劇場版 僕のヒーローアカデミア×Fate Grand Order 作:小野屋陽一
side立香
「バカモノ!!」
オセオンチームが臨時事務所として使用しているホテルのエレベーターホールに、エンデヴァーの怒号が響く。叱られているのは、焦凍君、爆豪君…そして私だ。
「今は重要任務中だぞ!それ以外の事件は、地元のヒーローに任せておけばいい!」
先の宝石強盗の件だ。クレームは無かったが、管轄というものがある。けど…無視できないわけがない。私達はヒーローなんだから。
「いや…そこまで腐った性根じゃないので…」
「困っている人を救けるのがヒーローだろ」
「仕事に大小つけんのかよ。インターンで、んなこと習ってねえんだよ。」
各々そう言うと、エンデヴァーは尚眉間のしわが深くなる。
「反省せんか!!……それで、デクとマギはどうしてる!?」
エンデヴァーがそう訊くと、焦凍君と私が応える。
「宝石強盗の仲間を追跡している。だが、全然電話に出ねぇ」
「こっちも、通信機に連絡無しです。」
「たるんどる!インターン中だからと連れてくるのではなかった……」
そんな時、焦凍君のスマホが鳴る。
「!緑谷からだ…緑谷、犯人とケースは…」
皆に聞こえるようにスピーカー状態にして電話に出ると…
『警察にいきなり襲われた!』
緑谷君の慌てた声でそう言ってきた。
「!?…お前、何やった?」
『分かんないんだ!事情も話さずに、いきなり僕らを撃って来て…あわてて逃げたら、今度は敵みたいな奴に攻撃受けて…!』
慌てて次々言ってくる緑谷君。よほど混乱する出来事に出会ってしまった事がよく分かった
「ちょっと落ち着いて緑谷君。そこに立希はいるの?」
『う、うん…敵と警察に逃げる為に一緒に川に落ちて…今ようやく川岸にたどりついたんだよ…もう一体何がなにやら…』
「落ち着け、起きたことを順番に話せ」
『……………』
促すような焦凍君の声に、緑谷君は一旦冷静になったのか、静かになる。そして…
「えっと、ケースを持って逃げた少年を藤丸君と一緒に追いかけて捕まえたんだけど、その少年が持っていたケースの中に宝石は無くて…」
緑谷君の応答を私達で聞いていた時だった。
「エンデヴァー!大変よ!デク…それとマギが……」
エンデヴァー事務所のサイドキック-クレアさんがやって来た。動揺の隠せないクレアさんに私達は連れていかれた。会議室のモニターには、緊張ニュース番組が映っていた。その内容は…
『-情報提供を呼びかけています。繰り返しお伝えします。警察の発表によると、死者12名を出した殺人事件の犯人は、日本から来たヒーロー・デク。本名、イズク・ミドリヤ、同じくヒーロー・マギ。本名、リツキ・フジマルと断定。全国に指名手配しました。なお、容疑者には共犯者が一名いるとの情報もあり…』
緑谷君と立希の写真が大きく映しだされ、ニュースキャスターはそう話していた。
「………は?」
これには私、そしてその場にいた全員が動揺する。
『もしもし、もしもし轟君?』
「…緑谷、立希…お前ら本当に何やった?」
『何もしてないってば!』
飲み込めない状況。そんな中、焦凍君は緑谷君に伝える
「お前ら、大量殺人犯として指名手配されたぞ。」
side立希
「はぁ…はぁ…ゲホッ…うげぇ……」
川岸に泳ぎ着いた自分は大の字で倒れる。少し水を飲んで、むせる。それとかなり魔力消費した。何度も切り替えての憑依は疲労がかなり残る…傍らで自分と同じように少年と鳥も倒れていた。
「…ぇ…ど、どういう…事……うん…うん…………わか…った…」
先に川岸についた緑谷君は焦凍君に連絡を取っている…が、様子がおかしい。何かあったのだろうか…
「み、緑谷君?」
「お、おい…」
どこか危機感を持った表情の緑谷君。おそるおそる自分と少年は呼びかけ、肩に触れる。
「うわぁ!」
「うおっ!びっくりした!」
「ど、どうかしたの?焦凍君と連絡取れたんでしょ?」
何故か驚く緑谷君。連絡が取れたのか訊くと、緑谷君は思い出したようにスマホのバッテリーを抜いた。
「なんでバッテリー抜くんだよ?迎えはいつ来るって?」
少年は訝しげな顔になる。当然。自分もだ。
「そ、それが……」
顔を曇らす緑谷君は、話す。そして…自分達が大量殺人犯として指名手配されていた。
「……は?」
自分はただ呆然とするしかなかった。
side立香
『立香ちゃん!何とかサーヴァント達を宥めてくれ!』
「どうゆう事…?」
弟が指名手配された。エンデヴァー事務所が騒がしくなる中、ロマニから連絡が来た。
『立希君が指名手配された事を知ったサーヴァント達…主に立希君が契約したサーヴァント達が怒り狂ってるんだ!あのダ・ヴィンチも声がいつもより低い!!』
「うわぁ…」
容易に想像できる…清姫とか静謐とか…というかダ・ヴィンチちゃんもお怒りとか珍しい…多分、サーヴァント達が使う食堂についてる大型テレビで見て知って…
―『は?』―
って感じなんだろう…
「…流石に私の声で落ち着くわけないでしょ…というか立希が殺人犯とかあり得ない。人類救ってんのに…絶対裏で何かある。」
『僕もそう言ってるんだけどまるで耳に入ってない!!頼む!声だけでもいいから皆に落ち着くよう言い聞かせてくれ!!』
ロマニの懇願…無視は出来ない。しばらく私は席を外し、立希と契約している同一サーヴァント達を説得する事にした…
side立希
「どういう事なんだよ!?あんたらが人殺しで、俺がその共犯者!?いつの間に仲間になったんだよ!?説明しろよ!」
人気のないオリーブ畑に移動した自分達。さっきの緑谷君の電話の事を聞いた少年は困惑のあまり苛立ちながら詰め寄る。
「僕にも分からないんだ…どうしてこんな事に…」
「何がどうなってんだ……はぁー……」
今までの経緯からなぜ殺人犯になる…頭が痛くなる気分だ。夢であってほしいが、現実だ。
「(…くそ…落ち着け。思考を放棄するな…考えろ…まずは現状を把握するしかない…っ)…警察は問答無用で発砲して来た…そして敵からの強襲…この事から分かる事は…」
「…僕らの生死を問わないという事…!つまり、彼らの目的は僕らではなく…」
「!こいつか!!」
自分らはケースに目を移す。何か手がかりがないかとケースの中身を調べるが、事件性がありそうなものは何も無かった…
「手がかりが無い…って何をする気?」
そんな時、彼がケースを取り上げ、持った。
「狙われるのはケースだろ!?だったらこいつを渡せば一件落着なんじゃね?そうだよ。簡単な事じゃないか」
現実逃避しようとしてる彼に。自分と緑谷君は言う。
「そんな簡単じゃないよ。相手が、ケースに隠されている秘密を知った僕らを見逃すわけない…」
「…仮に渡しても、口封じに……」
「待て待て待て!そうネガティブな方向に考えるなよ。そうだ!ケースを燃やそう!んで、燃えちゃった~って言おう。」
焦る彼が悪だくみするような顔で提案するが、却下だ。
「結果が変わってないよ」
緑谷君が冷静につっ込む。
「ならいっそ、ケーサツに言おうぜ!『ケースが欲しければ100万ユーロ持ってこーい』ってな!」
「悪化させてどうするの…本当の犯罪起こしたらそれこそ指名手配される。」
やけくそになってる少年に自分もつっ込む。
「なぁ…やっぱケース渡そうぜ。命まで取られないって…考えすぎだって…」
へなへなと座り込み、縋るような態度になる彼に、自分と緑谷君は眉を下げる。だけど…
「…このケースが何かの犯罪に繋がっているなら、簡単に渡すわけにはいかない。」
「そうだね…あそこまでしつこいぐらい追って来たんだ。何か危険な予感がする。」
これは、ヒーローとして、譲るわけにはいけなかった。
「あんたらの正義感に俺を巻き込むなよ!!「もう巻きこまれてる。命を狙われたんだ。真実が分からない限り…無暗に動くのは危険だよ」……じゃあどうすんだよ…」
自分らの態度に怒る彼だが、緑谷君が冷静に告げると、彼は言葉に詰まる。これから自分らがする事は…
「逃げる。」
「そうだね。」
「はぁ?」
自分が言った事に頷く緑谷君に、訝しげる少年。
side三人称
それから、3人の行動は早い。まずは変装。緑谷と立希は指名手配された為、ロディにお金を渡し、二人分の衣類とリュックを購入。店裏で私服に着替える。緑谷はバケツ帽子、立希は野球帽を深くかぶる。ケースと戦闘衣装をリュックにしまい、移動する。
「逃げるって…何処に行くんだよ…」
ロディが訝しげに訊く
「どんな事情があるにせよ、警察と戦うわけにはいかない。僕らを追っているのはオセオン国の警察…なら国境を越えて、隣国に逃げ込めば、彼らは手出しが出来ない。」
「となると…近いのはクレイド国…どうにかして姉達に知らせないと…」
3人の横をパトカー通り過ぎる。気付かなかった事に安堵する3人。
「敵は?敵が追いかけてきたらどうすんだよ?」
更にロディは訊くと、緑谷と立希は立ち止まり、ロディを見て答える。
「「必ず、守るよ」」
真摯な顔をみて、ロディは一瞬口をつぐんだ。会ったばかりの異国のヒーロー。暑苦しいほどの正義感で、しつこく追いかけてくる。なるべく関わりたくないし、薄っぺらいドラマで聞くような言葉を信じられるはずもない。それでも、二人の言葉は今まで誰にも言われた事のない言葉だった。
「…ああ、そうかい。わかったよ…いいさ。国境でもどこでも行ってやるよ!」
ロディは仕方なさそうに頭を掻いた。今はそうするしかないと自分に言い聞かせる。
「…で、移動方法はどうする?徒歩は時間かかるし…自分が英霊と憑依して運ぶと目立つし…」
そう立希が言うと、ロディは物陰から身を隠しながら、停車中のバスを窺った。
「あのバスで国境方面に行ける。後ろにしがみつきゃタダだ。」
「ダメだよ!ちゃんとお金払わなきゃ…」
緑谷が否定するが、ロディは無視してバスが発車するタイミングで駆けだす。そして軽やかにバスの屋根に上がる。
「ああもう!」
「…しょうがない…!」
離れるわけにもいかず、緑谷は『フルカウル』で駆け上がり、立希は『イリヤ』に憑依し飛翔して着地する。
「はい。無賃乗車。お仲間だね。ヒーロー」
ニヤリと笑うロディに、緑谷と立希はムッとする。
「はい。緑谷君。お金」
「ん。『デラウェアスマッシュ・エアフォース』…っ!」
立希は緑谷に小銭を渡し、緑谷は3枚の小銭を開いている窓から料金箱に投げ入れる。
「3人分。先払い」
頑固な緑谷と立希にロディは訊く
「屋根の上に乗るのはセーフ?」
二人の答えは…
「うーん…セウト?」
「ダメだね…」
苦笑気味の立希。申し訳なさそうな緑谷。したり顔のロディ。3人を乗せたバスは国境方面へと走っていく。