マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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悔悟奮発(かいごふんぱつ):失敗したことを後悔して、挽回に努めること。




幕間1 1・5話 悔悟奮発 エイシンフラッシュ・オリジン

 

「全く、加減してくれていて助かった」

 

 気絶したフラッシュをソファーに寝かせつつ、小さくぼやく。

 突進がうまぴょい()するために加減されていたのは僥倖だった。でなけりゃ正面切っての力比べなんて話にもならなかった。仮にあれがなりふり構わぬ突進だったら……マジでヤバかった。その点暴走していたとはいえ、一定レベルのモラルが残っていたフラッシュに感謝するしかない。

 それはともかく、

 

「さーて、どうするかね……」

 

 フラッシュの襲撃を何とか撃退したものの、新しい問題が生えてきてしまった。部屋を見回せば先程まで暴れ回っていたせいで中々に荒れている。これを片付けなければならないと思うと、中々に憂鬱な気分になる。

 で、それ以上に扱いが難しいのが、襲ってきたフラッシュの扱いだ。こればかりは本人次第だが……、態度次第ではこちらも面倒な事となる。

 

「……………はっ!?」

「うおっ!?」

 

 そんなことを考えていると、フラッシュが飛び起きた。完全に油断していたせいで、思わず反射的に身構える。もう少し寝てると思ったが、予想以上に早く起きちまった。流石ウマ娘、恐ろしくタフだ。

 

「これは……なにが……」

「あー……、大丈夫か? 割と雑に締め墜としちまったから、気持ち悪いとかあったらちゃんと言えよ?」

「トレーナーさん? ……あっ」

 

 俺の顔を見た瞬間、フラッシュの顔がみるみる真っ青になっていく。

 

「私は……どうして……ああああぁ」

「落ち着けフラッシュ!? 大丈夫だから、別に怪我とかしてないから!」

「ひっ!? ごめんなさいごめんなさい! うああああああああぁあ!?」

「完全に怯えられた!? よーしいい子だ落ち着け!? なっ!?」

 

 ここまでガン泣きする娘の相手とか、独身三十路の男には荷が重すぎる。さっきまで考えていた問題とか全部吹っ飛ばして、全力で慰める羽目になった。

 で、30分後。

 

「……失礼、しました」

「ああうん、落ち着いてくれてよかったよ」

 

 全力で慰めたお陰で何とか落ち着いて話が出来るまで環境を整えられた。とはいえ、当のフラッシュはソファーで小さくなって落ち込んでいるが。

 

「あー、何で襲ったかは……、そっちは置いておこう。」

「はい。……あんな形で告白するなんて……」

 

 堂々と言い切ってくれたお陰で誤解なく意図は理解出来たけど、ホントにロマンもへったくれもなかったな。

 とはいえ、気になるのはそこじゃない。

 

「問題はあそこまで暴走した原因だ。何があったよ?」

 

 フラッシュは俺から見ても優等生だ。割と助けられている所もある。なので件の通知が来た時、俺が考えていた暴走しそうなメンツの中にはフラッシュは含まれていなかった。

 

「……大場トレーナーが3日前より欠勤している事はご存じですか?」

「ああ、長期休暇扱いになってるぞ。まあ大方、担当に喰われたとかそんなんだろうけど」

「はい。実際、大場トレーナーが休むようになったと同時に、彼が担当してたウマ娘も行方不明になっています。そのため私の学年でも『トレーナーと駆け落ちした』との噂でもちきりになっていました」

「あー、やっぱり生徒側もそう考えるわな」

 

 悲しいかなトレーナーが担当と行方を眩ますなんて偶にある事件だからな。状況証拠的にも、そりゃ生徒側も自然と結論に辿り着く。

 

「で、その噂に煽られて突貫してきた、ってやつか? ……いやその程度であそこまで暴走はしないか」

 

 すぐに考え直す。こいつの場合、この程度の噂なら掛かったとしても、適当な理由を付けて一緒に出掛ける程度に収まるはずだ。

 

「……実は今朝の6時52分33秒に大場トレーナーの担当――私の友人から電話がありました」

「何?」

 

 思わぬ情報が飛び出してきた。フラッシュが行方不明のウマ娘と友人関係にあるとは思いもよらなかった。

 

「電話の内容は?」

「今はトレーナーと一緒に岐阜にある彼女の実家にいる事、トレーナーとの情事、後は惚気です。52分13秒間通話しましたが、その内、44分51秒間、延々と惚気を聞かされました。お陰で予定を大幅に変更しなければなりませんでした」

「ああ……」

 

 露骨にうんざりした表情を見せるフラッシュに思わず頷く。朝からそんな話を一方的に聞かされりゃ、俺だって気が滅入る。

 

「で、その電話で何かあったのか?」

「……その惚気話の最中に、私を心配、いえ煽られました」

「煽られた?」

「『私の場合は専属トレーナーだからライバルはいなかったけど、フラッシュちゃんの場合はチームトレーナーでしょ? うかうかしてたら、他の娘にトレーナーさんを取られちゃうよ?』と」

「……うっは。そりゃ確かに勝者の余裕からくる煽りだ」

 

 思わず顔を顰めたが、同時に納得も出来た。友人から心配とも煽りともとれることを告げられれば、意識せざるを得ない。

 実際、チームトレーナーのような複数の担当を持つトレーナーを狙うウマ娘にとって、他の担当バはチームの仲間であると同時に恋のライバルってケースは多い。そのためチーム内の空気が何処かギスギスしている、というのは割とある。トレーナー側からすれば胃痛案件だがな。

 それはともかく原因はよくわかった。

 

「噂だけならともかく、友人からの直接煽りはキッツイわな」

「……電話を終えてからは他の方々に心配されないように平静を装っていましたが、思考の50%はいかにトレーナーさんと結ばれるかを常に考えていました。ライバルは強力で後発の私は不利。アプローチを強める事も考えましたが、それをすれば私の行動を見たチームメンバーは確実に私と同じくアプローチを強めるだけで不利なのは変わりません。いえ、そもそも貴方の精神力ならどんなアプローチをしても耐えきるでしょう」

「よくわかってるじゃないか。……で、最終的な結論があれか」

「……はい。考えた末があの――私の感情の一方的な押し付けです」

 

 自己嫌悪と共に吐き出される言葉。冷静になったからこそ出てきた本心なんだろう。

 しばしの沈黙。その後、フラッシュからぽつりと言葉が漏れた。

 

「……契約解除、いえここまでの事をしたのです。退学ですね……」

「……あー」

 

 彼女の言葉に、腕を組んで思考を巡らせる。確かにフラッシュがやろうとしたことは、中々ヤバい案件だ。普通に学園に報告すればそれ相応の罰則が飛んでくる。

 

「………うーん」

 

 ただ今回は、返り討ち出来たので罪状的には未遂。本人も罪を犯す前に正気に戻った。

 

「……………ぬうううう」

 

 これで本人が反省の色なしなら俺も容赦せずにぶった切っただろうけど、目の前の担当バは今にも自己嫌悪で首を吊りかねない程反省している。演技という可能性もなくはないが、それが出来るほどこいつは器用じゃない。完全に本心だろう。てか契約解除なり退学なりになった時の、こいつの方が心配な訳で……。

 

「……………ぬううううぁあああああ」

 

 どうすればいいか、必死に頭を働かせる。

 そして、

 

 

 

 

 

 

「………………………………担当契約続行」

「………はい?」

「契約続行だ。そこまで反省してんなら、今回は水に流す」

 

 結局、俺が選んだのはこの選択だった。

 

「…………本気ですか? あんなことをしてしまったのに?」

「言いたいことは分かるけど良いんだよ。てか反撃で締め墜としたから、被害とかなかったし」

 

 自覚はしているが、この決断は滅茶苦茶甘い。下手をすると今後のトレーナー業に悪影響も出かねないのも事実だ。ただフラッシュは今回の件で大いに反省しているし、今のこいつを追い詰めたら大変なことになる気がした。まあ被害なしってのがかなり大きかったが。

 

「しかしそれでは……」

「フラッシュはホント真面目だなー」

 

 とはいえ、フラッシュはイマイチ納得できていないようだ。まあ罰を受けるからこそ、罪悪感を抑えられるってのもあるからな。

 

「オーケー。じゃあ明日トレーナー室の掃除を頼む。大分荒れちまったから、隅々まで綺麗にしてくれ。後はそうだな――俺が困ってた時は助けてくれ、ってところかな」

「……分かりました。では今からでも――」

「いや、明日にしてくれ。今の状態で始めたら、下手すりゃ門限超えかねん」

 

 今のこいつのメンタル的にも体力が続く限り掃除をしそうだし、一旦時間をおいてクールダウンさせた方がいいだろう。

 

「……分かりました。では失礼します……」

「おう、また明日。しっかり寝ろよ」

 

 フラッシュによりパタリとドアが締められる。彼女の立てる足音が完全に聞こえなくなった所で、小さく息を吐いた。

 

「こりゃしばらくは注意かねぇ……」

 

 今回の件で大分メンタルをやられている。まあやらかした事が事だけに自業自得ともいえるだろうが……だからと言って放っておくわけにもいかない。そもそもの話フラッシュはレースが近いから、メンタルケアは必須だ。

 

「……帰るか」

 

 もっとも本格的にメンタルケアをするにも明日からだ。もうそこそこ遅い時間になっちまったから、街へ繰り出す予定は中止。そのまま寮に帰る事にしよう。

 そう心に決めてカバンを持ったところで――異変に気付いた。

 

「ん?」

 

持ち上げた瞬間に、ガチャっという聞き慣れない音が中から聞こえてきたのだ。こんな音がするようなモノは入っていないはずだ。精々資料と財布と後は……ノートPC位。

 

「……」

 

 嫌な予感を感じて恐る恐るカバンを開ける。そこにあったのは……派手にフレームが割れているノートPC。

 

「…………やっべ」

 

 めっちゃ嫌な汗が噴き出したのが自分でもわかった。

 

 

 

 

 

 あの失敗から翌日、私はトレーナー室の床を箒で履いていた。

 

「意外と汚れはありませんね」

「まあ、時々掃除する奴がいるからな」

 

 今は昨日トレーナーさんに言われた通りに掃除をしている真っ最中。部屋にいるのは私と必死にパソコンを操作しているトレーナーさんだけ。お陰で気兼ねなく掃除をすることが出来ます。

 ……あの時、私たち二人が暴れたせいでトレーナー室はかなり荒れていました。そんな惨状を見た他のチームメンバーは、何があったのかとトレーナーに問い詰める場面もありましたが、トレーナーさんは「フラッシュとダンス練習をしていて盛大にすっころんだ」という苦しい言い訳で答えていました。これには驚かれたり呆れられたり、はたまた怒りつつも掃除しようとしたりと様々な反応が返ってきましたが。

 

「掃き掃除が終わったら水拭きをしますので、歩く際は注意してください」

「分かった。つーても当面はここから動かないがな」

 

 肩を竦めながら答えるトレーナーさん。そんな姿を見てふと考える。

 

――この人は優しすぎるのではないでしょうか?

 

 ウマ娘に襲われるという恐ろしい程の危機が身に迫っているにも関わらず、トレーナーさんは手加減をしていた。トレーナーに支給されている護身用の武器を一つも使わないどころか拳も蹴りも使っていない。投げの時もソファーに投げていたし、気絶させるのにも首絞めだけ。明らかに私の身体を気遣って戦っていました。

 今思えば、最初に出会った時もそうです。あの時はグラウンドでのトレーニングの最中で、第一声が「大丈夫か? なんか盛大にドツボにハマってないか?」というのは、今でも覚えています。

 あの時のトレーナーさんはチームこそ結成していませんでしたが、すでに3人の担当がいましたから相応に多忙だったはず。トレーナーさんは「好きでやってるだけだ。後スカウトの一環でもあるしな」とは言っていましたが、それにも関わらず何の関わりもなかった一ウマ娘に心配だからと目を掛けるのは中々出来ない事じゃないでしょうか。

 ……そんな人だからこそ、惹かれたのかもしれませんが。

 

「掃除が終わりましたらコーヒーを入れましょうか?」

「ああ、頼む」

「はい、いつも通りブラックにしますね」

 

 しかし私はトレーナーさんの信頼を損なってしまいました。でもあの人はそんなことは気にせず私に接してくれるでしょう。現にこの部屋には私たち二人だけしかいないにも関わらず、欠片も私を警戒する様子はありません。

 

 ……それでも後悔しかありません。

 

 私の身勝手であの人の人生を滅茶苦茶にしようとしたのは紛れもない事実であり、何としてでも償わなければなりません。

 

『俺が困ってた時は助けてくれ』

 

 この人は確かにそう言いました。だからあなたに誓いましょう。

 

 

――どんな事があっても、私は絶対にあなたを助けます。

 

 

 

 




因みに作者はウマ娘の方はマイペースでやってる感じです。(なお艦これの方はまだまだ頑張っています)
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