牌画像変換ツールがうまく使えなかったため、萬子一〜九、索子1〜9、萬子①〜⑨で表現しています。苦手な方はご注意ください。
使い方分かる方いれば教えていただけると嬉しいです。
一応『「牌画像変換ツール仕様」』というハーメルン公式?が出してる使い方説明の通りにやったつもりなのですが、うまくいきませんでした。
もしかしてiPhoneには対応してないのかもしれませんかね。
以上、お知らせと愚痴でした。
拙作ではありますが、本編お楽しみください。
「へえ、麻雀部に入ることにしたのか」
「うん。そっちも全国で優勝してたなんて、驚いたよ」
咲が麻雀への入部を決めたその日の夜、咲は久しぶりに辰玖と電話をしていた。
「どういう心境の変化なんだ? 咲の麻雀嫌いは相当なもんだったと記憶してるんだが?」
咲は麻雀に関していい思い出がなかった。
それをよく知っている辰玖は咲が再び麻雀を始めたという事実を、ある種の驚愕とともに受け止めていた。
ゆえにその心変わりの理由を
「今日、和ちゃんと、そして麻雀部のみんなと麻雀を打って、楽しかった。麻雀を打ってこんな気持ちになったのは初めてなの!」
「そうか、それならよかった」
そう語る咲の声色が弾んでいるのを聞き、辰玖は安堵の息をついた。
全てというわけではないかもしれないが、咲は雁字搦めの過去から解放されたのだ。
咲に気づかれない程度に薄く息を漏らした辰玖は、今にも走り出しそうな咲の様子に薄く笑みをこぼした。
「そういえば咲は清澄だよな。てことは和ってのは原村和のことでいいのか?」
それはそうと、和という名前に引っ掛かりを覚えた辰玖は、その和という人物について問いかける。
「そう! すごく強いの! 打ってる時いつもと違う感じがしたし、和ちゃんに勝ったときだってとっても難しくてワクワクした!」
「まあインターミドルの覇者だからな。その原村に咲は勝てたのか? プラマイゼロじゃなく」
辰玖は咲が全中覇者である和に勝てないなどとは思っていない。
むしろ原村和と比べても、宮永咲の実力は劣らないと確信していた。
だが咲の打ち方を知っている辰玖はついその疑問を口にした。
言ってからしまったと思う。
少なくとも勝利に喜んでいる人に対して、プラマイゼロにしなかったのか、なんて聞くべきではなかっただろう。
だがそれに対する咲の返答は、辰玖の予想していないものだった。
「うん、勝てたよ。いっくんのおかげ」
「俺の、おかげ……?」
困惑する辰玖に構わず、咲は言葉を続ける。
「うん、いっくんのおかげ。いっくんが昔、アドバイスをくれたから」
咲が懐かしむように語った言葉。
それを聞き、辰玖は昔のことを思い出した。
『プラマイゼロで終わる?』
『うん。家族麻雀で、勝っても負けてもダメな状況が続いて、気がつけばそんな打ち方をするようになっちゃった』
記憶の中の幼い咲が憂いを帯びた表情を浮かべ、覇気のない声でそう語る。
それに対し俺はなんて答えたのだったか。
『ふーん。ならさ、自分が1000点しか持ってないって思って打ってみれば? 元々の持ち点のうち、8000点ずつを他家に配ったと仮定して、それをプラマイゼロにするように打てれば、基本どんな状況からでも勝てるだろ』
そうだった。
俺は苦悶の表情を浮かべた咲に対してこう答えたのだった。
今思えば、なんと無責任な提案だろう。
24000点のマイナスと、その24000点から他家にそれぞれ配った8000点。
合わせて32000点のハンデを取り返した上でプラマイゼロにするように打て、と言っているのだから。
32000点を取り返すだけなら俺だってできるが、それをプラマイゼロにするなんて至難の業だ。
そんな無理難題を幼さという刃に乗せて、自分よりさらに一つ年下の少女に突きつけた。
だがこの少女は、インターミドル覇者である原村和を相手にそれをやってのけ、かつそれを俺のおかげであると言う。
咲は俺の言う通りにしたことによって勝てたということに喜びはしても、圧倒的に不利な状況からプラマイゼロにできてしまったという点については疑問を持っていない。
(やっぱりこいつも俺や照とはまた別のベクトルで化け物だな……)
興奮冷めやらぬ咲を尻目に、受話器の向こう側で辰玖は薄く冷や汗を流した。
なお、咲がだんだんと辰玖や照と同じベクトルでも化け物染みてくることを、今の辰玖はまだ知らない。
※
「合同練習?」
「そう。姫松高校とな。北大阪と南大阪やから地区大会では戦わんし」
放課後の麻雀部部室にて、辰玖は男子の方に訪ねてきた竜華に、来週行う合同練習について聞かされていた。
「へぇ、いいじゃないですか。姫松は全国屈指の実力ですし、学ぶものも多いと思いますよ」
「なに言うてるん? タクも来るんやで?」
心底不思議そうな顔で、竜華は首を傾げる。
だがこれに関しては辰玖の方が首を傾げたい気分だった。
「そっちこそなに言ってるんですか? 俺男子ですけど?」
「うわ、視線冷たっ!!」
辰玖から突き刺さる視線に、竜華は思わず汗をかく。
「そうやなくってさ、姫松の方から頼まれてるんよ。タクも連れてきてほしいって」
「ああ、そういう。それならそう言ってくださいよ」
「ごめんごめん。説明たらんかったな」
とりあえずの疑問が解消された辰玖は一息ついた。
「それで、どうなん?」
「そういうことなら参加しますよ。久しぶりに末原先輩たちにも会いたいですし」
辰玖のその返答を聞いた竜華は笑みをつくる。
「よっしゃ、なら決まりやな! 土曜日、忘れんといてや!」
竜華は念押しするように言葉を重ねて、女子の方に戻っていく。
それを見守りつつ辰玖も卓に戻っていくが、その足取りが軽いことに気づく。
なんだかんだで姫松に行くのを楽しみにしていることを自覚した辰玖は、その後の練習にて調整の一環とばかりに無双しまくった。
一人、あるいは二人飛ばしが基本であり、その日、麻雀部部室の一角は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
※
姫松高校。
言わずと知れた、全国でも五本の指に入る強豪である。
昨年の永水女子の台頭こそあったものの、その強さが揺らぐことなどありはしない。
そんな姫松高校の麻雀部部室にて、四人の少女が談笑していた。
「あ、末原先輩。今日はスカートなんですね!」
「ま、まあな」
末原恭子は後輩である愛宕絹恵の指摘に少しだけ顔を赤らめた。
「リボンも似合ってるのよー」
金色の髪を両サイドにまとめた少女、真瀬由子は大きなリボンが結ばれた髪型についても言及する。
「どうして今日はその格好なんですか?」
「な、なんでもええやろ」
そう。
恭子の普段の服装は、スカートを履かずにスパッツを着用している。リボンなどもつけていない。
正直にいって、あまり女の子らしい装いであるとはいえない。
それが末原恭子という少女の常であった。
しかし今日はおしゃれ全開であり、非常に可愛らしい服装である。
それが愛宕絹恵には不思議であった。
「そんなん決まっとるやろ。今日は千里山がくるからや」
愛宕絹恵の姉、愛宕洋榎が薄く笑みを作る。
「……? 別に普通のことやない?」
「鈍いなー、絹。千里山にはあいつがおるやんか」
絹恵は姉の言葉に一瞬首を傾げるも、すぐに答えに行き着いたらしい。
「ああ、壱之瀬くん! ――――って今日壱之瀬くんも来るん!? 私も少しだけ髪直しとこうかな?」
愛宕絹恵が最も憧れを抱く選手とは、実の姉であり主将でもある愛宕洋榎である。
では二番目に憧れているのは誰なのか、という質問をしたときに真っ先に名前が上がるのが壱之瀬辰玖という選手であった。
「大丈夫やって絹ちゃん。辰玖はそんなこと気にするような人やないから」
見ているのが可哀想になるくらいに狼狽している絹恵に対し、恭子は励ますように笑みを作る。
絹恵は恭子の言葉によって少し落ち着きを取り戻したようだった。
「そんなこというて、恭子はちゃっかりおしゃれしてるやんか」
だがその言葉を、はいそうですかと流してくれない者もいた。
いたずらっぽく口元を歪めながら、恭子のことを見つめる洋榎である。
「いや、これはそういうんとちゃいますよ。ただ今日はなんとなくそういう気分だっただけで」
なんでもないように洋榎の質問に答える恭子。
ただし、恭子はその間一度も洋榎と目を合わせようとはしなかった。
「ほーん。まあそれでええわ」
そのことに気づいていつつも、あまりやり過ぎると怒り出しそうなので、洋榎はそこで口を噤む。
そこでちょうど姫松高校女子麻雀部二年、上重漫が戻ってきた。
「千里山高校の方たち来られました」
「うし。なら始めよか!」
合同練習が始まる。
※
合同練習はつつがなく進み、辰玖が卓につくこととなった。
「お、辰玖入るならうちもいくでー」
それに姫松高校の主将、愛宕洋榎が反応する。
「私も入ろうかな」
そして怜も卓についた。
「ならあと一人やな。姫松の子から一人お願いできる?」
「そやなぁ、なら漫ちゃん入って」
竜華の申し出に対し、少し考えた恭子は上重漫の名前を挙げた。
「え。わ、私ですか?」
漫は少し動揺したものの大人しく席に座る。
「そんじゃサイコロ回すでー」
親は愛宕洋榎。
サイコロを回して対局開始である。
東一局
東家 愛宕洋榎 25000
南家 園城寺怜 25000
西家 上重漫 25000
北家 壱之瀬辰玖 25000
(うちの主将に、千里山の男女それぞれのエース。面子やばすぎやろ)
上重漫は心の中でそう溢す。
正直漫としては場違い感が凄くて気が引けている部分もあった。
(ホンマ、末原先輩はなんで私を指名したんやろ)
漫にはこの三人を相手に上手く立ち回れるような実力はまだない。
だがそれでも、やれることは精一杯やる。
漫はそう心に決めた。
「ツモ。4000、8000」
111一一一①①789九九 ①
だがその出鼻を挫くような辰玖の倍満ツモ。
それも珍しい手役での和了りである。
起家である洋榎にとっては手痛いスタートとなった。
(うわ、ジュンチャンで三色。しかも同刻の方。面前やから三暗刻もあるし……)
高い手を作る上で三色を狙うのはよくあることだが、三色にも二種類ある。
三色同順と三色同刻だ。
筒子、萬子、索子のそれぞれにおいて、同じ組み合わせの順子で面子を三つ作れば三色同順となる。
一方で三色同刻はこれを刻子で作る必要がある。
チーと違い、ポンは上家、下家、対面のどこからでも出来るので、鳴きを混ぜれば手配次第では作れる役でもあるが、これを面前でやるとなると相当の運が必要となる。
なにせ面前で三色同刻を作るということは、三暗刻も合わせて4翻役を作ろうとしているようなものなのだから当然だ。
そんな役でいきなり和了るなど豪運以外の何者でもない。
東二局
「
リーチ棒を立てた園城寺怜のリーチ宣言。
何か対策をしないと怜は確実に次のツモで上がるだろう。
しかし対策のしようはある。
「お、ナイスや。チー」
辰玖の捨て牌を洋榎が鳴いて、一発を阻止する。
そしてツモをずらされた怜は――
「ツモ、2600オール」
それでも和了った。
役は立直、平和、面前清自摸和、赤ドラ。
平和ツモは七対子と並んで符計算が特殊で、基本符である20符にツモ符である2符が加算されず、一律20符となる。
これは
しかし、これにあと1翻つけば4000オールとなるのだ。
つまり洋榎の鳴きさえなければ怜は12000点を和了っていた。
ゆえに鳴いて一発を消した洋榎も、鳴ける牌を捨てた辰玖も、ある種のファインプレーであると言えた。
東二局 一本場
(連荘か……)
怜は牌を整理しながら辰玖の方をちらと盗み見た。
そこにはいつもと変わらない辰玖の姿。
(――――でも)
怜は気を引き締める。
この局も和了ることができれば、おそらくぐっと勝利に近づくことができるだろうから。
しかし――
「ツモ」
(――――ッッ!?)
111①②③789七八東東 九
「40符3翻の一本場は、1400、2700」
辰玖の和了が炸裂する。
怜はそっと唇を噛み締めた。
対局する前から分かっていたことだ。
辰玖は強い。
自分なんかじゃ相手にならないくらいに。
一年ほど前に生死の境を彷徨って以来、一巡先を見ることができる怜。
しかし能力抜きの純粋な麻雀の実力だけ見れば、三軍だった頃とそれほど変わっていない。
そう怜自身は思っているし、その評価はきっとあながち的外れというわけではないのだろう。
でも、だけど――――
怜は追いつきたいのだ。
自分の何十歩、何百歩も先を歩く辰玖に追いつきたい。
たとえその背中すらも満足に拝めなかったとしても、それでも手を伸ばしてみたい。
そしていつか、その隣に立ちたい。
それが自身のどういう感情から生まれたものなのか、怜は気づかない。
しかしそうしたいと思う気持ちが本物であることだけはわかっていて――
(せやから、できるだけのことはやる。今のうちが出せる全力で!)
未だ東二局が終わったところだ。
対局はまだ始まったばかりである。