マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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チャンミはタマが差し切ってくれたお陰で、グレードA決勝で勝利出来ました。


7話 人間だれしも向き不向きくらいある

 

「おおおおおおっ!」

「っ! シリウスさんがスパートに入った!」

「止めるよ!」

 

 トレセン学園のグラウンド。広大な敷地面積を誇るトレセン学園においてその大部分を占有しているこの練習場では、今日も今日とて多くのウマ娘たちが次の戦いに備えてトレーニングをこなしている。

 そんな場所の片隅でチーム・デネボラも、他のウマ娘の例に漏れずトレーニングに励んでいる真っ最中だ。特にシリウスなんかはレースが近いという事で気合いが入っており、その熱気が他の担当にも伝播しているのか、チーム全体の士気は高い。

 これだけならトレセン学園の一等星を冠した公式チーム、ウチを含めたそれ以外の非公式チームでよくある光景といった所だ。

 

――だがデネボラの場合は、他とはちと違った練習風景が広がっていたりする。

 

「どけえええぇ!」

「ヤバ、抜かれそう!」

「三人でマークしてるのに!?」

「ちょっ、もうちょっと頑張って!? 何とか逃げ切るから!」

「急いで急いで、もう持たないよ! って抜かれた!?」

「いやああああああ!?」

「ぐっ! ああああああっ!」

 

 5人で団子状態になったウマ娘の集団がゴールラインを駆け抜けていく。先行していたウマ娘が後ろのマークから抜け出したウマ娘の猛追から逃げ切った、という結果だ。この光景に小さく頷く。

 

「お疲れ。やっぱ今のシリウスだと3人の徹底マークはキツイかぁ」

「いや、そのマーク思いっきり抜かれたんですけど!?」

 

 ツッコミを入れたのは俺の担当――ではなく、黒髪のシリウスの取り巻きの一人だ。彼女の言葉に今ミニレースをしていたシリウス以外のメンツ(こちらもシリウスの取り巻き)もコクコクと頷いている。だが、

 

「ゴール板を一着で切らなきゃ無意味だろ」

「そういうこった」

 

 当の徹底マークされていたシリウスは憮然とした表情だ。流石に今回の練習の趣旨を理解している。

 

「横移動は大分スムーズになったが、動きがちと単調だな。動きにフェイントを混ぜてスマートに抜けようぜ」

「ああ。もう一本行くぞ」

「えっ!? 今ので10本目ですよ!」

「気持ちは分かるが、そろそろお前もお前に付き合ってるメンツもそろそろキツイ頃だ。少し休憩」

「ちっ。……お前ら行くぞ」

「あ、はい!」

 

 シリウスを始めとした面々がベンチに帰っていく。それを見送りつつ頭の中で思考をまとめていく。

 

「シリウスはこのペースなら本番に十分間に合うな。それに周りのメンツも大分仕上がってきた」

 

 特にシリウスの取り巻きたちの実力が伸びている。何せ複数人で相手しているとはいえ、今回みたいに本気のシリウスと何度もド突き合っているんだ。嫌でも実力が付く。これなら――

 

「次の選抜レースが楽しみだな」

「ん?」

 

 声のした方に振り向く。そこにはいつの間にか隣にいるエアグルーヴの姿があった。

 

「よう、お疲れさん。そっちはどうだ?」

「順調だ。誰かが自分の仕事を私に押し付けた事以外はな」

「う……」

 

 痛い所を突かれた。そんな俺にエアグルーヴは笑う。

 

「冗談だ。人に教えるのはいい練習になる」

「そりゃ助かる」

「それにみんな私や貴様を頼ってここに来た者ばかりだ。熱も入るというものだ」

 

 トレセン学園非公式チームであるチーム・デネボラの現メンバーは、エアグルーヴ、フジキセキ、シリウスシンボリ、エイシンフラッシュ、マヤノトップガンの5名。基本的にこのメンバーでいつも練習をしているんだが、週に一回だがシリウスの取り巻きやエアグルーヴが気に掛けている生徒、そして俺が声を掛けたウマ娘と共に大規模な合同練習を行っている。今日はその合同練習の日だった。因みに合同練習の日はエアグルーヴは俺と一緒に教える側に立ってくれている。

 因みに今回の合同練習は選抜レースが近いという事もあり参加者が多めだったりする。やっぱりG1勝利バを輩出したトレーナーの練習を直に受けられるというのは大きいらしい。代わりに先程のシリウスみたいに実戦形式の練習を手伝ってもらえるので、チームとしても非常に助かるが。

 

「それで、今回の選抜レースには行くのか?」

「少なくとも顔は出すな」

 

 仕事だし。もっとも声を掛けるかどうかはその時次第だが。

 

「結局双方の相性だからな。特に俺の場合は指導方針が独特だしな」

「ああ、そうだな」

 

 苦笑しつつ同意するエアグルーヴ。

 

「貴様は筋力やスタミナトレーニングといった身体作りの技能は学園でも一二を争う実力を持ってはいるが、代わりにレース戦術については贔屓目に見ても精々並だ。担当する相手を見極めなければ、競走バ人生を狂わせかねん」

「それな」

 

 全く持ってエアグルーヴの言う通りなもんだから、素直に頷くしかない。見極めをミスったら俺も担当も不幸になるだけだ。

 そんな訳で俺が教えて強くなれるのは、地頭がいいか、勤勉か、勘が鋭い奴だろう。実際この考えを元に担当契約をしているし、それで今の所上手くいっている。

 

「だがこの採用体制も心配でもあるぞ」

「ん?」

「貴様もトレーナーなのだから、ある程度すべての分野をこなせないと、これから先行き詰りかねんぞ?」

「あー、そこは俺も勉強はしてるんだがな……」

 

 これでも必死に勉強してはいるんだが、それでもエアグルーヴ視点でギリギリな辺り救いがない。

 

「人間得手不得手はあるから、そこはある程度割り切るしかないな」

「……それはどうなんだ?」

「苦手分野を放置するとかはしないから勘弁してくれ。それに持ち味を生かしてそれで戦うってのは普通だし」

 

 ほら某格闘家も「競うな、持ち味を生かせ」って言ってるし。

 

「……今後に期待する」

「今はそれで頼む」

 

 俺たちがそんな何気ない会話をしていると、

 

「……ここにおられましたか、武藤トレーナー」

 

 背後から声が掛かった。振り向いてみるとそこにいたのは、

 

「樫本さん? って……」

 

 そこには学園に来る前から交流があり、何かと世話になっていた人物がいた。が、その顔は、

 

「か、樫本トレーナー、大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ?」

「ええ、大丈夫です。大丈夫ですとも」

「いえ、全然大丈夫には見えませんよ!?」

 

 エアグルーヴが思わず悲鳴を上げるレベルにはやつれ果てている。

 

「あー、とりあえず一休みしましょう。スポドリ取ってきますんで」

「いえ、そのような時間はありません。……筋力トレーニング、スタミナトレーニングのスペシャリストである武藤トレーナーにお願いしたいことがあります」

 

 樫本さんが俺をじっと見つめる。その目には硬い意志を宿しているのが見ていてわかる。しばしの間の後、彼女は重い口を開いた。

 

「私を――鍛えて下さい」

「…………………………………………はい?」

 

 ぶっちゃけ、言葉の意味が分からなかった。

 

 

 

 

 

 

「マジかー……」

「マジなんだよー……」

「マジなんです……」

 

 とりあえず詳細を知るために、エアグルーヴと一緒に樫本さんの所のトレーナー室に移動。そこにいたリトルココン、ビターグラッセを始めとしたチーム・ファーストの面々から話を聞いたが……、こんな感想しか出てこなかった。なおチーム・ファーストの皆様全員、顔に絶望感がアリアリと浮かんでいる。アオハル杯の騒動の時とかもこいつ等とはそこそこ交流はあったけど、ここまで空気が重くなってるのは初めてだぞ。

 

「チーム・ファーストと樫本トレーナーによるミニライブか……」

 

 樫本さんから受け取った資料を手に、さしものエアグルーヴも口に手を当て難しい顔をしている。

 

 あの樫本さんも参加するミニライブ。この事実がこの場の全員を絶望に叩き落していた。

 

「どうしてこうなったんだよ……」

「先方たっての希望だったもので……」

「断り切れなかったのかぁ……」

 

 樫本さんは学園外でもそれなりに有名人だ。チーム・ファーストのメンバーのように優秀な競走バをコンスタンスに育て上げるやり手のトレーナー。またその容姿もクールビューティーな美人という事で、一定の人気もある。

 今回のミニライブを企画した奴らは、大方樫本さんもウマ娘たちと一緒にライブをすれば客を呼べると考えたんだろうな。

 ……うん、まあコンセプトは良いと思うぞ? 樫本さんが虚弱っていう致命傷を除けば。

 この人運動音痴な上に根本的に体力がないんだよ。家に帰ったらすぐに眠くなるらしいし、少し走ってもすぐにばてる。……いやホントよくトレーナー業出来るな。

 そんな人がミニとはいえライブなんてさせてみろ。大失敗確定だわ。

 

「……嘆いていてもしょうがない。問題点を詰めるぞ」

「せやな。練習はどうなんだ?」

「歌は問題ないんだよ。問題はダンスの方で……」

「ライブで歌う曲は2曲。ダンスの方も樫本トレーナーの努力で、今は未完成だけど本番までには何とか間に合うはずよ。でも問題は……2曲を通して踊り切れないの」

「お恥ずかしい話ですが……」

「やっぱりそこかぁ……」

 

 やっぱり最後は体力面が立ちはだかっていた。これを何とかするには樫本さんの元の体力的にも長期計画で対応しなければならないんだが――、今回はそれが不可能だったりする。

 

「だが体力を付けようにも、ミニライブは3週間後だぞ? そんな短期間で体力作りなんて出来るのか?」

「……時間が足りないな」

 

 ぶっちゃけ、樫本さんの根本的な体力の事を考えると中々厳しい。時間がなさすぎる

 

「トレーナーの仕事を全部放り出してライブに備えるってんなら、ギリ何とか出来なくもないが……」

「武藤トレーナー、流石にそれは難しいです」

「ですよねー」

 

 お互いチームを率いる忙しい身だ。ついでに言うと、俺もシリウスのレースが近いから樫本さんばかりを見ている訳にもいかない。

 

「体力がないなら、ライブのポジションを工夫して誤魔化すのはどうだ? バックダンサーなら――」

「ライブの趣旨的にも樫本トレーナーはメインじゃないといけないんだ……」

「ぐっ。なら、曲と曲の間にトークショーを入れてそこで体力を回復していただくのは」

「私たちもそれを考えたんだけど、息が乱れてトークになりそうもなかったわ……」

「……ダンスを簡略化させて体力の維持をするのは」

「恥ずかしながら、ダンスの簡略化は既に行っています……」

「……」

 

 エアグルーヴの体力消費軽減案も全てボツ。完全手詰まりだ。それはつまり、

 

「王道しかないか……」

 

 結局樫本さんが依頼した様に、体力をつけさせる以外の解決方法は存在していない。覚悟を決めるしかないだろう。正直ムリゲーじゃね? としか思えないがあえて無視。ついでにそもそもお願いを断るのもなしの方向で行く。

 困難を前に覚悟を決め一つ大きく息を吐くと、前に向き直る。

 

「……チーム・ファースト傾注!」

『!』

 

 チーム・ファーストの面々が弾かれたようにこちらに視線を向けた。

 

「今回の件、俺が受け持った。なんとしてでも俺が責任をもって樫本トレーナーに体力を付けさせよう。そのためのプランも道具もすぐに用意する。……だが!」

「……」

「悲しいかな俺も諸事情により、付きっ切りで対処する事は出来ない。俺だけじゃハッキリ言って失敗確定だ。それ故にチーム・ファーストの協力が必要不可欠になる」

「……」

「君たち次第で本件の成否が左右される。各員一層奮励努力して欲しい。――何としてでも樫本トレーナーの体力を向上させるぞ!」

『はいっ!』

 

 チーム・ファースト全員の力強い返答がトレーナー室に響いた。みんな目がギラついていて士気は高い。これならやれる!

 

「あの、そこまで気合いを入れる必要はあるのでしょうか……?」

「いえ、このくらいしなければなりません」

「えぇ……」

 

 脇で樫本さんとエアグルーヴが何か言っているがそれは無視。ともかくこうして樫本理子強化計画が始まった!

 

 




武藤トレーナーによるクソゲー攻略を始めたようです。
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