろうか)「タカミさんは戦闘経験豊富なのでしょうか?」

 

眉を潜めたのはタウスだけではなかった。

 

「あ~私は、戦闘はからっきしでしてな。つい先日まで師の所で修行しておりました。人の訪れない山奥です」

「そうですか、……ならば使命を帯びているのでしょうか」

「はい! 勇者を捜してこの剣を渡すよう、我が師から承っております」

 

タウスは腰から鞘を外して仰々しい動作で剣を掲げ持った。

 

「勇者はこれを振るって闇を七色に照らし、国作りを果たした。と、私は教えられております」

「平和になろうともそのようなもの、外に持ち出してよろしいのですか?」

 

ザヴォングの心からの心配にタウスは深刻そうに首を振った。

 

「我が国に、もう勇者はいませんでした」

 

彼は叫びそうになり、それに気がつくと言葉を引っ込めて先を薦めた。

 

「剣は悪人を勇者に変えることはできません、勇者の求めに剣が応えるのです。師はそう言って決死の覚悟で逃がしてくれました。私の故郷はもはや闇の中でしょう」

「それは、私からなんと言えばいいのか」

「仕方ないのです、誰もなにもせず、ただ文句を言っていただけなのですから。それに今はシロテノイアの事です。滅ぼさせるわけには参りません、早く勇者を見つけなければ」

 

タウスはその柄をヴォングに向けたものの手を振って否定した。

 

「私は兵士です、勇者ではない。ピスド様、どうぞ抜いてみてください」

「失礼します」

 

傍にいたピスドはタウスに会釈をして柄を握った。

 

「そんな、これは、これはいけない」

 

ヴォングは狼狽えた、ピスドの得た刃は実践にはとても向かない木の刃だったのだ。

 

「落ち着くのだ、ピスドはまだ試練をいない。つまりはそういう事であろう」

 

険しい表情でサバトはアクセサリーやバックパックを取り出した。

 

「新しい武器と、この中には必要なものが入っている。使い方は書いてある。1階から9階までは安全だ。その間にためしておけ」

「はい、では行ってまいります」

「ワルプルギス様、ボクは勇者になってみせます。コーヤを見事討ち果たして見せます」

 

ブレイス・ピスドが宣言するとサバトはマウアを見やった。

 

「ピスドよ、決して焦るな。焦っては闇に堕ちる。我らも仲間無くしてコーヤを封印に追い込めなかった。仲間を頼りに道を進むのだ。決して独りではない、忘れるな」

 

その期待に彼女が答えると2人は深く礼をしてその場を離れた。

 

「さあ行きましょう、タカミさん」

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