劇場版 僕のヒーローアカデミア×Fate Grand Order 作:小野屋陽一
side立希
甲高い音が部屋に鳴り響く。モニターに映っている時間を見れば、残り1分を切っていた。
「っ…」
何度もフレクトに弾かれ、壁に激突する体を無理やり起こす。
「「ロディ!」」
別のモニターに、倒れているロディが映されていた。
「ガッ!!」
「緑谷君!」
そして、フレクトに蹴り飛ばされる緑谷君。フレクトは嫌悪の表情を浮かべてモニターのロディを見る。
「親子そろって無駄死にとは…クズは救いようがない」
「「違う!」」
自分と緑谷君で否定する。自分達は立ち上がり、フレクトを睨む。
「ロディは…僕の友達はクズなんかじゃない!!」
「ああ、そうだ!ロディは家族の為に、皆の為に戦っている!!」
再度、フレクトに向かう。緑谷君は蹴りを。自分はクラレントを繰り出す。
「まだわからぬのか」
けど、直ぐにすさまじい『反射』の衝撃に襲われる。
「ぐううう……諦めてたまるか…!」
「僕は…ロディを信じる…!」
衝撃に耐え、自分達は一歩も引かない。フレクトをまっすぐ睨み、叫ぶ。
「「ヒーローを信じる!!」」
フレクトの顔に奇妙な波紋のようなものが現れた。
side三人称
「ヒーローは諦めない!諦めたりするもんか!」
「自分達は勝つんだ!そして世界を救うんだ!」
世界各地でトリガー・ボムを対処すべく、全ヒーローが動いてる。ヒーローであろうとする人を、仲間たちを、心の底から信じている。離れていても、一緒に戦っている。
「「おおおお!!」」
「っ……!」
緑谷君と立希はフレクトに向かって駆け出す。正面から迎え撃つフレクトに緑谷の拳、立希の剣が叩き込まれる。瞬間、フレクトの反射鏡のようなものが揺らいだ。しかし直ぐに『反射』が二人を襲う。
「っぐ……!!まだぁ!!」
「っ~~~~!!おおぉ!!」
戦闘衣装が砕かれ、壊れる。気を失いそうな全身の痛みに貫かれながら、それでも緑谷と立希はいっさいの躊躇なく再び力を込める。
「『SMASH』!!」
「くたばりやがれ!!」
その力に、再びフレクトの顔に奇妙な波紋が現れる。さっきより顕著になったその変化を知らせるように、今まで微動だにしなかったフレクトが力に押されたように後退した。
「!?」
フレクトはその異変に感じながらも、緑谷と立希を『反射』で天井へと吹き飛ばし、激突させる。
「ぐっ…!(さっきのフレクトが後退した…?まさか…!)緑谷…君!」
「!うん…!!」
立希が先のフレクトの異変に気付く。そして緑谷とアイコンタクトを取り、再びフレクトに向けて攻撃を放つ。天井の崩れ落ちてくる瓦礫とともに、緑谷は真っ逆さまにフレクトめがけて蹴りを落とし、立希は剣の切先をフレクトにめがけて突き刺すように放つ。
「っ!?ぬぅ……!!」
その威力にフレクトの足元が一瞬で大きく円状に割れ凹み、波立つように破壊される。
「(パワーが上がっただと…?いや…違う!これは…!)まさか……」
フレクトは自身に不安定にあらわれる奇妙な波紋を感じた。フレクトは初めは緑谷と立希のパワーが上がったと考えたが、その結論に違和感を覚えた。直ぐに二人を『反射』で吹き飛ばす。フレクトの様子を見た二人は気付き、直ぐに動き出す。
「(やっぱり威力が落ちてきてる!)」
「(アイツの『反射』の“個性”には限界点があるんだ!)」
「「なら…その限界を超える!!」」
二人の思考は同じ。先に緑谷が動く。フェイクを入れながらフレクトに蹴りをお見舞いする。
「うくうううううう゛!!」
「無駄…だ!!」
『反射』が緑谷の足を襲うが、構わず力を押し込んだ。『反射』に耐え、渾身の力を出し続ける。
「(これで…決着をつける!)」
その間に、立希は腰のポーチからサポートアイテム―『活性アンプル』を取り出し、自身の腕に思いっきり刺し、薬剤投入。枯渇だった魔力が一時的に回復する。そして…
「(これ使ったらしばらく動けなくなるけど……!)さぁ行こう…『モードレッド』!!」
―行くぜ!マスター!!―
立希は『モードレッド』との憑依率を上げる。今まで剣しか装備していなかったが、今度は違う。羊を思わせる角の生えた白銀の鎧を身に纏う。兜で見えないが、髪と瞳はモードレッドと同じ色へと変貌していた。
「ぬぅ…!!!」
「藤丸君!!」
「うううおおおおおお!!!!」
『反射』で弾かれる緑谷と同時に、フレクトも反対方向に弾かれていた。そこに間髪入れずに立希がフレクトに剣を叩き込む。力が、力を超える。
「っ―」
とっさに身構えたフレクト。衝撃で更に後退した。その時、フレクトの体に一閃。切り傷が入っていた。この事にフレクトは唖然とした。
「まさか…“個性”の限界……!?そ、そんなことが……」
初めての感覚に困惑するフレクト。それを見た緑谷は言う。
「お前は諦めたんだ。諦めなければ…何度もぶつかっていけば、人と触れ合えたかもしれないのに…!病気だとか言って勝手にあきらめて、絶望して、お前はぶつかることを止めたんだ!」
「黙れ…」
フレクトの手が怒りで震える。自分を否定すると言いながら、フレクト自身は否定されることを拒んで来た。現実を押し付けてくる緑谷を、フレクトは憎悪した。
「自分達は、諦めない。諦めない言葉を、自分達は知って、そして今でも続けている…!」
「…黙れ……!」
続けて立希も言う。そして剣を構える。
「いつも自分達に、言い聞かせている……!」
身構える緑谷の体に『フルカウル』のプラズマが走る。フレクトが殺気を込めて緑谷と立希を睨んだ。
「黙れ……」
「「更に向こうへ!プルスウルトラァァァ!!」」
「黙れぇええええ!!!」
緑谷と立希の、全力を込める攻撃に、フレクトは拳で迎え撃つ。激突した三人の周囲に衝撃が広がる。
「「「っ!!」」」
弾かれるフレクト。しかし反射力が弱まっただけで、フレクト自身にはダメージは無い。依然、緑谷と立希に『反射』のダメージが蓄積し続けている。
「「おおおおお!!!」」
それでも、二人はかまわず間髪入れず攻撃を繰り出していく。
「ぬん!!」
「オラァ!!」
フレクトが放つ拳を正面で剣で受け止める立希。その隙に緑谷は跳躍。
「っ!!」
「小賢しい!!」
そのまま高く上げた踵をフレクトの脳天めがけて振り落とす。だがそれは『反射』で防がれ、反射力を利用し威力を増した蹴りを喰らってしまう。
「貴様もだ!!」
「舐めんじゃねえぞ!」
フレクトは立希に狙う。立希はクラレントを手放し、拳と拳の乱打戦へと入る。拳がぶつかり合う度、部屋全体に衝撃が走る。フレクトは『反射』を発動する事に拳の威力を上げる。対する立希は『反射』されようが、正面からフレクトの拳を己の拳でぶつけ、撃ち続ける。鎧に亀裂が入ろうがかまわず、殴り続ける。
「カッハ―」
しかしそれも数秒。フレクトの拳が懐に入り、奥へと吹っ飛ぶ。と、同時に復活した緑谷が壁を駆け、再びフレクトへ激突。
「「っ!!!」」
二人はそのまま跳躍。地面が抉れ、柱の上部に衝突する。『反射』で反発しながら向かい合う。拮抗する強力な力と力。波動が渦を巻く。
「!」
ここでフレクトが装着していた装置が服と共に砕け、本能的に危機を察知。抵抗する緑谷の力に対する反射力を高める。ぶつかりスパークしたエネルギーが爆発し、柱を破壊。
「ッ~~~~」
落下する緑谷にフレクトは追撃しようと拳を振るう。
「させないっ!!!」
「!」
その追撃を防ぐように立希が特攻。クラレントを下から上へと斬り上げるようにフレクトに放ち、拳を弾いた。
「『デトロイト・スマッシュ』!!」
鬼気迫る緑谷が半身を翻し、渾身の力で拳を繰り出す。
「カッ―」
腹部に撃ち込まれた衝撃に唖然とするフレクトが吹き飛ばされ、天井へと激突する。
「ぬううううっ!!」
フレクトがめりこんだ天井から、向かってくる緑谷と立希に怒りのまま飛び出す。正面から直接激突する力と力。遂に、緑谷と立希が『反射』の力を越えた。
「「「ッ―!!!!」」」
激しい戦闘。息もつけぬ程の拳と蹴りと剣の攻防。間髪入れぬ、本能とプライドの激突。
「まだ―」
「-まだぁ!!」
緑谷と立希は弾かれながらも、満身創痍の体で攻撃を続ける。弱ったとはいえ、返ってくる『反射』は一撃一撃が重い超パワーの衝撃だ。それでも、二人は攻撃の手を止めない。
「!!!」
「「―」」
形勢が傾いたのは一瞬。フレクトの蹴りが二人に直撃。かろうじて残っていた反射鏡のようなサポートアイテムの反射力を乗せた衝撃に、二人は床に叩きつけられるように落下した。意識が遠のきそうになる。体中の細胞が悲鳴を上げている。それでも、二人は―
「「―負けられない!!」」
―諦めない。
「!!」
再び立ち上がる二人に、フレクトは僅かに動揺した。
「うおおおおおおお!!!!」
満身創痍の体に、緑谷は『100%フルカウル』を纏う。
「有象無象らしく…薙ぎ払う…!!」
立希は纏っていた鎧を全て脱ぎ払い、紅色の服へと変貌。守りを捨て、全てを攻撃へと移す。
「オオオオオオオオオオ!!!!」
対するフレクトも全力で向かう。腕の反射鏡のようなサポートアイテムを全て右肘に集める。緑谷と立希が渾身の力を込めた拳と剣を繰り出す。真正面から向かうフレクトの拳から何重もの『反射』が起き、二人の腕ごと破壊するように弾き飛ばす。それでも二人はかまいもせず、全身全霊の力を込めた。
「!?!?」
フレクトの上半身に途轍もない衝撃と斬撃が襲う。前のめりで吐血しながら吹き飛ばされ、壁に激突する。
「!!」
ハッと顔を上げるフレクトに緑谷は片足を大きく振り上げ、立希は剣を正面に掲げる。
「是こそは、わが父を滅ぼし邪剣―『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』ァアアアアアア!!!!!!」
真名解放によって剣から赤い雷撃を放って一直線に放たれる斬撃。
「―『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ワールドスマッシュ』ッッッ!!!」
凄まじいスピードを乗せ、力強く振り抜かれる獰猛な蹴り。
「―」
この二つがフレクトに直撃する。激しく歪んだ顔のままま吹き飛ばされる。檀上に掲げられていた大きなヒューマライズのマークに激突。かろうじて形を保っていた建物が、遂に崩れ始める。その土煙の中、決した勝負に緑谷と立希は最後の力を振り絞って地下へと駆け出す。タイムリミットまで時間が無い。遠ざかる足音を聞きながら、瓦礫の中で倒れるフレクト。現実に抵抗する力ももう残っていない虚無の目で呟く…
「もう……手遅れだ……」
side立希
「ハァー…ハァー…」
「ガフ……ゴフ…ッ」
痛む体に鞭うち、地下の制御システム室に辿り着いた。その時、危険を知らせる甲高い音が無情に鳴り響く。
「「!」」
自分達が見た光景。それは―