カオスでごちゃまぜな世界で権力を追い求める人の話 作:書きマウス
ということで分割しました。
こちらは前話です。
Aちゃんの話です。
初めてそれが見えるようになったのは、確か小学校の高学年……十歳くらいの時だったと思う。
あの時私は些細なことで親と喧嘩していてすぐに家に帰りたくなかった。だから、塾の帰りにあんな寄り道をしてしまったのだ。
「全く……お母さんったらひどいんだから……」
満月の夜。
私は家から塾までの道のりにある小さな公園で一人ブランコを漕いでいた。親や友達と喧嘩した時、テストで悪い点を取った時、何か嫌なことがあるたびにこの公園に訪れるのが私の習慣だった。
お母さんったらひどいんだから……せっかくここまで髪を伸ばしたのに、伸びすぎてるから切りなさいなんてさ。お母さんが褒めてくれた髪なのに……もう。明日は友達と髪留めを買いに行くんだからそれでいいでしょって言ったのに……もう!
そんなことを思いながらブランコを漕いでいたが、さすがに遅くまで居すぎたかなと思う。
あたりはすっかり暗くなってしまい、明かりと言えば月明かりくらいのものだ。当然私以外の人影もなく、すっかり寂しい雰囲気になっていた。
遅くなってしまったし、そろそろ帰ろうか……そう思い、ブランコを漕ぐのを辞める。
もう一つのブランコの椅子に置いていたカバンを取り、帰ろうとしたその時だった。
『……yaうtつまumitけそぃtてoikみeta』
「……?」
なにか、変な音が聞こえたのだ。
それはノイズがかかっているようなひどい音で、しかし何かの鳴き声のようにも聞こえた。
もしかしたら怪我をした動物がいて、助けを求めているのかもしれない!
私はそう思い、正義感の赴くままにその音が聞こえる方へと向かっていった。
例えそこにいるのが不審者だとしても逃げ切れる、という驕りもあったかもしれない。昔から陸上をしていた私は足の速さでは誰にも負けたことがなかったからだ。同じクラスの男子の中にも私より速い子はいなかった。
月明かりを頼りに音が聞こえる方へと向かっていく。
『……koyioぃよkodこkoでeまam』
音は茂みの向こうから聞こえてくる。
不思議なことにその音の聞こえてくる方へ向かうたび、少しずつ気温が下がっているような気がした。
なんだろう、少し不気味だな……
そんな風に感じながらも茂みをかき分けて進んでいく。かき分けた先で何かが月明かりに照らされてうごめいている。あれが音の正体だろうとあたりを付けた私はじっとそれを見た。
動物か、はたまた不審者か……
そのどちらかだろうとあたりを付けていた私だったが、それはどちらにも当てはまらないもっと悍ましい何かだった。
『osいsiおunaぞのkiが』
「ひ……っ!」
それは化け物としか言いようがないものだった。
全体に黒い靄がかかったような不定形なそれは見ているだけで気分が悪くなってくる。頭が痛くなり、足が震えるのが分かる。見てはいけないと分かっているのに恐怖からか目が離せない。離れたいのに足が動かない。
私がそうして動けなくなり、化け物を見つめてしまっていたからだろうか。化け物はこちらの存在に気が付き、くるりと振り向いた。
そして……
『mおanoねえgまうtaょとぃkoぇを!!!』
私にとびかかってきた!
「や、やだあぁああ!!!」
火事場の馬鹿力だったのだろう。私はようやく動くようになった足を必死に動かしてその場から逃げ出した。
ハァ……ハァ……! と、息を切らせながら走っている。足はもう棒のようになっている。
あれからしばらく走ってきたからか疲れがたまってきていた。
「こ、ここまで逃げてきたんだから……ハァ……大丈夫なはず……ハァ……ハァ……」
私は自分にそう言い聞かせながら立ち止まり、確認するべく後ろを振り向いた。
『mてぇaet! wくぉaせor!』
……追いかけてきてる!
脚が遅いのか距離は離れていたものの、月明かりに照らされた化け物は確かに私のことを追いかけてきている。
追いつかれたら終わりだ! 本能的にそう感じ取り、今度は振り向くことなく家に向かって必死に走った。
そして、私はようやく家にたどり着いた。
「お母さん! お母さん! ドアを開けて!」
私はインターホンも鳴らさずに必死にドアを叩いて母に呼びかける。あの化け物から逃げたくて必死だったのだ。
早く家の中に逃げ込みたい! それしか考えられなくなっていた。
「な、なに! どうしたの!」
「お母さん! お母さん!」
母がドアを開けてくれた瞬間、私は母に抱き着いた。
そして私は話した。夜の公園で化け物に会ったこと、その化け物が襲い掛かってきたこと……
すると母は……
「黒い靄がかかっている化け物……? なにかの見間違いじゃないの?」
「ほんと! ほんとなんだよ! 私はそれに襲われて!」
あまり、信じていないようだった。
不審者に襲われたという話なら母も信じたのかもしれない。しかし、私の口から出てくるのは黒い靄がかかった化け物に襲われたということだけ……これでは信じてもらいようがなかった。
それでも私は必死で信じてもらうべく言葉を続ける。その化け物が追いかけてきたこと、家まで必死に逃げてきたこと……
「追いかけてきたってことは……家までついてきたってこと?」
母のその言葉にハッとする。そうだ、もしかしたら家までついてきてしまっているかもしれない!
ドアを開けた瞬間に母に抱き着いてしまったせいでまだドアを閉じていないのだ。このままでは家の中にまで入ってくる……!
そう思い、ドアを閉じるべく振り返るが……
「あれ、いない……?」
そこには化け物の姿は影も形もなかった。振り切ったのだろうか? いや、でも……
私がそう考えこんでいると、母がドアを閉じて言った。
「もう夜も遅いし、さっさと晩御飯食べて寝ちゃいなさい。話の続きはまた明日ね」
「え? で、でも……」
「いいからいいから、また明日ね」
母は私をあしらい、家の中に引っ込んでしまった。
あれは母の言う通り見間違いだったのだろうか……
そう思い、確認するべくもう一度ドアを開けて外を見る。
そこには何もいなかった。
「見間違い……だったのかな……」
私は釈然としない思いを抱えながらドアを閉めた。
今になって思う。この時、もしもっと母に食い下がっていたら何かが変わっていただろうかと。そしたら、次の満月の夜にあんなことは起きなかったのではないかと……
私が再び化け物の姿を見たのは次の満月の夜だった。
あれからというもの私は塾の帰り道のたびに公園を訪れていた。あれは何かの見間違いだったのか、それとも本当にいたのか、それを確認するためだ。
最初のころは訪れるたび、化け物が姿を見せるもの思っていた。しかし、その姿は影も形も見当たらない。
結局はあの夜以降、化け物はその姿を見せることなくひと月の時が経とうとしている。
ひと月も見かけなかったことで母の言う通り、あれは見間違いだったのだろうと私は納得しかけていた。
そして、その日の満月の夜も化け物がいるのかを確認するべく塾の帰り道に公園に寄っていた。
私は最初に化け物と遭遇したあの場所を覗き見る。
……相変わらず化け物の姿は影も形もなかった。
「やっぱり見間違いだったのかな? ……きっとそうだよね」
私はもやもやとしたものを抱えながらも自身をそう納得させ、帰路に就くことにした。
そして家に着き、インターホンを鳴らそうとしたその時だった。
『……mつituぐぅtkぉぇのea』
「……っ!」
音が聞こえた。
私はバッと振り返り、音が聞こえる方を見た。
『mタguまaenatぐいぉtio!』
あの化け物だ……!
距離は離れているものの、確かにあの時見た化け物がそこにいた。
黒い靄がかかったその姿はあの時と変わらず悍ましい。
逃げなければ……! 私はそう思い、あの時と同じようにドアを叩いた。
「お、お母さん! お母さん開けて!」
ドアを叩いた音でこちらに気づいたのか化け物は遠くからゆっくりとこちらに近づいてくる。
早く、早く……! その思いでさらにドアを強く叩く。
「な、なによ! またなの!?」
「お母さん!」
異常に気付いたのだろう。母は前回よりも早くドアを開けてくれた。
私は化け物のほうに指をさして叫ぶ。
「お母さん! あの時の化け物だよ! ほら、見間違いじゃなかった! た、助けて!」
母は私の言葉を聞くと怪訝な顔をしながらこう言った。
「お、落ち着いて! よく見なさい! 何もいないじゃない!」
「えっ……? そ、そんなはずない!」
私は後ろを振り向いた。
……やっぱりいる! 近づいてきてる!
化け物は依然としてそこにいてズリッ……ズリッ……と音を立てながら近づいてきていた。
「い、いや! やっぱりいる! ほら、近づいてきてる!」
「いったいどうしちゃったのよ! ちょ、ちょっとあなた! 来て頂戴!」
な、なんで……どうして!
私は混乱し、その場から動けなくなっていた。
その間にも化け物は近づいてきている。足が遅いためすぐにはここまでたどり着かないだろうが、いずれは……
そうしている間に母に呼ばれた父が駆け足でやってくる。
「どうしたんだいったい?」
「この子の様子が変なんです! 何もいない場所に指をさして、化け物がいるって必死で……!」
「お、お父さん! ほら、見て! あそこにいるでしょ! 近づいてきてるの! た、助けて!」
すると父は……
「……いや、悪いが父さんにも見えないぞ。よく見なさい、何もないぞ」
「そ、そんな……」
確かにそこにいるのに、なんで!
そこでふと気づく。もしかして、私にしか見えていない?
……そうに違いない! あんなものに気づかないはずがないのだ! いまも悍ましい気配を漂わせながら近づいてきているあの化け物に!
「何かを見間違えているんだろう。ほら、もうドアは閉めるぞ。話は家の中で聞いてやるから」
「ほら、行きましょ? もう晩御飯もできてるわ」
そう言って父がドアの方へ向かっていく。
そうだ、ドアを閉めなければ入ってくる。はやく、はやく! ドアを閉めて! あの化け物がこっちに来てる!
そんなことを思いながらドアの方を見ていると、ふと脳裏によぎることがあった。
果たしてあれは、あの悍ましい化け物はドアを閉めるだけでどうにかなるものなのだろうか、と。
ズリッ……ズリッ……と化け物が近づいてくるのが見える。あの悍ましい化け物が、理外の存在が、ドアを閉めたくらいで何とかなる……?
『pりriんnupぁはan』
……いやだめだあれはドアを閉めたところで何かしらの方法で入ってくるに決まっている。するとどうなる? 家には裏口もないから袋小路になる。それはまずい逃げられなくなる。お母さんとお父さんを説得して早く遠くへ逃げなければ! でも二人にはあの化け物の姿が見えてないから説得に時間がかかる。……ああだめだそんなこと考えている間にもどんどん近づいてきてる! おいつかれるとどうなるんだろうころされちゃうのかなそんなのいやだどうしようどうしようああいそがないとにげられなくなるやだやだそんなのおいつめられるまえにはやくにげなきゃはやくはやくはやく!!!
「や、やだぁああああ!!! うぁああああああ!!!」
「えっ? ちょ、ちょっと! どうしたの!? どこいくの!?」
「こ、こら待ちなさい! どうしたんだ!」
私の思考は焦りと恐怖でパニックに陥り、体が勝手にその場から逃げ出した。
化け物から遠ざかりたいその一心で、遠くへ、遠くへ、と。
そして……
私が化け物が追いかけてきていないことに気が付いたのは、日が昇ってからのことだった。
「ハァ……ハァ……あれ……? あの、化け物、は?」
後ろを振り向くも、そこには何もいなかった。
あれから無我夢中で走り続け、気が付くとぐるっと道を大回りをして、あの化け物と出会ってしまった公園にまでたどり着いていたらしい。
「に、逃げ切れた、の? ハァ……ハァ……」
日が昇ったばかりの時間だからだろう。公園には私以外の人影はなく、もちろんあの化け物の姿もなかった。
私はあの化け物を振り切った……逃げ切ったのだ!
「よかった……よかった……!」
私は安堵と疲労がどっと押し寄せ、その場に座り込んでしまった。
ああ、よかった……。逃げ切れたんだ……。怖かった、追いつかれたらどうなっていたか……。こんな距離よく走り切れたものだ、陸上をやっててよかった。お母さんに進められて入ってよかった……あれ?
「お母さんとお父さん、あれからどうなったんだろう?」
その事実に気が付いた時、私は血の気が引いていくのを感じた。
まずい……! あの化け物が私を追いかけてきていないなら、それは……!
私はふらふらになった足で踏ん張りながら、最後の力を振り絞って家に帰ろうとする。
しかし……
「あ、あれ、なんで……?」
私の足は動かず、その場で座り込んだままになってしまっていた。
一度座り込んでしまって力が抜けてしまったからか、それとも化け物がいるかもしれない家に行くのが怖かったからか……
結局私が動けるようになったのは、それからしばらくの時が経ってからだった。
夜通し走ったことによる疲れ、そして眠気をこらえながら私は家にたどり着いた。
あの化け物がまだいるかもしれないという恐怖から恐るおそる入り口に近づいていく。
そっと、玄関を見る。
「……!」
玄関の扉は開いたままだった。
あの後、何かがあったのだ。でなければ扉が開いたままになっているのに説明がつかない。
お母さんは、お父さんは無事だろうか?
「……お、お母さん? お父さん? い、いるー?」
……返事はなかった。
私は玄関に足を踏み入れる。こわごわとした足取りでゆっくりと家の中を見渡す。
「……!」
リビングへ続く扉が開いている!
リビングにいるのだろうとあたりを付けた私は、ゆっくりとリビングへと近づいていく。
本当に人間がいるのか疑わしいくらいに家の中はしんと静まり返っている。廊下を踏む音が嫌に響いて聞こえる。
私はいつもと違う家の様子に恐怖を感じながら、リビングの扉の前にたどり着いた。
きっと大丈夫、大丈夫だ。だって二人は大人なんだから、強いんだから……!
恐怖を振り払うため、自身に言い聞かせるようにそんなことを考えながら私はリビングを覗き見た。
「お、お母さん? お父さん?」
リビングの様子はいつもと変わりはなかった。テレビ、テーブル、ソファー……どれもいつもの場所にある。
ただ一つ違うのは、リビングの床に二人が倒れ、うつ伏せになって眠っていることだった。
……いや、違う! まるで身動きをしていない! あれは眠ってるんじゃなくて……!
二人はまるでマネキンのように微動だにせず、息をしている様子がなかった。
「お母さん! お父さん! しっかりして! ねえ!!!」
私は二人に近づき、様子を確かめるべく仰向けにした。
「ひっ……!」
仰向けになってあらわになったその顔はまるで搾り取られたかのように衰弱していた。
その姿は、とても生きているものだとは思えなくて……
「い、いやぁあああああああ!!!」
その後は流れるように事が進んだ。
あの後、私の悲鳴を聞きつけて誰かが通報したのか警察の人が来た。その人は二人の死体を見るや否や応援を呼び、私の家の周りには瞬く間に警察の人が増えていった。
パニックになっていた私を保護するためか、私はパトカーに乗せられ警察署に行くことになり、そこで事情聴取を受けることになった。
「き、聞いてください! お母さんとお父さんは化け物に襲われたんです!」
私は必死に説明をする。
化け物に襲われたこと、両親を置いて逃げ出してしまったこと、戻ってきたら両親が死んでしまっていたこと……
「落ち着いて、ね? 大丈夫、大丈夫だから」
警察の人はそう言って、私のことを落ち着かせようとしてくれた。
「どう思います?」
「ご両親が死んで混乱しているんだろう。見たところガイシャに損傷はなかった。少なくともあの娘の言うような化け物に襲われたって線はまあ、無いだろう。そもそもあの話を鵜呑みにするんならあの娘は一晩中走り続けていたってことになる。ちょっとありえないだろう」
しかし、化け物のことを信じてはいないようだった。
取調室の外で小声で話しているであろうその声が嫌に良く聞こえてくる。
結局、警察はお母さんとお父さんが化け物に襲われたということを信じるつもりはないようだった。
目撃者が私しかいないこと、外傷がないこと……理由はいくつもあったと思う。普通に考えればそうなるのだろう。
それでも納得できなかった私は先生や友達にも話した。お母さんとお父さんは化け物に襲われたということを。
「大丈夫、今は混乱してしまっているだけなんだ。今は安静にして、精神を落ち着かせることを最優先にしよう」
「お母さんとお父さんが死んで悲しいのは分かる。だが現実を見なきゃ、ね?」
「化け物って、そんなのいるわけないじゃない! 嘘つくのは辞めて」
ああ、駄目だ。誰にも信じてもらえない……
どんなに話してもあの化け物のことを信じてもらえることはなかった。
両親が死んだことで頭がおかしくなってしまった子……そういうレッテルを貼られるばかりだ。
ああ、だれにも信じてもらえないなら……あの化け物のことが見えるのが私だけだとするのなら……
「私が何とかするしかない」
私はそう決意した。こうして、私と化け物の長い長い因縁が始まった。
小学校のころ、たまに襲ってくる化け物からは余裕で逃げ切れた。化け物の足が遅く、数が一匹しかいなかったからだ。
あの後、近くに住んでいた親戚の家に預けられた私がまずしたことは髪を切ることだった。今までは黒髪ストレートを伸ばしていたが、走る際には邪魔だ。
お母さんが褒めてくれたこの髪を切ることに罪悪感を抱きつつも、私はバッサリと髪を切りショートヘアにした。
少し、悲しかった。
次に陸上に力を入れた。あの化け物に真正面からどうこうしようという気にはなれないし、しても無駄だろう。
ひたすらに逃げ切ることを目的に私は走り続けた。どういうわけかあれ以来、私の足は速くなり続けていた。今では先生でも追いつけないくらいだ。
周囲からは両親の死を振り切るために没頭しているのだろう……そんな風に見られた。
そうじゃないのに……
最後に化け物のことについて調べた。
学校の図書館で、パソコンで、時間がある際にひたすらに調べた。
……成果はなかった。
私以外に見えないあの化け物について載っているはずもないよね……
そんな思いでこれ以降調べるのは辞めた。
そんな風に過ごし、たまに化け物に襲われる生活を続けていた私はある法則を見つけた。化け物は満月の夜にしか襲ってこない、というものだ。
それからというもの満月の夜をひどく恐れるようになった。満月の夜が来ないように、時が止まってしまえばいいのにと祈る日々が続いた。
そうして、小学校を卒業した。
中学校の頃、化け物から逃げる際に少し危ない場面が増えてきた。一匹だけしかいないと思っていたあの化け物の数が増えていたからだ。
ますます陸上に力を入れた。どういうわけか数が増えてきている化け物から逃げるためにはこれしかないと思った。
中学生にもなると体が成長してきて、胸も大きくなってきた。合わせてフォームを変えたり、服を変えたりしないといけない。
ああ、走るのに邪魔だ。変な視線を向けられることも増えたし……
このころになると私は化け物のことを口外しないようになっていった。どうせ話しても誰も信じないし、万が一信じてもらえたところであの化け物から助けてもらえるとは思えなかったからだ。
化け物のことを話さなくなったからか頭のおかしい子扱いをされることはなくなっていった。おかげで友達も新たにできるようになってきた。
化け物のことを話せない以上、深く仲良くなれる気はしなかったので表面上だけの付き合いだが……
そうしてできた友人たちから、だれだれに彼氏ができた、彼女ができた、といった話を聞くことが多くなってきた。
私自身も何人かから告白されることもあったがすべて断った。好みではなかったし、そんな余裕はないからだ。
あの化け物たちに追われている以上、そういったことはできないだろう。
そんな私をしり目に友達にも彼氏ができた。
正直、羨ましい。
そうして、中学校を卒業した。
高校生のころ、もう危なくない場面がない。化け物の数はどんどんと増え、少しずつ足も速くなってきていたからだ。
陸上の推薦で入ったこの高校は地元からは遠く離れた場所だった。私は寮生活をするようになった。
地元から離れれば化け物もいなくなるかと思ったがそんなことはなかった。満月の夜になるたび、どこかから這い出てくる。
どうにかしないといけない、だがどうしたらいいのか分からない。
そんな焦燥感に襲われながら陸上に力を入れる日々を過ごしていた。私の足も随分と速くなり、スタミナもついてきたがあの化け物たちの脅威は増していくばかりだ。
このままではいずれ追いつかれてしまう。
そうなったら、ああ……
そんな余裕のなさが表に出ていたのか、友人たちからは体調を心配されることが増えてきた。
……大丈夫だ、と嘘をついた。
話したところであの化け物は私にしか見えないのだ、無意味だ。
それに、私を追ってきている化け物が友達をターゲットにするかもしれない。私以外に見えないあの化け物に襲われたらひとたまりもないだろう。せっかく彼氏ができて幸せそうにしているのにそんなことになったらかわいそうだ。
……ああ、羨ましい。
私は相も変わらず告白はすべて断っていた。
断るたびに思うのだ。せっかくの高校生活が、青春が過ぎていくな、と。
そんな嫌な現実から目をそらすため、現実逃避のため、トレーニングの休憩時間中にアイドル雑誌を読むことが増えた。
キラキラしているものが見たかった。どんどん追い詰められていく現状で見える未来は真っ暗だったから。
そうして、高校を卒業した。
そして、大学生になった今……
後編へ続く