マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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前作を終わらせてウマ娘を始めたらドはまり。結果、こんなのが湧いてきました。
前作とはジャンルも作風も全然違いますが、中の人は同じです。

因みに今回の作風は、ある艦これSSに影響された結果だったりします。


1話 思いをどストレートに伝えるは正解だが、何事にも限度がある

 

 

 拝啓、おばあ様。

 お元気ですか。私は色々とありましたが、今はトレセン学園でトレーナー業をやっています。トレーナー業は色々と大変な事も多いですが、とてもやりがいのある仕事ですので、毎日充実しています。

 ところで、私が家を出るときに、都会は怖い所だから気を付けろと言っていましたね。当時は聞き流していましたが、ちゃんと忠告に従っておけばよかったと若干後悔しています。

なんでだって?

 

「さあトレーナーさん。私と一つになりましょう」

 

 担当バがハイライトのない目で、俺の目の前で笑っているからです。いやホント、マジ怖いです。助けてください。

 

 

 

 

 

 事の起こりは数十分前に遡る。

 

「うっし、終わりっと」

 

 先ほどまでキーボードを叩いていたパソコンの電源を消し、椅子から立ち上がる。窓の外に目を向ければ日は傾いているが沈み切ってはいない。仕事がここまで早く終わったので実に清々しい気分だ。

 いつもの担当たちとのトレーニングはトラブルもなく無事に終わったし、不法侵入してきた鍼持った不審者をシバキ回していい汗を掛けた上に、何かと溜まる事の多いデスクワークを最近にしては珍しく量が少なかったのでサクッと片付いた。ぶっちゃけ待遇はホワイトだが業務は中々にブラックなトレセン学園のトレーナーの仕事が、夕方までに終わるのは珍しい。

 

「久々に外で飯でも食うかね」

 

 ノートPCをカバンに仕舞ってルンルン気分で帰り支度を済まし、いざ街へと繰り出そうとした所で、

 

ポンっ

 

 そんな軽い電子音が懐の携帯端末から響いた。

 

「ん? ……げ、学園からかよ」

 

 トレセン学園職員用の情報共有アプリにチェックが入っていた。さっきまでのテンションが一気に冷める。このアプリが動くときは大体が追加の仕事か色々面倒なニュースしかない。

 できれば無視したいが、それをしたら後々面倒な事になるので確認せざるを得ない。そんな訳で端末を操作して内容を確認する。

 

「あー……、またか」

 

 表示された文書を流し読みし、思わずため息を漏らしてしまう。

 

『大場トレーナーが長期休暇を取得されました。各トレーナーの皆様はご留意及びご注意下さい』

 

 書かれていたのはたったそれだけの文章であるが、先ほど落ちたテンションが、更に下がる。

 トレセン学園に関係のない第三者から見れば、この情報はわざわざ共有アプリを通して全トレーナーに通達されるような内容ではないだろう。

 この文書の肝は「わざわざ全トレーナーに」これを発信した事にある。

 

「あのトレーナーはそういった話はなかったのに長期休暇って事は、うまぴょいからの実家ルートか」

 

 ちなみにこの「うまぴょい」は、ウマ娘たちが歌って踊る「うまぴょい伝説」のじゃなくて、トレーナーとウマ娘が二人でする方のうまぴょい(意味深)だ。この場合、恐らく逆ぴょい()だろうがな。

 トレーナーとその担当バはつまるところ教師と生徒の関係なので、うまぴょい(ピンク)とかそれはもう色々とアウト案件だが、この手の話はトレセン学園、いや中央、地方問わずトレーナー業に就いている者にとっては、ぶっちゃけよくある話だ。

 

 ……因みに断っておくが、例外なく美人なウマ娘に目がくらんで、トレーナーが立場を使って担当バに強要するってパターンは――あるっちゃあるが、その数は恐ろしく少ない。地方、中央トレセン共に、そんな事をやらかすような奴がウマ娘のトレーナーの地位に就けられる程、甘くはない。

 大概の場合は、担当バ側が己の美貌とレースで培われた知略、あと鍛え抜かれた身体能力(人間以上のパワーを持つぞ!)を全力で駆使してうまぴょい(笑)に至るのが殆どだ。ついでに実家に攫われて(直喩)外堀を埋められるのが黄金パターンでもあるが。

 なんでこんなことが「よくある話」になってるかって? ……あいつらってさ、色々な要因が重なりまくったせいで、こう……重いんだよ。物理的な意味じゃなくて感情が。

 なんかの専門書か何かにあったが、「強いウマ娘は気に入った人間に執着しやすい」とあった。恐らくこれは事実だろう。トレーナー界隈では、経験則としてこのような説はまことしやかにささやかれている。

 で、だ。そんな執着しやすいウマ娘が、思春期という色々多感な時期に、自分の夢を叶えるために全力で応援してくれるようなトレーナーとかいう人間を与えてみろよ。

 

――そりゃもう、全身全霊で執着するわ。

 

 そんな訳で、トレーナーが担当バに逆ぴょい()されるのは、珍しい話じゃない。学園側も色々と対策を立ててはいるものの、あまり上手くいっていないのが現状だ。

 

 閑話休題。さて今回のメッセージだが、大場トレーナーがヤラれたせいで、こちらも警戒する必要性が出てきてしまった。

 

「勘弁してくれ。こういうの連鎖すんだよ……」

 

 少し考えればわかる事だが、件のトレーナーの長期休暇には当然担当していたウマ娘が付いていく事になるので、当然そのウマ娘もトレーナーと同じくらい学園を離れる事になる。

 トレーナーとその担当バが同時に、それもレースでの遠征以外の理由で長期間学園から離れるとなれば、学園側がごちゃごちゃ誤魔化そうとしても、ルームメイトやらクラスメイトやらも二人に何があったかなんて、すぐに気づくだろう。

 ……そうなるとな、あの娘たちってこう思うんだよ。

 

――あの子は上手くやったんだ! 私も!

とか

――このままだと他の子にトレーナーを取られちゃうかも! その前に何とかしないと!

とか……。

 

 それで掛かったウマ娘たちが、各々のトレーナーの所に突貫していくのは風物詩になっている。先ほどのメッセージで注意喚起がされているのも、この風物詩に対してのものだ。ちなみにこの状況を学園関係者のあいだじゃ、「連鎖うまぴょい」とか呼ばれている。

 

「ウチのチームにもやりそうな奴がいるのが、ホントにしんどい……」

 

 で、この連鎖うまぴょい。非常に、ひじょ~に残念なことに俺も無関係ではいられない。担当バたちは中々に個性の強いメンツが揃っているのだが、突貫してきそうなウマ娘には心当たりがあるんだ。マジで胃が痛い。

 で、そんな奴らへの対応だが、割と簡単な方法が一つある。

 

「……さっさと街に繰り出すか!」

 

 一番手軽なのはヤバいウマ娘に会わない事だ。危険な目に合わないように動く事こそ一番の護身だからな。

 ちなみにトレーナー寮に引きこもるのは何気に危険だぞ。あそこってウマ娘の出入り自由だから侵入されたらアウトだし。なに、明日になったら嫌でも会う事になる? んなもん知らん。そん時に考える。

 そんな訳で、端末を尻ポケットに押し込んで、改めて街へ出かけようと扉に手を伸ばす。

だが、ちょうどそのタイミングで。

 

「トレーナーさん、失礼します」

 

 ノックの音がしたと思ったらすぐさま扉が開かれる。その先にいたのは――担当バのエイシンフラッシュ。

 

(Oh……)

 

 目の前の担当バの姿に思わず悪態をつきそうになるのを鋼の意思でこらえつつ、何事もなかったかのように対応する。ここで冷静さを欠いてはいけない。

 

「あー、こんな時間にどうした?」

「今週日曜日のレースについて、改めて相談をしたいと思いましたので」

 

 クッソ、断りにくい内容で来たな。

 一刻も早くこの場から離れたいが、トレーナーの立場としてもレースの事を持ち出されたら抵抗が出来ない。内心舌打ちしつつも表には出さずに小さく頷く。

 

「相変わらず真面目だなぁ」

「今、お時間よろしいでしょうか?」

「おう。時間もあるしミーティングと洒落込むか」

 

 フラッシュを部屋に招き入れ、テーブルに着かせる。ここで扉の開け閉めの主導権は決して握らせてはいけない。鍵を掛けられてたら色々アウトだし。

 

「おっし、それじゃあ一つ一つ確認していこうか」

「はい、お願いします」

 

 バッグから取り出したタブレットを起動しつつ、フラッシュに対面する形で席に座る。こうして表向きは穏やかなミーティングが始まった。

 

「天気予報じゃ快晴、雲もなくにわか雨の可能性もなしで、良バ場はほぼ確定だったな」

「はい。先ほど天気予報を確認しましたが、予報に変化はありませんでした。作戦は?」

「差しで変更なしだ。そのために最近は末脚を伸ばせるトレーニングをしてたんだ」

 

 もっともミーティングといっても、その内容は自体は以前から議論しつくされたものばかりだ。そのため再確認の意味合いの方が強い。

 

「そうですね。仕掛けるタイミングは――」

「そこは任せる」

「相変わらずですね」

 

 フラッシュはどこか呆れたような表情を浮かべるが、気にしない。これが俺のスタイルだ。

 

「走らない俺があーだこーだ言ってもしょうがないからな」

「……最初はここまで曖昧な事を言われて不安でしたけど、人間、いえウマ娘も慣れるものなんですね」

「いいじゃねーか、それで勝ててんだから。俺も頑張った甲斐があったってもんだ」

 

 そんなやり取りを交わしつつ、その後も確認作業はつつがなく消化されていく。

 

「――っと、こんな感じだな。何か質問はあるか?」

「私からは何もありません。……トレーナーさんはどうですか?」

「ん?」

「いえ、何か言いたげでしたので」

「……そんなことはないぞ?」

「本当に?」

「……」

 

 思わず沈黙。動揺を隠せていなかった――いや、

 

(これ訊かなきゃいけないんだろうなぁ)

 

 フラッシュがあえて触れなかった、触れたくなかった事を訊けと、笑顔で言外に圧力をかけてくる。しばし迷った後、覚悟を決めて口を開く。

 

「なら一つだけ」

「はい、どうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――なんで勝負服着てるん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、勝負服姿でやってきたときは絶句したわ。しかもナチュラルにトレーナー室に入ってきてミーティングしてたから、はた目から見たら中々にシュールな光景だったろうよ。

 

「それはとても簡単な答えです」

「ほー」

 

 とてもいい笑顔で静かに席を離れるフラッシュ。ちなみに瞳のハイライトさんはいつの間にか休憩中だ。

 こちらも表情は崩さずにいつでも動けるように、ズボンをはたいて立ち上がる。

 

「大きな戦いに備えて、この勝負服を着たのですよ」

「そっかー。……具体的にはどんな戦いなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とても単純明快ですよ? ――トレーナーさんと夜のプロレス(うまぴょい)をするためです」

「知 っ て た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後にフラッシュが飛び掛かってくるがそれを華麗に回避。椅子とか部屋の備品をなぎ倒す彼女を視界に収めながら、腰を落として相手の次の動きに備える。

 

「可能性は十分ありましたが、やはり躱されましたか。しかし想定通りです」

 

 対するフラッシュだが、唯一の脱出口である出入り口にポジションをとっていた。しかも振り向きつつも、後ろ手で扉の鍵をかける音が聞こえる。

 

「告白とか諸々すっ飛ばして、初手で襲うのはどうよ」

「無駄だからですよ。トレーナーさん」

「おいおい、そんな大切な事を諦めんなよ」

「なら、今から告白したら受け入れてくれますか? 『あなたを愛しています。結婚を前提に付き合って下さい』」

「随分テンプレな告白だな。じゃあ俺も返してやるよ。『告白は嬉しいが、教師と生徒の関係である以上、今は受け入れる事は出来ない。酒が飲める歳になってから出直せ』だ」

「見事なテンプレート的返答ですね。やはり省略して正解でした」

 

 フラッシュと会話を交わしつつも冷静に状況を整理する。

 フラッシュとの会話自体は可能ではあるが、大分掛かっているせいで、悠長にくっちゃべった所で、この状況からの脱出は不可能。その身体能力を存分に駆使して襲い掛かってくるのは確実だ。

 

「俺に惚れるなんざ、ずいぶんと物好きじゃないか」

「人を好きになるのは理屈ではありませんから」

「そういうもんか」

「はい、そういうものです。本来ならもう少し時間をかけるつもりでしたが、予定を変更する必要が出ました。ですので力尽くにでも、あなたを私の虜にします」

「そこで脳筋スタイルに飛んでいくなよ」

「うまぴょい(桃色)は初めてですが、身体には自信がありますし、事前に勉強をしてきました。安心して私に身を委ねて下さい。因みにこの勝負服を着てきたのも、勉強の成果です」

「それやった時点で、俺もお前も色々終わるんだよ。分かれよ」

 

 このトレーナー室に何かこの場を打開できるようなものがあれば、色々と楽だが生憎とそんなものはない。執務机に備え付けのソファーとソファー用においてあるローテーブル、本棚程度。

 

「安心してください。今後の私たちの人生設計も、しっかりと計画を立ててあります」

「……因みに聞くけど、どんなやつ?」

「今から説明しますと1時間35分24秒掛かりますが、よろしいですか?」

「あ、ごめん。やっぱ要点だけでいいや」

「では要点だけ。私と一緒にドイツに来てもらいます。トレーナーさんには私の故郷を見てもらいたいですし、何よりドイツまで行けば他の娘の邪魔は入りません」

「まさかの海外移住かよ」

「私にとっては帰国ですけどね」

 

 そして唯一の出口である扉はフラッシュが抑えており、脱出は不可能。ちなみに窓もあるがこのトレーナー室は3階にあるので、ハナから選択肢に入っていない。

 

「予定より時間が押していますので、そろそろ始めましょう。それではトレーナーさん、覚悟はよろしいですね?」

 

 フラッシュが足に力を貯めている。

 はた目から見て状況は最悪だろう。思いとどまらせる事など不可能な上に、逃亡も出来ない詰みの状態だ。

 

 ――だが俺はそんな状況下であっても、

 

「ったく、勘弁してほしいが――こういう暴走を止めるのも、トレーナーの仕事なんだよ」

 

 担当バたちに教えたようにピンチであっても不敵に笑い、

 

「って訳で、だ。――来なフラッシュ! その湯だった頭、強制冷却してやるよ!」

 

 気合いを入れて、堂々と言い放つ!

 そんな俺に、彼女はどこか嬉しそうに笑みを浮かべ、

 

「――行きます!」

 

 フラッシュが飛び出した。人間では不可能な速度で一瞬で間合いを詰めると、俺を押し倒そうと組み付く。

 ……普通の人間ならばこの時点で詰みだ。このまま組み伏せられる未来しか残っていないだろう。

 だが俺は――

 

 

 

 

 

 

「おぉぉらああぁぁぁぁっ!」

「!?」

 

 

 

 

 

 そんな程度では倒れる程柔じゃねぇ! 全身の筋肉をフル活用して突進を抑え込み、更にフラッシュに組み返す!

 

「止められた!?」

「鍛えてるからなぁ!」

 

 身長185cm、体重110㎏、体脂肪率一桁、その身に纏うは日々の鍛錬により作り上げられた筋肉の鎧! この鍛え上げられた肉体がフラッシュの一撃を受けきったのだ!

 思わぬ事態に混乱するフラッシュ。その隙を見逃さず攻めに転じる!

 

「舌噛むなよ!」

「えっ、きゃあ!?」

 

 フロントスープレックスでフラッシュをソファーに叩き込む! 

その衝撃でフラッシュによる拘束が解かれた。だがこの程度で攻めは終わらない!

 

「このまま寝てろ!」

 

 身を起こしたフラッシュに背後から襲い掛かり、首に腕を回してリア・ネイキット・チョークで締め上げる! 裸締めとも言われるこの技は、一度きれいに決まれば脱出は困難! このまま落とすべく、力を籠める!

 だが、

 

「くっ!」

「っ、んにゃろ!」

 

 咄嗟に手が差し込まれたせいでリア・ネイキット・チョークが不完全な形になっていた。構わず締め上げ続ける。人間相手ならば不完全ながらも数十秒で落とせると自信をもって言い切れる技の切れだ。だが相手は人間よりも頑丈なウマ娘だ。既に一分以上技を掛けているにも関わらず、フラッシュの意識は健在。

 それどころか、

 

「ああああああああっ!」

 

 フラッシュがウマ娘の腕力をフル活用して、力尽くでチョークを外そうとしていた! 

こちらも負けじと全力で締め上げるが、押し切れない! しばしの拮抗の後、チョークが解かれる!

 

「ちっ――げっ!?」

「今度は私の番です!」

 

 これで仕切り直し――ではなかった。フラッシュは間合いを取るのではなく、すぐさま反撃に転じた。チョークを外す際に掴んでいた俺の腕を確保したまま襟をつかみ、ウマ娘の強力な腕力を生かした一本背負いが炸裂する!

 

「がっ!」

「っ!」

 

 派手な音と共にローテーブルに叩きつけられる。受け身は不完全だったが、ローテーブルと上に置かれていたカバンがクッションになったお陰で、ダメージは思ったより少ない。

 対するフラッシュは不完全な一本背負いでバランスを崩していた。その隙を逃さずに、痛む身体を鞭打ってその場から転がり落ち距離をとる。

 

「……トレーナーさん、本当に人間ですか?」

「おう、れっきとしたヒト息子だぞ? エイリアンにでも見えるか?」

「普通の人間はウマ娘には、まず勝てません」

「鍛えてるからな。今度のトレーニングは筋トレオンリーにするか? 軽トラくらいなら一人で持ち上げられるくらいまで鍛えてやるよ」

「レースの役に立つメニューにしてください」

 

 若干ドン引きするフラッシュに軽口を叩きつつも、会話を引き延ばして体力回復に努める。

 弱みを見せないために笑ってはいるが、ぶっちゃけ滅茶苦茶しんどい。最初のタックルを受け止めたのと、先ほどの一本背負いでかなりスタミナを持っていかれていた。

 ……ただこの策はこいつには通じないだろうな。

 

「おいおい、筋肉をつけるのも――」

「――筋肉談義もよろしいですが、そろそろ休憩を終わりにしましょうか? トレーナーさん」

「……おいおい、インターバルにしちゃ短いな」

「時間が押していますので」

 

 ほーら気づいていた。色ボケして暴走しているが、こいつは元々頭は良いからな。こちらの苦し紛れの策なんざ見抜かれちまう。

 

「後、先に謝っておくことがあります」

「そこは今まさに逆ぴょいしようとしてる事を謝ってほしいな」

「――怪我をさせたら、ごめんなさい」

 

 そう告げると同時に、先程と同じようにフラッシュが飛び掛かって来る。これをやはり先程と同じく全身の力を込めて抑え込む。構図としては数分前と同じ。

 だが、

 

「はあああああぁ!」

「ちいぃぃぃぃっ――がっ!」

 

 前のように受け止め切れない! 先程の突進以上――それこそ下手な人間なら怪我をしかねない程の力が込められているのだ! 全力で足に力を込めて踏ん張り転倒だけは回避したが、そのまま押されて壁に押さえつけられる!

 

「……やっぱり。先程はうまぴょい()を考慮して力をセーブしすぎたのは間違いでしたね」

「……他の人間にこんな事すんなよ? 俺じゃなかったら怪我させちまうぞ」

「トレーナーさん以外にこのような事はしません。それにしてもここまで力を入れても怪我一つないなんて、本当に凄いですね」

「……鍛えてるからな」

 

 さーて困ったぞ。はた目から見ればガチムチのマッチョマンが可憐な娘に壁ドンされるとかいうシュールな光景が見られるが、その実態はかなり不味い状況だ。

 背後に壁がある上に愛バがほぼ密着状態なので脚を使っての脱出は不可能、力で脱出しようにもフラッシュも初手のやり取りで学習したお陰で、こちらを上回る圧倒的パワーを繰り出してくるだろう。ぶっちゃけほぼ詰んでいる。

 お陰で目の前の担当バも勝ちを確信したのか、滅茶苦茶いい笑顔してやがる。

 

「さて、紆余曲折がありましたが、予定通り私たち二人の初めての共同作業を始めましょう」

「いやー雰囲気もクソもあったもんじゃないなぁ。完全に薄い本の展開じゃん」

 

 だがな、フラッシュ。前に教えただろ?

 

「私も初めては相応の雰囲気と場所でうまぴょい(R-18)をしたかったのですが、トレーナーさんにその気はないのですから、仕方がありません」

「ほー」

 

――そうやって勝ちを確信した時が一番危ないんだぜ?

 

「ならハグくらいしてやろうか?」

「え?」

 

 笑ってそう返してやりつつ、左腕をフラッシュの腰に回して真正面から抱き込む。傍目から見れば中々に犯罪的な光景だが、この際無視だ。

 

「えっ、えぇ?」

「よっと」

 

 虚を突かれ間の抜けた声を上げるフラッシュを無視して、そのまま抱き上げ、更に右腕も使いがっちりと抱き込む。

 ただし抱え込む位置は――フラッシュの首!

 

「まあハグっつーても――変則的なベアハッグだがなぁ!」

「!?」

 

 そのままフラッシュの頸動脈を締め上げる! 圧倒的優位だからって油断したな!

 

「むぐ! むがぁ!」

「いいから寝てろ!」

 

 変則ベアハッグが完全に決まる中、胸の中で生暖かい息を浴びせながら抵抗するフラッシュ! だがこちらも最後のチャンスなのでガン無視して全力で締め続ける!

 そしてそのまま抵抗は徐々に弱くなっていき、

 

「きゅう……」

 

 大体5分ほど格闘を続けた所で、意識が落ちた。

 

「はー……」

 

 ため息を吐きながら壁にもたれかかり、そのままその場で腰を落とす。ついでに腕の中のフラッシュの様子を確認。呼吸も脈も安定しているから大丈夫だろう。因みに勝負服が色々はだけてしまっているが、今はそれを直す気力も起きない。

 

「酷い目にあった……」

 

 これから起こる事は今は置いておいて、ただただ安堵のため息が漏れた。

 

 

 




色々と不安になるシーンを書きましたけど、これ行けますかね……?
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