マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

11 / 107
チャンミの内容が発表されましたが、、リアル事情も加味すると詰めるのは難しそうなので、マイペースでやろうと思います。


8話 次善策が安全策とは限らない

 で、相談を受けて二週間と少し経ったんだが……、

 

「だ、ダメか……」

 

 エアグルーヴの絶望したような呟きが虚しく響いた。

 頑張った結果? うん、やっぱり無理だったよ。ミニライブ開催まで後三日なのに、少ししか体力が付かなかった。

 

「これほどの難題だったとは……」

「樫本トレーナーも頑張ってるんだけどなぁ……」

「私がもっと付きっ切りでいられたら……」

 

 この結果には、対策会議って事で俺のトレーナー室に召集されたエアグルーヴやビターグラッセ、リトルココンも頭を抱えている。因みに当の樫本さんはミニライブの打ち合わせのために不在だ。ついでに連日の運動&明日から短期間の出張という事情により先程行われた最後の通し練習で踊り切れなかった事にショックを受けてフラフラになっているため、グラッセとココン以外のチーム・ファーストのメンツが視察&フォローのためについて行っている。

 

「歌は問題はなし。ダンスも苦労したが樫本トレーナーの努力のお陰で間に合った。だが問題の体力面が解決できなかったか……」

「一曲だけなら踊り切れるようになったんだよ。でも二曲目になると……」

「どうしても二曲目の中盤で体力が尽きて転んでしまうわね。最初は一曲目が踊れるか踊れないかだったから、進歩はしているけど……」

「二曲目を踊り切れてない時点でアウトなんだよなぁ」

 

 3人が回想した通り前より体力はついたんだが、規定量にまで届いていないのが現状だ。そして残り三日で不足分を追加させるのはどう頑張っても無理だ。

 

「本当に申し訳ない。こんなことになったのは、主導した俺の責任だ」

「馬鹿者。今回の件は貴様に責任はない。貴様も最初から厳しいと言っていただろう」

「そうですよ。毎朝のウォーキングも食事も、樫本トレーナーの体力を考えて出来る限りのメニューを作ってくれたじゃないですか」

「お陰で一曲は確実に踊り切れる体力をつけられたし、効果は確実にあったわ。多分このままのペースなら二週間したら二曲通して踊れたはずよ」

 

確かに後二週間あれば樫本さんに十分な体力を付けさせられただろう。だが現実には二週間も時間を取れない訳で……。

 

「改めて別の方法を考えないとなぁ」

 

 正攻法が失敗した以上、何か別の手で不足分を補う必要がある。だが、

 

「別の方法といっても、何かあるのか? 言いたくはないが、他に方法がないから貴様に泣きついてきたんだぞ?」

「泣きついたって……。いやあってるけどさ」

「いや、少なくとも二曲目の途中までは踊れる分、選択肢は増えた……はずだ」

 

 実際一曲目を考えなくていいのは大きいし。

 

「二曲目の半分までは行けるんなら、今なら曲と曲の間にトークショーを入れて休む方法とかいけるんじゃないか?」

「確かに体力は上がったけど、一曲終わった時には今でも息が乱れていたよ。多分無理」

「それに短時間で二曲目を踊り切れる程体力を回復できるか未知数ね」

「やはり、体力のなさがネックになるな……。樫本トレーナーが後半だけ踊るように演出を変更するのはどうだ? 過去のライブの事例にもそういったモノがあったはずだ」

「確かに体力は持ちそうだけど、今からダンスの内容を変えるのは無理があるんじゃないかな?」

「今からダンスを覚える時間はないわね」

「それに後半から出る演出って事は、相当派手な演出じゃないといけないだろ? そうなるとダンスも相当派手になるから、多分時間があっても体力的にも技量的にも樫本さんには無理。……いっそのこと、俺が代理で出るか?」

「部外者の貴様がライブに出てどうするんだ」

「ブーイング確定だね」

「なら、樫本さんの体力が切れそうになった時に俺が乱入して場を引っ掻き回せば」

「だから貴様が出る案から離れろ」

「武藤トレーナー、もしかしてレスラー時代の感覚に戻ってないかしら?」

 

 後半俺へのツッコミになったのはともかく、代案が尽くボツになってしまっている。このままだと冗談抜きでヤバい。

そんな焦りが積もり始めていた時、トレーナー室の扉が開いた。

 

「よおトレーナー、ちょっと付き合え……って、ここはお通夜の会場か?」

 

 入ってきたのは先日レースを終えて休暇中のシリウスシンボリだった。

 

「シリウスか。あれだ、察しろ」

「ああ、あの無茶振りの結果がこれか。アンタに大して利もないのにここまで悩むなんざ、相変わらずお人好しだな」

「せやな」

「シリウス先輩。そこまで言う事は――って待て、そんなあっさりと頷くな」

 

エアグルーヴは反論してるが、シリウスの言ってることも合ってるからな。

 

「大方体力を付けられなかったって所だろ? もう無理だろ」

「う……」

「それは……」

「……」

 

 全員の頭の中にあったが場の雰囲気的に言いにくかった事をアッサリと口にするシリウスに、ビターグラッセ、リトルココン、エアグルーヴが言いよどむ。

 

「諦めてワンチャン樫本トレーナーの根性に賭けたらどうだ?」

「それって失敗確定なんじゃ……」

「いやー、ぶっちゃけ最終手段がそれだったりするんだよな。樫本さんって根性は結構あるから、踊り切れる可能性はある」

「……踊り切れる確率はどのくらいかしら?」

「……一桁%って所か?」

 

 天を仰ぐグラッセとココン。まあそんな反応にはなるよな。

 

「待て、流石にそれは不味い」

「なら、いっその事、上からロープでも吊ってアンタが人形劇みたいに操作したらどうだ? アンタの筋肉なら行けるだろ」

「シリウス先輩、もう少し真面目にやってください」

「やれなくもないが、それは流石に客にバレちまうな」

「出来なくもないんだ……」

 

 ドン引くなよグラッセ。樫本さんってかなり痩せてるし、俺の筋肉なら多分行けるぞ。え、普通の人は出来ない? 筋肉が足りないんだよ、筋肉が。

 

「……もしかして観客にバレなければ選択肢に入ったりするのかしら?」

「せやな。樫本さんには歌に集中してもらって俺とエアグルーヴとシリウスの三人態勢で操れば行けるだろ」

「たわけ、樫本トレーナーを何だと思っている」

「しれっと私を数に入れるな。んな事やる訳ないだろ」

 

 担当バ二人から思いっきり拒否られた。まあ、この案はロープが丸見えだからボツが――

 

「いや、待てよ……?」

 

 その時ふと、閃いた。

 この操り人形案は観客にロープが丸見えだからボツな訳で。なら「ロープを使わなければ」問題ないって事になる。

 そして今思いついた案は、少なくとも樫本さんの根性頼りよりも成功確率はずっと高い。やってみる価値は――ある。

 

「……なあココン、グラッセ」

「なに?」

「ん?」

 

 問題は一部のライブ関係者にそれなりの負担がかかってしまう事だが……、鍵になるこの二人ならやれるハズだ。

 

「二人にはかなり無茶をしてもらう事になりそうだが、上手くやれば樫本さんを最後までライブに立たせられる作戦を思いついたんだが……乗るか?」

 

 

 

 

 

 ミニライブ当日。ショッピングモール内に作られた小さなライブ会場。

 

「~~~~~~!」

 

 私は観客に見守られながら、チーム・ファーストのメンバーと共に歌い、そして必死に踊っていた。

 今は二曲目の前半。一曲目で観客の心を掴めたのか、観客たちのボルテージは上がっている。このまま何事もなければ、ライブは大成功間違いなしだろう。

 しかしそんなライブの最中であっても、私の心に渦巻くのは焦燥感だけだった。

 

――今回のライブで最大のネックは私だ。

 

 結局、最大の課題であるスタミナ不足を解決できないまま私は本番に挑むことになってしまった。

 一曲目こそ武藤トレーナーとエアグルーヴ、そして担当バたちの協力により得られたスタミナで何とかこなせたが、問題の二曲目では始まったばかりにも関わらず早くもスタミナが切れる寸前まで来ている。本番という舞台のせいで想定よりもスタミナが消耗してしまったのが原因だろう。

 導くべき、いや私と共に歩む担当バたちにみっともない真似を見せる訳には行かない。そんな気持ちを力に変え、気力を振り絞って今は何とか歌い、踊ってはいるのが現状だ。

 

 正直、いつスタミナが切れて動けなくなってしまっても可笑しくはない。一秒がここまでこんなに長く感じるのは初めてかもしれない。

 しかし……ほんの少し、ほんの少しだけそんな思考が巡り、ライブから集中が逸れてしまったのがいけなかった。

 

「っ!?」

 

 慣れないダンスと疲弊、そして思考のズレ。これらが重なった結果、脚がもつれてしまった。

 踏ん張る事が出来ず、身体が倒れ込みそうになる。しかし次の瞬間、両腕を支えられた。

 

「大丈夫ですか?」

「危なかった」

 

 手を差し伸べてくれたのは、私と同じくセンターのポジションにいるリトルココンとビターグラッセ。

 

「二人ともありがとうございます」

 

 ちょうど間奏に入ったので二人にお礼を言う。二人がいなかったら私がライブを壊していたのだから、お礼を言わずにはいられなかった。

 そんな私に二人は小さく笑って返すと、真剣な表情を向けた。

 

「後は私たちに任せて下さい」

「樫本トレーナー。少し無茶をしますが、とにかく歌に集中してください」

「え?」

 

 二人の不穏な物言いに頭に疑問符がよぎった瞬間――私の身体は宙を舞った。

 

 

 

 

 

「マジでやってるのかよ」

 

 ライブ会場になっているショッピングモールの2階吹き抜け。舞台が良く見えるそこで、隣のシリウスシンボリが呆れ顔で一緒に階下で行われているチーム・ファーストによるライブを眺めている。

 

「しょうがないだろ。樫本さんをぶっ倒れるまで躍らせる訳にもいかないし」

「だからって、代案がアレとかどうなんだよ」

 

 階下の舞台ではリトルココンとビターグラッセが樫本さんを挟む形で飛んだり跳ねたりと派手なダンスをしている。その派手さのせいか、観客も大盛り上がりだ。

 ただこのダンス、派手な動きで誤魔化しているが、よくよく見ると両脇のリトルココンとビターグラッセを中心にチーム・ファーストの面々が、樫本さんを強制的にダンスに見えるように振り回しているだけだったりするんだがな!

 

「……ココンもグラッセも、上手い事やれてるな。たった三日でよくここまでやれたもんだ」

「感想そっちかよ」

「しょーがねーだろ、他に手がなかったんだから。多少無理があっても誤魔化すにはあれしか思いつかなかったんだよ」

 

 最初はあの二人も反対したんだが、説得の末にライブが失敗するよりはと了承してくれた。たった三日の準備期間にも関わらず、本番で息の合った連携を見せるチーム・ファーストの面々には賞賛するしかない。

 あそこまでやれるなら、ライブは無事に終わるだろう。俺も肩の荷が下りたってもんだ。

 

「それはそれとして、おもちゃにされているトレーナーの顔色がみるみる青くなってるんだが?」

「樫本さんには何とか耐えてもらうしかないかな……」

 

 ……やっぱり、ライブが無事に終わるようにと祈った方が良いかもしれない。

 

 




チーム・ファーストの面々ですが、筋肉モリモリマッチョマンと交流があったせいで、脳筋理論を受け入れる下地が出来ていたりします。そのせいで、今回の頭の悪い解決方法を実行しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。