劇場版 僕のヒーローアカデミア×Fate Grand Order 作:小野屋陽一
side立希
夜。食料と飲み物を調達した自分らはバス停から離れた馬小屋のような廃屋で休憩を取っていた。干し草をクッションにして、パンや缶詰などを貪るように食べ、一息つく。そして今後の移動方針を決めるべく、買った地図を広げ緑谷君と話し合う。少年は近くで背を向けて横になって、ピンク色の鳥は自分らと彼の間のケースの上で止まっていた。
「ここに来るまで周囲を確認したけど…自分らが乗ったバス以外での交通機関が無い。国境までどう行くかが鬼門だね。」
自分がそういうと、緑谷君は頷く。
「乗り物を調達するか…けど車もバイクも…ましてやタクシーも無い…それなら歩くか…」
「歩くぅ?無理だろ。何キロあると思ってんだよ!?」
彼が歩くという案に抗議する。
「自分が英霊と憑依して二人を運べばまぁ徒歩より大分早いけど…目立つし、何より自分の疲弊がヤバい。(今夜ゆっくり休んでも、完全に魔力は回復しないし、損傷してる魔術回路も治らない…)最悪、置いてってもいいけどさ…」
苦笑気味にいうと、緑谷君は首を横に振る。
「ううん。置いていかないよ。それに、疲れたなら、僕が二人を担ぐよ。絶対。この3人で国境に行こう。」
「緑谷君…そっか。ならそうならないように、今のうちに休んでおくよ…」
「おいおい…」
自分はその場で横になる。足を引っ張らない為に少しでも自分は魔力回復に勤しむ。そんな自分を少年がジト目で見てくる。
「大丈夫。君も、何か困った事があるなら言ってほしい」
「あ?」
そう彼に向けて、緑谷君はガッツポーズ。聞いていた自分は横になりながらも拳を上に伸ばす。
「困ってる人を救ける。そのための力だから。」
「ヒーローはいつだって、救いの手を伸ばすんだから。」
「……はいはい。流石、ご立派だよ…俺、もう困ってっから、とっとと救けてくんない?」
そういって、彼は再び背を向け横になる。
「うん。絶対に救けるよ」
緑谷君が応え、今だどう動くべきか思考する。対して自分は魔力回復の為、寝る事にする…目を閉じる前に、緑谷君と自分をチラリと窺うように見るピンク色の鳥が見えた気がした…
sideロディ
かつて俺は、裕福な家庭で育っていた…今よりは生活に困っていなかった。
―「お兄ちゃん!」―
―「おにいちゃん!」―
母親はいなかったが、弟、妹、そして…
―「ロディ」―
大好きな父親がいた。美味い料理を皆で食べて、いつもの習慣のパズルを解いて、弟妹たちの友達と楽しく遊んで…幸せな日々を送っていた…けど、それは長く続かなかった。魔法のように父親が消えた。
―あの家、父親が失踪したそうよ…―
―しかも、ヒューマライズの団員になったんだと…―
父親が無差別テロを起こした思想団体、『ヒューマライズ』の一員だったことから、周囲から気味悪がられ、友達はいなくなり、家も心無い世間の声に潰された…両親を無くした俺達は最終的に逃れるように今いるトレーラーハウスへ…
―「プレゼント。いつもロロたちの世話をしてくれてありがとな。ロディ…」―
いつだったか、パズルを解いた時に入っていた、父親からもらったペンダント。俺はやり場のない怒りをそれにぶつける。理不尽な仕打ち、心無い裏切り。地面に叩きつける。
―「「お兄ちゃん…」」―
今でも忘れられない。何故こんな事になっているのかわからず、ただ泣いている弟妹たちの顔…俺は抱きしめる事しか出来なかった…俺はその時に、誓う。
「兄ちゃんはずっと一緒にいるからな…たとえどんなことをしてでも…」
弟と妹を守るためなら……
side三人称
「…………ん」
ロディは目を覚ます。夢の中で弟妹たちの声を聴いた気がした。はっきりと覚えている弟妹たちの声がロディを急かす。廃屋につく前に、公衆電話で仕事をもらいに行ってるバーの店主と連絡を取った。
―『!?ロディか!』―
―「いきなりで悪いんだけど…俺の家に行って、弟と妹にしばらく帰れないって、伝えてくんないかな?金は後で払うからさ…」―
ロディは少しでも帰りを待っている弟と妹を安心させてやりたかったが…
―『馬鹿野郎!テメーにそんなことしてやる義理はねぇ…!それより、ブツが届いてねーってクレームがきたぞ…!』―
―「いや、それは…」―
―『死にたくなきゃ、とっととブツを届けろ!いいな!』―
返事は罵声だった。そういう反応をされるとわかっていても、それでも頼れる人などいなかった。現実なんてそんなもん。そう思っているのに、心がじくじくと熱くて、反吐が出る…
「……………(悪いな…ヒーロー…)」
それでも、弟と妹は何がなんでも守ると決めたロディは、動く。
「すぅ……すぅ…」
「くぅ………」
音を立てないように、隣で寝ている緑谷と立希を起こさないよう、二人の間にあるケースを手に伸ばす。
「「んん…」」
「!……ふー…」
身じろぎする緑谷と立希にハッとして止まるロディ。しかし二人が起きることはない。慎重にケースを二人の間から抜き取る。
―「…このケースが何かの犯罪に繋がっているなら、簡単に渡すわけにはいかない。」-
―「そうだね…あそこまでしつこいぐらい追って来たんだ。何か危険な予感がする。」-
昼間の二人の言葉がロディはふと蘇る。無いも知らず眠り続ける幼さが残る寝顔に、蓋をしたはずの罪悪感が蘇りそうになる。
「…………」
それでも、ケースを元に戻そうとは思わなかった。出ていこうとした時
「Pi!」
「(しぃ~~~!!!)」
ピノがまるで止めるように鳴いた。ロディが鳴き止むように口に指を当てても、鳴くのを止めない。
「っ……!」
ロディはピノの鳴き声を背に、振り切るようにケースを持って廃屋から出る。何もない深夜の田舎道。夜がひどく暗くて、胸が痛かった。しばらく走ったところにある公衆電話に辿り着くと、ロディはおもむろに電話をかけた。
「もしもし…―」
side立希
「-、――!」
何処から何か聞こえる。けどはっきり聞こえない…
「-i!PiPiPi!」
「ん、んん…煩ぃ……」
次は何か良く聞こえた…まるでアラーム音のような音だ。けど眠気が勝って、起きようにも気力が無い…
「Piiiiiii~~~~!!!!」
「イダダダダ!?イダイ!?イダイ!?」
突然、耳たぶに激痛がはしる。これには流石に眠気が一気に掻き消え、意識がはっきりする。上半身を起こし、直ぐに耳たぶの近くに何かを掴む。それは…
「んん?少年が飼っている鳥…?「PiPiPi!!」ああ、ごめん……っ!?」
直ぐに手放す。と同時に気付く。自分と緑谷君の間にあったケースが無く、更には少年の姿が無かった。
「み、緑谷君!緑谷君!!起きて!!」
「ん…んん…なに……」
自分は緑谷君をゆすって起こす。
「ケースが無い!少年もいない!!」
「…え!!?」
自分の言葉に緑谷君も起き上がる。
「「もしかして…」」
「Pi!」
呆然とする自分ら。そのとき、ピンク色の鳥が廃屋の出口へと飛んでいき、手招きしてきた。自分らは荷物を持ち、慌てて駆け出す。
side三人称
「………!」
電話をかけてしばらくして、一人ペンダントを見つめていたロディの上空にヘリコプターがやってきた。眩しいライトに照らされながらロディは手を振る。ヘリコプターはロディの近くに降り、一人の男性が現れる。
「…警察の人かい?」
「ケースを渡せ」
ロディの問を無視し、横柄に言う。ロディは男性にケースを投げた。
「これで、俺は自由ってことでいいんだよな?」
ケースが全ての元凶なら、これを渡して万事解決。弟妹の元に一刻も早く戻れる。これがロディの理屈だった。
「…仲間は何処だ」
が、不意に男性が訊いてくる。
「ぇ」
「お前もそいつらも知ってるんだろう?…このケースの秘密をなぁ!!」
男性の腕が棍棒に変形していく。腕だけではなく全身が巨大化し、まるで鬼のような容貌になった。
「し、知らない…な、何も知らないって……」
ロディは本能的な恐怖に体を震えだす。男は警官ではなく、敵だった。
「お、弟と妹が待ってるんだ…頼むよ…帰らせてくれよぉ!!」
甘かった。一縷の望みにかけた考えが…ロディは死ぬわけにはいかないと、必死に訴える。
「フゥウウウウ……」
しかし、棍棒の敵―ロゴンはそんなことは耳に入らない。ロディに向かって凶器と化した腕を大きく振り上げる。一撃でもくらえば確実におしまいだ…ロディは本能的にそう感じた。
「ひぃ……!!」
恐怖で腰をぬかし、動けなくなったロディに棍棒が当たる瞬間―
「ッ!!」
「うわっ!!」
ロゴンに向かって、激しい風圧と、一本の剣が襲い掛かった。
「ヌン!!!」
風圧でロディは吹き飛ばされた。が、ロゴンは棍棒で防ぐ。剣も弾き、上空へと飛ばす。
「エアフォースを…っ」
「マジか…結構本気で投げたのに…」
上空から緑谷と立希が現れる。
side立希
「Pi~~~~!!!!」
「いた!ってヤバい!!」
「早く…救けなきゃ…!」
ピンク色の鳥の先導されると、視界の先に少年がいた…が、そこには少年以外にもいた。敵だ。鬼のような姿に、棍棒を振り上げていた。直ぐに自分と緑谷君は戦闘に入る。
「『エアフォース』!!」
「『投影:モードレッド』!!」
緑谷君は『フルカウル』で跳躍し、上空から空気弾を放ち、自分は『モードレッド』と憑依し、跳躍。剣を顕現し、そのまま敵に向けてまっすぐ投げ放つ。敵はそれらに気付き、防ぐが、少年から意識を外す事が出来た。
「『スマッシュ』!!」
「チェストォオ!!」
「!」
そのまま落下する勢いで自分らは敵に一撃を与える。緑谷君は蹴りを、自分は空中で回収した剣でたたっ斬る。敵は吹き飛び、ヘリに激突する。
「よし…「!」緑谷君!?」
その時、緑谷君が何かに気付いた。ケースを拾い、少年に向かった。一体何が…と反応が遅れた刹那、背後から煌めく矢が通り過ぎた。
「っう!!」
「なっ…」
「緑谷君!!!」
少年を庇うように、少年の前に飛び出した緑谷君の胸に矢が突き刺さった。自分はヘリの方を見る。そこには…もう一人、敵がいた。
「チッ…」
矢から、鉄橋の時襲って来た敵だと理解する。狙った少年を仕留められなかったのか舌打ちすると同時、手を『弓』に変え、4本の矢をつがえた。
「させるかぁあああ!!!」
矢が放たれる前に、自分は剣―クラレントから赤雷を撃ち放ち、周囲の地面を抉り、土煙を巻き上げる。
「緑谷君…!」
「お、おい…しっかりしろ…!しっかりしてくれ…!」
自分は緑谷君と少年の方に走る。緑谷君の胸に矢が突き刺さり、ぐったりしている。少年は支えながら、必死に声を掛けていた。
「う…ぐ…」
「ここは危険だから急いで離れるよ!!」
『モードレッド』から『アルトリア・ペンドラゴン・ランサー・オルタ』に憑依を変え、『ラムレイ』を召喚。ラムレイの背中に緑谷君と少年を乗せ、直ぐに離れる。
「ラムレイ、重いけど少しだけ頑張って…!」
「ブルルルル…!!」
土煙が消える頃には、自分達はもう敵が見えないくらい、遠くへ移動し終える。数分ぐらいラムレイを走らせ、どこかの堀の陰に身を隠す。憑依を解除し、自分は緑谷君をその場に寝かせ、胸に刺さっている矢を握る。
「ぐ…「痛いけど…我慢してねっ!」がぁっ…!」
自分は勢いよく矢を抜く。矢じりには血がついていた。
「待ってろ!直ぐに薬を調達して…「大…丈夫。」…!」
少年が立ち上がろうとするが、緑谷君はそれを制する。
「傷は…そんなに深くない…スマホ…ダメにしちゃったけど…」
粉々になったスマホを見せながら緑谷君は話す。
「(奇跡的に胸ポケットに入ってたスマホが盾になって致命傷を避けたのか!)『投影:マルタ』…簡易的だけど治療する…!」
『マルタ』に憑依し、スキルを発動。完治は…魔力枯渇で出来ないけど…応急処置は出来る…!
「…すまねぇ…「大丈夫…リュックに医療キットがある…出してくれない?」あ、ああ…」
治せなかった傷は医療キットと治療。薬を塗り、上から包帯を巻く。
「あの敵、手強いよ…すぐに…離れないと…」
「分かってる。治療が終わり次第、移動するから」
それから、処置を終えたあと、自分と少年で緑谷君を担ぎ、ここから離れた洞窟を見つけ、そこに身を隠す事にした。