遊戯王-百合で霊使いが大好きな店員さん   作:霊使い好きなもやし

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1話-下

「……ご馳走様」

「遥、ちゃんとよく噛んで…」

「…うん。わかってるから……でもちょっとだけ、デッキを弄らせて」

「……わかったわ」

 

お母さんに無理を言って、私は部屋に戻る。…悔しくて腸が煮えくり返りそうだった。

“あの人に負けた事が”じゃない。“あの人のデッキに負けてしまった自分”に、だ。

何度も何度もデッキを確認して、デュエルディスクの観戦機能を確認しては自分の浅いプレイングに苦悩する。

あの人のプレイングは超人的で“異常”だった。カードに愛されてるとかじゃない。欲しいカードが集まってる様な気さえしてしまう。

……見てた限り、あの試合で無駄なカードは一枚。それすらも私の《PSYフレームロード・Ω》の的となっていたのだから、無駄ですらなかったのかもしれない。

多分私が1000回デッキを扱っても一度も出ないだろう。そんな神懸かり的な事を、あの人はやってのけた。

恐ろしかった。

今彼女が回してるのは本当に趣味の範囲を超えない物だが、これが第一線で活躍してるデッキを回したら……どうなってしまうんだろうか。

 

「精行霊花……珍しい名前だし、検索すれば……」

 

小さく呟きながら、PCで名前を打ち込む。

…予測変換に“超凄腕ハッカー”とか“デュエルアイドル”とか色々書かれてたけど、一番気になったのはこれだ。

 

《あの超テンサイ小学生の精行霊花さんに聞いてみた!》

「先ず初めに、世界大会優勝おめでとうございます。今のお気持ちは?」

『今でも信じられません。決勝戦は兎も角として、準決勝はかなり熱い試合だったと思います。私も戦ってる途中何度も意識が飛びそうでした』

「やはりそうでしたか。あの時の精行さんはかなり辛そうでしたからね…一方で決勝戦は楽そう…と言っては何ですが、楽しそうに決闘(デュエル)をされていましたね。何か違いがあったりしたんですか?」

『……そうですね。やっぱり準決勝まで戦ってた人達が直々に応援して頂けたのが心に来た…のかもしれません。初めての声援は彼女達でしたからね』

「成程……さ、最後にこの感謝を誰に伝えたいですか?」

『初めてできた友達の、準決勝の彼女に。もう知ってるとは思いますけどね』

「そうですね!以上、精行霊花さんでしたー!」

 

…あの人小学生の時に世界大会優勝してるんだ…なんて思いながら、私は彼女が作ったデッキを探す。

検索エンジンに掛けたらすぐヒット…はしたが、そもそもなんで回るかがわからない様なデッキだ。

一応環境のモンスターも入れてるが、本当に一応。デッキの考察動画とかも見てるが皆が皆“なんで回ってるかがわからない”ようだ。

あの子が持ってるデュエルディスクは市販品、世界大会に参加する度に不正が行われてないかチェックされる始末。

……そして勿論不正はされてない。単純に“運”でグランドスラムをした人間らしい。

 

「…じゃあなんであんなカードショップに……ってそっか。ゲームにならないから…」

 

7年間、世界大会を優勝して彼女は“受験勉強に集中したいから”という理由で大会から足を洗った。

其処にはKCの圧力がかかってやめたとか、彼女は本当はやめたがってたが大会運営が離さなかったとか色々憶測だけが飛んでいて、詳しい事がわからない。

兎に角わかるのは、あの子の対戦動画が上がる度に死ぬ程アクセスされるという事。そして世界にはあの子を待ってる人達がいるという事ぐらいだ。

 

「…ますますわからない。本当になんであんな普通のカードショップでアルバイトしてるんだろう」

 

…今度会ったら聞いてみようかな。なんて考えながら、私はゆっくりと自分のデッキを撫でた。

最後に持ってたのは《白の聖女エクレシア》と《大霊峰相剣門》。私だって運はまだある筈だ。

次こそは負けない。そんな事を考えながら……私の意識は闇へと消えていった。


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