マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
ここはトレセン学園にとある目的にだけ設けられた部屋。精々四畳半の広さの部屋のど真ん中にはテーブルが置かれており、更にテーブルの上にはでっかい段ボール箱が鎮座している。俺はそんな部屋にいた。
「毎度毎度よくもまあ、ここまで集まるもんだ」
そんなぼやきを漏らしつつ、持ってきた金属探知機を起動して段ボールにかざしてみる。すると予想通り探知機からピーピーと派手になりだしたのを見て、思わずため息を吐く。
「はいはい、知ってた知ってた。ホント暇な奴ばっかだな」
これについてはぶっちゃけ最早日常風景レベルだが、だからと言って今からやる作業が面倒な事には変わりない。
持ってきていたマスクとゴーグルを付けた上、両手にゴム手袋を装着。ついでにテーブルの脇にゴミ袋を広げて事前準備完了。ガムテープで封をされていた段ボールを無理矢理開く。
段ボールの中にあったのは、山のように詰め込まれている封筒やプレゼント箱だった。そして宛先に書かれていのはチーム・デネボラのメンバーの名前。要するにファンからのファンレターや贈り物だ。
「セーフ、セーフ、セーフ、アウト、セーフ、アウト……」
それを金属探知機でかざしつつ、中身を確認して選別していく。因みにアウト判定は問答無用でゴミ袋に放り込んでいる。
この作業は担当を持つトレーナーなら誰もが行う業務――ファンからの贈り物の仕分け作業だ。
競走バってのはスポーツ選手ではあるが、同時にライブもするって事でアイドルの面も強い存在だ。だからこそ日本じゃウマ娘のレースは大人気なんだが、当然人気のあるウマ娘には、ファンからファンレターやらプレゼントが送られてくることが多い。またこれらのプレゼントは競争バにとってもモチベーションアップに繋がるので良い事ではある。
ただ当然の事だが、こういう不特定多数からの贈り物ってのは、その全てがポジティブな物じゃない。中には誹謗中傷やらいちゃもんといったネガティヴな内容や色々とぶっ飛んだヤバい代物も含まれている。それらを選別して選りすぐりを担当に渡すのがトレーナーの仕事だ。
「この金属音は小銭、いやカミソリだな。相変わらず古典的トラップも混じってんな」
ちなみにこの選別でアウト判定を出すモノだが、実は系統が色々ある。
文章で誹謗中傷はぶっちゃけ普通だし、今みたいに封筒にちょっとした危険物が入ってるのもまだ可愛いもんだ。勘違いしたバカが自分の局部の写真を同封してきたり、文章が血文字だったりとヤバいもんもあったりするからな。初見で見たときはぞわっとしたな。今は慣れたけど。ともかくそういったモノは問答無用でゴミ袋にシュートだ。
また手紙以外にもぬいぐるみといった小物や食べ物みたいなプレゼントとかも割と送られてくるが、こっちはこっちでアウト判定になるものが多い。
盗聴器入りぬいぐるみなんざよくある手法だし、偶に動物の死体が郵送されてくるってのもある。過去には変な体液が入った注射器が送られてきたり、謎の粉末で満載の封筒が届いたせいで警察沙汰になったこともあったらしい。(当時はアメリカで炭疽菌事件があったばっかりだった)
ついでに言うと食べ物系は問答無用で破棄だ。ああいうのは体液やら体毛やらが混じってるケースが多いからな。因みにレアケースとして現金やら高級時計といった高級品が送られてくることがあるが、こちらは全部送り返している。キャバ嬢に貢いでるんじゃねーんだぞ。
とまぁ、そんな裏話はともかく、この仕分け作業はトレーナーにとって重要な仕事ではあるんだ。
「……今回は手紙ばっかで時間が掛かるな。もう全部キレイさっぱり焼き払いてーな……」
とはいえ、仕分けをする方からすると、これが結構しんどい。
これ一個一個中身を吟味しなきゃならないせいで結構時間が掛かるんだよ。俺の場合はチームで5人率いているせいで、その分量も多い。正式なチームや大規模な所だとサブトレがいるから、そいつらと分担するなりぶん投げるなり出来るんだが、生憎とデネボラはチームとしては最小単位なもんだからサブトレがいない。そのせいで俺が全部やらなきゃならない。
ぶっちゃけこのまま全部ゴミ袋に投げ込みたいが、学園側からは全部チェックするように規定されている。クッソめんどいが、やるしかない。
……因みに担当に手伝わせるとかは論外な? ヤバいもんを見せないための仕分けなのに、担当に手伝わせるとか本末転倒だし。それもあって、今俺がいる仕分け作業用の部屋は、生徒の立ち入りが禁止されている。(余談だが昔は仕分け作業を各トレーナー室でやってたらしいんだが、仕分け中に担当が入ってきてトラブルになった事があったらしく、以降は仕分け専用の部屋が作られたらしい)
そんなクッソ面倒で偶にSAN値が削られる作業がそろそろ終わりが見え始めた所で、俺はあるモノを見つけて思わず手を止めた。
「……おっと?」
外見は普通の封筒、中身も短い文章が書いてあるだけと、選別する側からすれば楽なブツ。だがそのシンプルさ故に、それの重要性はよく理解できた。
顔を顰めながらその手紙を破棄用のゴミ袋ではなく、別に用意した専用の袋に入れて、席を立つ。
「あーあ……」
……面倒な事に用事が出来ちまった。残りの仕分けは後にするしかない。既に仕分けが出来た破棄用のゴミ袋も持って外に出る。
(このケースは初めてだが、どこに提出すりゃいいんだっけか……)
この仕事を始めてそこそこと経つが、今回のケースは初めてだ。とりあえず事務方にでも持っていけば、教えてくれるだろう。分からないとか言われたら、その場で調べさせればいい。そんな事を考えながら西日で眩しい校舎の廊下を歩いていると、
「あ、トレーナーちゃん!」
聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返るとそこにいるのは、チーム・デネボラのメンバーが勢揃いだった。
「おう、全員揃ってんのか。自主練か何かでもしてたのか?」
「なに、定期会合をしていただけだ」
「定期会合? ……どんな?」
「はっ、それはトレーナーには言えないな」
「乙女には秘密が一杯あるんだよ、トレーナーさん」
「安心してください。私たちの今後の方針について議論していただけです」
「……今後の方針? …………何についての?」
「ひ・み・つ」
おっかしいなー。定期会合って言葉自体は普通なのに、みんなすっごいいい笑顔なもんだから、なんか嫌な予感がする! 具体的には俺への包囲網的な何か。
「そういうアンタは何してたんだ?」
「そりゃ、仕事だよ」
「ふむ、ゴミ袋という事は……。ああ、仕分けか」
流石エアグルーヴ。生徒会に入っているお陰か、こちら側の事情もある程度知っているらしい。
「今回も大量だったぞ」
「お疲れ様です」
「あれ、トレーナーちゃん。中にぱかプチも入ってるよ? それも捨てちゃうの?」
「それ盗聴器入りだぞ」
「うわー……」
「因みにぬいぐるみは、黒板を引っ掻く音を丸一日流した後に破棄する予定だ」
「トレーナーさんもよくやるね……」
バカやってきたんだから、それくらいの反撃は許されると思うんだ。
「で、私たちの中で一番アンチのファンレターが多かったのは誰だ?」
「シリウス先輩、そういう事を訊くのは……」
「俺宛てがダントツだな」
「貴様もあっさり答えるな」
なんだかんだでトレーナーも表に出る事が多かったりするせいで、担当たちのファンレターに混ざってトレーナー宛てに何かしらの贈り物が届くのは割とあったりするんだよ。お陰でトレーナーにバッシングの手紙が届くなんてなんてよくある話だ。特に俺の場合は、見た目が強面のゴリマッチョって事もあって、割とアンチがいたりする。
「……嫌じゃないんですか?」
「どうせ、クッソどうでもいい事しか書いてないから、気にしてないし」
「そういうものですか」
「おう、そんなもんだ。所でそろそろ食堂が開く時間じゃないか?」
「ふむ、もうこんな時間か。今日は早めに行こうか。貴様はどうする?」
「まだ仕事が残ってるからな。今度誘ってくれ」
「それなら仕方ないね。それじゃあまた明日、トレーナーさん」
デネボラのメンバーたちが食堂に向かっていくのを眺め、そして完全に彼女たちの姿が見えなくなった所で、一つ息を吐いた。
「あぶねーあぶねー……」
一応、ヤバい物を懐に隠しておいてよかった。手で破棄用のゴミ袋と別々で持ってたらソッチにも興味を持たれる可能性があったからな。
再び事務室に向かって歩き始めながら、改めて先程見つけたヤバいブツを思い起こす。
封筒はよく見る普通の封筒、中に入っているのも紙切れ一枚。宛先はフジキセキ。そして手紙に書かれている内容は――罵詈雑言も何もなくシンプルな殺害予告。
『エンターテイナーにふさわしい舞台で貴様を殺す』
……今の時代に手紙で、しかも新聞やら雑誌の切り抜きを使って殺害予告をするとは丁寧なこった。しかもわざわざ穴だらけになったフジの写真も添えられている。お陰で殺意だけは十分に察する事が出来る。
「……まったく、面倒な事になりそうだ」
誰に聴かせるでもなく思わずこぼれた呟きは、虚空に消えていった。
リアルでも芸能人に脅迫とかあるんだから、ウマ娘世界でも脅迫事件とかあるよねって話です。