マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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耳目之欲(じもくのよく):実際に聞いたり見たりすることで生まれる欲望の事。


幕間4 8・5話 耳目之欲 シリウスシンボリ・オリジン

 樫本さんの悲惨さに見ていられなくなってさっさと切り上げて、シリウスシンボリと共にショッピングモールにあるグルメバーガーが売りのレストランに移動。折角なので遅めの昼食と洒落込むことになった。グルメバーガーってのは聞いたことはあるが中々豪華だ。その分お高いが。

 

「たまにジャンクなものを食うと滅茶苦茶美味く感じる……」

「アンタ普段は茹でた鶏肉と野菜ばっかだしな。だが意外だな」

「何が?」

「アンタはこういったモノは食わないと思ってたんだが」

 

 シリウスの視線が俺が齧っているハンバーガーに向けられる。まあ確かに俺の普段の食生活を知ってれば異様だな。とはいえ、これにも事情はある。

 

「いや、いくら普段ストイックな食生活をしてるからって、人と飯を食う時位は空気を読んでメニューを選ぶぞ?」

「そんなもんか」

「その上で筋肉に良いモノを選ぶようにしているけど」

「ああ、それでポテトは抜いてるのか」

「揚げた芋は脂質と糖質の塊だからな。筋肉の天敵だ」

 

 自分のエゴを押し出したら、他人がそれを不快に感じてるってのはよくあるからな。てか実際やらかした。

 

「同僚と飯食いに行ったときに、サラダばっか食ってて怒られたことがあってな。それ以来空気は読むようにしてる」

「なるほど、経験で得られた教訓ってやつか。――ならアンタの観察眼も何かで培われたものなのか?」

「あん?」

 

 唐突に出てきた単語に思わず首を傾げる。

 

「観察眼? 何のことだ、シリウス?」

「アンタよくトレーナーが付いてない生徒に声を掛けてるよな」

「よく合同訓練に誘ってる連中とかか?」

「ああ。そしてアンタが連れてくる連中ってのは、全員が大なり小なり問題を抱えている」

「そうだな。そういった生徒を中心に声を掛けてるし」

「そうだ。アンタはそういった奴らを合同訓練に誘っている。それもリハビリ目的の怪我人だけじゃなくて、メンタル面で問題を抱えている奴もな」

「まあ、そうだな。むしろメンタル系の生徒を中心に声を掛けてる」

「……さも当然みたいに答えちゃいるが、滅茶苦茶な事をしているぞ? 怪我人ならともかくメンタルに来てる奴を大した交流もナシに的確に拾うなんざ普通の奴は出来ない。何なら寮長サマもその口だって聞いたぞ。寮長サマには偶に世話になってはいたが、精神的に追い詰められていたなんて私も気づかなかった」

「あー……」

 

 シリウスの説明を聴いてよくわかったが、つくづくキモイムーブしてんな俺。とはいえ、これについてはプロレスラー時代での経験が生かされているだけだったりする。

 

「言っちゃなんだが、メンタルに問題がある奴、正確には現状に焦ってる奴ってのは、レスラー時代に何度か見た事があるからな。お陰で何となくわかるんだよ」

「何度も見た事がある?」

「そ。面白い話をしてやろうか。プロレスラーってのはある意味競走バと似ててな。プロレス団体に所属できても即デビューって訳じゃない。そこで練習を重ねて一定のレベルになったらやっとデビュー出来るんだ」

「ああ、確かに私たちと似ているな」

「で、そんな環境にゃ周りと比べて実力不足なせいで不安を抱えたり、周りや家族からの期待やらでプレッシャーがかかっている。そんな奴ってのは決まって無理して頑張ろうとするんだが、無理が祟って怪我をする奴もいるんだ。そうなるとどうなると思う?」

「怪我の治療をしている内に更に周りとの実力差が開く。そして開いた差を少しでも埋めようと無理をしてまた怪我をする、だな」

「正解」

 

 まさに負のスパイラルだ。悲しいかなあまり長くなかったプロレスラー時代でもこうなって諦めた奴を見た事がある。

 

「因みにそういう奴を簡単に判断できるのは筋トレだな。焦ってる奴ってのは大概オーバーワークしてるし、はた目からでも見分けやすい」

「ほーう」

 

 シリウスは納得した様に頷くと、今度は呆れたように笑った。

 

「……アンタ本当に面白い奴だな」

「そうか?」

「だってそうだろう? そこで助けた奴が将来強力なライバルになって私やアンタの立場を脅かす、それどころか追いやる可能性だってあるんだ。敵に塩を送るってのはまさにこの事だ」

 

 確かに傍から見ればそうとも見れるな。下手すりゃ担当に迷惑をかけるかもしれん。だが、

 

「……怪我なんぞで先のあるガキが潰れちまうのを見たくはないからな」

 

 ため息交じりに吐き捨てる。これは混じりっ気のない本音だった。

 

「随分とお優しい事だな」

「ただのわがままだ。シリウスが言ったようにお前らを脅かす奴だって出るかもしれん」

 

 そんな時は容赦なく俺を切り捨てろとは、担当たちにも言い聞かせてある。自分のエゴによる担当への被害は最小限に留めなきゃならない。

 

「安心しな。アンタを切り捨てるつもりなんてない」

「自信満々じゃねーか」

「当然」

 

 シリウスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「私は負ける気なんてないからな」

 

 

 

 

 

 目の前の筋肉ダルマなトレーナーだが、私がスカウトされる前から噂は耳にしていた。

 

『女帝のスタンドが伸び悩んでいたり、怪我をしたウマ娘ばかりに声をかけまくっている』

 

 これを聞いた時はそこまで興味はなかった。女帝様も似たようなことをしているのは知っていたし、女帝の鎚だかスタンドだかで呼ばれているトレーナーもそれに歩調を合わせているだけだと思っていた。

 そんな私が件の鎚と会う事にしたのは、私が面倒を見ている足のケガをしている奴から聞いた話だった。

 

「結構面白い人でしたよ。それにリハビリメニューまでもらえました」

 

 なんでもグラウンドでぼんやりとしていたら、噂に違わず声を掛けられたという。最初こそ警戒はしたのだが、相手も慣れたモノらしく話してみれば話は弾んでいて、別れ際に即席で作ったリハビリメニューを渡されたとの事だった。私もそのリハビリメニューを見てみたが、どれも基本的なものではあるが中々にそいつに的確なメニューが書かれてあった。

 

 なるほど、噂は本当らしい。件のスタンドがどんな奴なのか少し興味が出てきた。

 

 思い立ったが吉日。連れが世話になった礼を兼ねて、実際に会ってみる事にした。

 なんでも偶に花壇の世話をしているとの噂は聴いていたので、試しに行ってみたら本当に特徴的な筋肉ダルマが花の世話をしていた。しかもその姿が嫌に様になっていて中々にシュールな光景だった。

 それはともかく軽く話してみたが、なるほど確かに中々愉快な奴だった。中央トレセンのトレーナーと言えばエリートって事でお堅い奴が多いが、コイツの場合元プロレスラーとかいう異色の経歴を経ているせいか、かなりフランクな奴だった。因みに花の世話については、母方の祖父の家が花農家をしていてそこで仕込まれたらしい。

 興が乗った私は少し踏み込んでみる事にした。

 

「アンタ色々と生徒に声を掛けてるらしいじゃないか。それは女帝サマの望みを叶えようって考えてるのか?」

「そりゃないな。あいつが目指してるものとは完全に無関係だ」

 

 即答だった。お陰でそれが本心なのはよくわかった。

 

「なら何であんなことをしているんだ?」

「あー……単純にほっとけないから」

「ほー……」

 

 それも本心そのものなのは直ぐに分かった。ただ同時にこの答えに何か思うところがある事だけは察する事が出来た。

 余計に興味が出てきた。面白いトレーナーを見つけられたのは、大きな収穫だった。

 

 

 そんな私があのトレーナーにスカウトされたのは、ある日私が連れと一緒にグラウンドを占領した時だ。

 騒ぎを聞きつけてやってきた女帝と揉めている最中に、女帝のスタンドが首を突っ込んできて唐突に提案してきた。

 

「ちと条件があるが、定期的にウチの連中と合同訓練しないか? そうすりゃ、合法的にグラウンドを占領出来るぞ」

 

 ……正直最初は何を言っているの分からなかった。(ついでに女帝サマの方も理解出来ない様子だった)

 なんでも元々担当とコイツが声を掛けたウマ娘で合同訓練をしているから私たちが増えた所で問題なく、それどころか実戦形式での練習を考えるとむしろ参加メンバーが多い方が良いらしい。ついでに合同訓練って事にすれば今回みたいにグダグダと揉めることがないとも言ってきた。

 ただ、気になる事が一つ。

 

「へえ、随分と大盤振る舞いじゃないか」

「俺の方にもメリットはあるからな」

「で? アンタがさっき言ってた条件ってのは?」

「ああ、それか。――シリウスとの担当契約」

 

 タダではないとは思ったが、アイツは随分と大きく出てきた。(ついでに女帝サマも顔が引きつっていた)

 なんでも今は女帝サマと寮長サマの二人を担当しているのだが、上からは更に担当を増やせとせっつかれているらしく、ちょうど揉めていたフリーで実力を持っている私に目を付けたとの事だ。

 

「シリウスの身体は中々仕上がってるが、俺からすればまだ甘いな」

「筋肉ダルマのアンタが言うと説得力が凄いな」

「あと、レースで使える面白い技も教えようか」

「具体的には?」

「それは契約してから教える」

 

 随分と大口を叩いて勧誘してきたものだった。それはともかく、コイツが出した条件は中々に良いモノである事には違いない。練習の自由度は下がるがグラウンドを合法的に使える上に、本職のトレーナー、しかもG1勝利バを輩出の有能トレーナーが練習を受け持つ。ついでに私も更に強くなれる……かもしれない。確かに周りに良い目で見られていない私たちにとってメリットではある。

 とはいえ、このまま「はい」と返事をするのも面白くない。そんな私にコイツは、

 

「私が素直に頷くと思うか?」

「思わないな。んじゃ、ここは一つコイントスで勝負しないか?」

 

 アイツが勝てば今言った条件の下で担当契約、私が勝てば契約ナシで合同訓練参加許可。そんな大勝負をコイツは強面の顔によく似合う不敵な笑みを浮かべて仕掛けてきた。

 

「――あっはははははっ! アンタ本当に面白い奴だな!」

 

 これほど心の底から声を出して笑ったのは久しぶりだった。

 

「ついでに俺が負けたらスパイラル土下座もお披露目だ。ああ、そうそう。この勝負自体は別に強制じゃないから断るのも可だぞ?」

「ははっ! 断る訳ないだろ!」

「うっし、じゃあいくぞー!」

「ああ!」

 

 ――結果は知っての通り、私の負け。その場で担当契約の書類にサインをして、早速合同訓練をすることになった。因みに女帝サマが余りの展開の速さにフリーズしていたが、私とトレーナーはスルーしていた。(トレーナーの方は後で怒られたらしい)

 

 こんな経緯でトレーナーの傘下に入る事になったが、後悔は全くない。チーム・デネボラのメンバーも中々に愉快な奴らばかりであるし、トレーニングについても主に身体作りの方でレベルアップに繋がり、確実に実力が向上した。因みにアイツが言っていた面白い技ってのが「相手に殺気を向けて萎縮させる」だったのは、アイツらしくて思わず笑ってしまったが。

 

 だが何よりも、トレーナーが想像以上に面白い奴だったのが一番の収穫だった。

 担当トレーナーって事で、私も色々な所に連れ回したが、偶に斜め方向の反応が返ってくる。とりあえず幽霊相手に躊躇いなく関節技を仕掛ける奴は早々いないだろう。

 ついでに人格面も問題はない。元プロレスラーというプロの世界で生きてきた人間という事もありシビアな面もあるが、根っこは底抜けのお人好し。そうじゃなければ、実利があるとはいえ担当でもないウマ娘に積極的に声を掛けようとするなんて面倒な事はしない。

 

 そして何よりも気に入ったのは――アイツはとても自由な奴という事。

 トレセン学園のトレーナーという世間的にはエリートであるにも関わらず、アイツはそんな肩書なんて些末な物としか思っていない。精々便利な肩書程度の認識だ。だからこそ他のトレーナーが見せびらかすように常に身に着けているエリートの証であるトレーナーバッヂを、アイツは学園の中とレース関連の仕事の時だけでしか身に着けない。

 この姿勢に一部のベテラントレーナーが苦言を呈する事もあるらしいが、本人は全く気にしていない。

 

「別に見せびらかすもんじゃないだろ?」

「おいおい、いいのか? 上から睨まれるかもしれないぜ?」

「言っちゃなんだが、俺にとってトレーナー業はセカンドライフだからな。クビにならない程度に自由にやるつもりだ」

「へぇ」

 

 誰もが憧れるトレセン学園のトレーナーをセカンドライフ扱いとは、他のトレーナーが目を剥くだろうな。

 

――ああ、本当に面白い奴だよ、アンタは。……だからそんなアンタを私は欲しくなった。

 

 まあコイツを狙っている奴は……ハッキリ言って多い。そもそもコイツと契約する前には告白されてたんだから、面白くない案件だ。

 だがそんな程度でこんな面白い奴を諦める選択肢なんてない。

 

――アンタを私の物にする。覚悟しておけよ。

 

 




チャンミ用のキャラは現在作成中。まだまだ掛かりそうです。

で、艦これイベントはE-5ラスダンまで行きましたが、これは中々しんどいですね……。幸い資源はそれなりに残せているので、時間をかけてでも頑張ってみます。(ウマ娘二次創作を書いてるのに、艦これイベントの話をする謎ムーブ)
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