マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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一期一会(いちごいちえ):一生に一度だけの機会。または一生に一度だけ会えること。


幕間5 9・5話 一期一会 マヤノトップガン・オリジン

 

 唐突だが、トレセン学園の内情の話をしようか。

 

 トレセン学園ってのは競技バを育成する機関で多くのウマ娘たちが暮らしているってのは知っての通りだが、だからと言って生徒たちが四六時中レースの事しか考えてないって訳じゃない。教育機関だから学業は当然行われているし、生徒のプライベート――ここでいうプライベートってのは、趣味なり娯楽なりファッションなりも含まれる――についても一定以上に確保されている。

 

 特にプライベートの面については、学園側もかなり気を使っている。レースってのはメンタル面も重要な要素として数えられているが、そのメンタル維持のために個々人のプライベートはかなり重要だからな。よっぽどヤバいモノじゃない限り、娯楽品の寮への持ち込みOKだったりする。

 そんな訳で学園内、特に寮の中には、普通の全寮制の学校のように生徒たちが持ち込んだ雑誌やらゲーム機やらの娯楽が溢れているんだ。

 

 

 ただ実の所、この娯楽品はな……、時として俺を始めとしたトレーナーに危害を与える切っ掛けになる事もあったりするんだ。

 

 

 ヤバいモノとしてよく挙げられるのは、少女漫画誌やティーンエイジャー向けの雑誌、SNS、ウマッターやウマスタグラマーだな。

 アイツら思春期真っ盛りの生徒だし、そういったもんに影響されるってのは分かるんだよ。俺の時もそんな感じだったし。

 問題は偶にそういったもんに影響された生徒たちが、トレーナー相手に突貫してくる事が割とあるんだよ。先月なんかはティーンエイジャー向けの雑誌にデートプラン特集が掲載されていたのが原因で、一人喰われたなんて事件も起きている。

 

 そんな事があるせいか、トレーナー側でも護身のためにそういった雑誌に目を通してる奴は多い。何故かそっち方面の知識にやたら詳しいいい歳した野郎が偶にいるが、大体こういった背景があるせいだな。

 因みにだが、俺もそういったモノは一応目を通してはいるぞ。担当たちはなんだかんだで良い娘ばかりだが、それにかまけて油断したらえらい目にあうからな。他にも共通の話題ってのは担当や危うい生徒へのメンタルケアのための取っ掛かりにもなるから、それなりに重宝してたりもする。

 そんな訳で、だ。

 

「痛って」

 

 今こうやってトレーナー室の片隅で慣れない針仕事でミスって自分の指をブッ刺す事になってるのも、日々の情報収集が功を奏したって事になるんだろうな。多分。

 

「トレーナーちゃんってもしかして、意外と不器用?」

 

 そんな俺を目をパチクリさせながら尋ねたのは、俺の隣に座って手を動かしているマヤノトップガン。因みにこちらは目を離しているのに滅茶苦茶滑らかに小さな布に針を通している。流石天才少女。

 

「こういった奴は昔から苦手なんだよ。そもそも裁縫なんて高校の家庭科以来だし」

「そうなんだ。――出来た!どうかな、トレーナーちゃん」

「早、もう出来たのか。しかも完成度高いし」

 

 笑顔のマヤノから差し出されたのは、可愛らしい意匠が施されているお守り袋だ。とても短時間で即興で作り上げたモノとは思えない出来である。

 

「トレーナーちゃんの方は……、ちょうど半分くらい?」

「しかも一個目のな。……いっそのことマヤノが作ってくれないか?」

「ダメだよトレーナーちゃん。これに渡す人の手作りの方が良いって書いてあるし」

 

 そう言って見せてきたのは、マヤノが好きな少女漫画雑誌の特集ページだ。そこにはデカデカと『お守りを作ってプレゼントしよう!』なんてタイトルが載っている。

 まあつまるところ、こうして俺がマヤノと一緒に慣れない針仕事をしているのは、漫画雑誌を手にキラキラした目でトレーナー室に飛び込んできたマヤノに、一緒にお守りを作りたいとせがまれたからだ。ちょうど仕事がひと段落着いて暇が出来ていたし、内容的にも断る理由もなかったしな。

 

「しゃーない、頑張るか。ただかなりシンプルな奴になるけどいいか?」

「メンバー全員分作らなきゃいけないし仕方ないよ」

 

 こういうのを贔屓すると後々が面倒になるケースってのはよくあるんだよ。実際チームを受け持ってたトレーナーが対応をしくじったせいで修羅場になったとかあったし。そんな訳でプレゼント系列は公平になるようにしなくちゃならない。

 ……これはこれでウマ娘側に独占欲があると別の問題が生えてきたりするんだが、マヤノは幸い一緒にお守りを作ってお互いのお守りを交換するので満足らしい。本当に良い娘で良かった。

 

「でも意外かな?」

「何が?」

「トレーナーちゃんは、お守りとかおまじないとかには興味ないと思ってたんだ。前に、神頼みなんぞに縋る気はない、って言ってたし」

「あー、そうでもないぞ。現役時代はお守りとか持ってたしゲン担ぎもやってた。神頼みとかは、そんな事する暇があったら練習ってタイプだったけど」

 

 実際、何かしらのお守りを持っていたりゲン担ぎとかをするスポーツ選手ってのは多い。

 

「あれ? でも初詣の時はマヤと一緒に神社にお参りしたけど?」

「俺からすると初詣って神頼みってより季節の行事って感覚だな」

「んー、よくわからないかな?」

「まあ、これは言ってしまえば所詮俺の感覚だし、あんま気にしなくていい」

「そっか。あ、縫い終わったね? じゃあ裏返してここに紐を通して?」

「おう。……うし、じゃあこれで」

「うん、完成!」

 

 マヤノに遅れる事約五分、ようやく一個目のお守り袋が完成した。マヤノの物と違って装飾も何もないシンプルな上に、縫い目が荒くてイマイチ不格好ではある。

 

「後は中身を入れればいいんだったな?」

「うん。今回はパワーストーンを入れればいいよ」

 

 なので外観をフォローとは言わないが、今回は中身を豪華にして帳尻合わせをしようと思う。そんな訳で取り出したるは、先程マヤノと買ってきた各種天然石。マヤノの雑誌を見ながら何種類か見繕ってきたものだ。

 

「これを入れればいいのか」

「うん。石同士で組み合わせとか色々あるみたいだけど、今回はシンプルなものにしよっか」

「おう。俺もそういうのは流石に分からん」

「結構難しいっていうしね。じゃあマヤはこの二つを入れてっと。出来た!」

 

 マヤノが入れたのは水晶とローズクオーツ。効果は確か……、水晶はオールマイティな幸運、ローズクオーツは恋愛だったか。マヤノらしいというべきか?

 

「トレーナーちゃんは何を入れるの?」

「これだな」

 

 袋から取り出したのは、オニキスとそれより一回り大きなトルマリン。

 

「必勝祈願のオニキス、健康成就のトルマリンだね。あれ? でもトルマリンの方が大きいね。普通は逆なんじゃ?」

 

 大きい方が効果があるって雑誌に載ってたし、トレーナーの立場からすればそっちの方が普通なんだろうな。

 

「いや、これで良いんだよ」

 

 ただ俺の場合は、そんなセオリーなんぞ気にしない。

 

「無事之名バなんていうだろ? 怪我がないのが一番だ。俺も現役時代に怪我でヤバい事になったし」

「何かあったの?」

「イップスで引退寸前までいった頃があったんだよ。そん時は一応何とかなったが、あれはマジでヤバかった。流石にそんな思いはさせられん」

「そっか。うん、確かにトレーナーちゃんらしいね。それじゃあ、交換しよっか!」

「おう」

 

 完成したお守りをマヤノに手渡し、同時にマヤノからお守りを受け取る。マヤノもお守りを手に、尻尾をブンブン振ってニッコニコだ。多分、件の雑誌の特集の趣旨的には、お守り作りはオマケでこの交換の方がメインなんだろうな。まあマヤノがそれで満足しているなら、そこまで問題はないが。

 

「えへへ、どこに着けようかなー」

「適当な所に着けると効果半減らしいから気を付けろよ」

「うん! トレーナーちゃんはどこに着けるの?」

「王道にカバンにでもつけるかね。……さて、残り4個を作るかね。マヤノはどうする?」

「んー、折角だし友達用に作ってみようかな」

 

 そんなこんなで、この日は夕方になるまで二人してお守り作りに没頭する事になった。

 

 

 

 

 

 トレーナーちゃんと最初に出会ったのは、選抜レースに出られなくて暇つぶしに見学をしていた時。ユキっぺとレースについておしゃべりをしてたら、偶々隣にいたトレーナーちゃんが話しかけてきたんだっけ。

 

「……もしかしてレース展開が見えてたりするん?」

 

 トレーナーちゃんってちょっと強面だしその時は驚いたけど、お話してみたら意外と気さくだった。なんでも、悩み相談のような事をしているから自然とトークスキルが上がった、とか言ってた。その後もレースについてお話してたんだけど、流れでユキっぺが私がレースに出れないことを相談したんだ。

 

「こう……そういう方面にも悩みってあるんだな。いや、推理小説で速攻でネタバレ食らったようなもんか? それならトレーニングがつまらないってのは分かる。んー……、折角だし今度やる合同訓練に来てみるか?」

 

 それが切っ掛けでトレーナーちゃんが主催している合同訓練に参加する事になったんだけど……、最初はつまらなかった。だって合同訓練とはいってもやってる事は普通のトレーニングだから、もう「わかってる」ことばかりなんだもん。

 でもそれはトレーナーちゃんも分かっていたみたいで、ニヤリと笑うとシリウスシンボリさんを連れてきたんだ。

 

「んじゃ、シリウスと併走してみようか」

 

 シリウスさんとの併走は、トレーニングと打って変わってとても楽しかった。マヤの「わかった」をシリウスさんは何度も上回っていく。そしてすぐに次の「わかった」が浮かんでくる。こんな事は初めてでワクワクが止まらなくてシリウスさんに何度も併走をお願いしたんだ。

 後、つまらないと思ってたトレーニングをやる意味も、その時に知れたんだっけ。何回目か忘れちゃったけど、併走の途中で思ったように動けなかった事が何度かあったんだ。それを相談したら、

 

「つまるところ、トレーニングってのは色々な『わかった』を出来るようにするためのもんだ。最適解が分かってても身体がその正解に追いつかないってのはある。今の併走で上手く動けなかったのもそれだ」

 

 って言ってた。つまらなくてもトレーニングをするようになったのは、これが切っ掛けだったっけ。

 

 

 この合同訓練に出てからは、色々な事があった。

 トレーナーちゃんとのトレーニング、エアグルーヴさんとの繋がりからブライアンさんと出会い、選抜レースで勝った後のトレーナーちゃんとの契約、チーム・デネボラでの日々、色々なレース。どれも楽しい事ばっかりだった。

 そんな楽しい事ばかりの日々には、いつもトレーナーちゃんが側にいる。トレーニングやレースは勿論、マヤの知らない色々な所に連れて行ってくれたし、色々な事を教えてくれた。

 

 だからかな。私はいつからかトレーナーちゃんとこれからもずっとずーっと一緒に居たいと思うようになってた。

 

 でもトレーナーちゃんの周りにはライバルが一杯いる。むしろよくこれまで無事にフリーでいられたね、って呆れたくなるほどみんなトレーナーちゃんを狙ってる。

 でもそのお陰で思いっきり出遅れちゃったマヤにもチャンスは残ってる。本当に告白を全部断ってるトレーナーちゃんに感謝だね。

 

――これからも一緒に色々なキラキラを見ようね、トレーナーちゃん!

 

 

 




チャンミはなんだかんだでグレードA決勝に行けました。相変わらずクリオグリが怖いですね。(クリオグリ使いながら)
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