マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
ここまで読んでくださった皆様、感想を書いてくださった皆様、毎度誤字修正をしてくださる皆様、ありがとうございます。
追記、4月17日に後書きのオマケ編の追加を投稿しました。また本編の一部サブタイトルを修正しました。
〇エアグルーヴルート 女帝とスタンドの穏やかな日々
「フォームを意識して走るんだ! フォームが滅茶苦茶だと速くならないぞー!」
「周りもしっかり見ろ! 相手の動きをしっかり把握するのも大切だ!」
『はーい!』
集まったウマ娘たちがトラックを走る中、俺とエアグルーヴは指導のために声を上げる。技術的にもまだまだ未熟な子ばかりだから、その都度修正箇所の指示を出していく。鉄は熱いうちに打てというし、ここで手を抜いちゃいけない。お陰さまでエアグルーヴなんかは中々に気合いが入っている。
「ファイルの動きをどう見る?」
「大分フォームは矯正が出来てきた感じだな」
「いや、それも大切だが戦術についてだ。今は先行を教えているが、やりにくそうに見える」
「そっちか。……あー、確かに窮屈そうだな」
「スズカのように逃げを勧めてみるか?」
「それもアリだな」
そして指導するウマ娘たちが出張らっている合間合間に、お互いの意見交換するのもいつもの事だ。こういうのって指導が終わってからの方がジックリやれるんだろうが、もうこのスタイルが確立しているから、わざわざ変える気はない。(てか気になる事があったら、指導が終わってからも相談とかするから、辞める必要性がない)
「もしくはパワーをつけるトレーニングでもやってみるってのもアリか?」
「たわけ。ファイルの身体はまだまだ成長途中なんだぞ。昔の手段を使おうとするんじゃない」
「せやな」
小さく肩を竦めて、トラックを走るウマ娘たち――俺たちが指導している小学生のウマ娘たちの観察に戻る。
ここはトレセン学園――ではない。住宅街から少し離れた川沿いにある広いグラウンド。
俺とエアグルーヴはここで、競走ウマ娘の養成クラブを開いて指導をしている。
――何があったって? あの鬼ごっこ()の後に喰われてトレーナーを辞めたんだよ。(正確には当時のメンバーが全員引退したから辞めた。流石に現役で走ってる面々を放り出すのはエアグルーヴも反対してたし) で、辞めた後にエアグルーヴが始めた競走ウマ娘養成クラブで副業として臨時講師やってるって訳だ。
今子供たちに走りを教えてるのもお仕事の真っ最中って訳だ。クラブは元G1ウマ娘&そのウマ娘を育てた元中央トレーナーがやってるって事もあって、歴史が浅い割にそれなりに盛況だったりする。
「それよりも貴様はいいのか?」
「ん? 何が?」
「今日は試合だろう」
「せやな」
なお俺の本職はプロレスラーだ。またPUプロレスでコメート・ムトウとして戦っている。
エアグルーヴから「ずっと誰かのために働いて来たんだ。これからは自分のやりたいことをすればいい」なんて言われて、真っ先に思いついたのがプロレスだった。俺も歳が歳だからピークは完全に過ぎているが……、やっぱりリングの上で戦うのは心が躍った。少なくとも暫くは戦えそうだ。
「そろそろ出発しないと間に合わないんじゃないのか?」
「まだトレーニングの最中だろ? ここで抜けるのはダメだろ」
「遅刻する方が問題だろうに」
「ゆーて諸々の打ち合わせ自体は終わってるから、多少遅れても大丈夫だって」
「たわけ。PUプロレスの方々に迷惑をかけるんじゃない。いいから行け。子供達には私から説明をしておく」
「うーっす」
こうまで言われたらしゃーない。諦めて身支度をする。
「ああ、待て。行く前に一つ言っておくことがある」
「ん?」
「――いってらっしゃい。楽しんで来い」
「――おう」
微笑むエアグルーヴに、右腕を掲げながら笑って返して見せた。
〇マヤノトップガンルート 嵐の前の静けさ?
「どうだった?」
「うん、彼氏にフラれたんだって」
「あー、それでか……」
夕方のトレセン学園。トレーナー室にてマヤノからもたらされた話に頭を抱えたくなる。最近俺が担当しているウマ娘が全然元気がなかったから、マヤノに頼んで事情を聴き出してもらったんだが、まさかのオチが付いて来た。
「てか何で喧嘩したんだ?」
「最近地元の彼氏さんとあまり連絡を取ってなかったみたいで、彼氏さんが怒っちゃったんだって」
「それで売り言葉に買い言葉か……」
なんか昔似たような事案を見た事があるなこれ。それはともかくとして、
「いや、そんなん俺じゃどうしようもないんだが……」
ちょっとしたトラブル程度なら解決できる自信はあるが、流石に男女の仲が拗れた上に破局したとか専門外なんだが。
「うん、流石に見てられなかったから、皆で慰めようってなって、今晩ご飯を食べに行くって約束したよ」
「それで何とか持ち直してくれるといいんだけどな」
「そこは頑張ってみるね。あ、そうそう。会に参加できるのはウマ娘だけだからね」
「まあ、俺が行っても何も出来ないしな」
内容が内容だから、野郎が潜り込めないんだよな。
「しっかし、マヤノがいてくれてマジで助かった。俺じゃ手出しが出来なかったし」
「ううん、気にしないで。それにこうやって週一で学園に来るのも楽しいし」
そう言ってマヤノはほほ笑む。今のマヤノだが既に引退、卒業しているが、そんな中でも今のチーム・デネボラによく顔を出してくれていて、野郎の俺じゃ話しにくいような相談を受け持ってくれている。お陰様でチーム内の空気は良好だな。
「それに実際に走ってる子の姿を見た方がイメージが湧きやすいから、仕事でも助かってるんだー」
「まさにウィンウィンか」
余談だが今のマヤノの職業は勝負服のデザイナーをやっている。まだまだ新人ではあるが、着々と実績と評価を積み上げている真っ最中だ。(なおお得意様は当然チーム・デネボラ。身内贔屓? そんなん知るか)
「でも男に逃げられたってのは、慰めるって言ってもどうやるんだ?」
「思いっきり愚痴を聞いてあげる事がメインかな」
「まあ、愚痴ればある程度はスッキリするしな」
「それでもダメだったら、アレを教えてあげようかなって」
「アレって?」
「昔流行った恋のおまじない」
「待とうか」
おい、それ俺が霊障でエライ事になったやつじゃねぇか。
「大丈夫だよ。教えるのはカフェさんが作ったおまじないだから」
「そっちはそっちでヤバい代物って寺田が言ってたんだが?」
折角時間経過でやっと風化したのに、また掘り起こそうとするのやめよ?
「大丈夫、ちょっとトレーナーとウマ娘のカップルの数が増えるだけだから」
「色んな意味でよくはないんじゃないかなー」
「でも私たちもそうでしょ?」
「それ言われたら痛い」
俺らも元々はトレーナーと担当ウマ娘だったしなぁ。
「安心して。おまじないを教えるのは最終手段だから」
「その最終手段が使われない事を祈る……」
……まあカフェ式のおまじないは簡単には霊障が起こるようにはしてないって言ってたし、変な事にはならないか。
――そんな風に考えていたが、この時俺は知らなかった。
噂と言うものはヒトに伝播していくうちに変質していくモノ。それがマヤノが教えたおまじないにも当てはまったせいで元のモノとは違うおまじないが流行。そのせいで再び霊障が発生し、緊急招集した寺田&カフェと共に霊障解決のために戦う羽目になる事に……!
〇フジキセキルート エンターテイナー×2が往く
「なぜでこうなったんだろうな……?」
「それは仕方ないんじゃないかな?」
トレセン学園のグラウンド。その隅っこで天を仰いでいるとフジが苦笑して返した。そんな俺たちの目の前では、明らかに学園関係者じゃない奴らがカメラやらマイクやらを運び込んだり、何人かが集まって難しそうな顔で議論をしていたりと愉快な事をしてやがる。そしてそんな様子を学園のウマ娘やトレーナーが遠巻きに見物していて、結果的にちょっとした騒ぎになっちまっている。
「この映画の題材的にも撮影をここでするのは当然だし」
「そこは良いんだよ。レース関係の映像を撮る時に、学園がグラウンドを貸し出すとかよくあるし」
事の始まりは、ある映画監督(中堅レベル)が映画、それもウマ娘とトレーナーを題材にした恋愛映画を作ろうと企画した事。まあこういった話はよくある事だろう。題材的にもメジャーだし、大まかなストーリーも変に捻っていない王道。
トレセン学園側もレースを変に貶めるような内容でもないし、学園内で変な事をするようなモノじゃないから、サクッと撮影の許可を出している。
ここまではいい。全く問題ない。
「私としてはここで撮影するのは楽しみなんだ。卒業生が女優になって帰ってきて母校で撮影するなんて、ここの皆を最高に楽しませられるからね」
「ゆーて、お前は撮影関係なしにちょくちょくと来るだろ」
「それはプライベートだからね。やっぱり仕事として来るのとは違うよ」
「さよか」
で、映画の主役が、レース引退後に女優をやっているフジなのも問題ない。ちゃんと仕事があるってのはいい事だ。
あと撮影場所であるトレセン学園は、俺と現チーム・デネボラの様子を見るって事で週一ペースで来ている場所でもあるから、変な緊張はしないだろう。最悪俺のフォローも入れられるのもグッドだ。
――問題は、だ。
「でだ」
「うん」
「……なんで俺まで出る事になったんだ? しかも主役クラスで」
なぜかド素人の俺がメインキャスト、しかも作中主人公役のフジとくっつくトレーナー役として出演する羽目になったって事なんだよな!
「恋愛映画なんだから、普通はイケメンの俳優が出るはずだろ。何があったんだよ……」
「終盤の盛り上がりのために、安田記念の事件を盛り込んだせいだね」
「また典型的なのをねじ込んできたな」
俺がフジを守った安田記念記者会見襲撃事件とその後の安田記念の結果だが、あまりにも話が出来過ぎているって事で、よくレース関連のエンタメに流用されていたりする。今回の映画もそれに乗っかったようだ。
「当然、記者会見でトレーナーが私を守るってシーンがあるから、それが出来るヒトを集めようってオーディションをしたんだ」
「まあそのシーンやるなら、ある程度アクションが出来ないといけないしな。で、結果は?」
「皆不合格だって」
「いや、流石にそんなことないだろ。俺の時と違って飽くまで演技なんだから、それっぽい動きをするだけだし」
「それが監督の注文で実際に投げ飛ばせないとリアリティがないって言い出して、実際に犯人役のウマ娘さんが体当たりしてテストしたんだって」
「唐突に無茶振りするのやめたれ」
それ普通に死ねるヤツやん。そりゃオーディションに来てた俳優全員落ちるわ。
「でもこのままじゃ撮影も出来ないから、『主人公が事件の当事者だし、この際相手も当事者にしませんか?』って言ってみたらOKが出たんだ」
「そして発案者お前かよ」
そして唐突なカミングアウトよ……。ちょっと仕事手伝ってってお願いされたからOKしたけど、これちょっとどころじゃねぇよ?
「そもそも論、演技なんてやった事ないんだが?」
「そこはいつもと同じようにおしゃべりすればいいだけだから大丈夫だよ」
「映画の撮影なのにそれでいいのかよ……」
「監督からOKが出てるよ?」
「それでいいのか監督……」
頭痛くなってきた。そんなやり取りをしていると、「お二人ともお願いします!」と遠くから俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。マジでやるしかないらしい。
「出番だね。まずは主人公のトレーニングを指導するシーンだけど。大丈夫かな?」
「大丈夫もなにも、指導はアドリブでとしか書いてなかったんだが?」
「ああ、そこは私が現役時代と同じようにトレーニングをするから、それを今までのように指導してくれるだけでいいよ」
「無駄にリアル志向」
「それじゃあ行こうか、『トレーナーさん』」
「しゃあない。厳しく行くから覚悟しろよフジ」
こうして俺の思わぬ戦い()が始まった!
〇シリウスシンボリルート だから趣旨から外れんな
都内某所のちょっとしたビルの一角にて、俺たちは二人揃って黄昏ていた。
「……なあ」
「……なんだよシリウス」
「……ウチの会社が作ってるのって何だったか覚えてるか?」
「…………主にトレーニング機器だな」
学園を退職した後の話なんだが、シリウスに誘われて一緒にベンチャー企業を立ち上げる事になったんだったな。扱ってるのは主にウマ娘用のトレーニング機器やウマ娘関連の福祉用具の開発と販売。シンボリ家の名家パワーとうまぴょい互助会の横のつながりをフル活用しているお陰で、それなりにやっていけているのが俺たちの会社だ。
「そうだな。そうだよな。……なら一つ訊くぞ」
「ああ……」
「……………………なんでこんな所にロボットなんてあるんだよ」
そんな会社の研究開発室として割り当てられた部屋に鎮座するは、色々とコードやら何やらが繋げられている等身大の人型、それもご丁寧にウマ耳とウマ尻尾がついているウマ娘型のアンドロイドの姿が!
「お待ちしておりましたお二――あああああああ!?」
「よーし、今すぐ説明してもらおうか」
「碌でもなかったらジャーマンな。あとアンドロイドを作りたかったとかだったら、ツープラトンでパイルドライバー」
「今すぐ説明しますからツープラトンでアイアンクローなんて変な事するの止めてぇええええええ!?」
とりあえず開発主任のウマ娘ヒートランドを締め上げたけど、話だけは聞いてやろう。
「あー痛。……えー、説明します。我が研究開発部は現在ウマ娘用の義肢を開発しています」
「そうだな」
義肢ってのも福祉用具に入るからウチの会社の分野だ。特にウマ娘用の義足なんかは、走るとウマ娘のパワーに耐えられないって事がちょくちょくあるから、ビジネスチャンスとして研究している。
「目標は全力疾走にも耐えられる義足だったな」
「ああ、俺がねじ込んだ奴だな。流石に努力目標って事にしたけど」
「はい、それが問題なんです」
「どういう事だ?」
首を傾げるシリウス。俺も話が見えん。
「試作品は作れたんです。ただテストをしてくれるウマ娘がいないんです」
「すまん。よー分からん」
「具体的には試作品故に走っている途中で、ウマ娘のパワーに耐え切れずに壊れるリスクがあるんです。それを怖がって誰もテストしてくれないんですよ」
「なるほどな。全力疾走中に壊れた日には大怪我必死か」
「その通りです」
ああ、そういう事か。確かにそりゃ誰もテストなんてしたくないわ。
「そこで考え方を変えたんです。テストしてくれるウマ娘がいないなら、テストしてくれるウマ娘を作っちゃえばいいんだって」
「その結果がアンドロイド作るとか、頭どうなってんだよ」
流石元URA開発五課のメンバーだ。行動力がぶっ壊れてやがる。なお、ウチの会社の開発部には、ボチボチと開発五課から流れた来た人材がいる上に、そいつらのノリが他の開発メンバーにも感染するもんだから、ウチの開発部は開発五課の亜種っぽくなってるのが、目下の悩みだ。
「でもアンドロイドなら思いっきりテスト出来ますし」
「そーだけどさー」
「そもそもアンドロイドなんて簡単に作れてたまるか」
「ああいえ、元々開発五課時代にサトノと合同でアンドロイドのボディの研究をしていたので、それを思い出しながら作りました」
「思い出しながらで、ここまで作れるお前らが怖いんだが」
ホント元開発五課って技術面だけなら優秀なんだよな。その他が全部帳消しにしているけど。
「ただここまで作ったはいいものの、問題が見つかったんです」
「……ほー、具体的には?」
「ウチのメンバーってハード開発は得意なんですけど、ソフト系が微妙なんですよね。だから歩かせるのは出来るんですけど、走るとなると直ぐに転びます」
「意味ねぇなオイ」
テストのために作ったアンドロイドがテストで使えないとか、何のために作ったんですかねぇ。
「と言う訳でシリウスさん! 今度はアンドロイド用AIの開発予算をお願いします! これでテスト機、ひいてはウマ娘パワーを持つ凄いアンドロイドが完成――」
「やっぱりロボットを作りたかっただけじゃねぇか! 行くぞ!」
「おう! せーの!」
「待って待って待って――ぶふっ!?」
とりあえず予告通りツープラトンでパイルドライバーをかましておいた。
――なおこれのせいで後にURAやサトノと提携したり、アンドロイドボディに移った三女神AIが現実世界で指導したり走ったりする姿が見られるようになったりしたのは、別のお話である。
〇エイシンフラッシュルート フラッシュ先生とマッチョ助手のパーフェクト恋愛教室(仮)
「店閉めたぞ」
「ありがとうございます」
駅やバス停のような交通機関からはやや離れているものの、トレセン学園から程よく近いという、良いのか悪いのかよくわからない立地のケーキ屋。店長フラッシュ、副店長俺による本格的なドイツのケーキが味わえるケーキ屋として、トレセン生を中心にそれなりに繁盛しているこの店に、フラッシュの元ルームメイトのスマートファルコンがやってきたのは、閉店3分前の閉店準備真っ最中の時だった。
「それでファルコンさん。相談と言うのはなんでしょうか?」
久々に会った――といってもフラッシュの方はちょくちょくと会ってるらしいが――ファルコンが来店一番に口にしたのが、フラッシュと俺への相談したいとの事。知らない仲でもないし、話を聴く事にしたんだがその内容は……
「うん……、実はトレーナーさんの事なんだけど……」
「トレーナー? つーと、あのファン一号か。今は非公式チームを受け持ってるんだったよな」
「うん」
トレセン時代の伝手とうまぴょい互助会の力をフル活用した結果、ウチの店は定期的に学園向けの低カロリースイーツを卸してる。そんな訳である程度学園の事情ってのも把握していたりする。
「ファルコンさんのトレーナーさんと何かあったのですか?」
「……実はこの前のライブでトレーナーさんが来てくれたんだけど」
「元担当によーやるねファン一号」
「…………トレーナーさんの隣に担当の子がいて、しかもトレーナーさんに抱き着いてたの」
「……」
「トレーナーさんは担当はいい子たちばかりだって言ってたけど、ライブに来てた子だけじゃなくて、皆明らかにトレーナーさんを見る目が熱くって……。私どうしたらいいかな……?」
『あぁ……』
思わず二人して頭を抱えちまった。これ担当たちから完全にロックオンされてる奴じゃん。しかも本人が気づいてないって事は、担当たちが裏で暗闘してるっていう、気付いたら手遅れになってるってパターンだ。
「……とりあえず、ファルコンさんに一つ言わなければいけない事があります」
「え、なに?」
「さっさと告白しないからこんな事になっているんですよ」
「う……」
なお話の流れから分かるように、当然ファルコンは元トレーナーに告ってない。
「で、でも、私ウマドルだから――」
「そんな言い訳をしていつまでも逃げているから、横からトレーナーを盗られそうになっているんです。それを自覚してください」
「うぅ……」
フラッシュの圧が強い強い。自分が上手い事やったってのもあるだろうが、前々から忠告してたのに友人が変わらずアホやってた結果がこれなんだから、そりゃ怒る。
「まあ、とりあえずまだ暗闘期だから、まだ何とかなるのは救いか?」
「そ、そうだね! だからまだ――」
「しかしこれまでの様にうじうじしていたら確実に盗られますよね?」
「そりゃな」
「う……」
悪い意味で安定してるだけだし、いつ喰われても可笑しくないのが現状だな。
「ただここで焦ってファン一号に変なアピールをかますと、触発された担当たちが暴発するって可能性もあり得るんだよな」
「確かに。担当ウマ娘たちからすれば、今のファルコンさんは唐突に生えてきた合法的にトレーナーを狙えるウマ娘ですからね。泥棒猫に盗られる前にと、担当たちが焦ってトレーナーとのうまぴょい(防衛)を狙って来る可能性は十分あり得ますね。仮に私の時にそんなことがあったら、チーム全員が確実にぴょい(先制)を狙いに動いていました」
「……それ動機が変わっただけで、結局鬼ごっこ(速攻)やってたって事か?」
「当然です」
「即答しないでくんね?」
動機がシリアスでよかった……。
「じゃあどうしたら……」
それはともかく曇るファルコン。ファン一号の置かれている状況のヤバさは理解できたようだな。
「簡単な事です」
そんなファルコンに対して、フラッシュは極めて冷静のままだ。そして己の案をハッキリと告げる。
「さっさと告白して、そのまま押し倒して三日三晩うまぴょい(初物)してください。これで大体イケます」
「えぇ……」
なおその作戦は脳筋仕様な模様。
「担当たちにアクションを取られたら負けです。ですのでファルコンさんが勝つには、電撃戦しかありません」
「ねえフラッシュさん、私雰囲気とか大事にしたいだけど……」
「もうそんな余裕なんてありませんので、速攻で決めて下さい。あと、この作戦で一番重要な所はうまぴょい(空襲)ですので、そこだけはしっかりと決めて下さい。大丈夫、三日三晩ぴょい(強襲)すれば相手は逃げられませんから」
「俺の方を見ながらそれ言うの止めよ?」
実際、鬼ごっこ(走)で捕まった後に、マジで三日三晩ぴょい(敗北)しちまったけどさ……。いやホント、ウマ娘とのぴょい(熱)ってエグわ……。
「ああ、いっその事お酒の力を使うのもありですね。担当ウマ娘に邪魔されないようにファルコンさんのお宅で宅飲みに誘い、トレーナーがいい感じに酔った所で告白しつつうまぴょい(酔拳)。これです」
「ねえ、本当に大丈夫なヤツなのかな!? 色々な意味でアウトだと思うよ!?」
「大丈夫問題ありません。餞別として、いいドイツワインを持っているので差し上げます」
「ねえマッチョさん! フラッシュさんを止めて!?」
縋るような目で叫ぶ赤鬼さん。でもすまない。
「こうなったフラッシュは止まらないから、諦めろ」
「ちょっと!?」
「あと、お前が勝つにはマジで電撃戦しか手がないのも事実だしな。ファン一号を盗られたくないんだったら、本気で頑張ってこい」
「さあ、今すぐトレーナーさんを自宅に呼んでください」
「色々な意味で怖いよこの夫婦!?」
――その後、焦れたフラッシュがファルコンのスマホを強奪してファン一号にメッセージを送り強引に宅飲みをセッティング。こうしてフラッシュ発案の対ファン一号篭絡作戦が始まるのだった――!
次回、シリアスはいない最終回IFルート!(最終回と銘打った癖に、早速破っていくスタイル)
ちょっとしたオマケ 重馬場ネタに昇華出来なかったシリウスといく八丈島旅行編
〇それが出来るからって、それをわざわざ率先してやる必要があるかは別問題
「やっと着いたな」
「だな。しっかし、移動に普通の定期便を使ったのは意外だな。てっきりシリウスがセスナでも運転するかと思ってた」
「なんでアンタがガイドの観光なのに、私が運転しなきゃいけないんだよ」
「ぐう正論」
「それよりも、トレーナーの実家用の土産はそれでいいのか?」
「ん? 変か? 今日のために結構お高い酒買ったけど」
「だからって買いすぎだろ。なんで一升瓶5本も持ってきたんだよ」
「爺ちゃんもばあちゃんも酒好きだからな。これでいいんだよ」
「そうか」
「後、他にも寄る所があるんだけど、これがあると便利なんだよ」
「便利……?」
〇レッツ根回し!
「折角だし観光名所とか行ってみるか?」
「そういうのは興味ないな」
「一応観光地でそれってどうなんだ……? まあいいや。んじゃ適当に――って、あれは」
「どうした?」
「知り合いだ。おーっす、多田野さん。久しぶり」
「はい、どうし――げっ、武藤君……!」
「第一村人が警官な上に、露骨に嫌な顔をされるとか、アンタ何やらかしたんだよ……」
「このヒト昔からここで警官しててさ。師範とヤンチャした時には、よくお世話になった」
「君はあの空手師範と違って、注意しにくい状況で大暴れするから厄介だったよ……。って、隣にいるのは……」
「俺の連れ」
「観光客だ。このマッチョはガイドな」
「いや、君たちレースウマ娘とそのトレーナーでしょう。教師と教え子が旅行ってどうなんだい……?」
「何か変か?」
「シリウスも大分トレセン学園に毒されてんな……。普通、プライベートで教師と教え子が旅行するってないからな?」
「ああ、そういうもんか」
「……これは話を訊かないと――「つー訳で、多田野さん。お土産(名目)どうぞ」――二人ともゆっくりと観光していってくれ。ああ、何かあったら私に頼ってくれても構わないよ」
「速攻で買収されてんじゃねぇか」
〇世の中頭がぶっ飛んだ奴はいる
「漁港か。今は水揚げ作業の最中だな」
「ここはバイトでよく行ってたな。お、浜城さんじゃん、お久しぶりです」
「よー、武藤の坊主か。久しぶりだな! って、この嬢ちゃんどうしたんだよ」
「コイツの身内だ」
「いや連れだから……。そういや師範は元気してます? まあ、あの爺さんはピンピンしてそうだけど」
「ああ、ピンピンしてるぞ。この間も阿呆な密猟者をシバくのに俺たちの先陣を切って突貫していってたな」
「相変わらずだなぁ……」
「部外者いるのに、躊躇いなくヤバそうな事を言い出すのを止めろ」
「ゆーて、漁師ってそこら辺のヤバい奴連中より荒ぶってるもんだし」
「さも常識のように言うな。てかさっきも気になったけど、その師範ってどれだけヤバいんだ」
『格闘バカ』
「ハモんな」
「俺が道場に通ってた頃は、稽古って事で月一で山で夜戦稽古とか言ってサバイバルやってたな。真っ暗な中で容赦なく急襲してくるから、最初はボコボコにされたな。まあ割と直ぐに慣れたけど」
「そんなモンに慣れるのは坊主位だからな……? ああそういえばあの爺さん、昔は日本行脚して有名な格闘家に喧嘩を売りまくってたって言ってたな」
「どれだけヤバいんだ、その師範って奴は……」
〇時として非道も走れ
「で、ここが件の師範がいる空手道場か。……随分とボロいな」
「貧乏だからな。っと、ちょっと下がってろ」
「どうし――「待ってたぞバカ弟子ぃいいいい!」変な爺さんが飛んできた!?」
「っ! オラァ!」
「カウンターが甘い! そらもう一本!」
「アブね!? 躊躇いなく地獄突きすんじゃねぇ!? そもそも今日は稽古に来たわけじゃねぇんだぞ!?」
「動きが見るからに鈍っとるだろうが! あと師匠にちったあ敬意を払え!」
「それは敬えるような事をしてからほざけ!」
「話に聞いてたが、色々とヤベェな……。おいトレーナー、どうすんだ」
「普通にやってたらこのジジイ止まらないからな。だからこれを持ってきた」
「……それお土産の酒だろ」
「これが使えるんだわ。――師範ストップだ! これ以上続けるんなら、こいつを叩き割る!」
「!? ちょっと待て!?」
「まさかの人質かよ」
「酒飲み相手にはこれが効くぞー。しかもコイツはお高い奴だから効果倍増だ。ほーら、お手玉しちゃうぞー」
「やめろおおおおおおぉおお!?」
〇ルール無用って言っても、マジモンでルール無用になる事って少ない
「で、武藤よ。このウマ娘の嬢ちゃんはどうした。嫁か?」
「ああ、嫁だ」
「躊躇いなく乗るなよシリウス……。俺が担当している子だよ」
「なんだそうなのか。だが格闘の道を捨ててウマ娘のトレーナーになるとはな。何があった?」
「……ちょっとな」
「ふん、まあいい。それより問題はトレーナーなんぞやっているせいで鈍っている方だ。ウマ娘相手とはいえ、素人相手にやられ過ぎだ。久しぶりに山籠もりでもするか」
「んな暇ねぇよ。今回は一泊二日だ」
「ちっ。ならウマ娘の嬢ちゃんは――」
「やる訳ねぇだろ。後、そもそも当然のようにウマ娘相手に勝って当然ってのは、認識がバグってないか?」
「素人相手ならワシでも倒せるし、武藤にもそれくらい出来るように仕込んでおいたわ」
「それルール無用スタイルの話だろ……。師範と違ってやりすぎると担当たちにまで迷惑かけちまうから、ヤバい技は使えなかったんだよ」
「……待て。もしヤバい技を使えたら、完勝で来たのか?」
「いや完勝は無理だな。とはいえ目潰しを解禁出来てればもうちょい楽だったか?」
「犯罪者相手にざわざわ加減してやる必要もないだろうに、このバカ弟子め」
「師範と違って、俺には社会的な縛りがあるんだよ」
「………………常識ってなんだろうな」
〇天丼仕様
「やっとトレーナーの実家に到着したけど、もう夕方じゃねぇか」
「まあ、飯食ったり俺が世話になった人の所に挨拶に行ったりで遅くなったしな」
「普通、実家なんて最初に行く場所だろ」
「いやまあ、普通はそうなんだけどな。今回は夕方、てか夜の方が都合がいいんだよ」
「?」
「まあ、見てろって。ただいまー「真ー!? やっと帰ってきたか!?」おう、今帰ったぞ」
「帰ったぞじゃねぇ!? 昼前に来て出荷作業手伝えって言っといただろ!?」
「おう、聞いたぞ。だから出荷作業が終わる夕方に来たんだ」
「おい!?」
「……あー、そういう事か」
「名目上客を放っておく訳にもいかないしな。あと爺ちゃん、そんな怒んなって。代わりにこれ持ってきたからさ」
「――高級地酒か! く、仕方がない、今回は見逃しちゃる……!」
「おい、この光景何度目だ。そしてどんだけ酒飲みが多いんだよ」
〇シリウス「いい懐柔手段だな」
「騒がしくてごめんなさいねー、シリウスちゃん」
「ただいま、ばあちゃん」
「ウマ娘?」
「ええ、私もウマ娘よ。貴方と違ってレースはしてなかったけどね」
「おい、そんな話聞いてなかったぞ?」
「そりゃ言う機会とかなかったし」
「所で真ちゃん? この子とはどこまで行ったの?」
「いや、ただ単に俺の担当――「嫁」ここぞとばかりにそんな事いうの止めよ?」
「んー、どっちかしら?」
「だから――「嫁だ」「ありがとう。うん、お嫁さんね」俺が持ってきた酒を差し出しながらいうの止めろ。そしてばあちゃんも受け取った上に納得するな」
「お布団一組敷いてあるけど、枕をもう一つ追加しておくわね」
「助かる」
「やめよ? ばあちゃんノリで動くのやめよ?」
〇武藤「よく考えたら、殴り合いばっかしてんな」
「アルバム?」
「そう、アルバム。折角だし、シリウスちゃんに見せようと思ってね」
「そういえばばあちゃん、よく写真とか撮ってたっけ」
「へぇ、興味あるな」
「懐かしいなー。あ、これ小学生の頃に上級生が突っかかってきたから、反撃で全員ノックアウトした時の奴だ」
「初手がこれかよ。懐かしいで済む内容じゃないぞオイ。ピースサインしている後ろが死屍累々じゃねぇか」
「次は――おー、真が中学生の時にやった剣道対空手の異種格闘戦だな!」
「トレーナーと爺様が竹刀持ってる相手に戦ってるシーンなんだが……。しかもまた後ろが死屍累々だし。何でそんな事やってんだよ」
「師範がノリで近場の剣道道場ケンカ売ったせいだったな。あの後多田野さんに怒られたっけ」
「そういえば真、あの剣道道場はお前が家を出て暫くしてから潰れたぞ」
「あ、そうなん?」
「素手の相手に負けるような剣道道場なんて風評が付けばな」
「あー、そりゃそうだ。で、次が……、あーこれ本土から出張してきたカルト宗教の時のか」
「真ちゃんが高校の時の事ね。あの時は勧誘がしつこくて大変だったわ」
「しかも入信しないからって、俺に襲撃かけてきたんだよな。あん時は、相手がわざわざ鉄パイプまで持ち出して来てくれたから、加減無しでぶん殴れた」
「その後は、ノリと勢いと鬱憤払しで師範も呼んで三人で襲撃したっけな。懐かしい」
「……で、その結果がトレーナーと爺様と師範が肩組んでる写真か。よく見ると後ろで倒れている奴の腕とか足が変な方向を向いてるんだが……」
「これの後始末は、浜城さんを始めとした漁業組合の人たちがやってくれたんだったわね。あの時は助かっちゃった」
「……とりあえず、トレーナーの強さの根本が分かった気がする」
〇脇道が終わり、本道へ
「真、もう行くのか」
「一泊しかしてないじゃない。もう少しここにいていいのよ?」
「ゆーて、仕事があるからな。あと、もう一泊しようとしたら花の世話までやらされそうだし」
「ちっ」
「露骨。んじゃ、行くぞシリウス」
「ああ。世話になった」
「またいらっしゃい、シリウスちゃん。あの子の事お願いね? あの子一度危なっかしいから」
「ああ」