マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
チャンミはイマイチいいキャラを作れなかったのでグレードBでエンジョイ中です。
なお艦これイベントはE-3を何とかクリアしてE-4攻略中。E-3は中々嚙み合わずに苦労しました。
「この案件は……、ああ美化委員の案件か」
ある日のトレセン学園、私は生徒会室でいつものように仕事をこなしていた。各部署から上がってきた何枚もの書類に手早く目を通し、そして捌いていく。
この学園は生徒会が采配出来る範囲が大きいため、その分仕事量も膨大だ。その分やりがいがあっていいのだが、流石に多すぎると若干辟易してくる。
こういった書類は、いつもなら生徒会のメンバーで分担しているが……、今日はそうも言っていられない。
会長は生憎と別件で出かけており、ブライアンはレースが近いためトレーニングに精を出している。他の生徒会メンバーも各々の仕事やトレーニングなどで不在。そのためこの生徒会室にいるのは、私ともう一人だけだ。
「エアグルーヴ、仕分け終わったぞ」
そのもう一人――生徒会の手伝いで応援に来ていたトレーナーが声を掛けてきた。
「こっちに置いておくから、後で確認しておいてくれ」
「ああ、分かった。次は会計から上がってきた書類のファイリングを頼む」
「おう。そうそう、さっきの書類だが明らかにアウトな案件はこちらで弾いておいたけど良いよな?」
「構わん。貴様で弾かれる程度なら、私が見ても結果は変わらん」
軽い会話を交わしつつ、お互いの仕事の手は止めない。もっとも私は机での書類仕事、トレーナーは書類棚と机を往復しての雑務と内容に差はあるが。
――歯がゆいな。
書類をチェックしながらも、頭の片隅でそんな考えが過る。
折角トレーナーが応援に来たにも関わらず、雑用ばかりさせてしまっている。これはトレーナーが書類仕事が出来ないから――ではない。やってはいけないからだ。
生徒会の仕事は生徒によって自治、運営されるものだ。そのため教員側であるトレーナーがそれらに関わるのは理念に反してしまうのだ。そのためトレーナーに任せられる仕事は、生徒会の意思決定に関わらない分野の仕事、つまるところ雑務に限定されてしまう。
もちろん、雑務を任せられるのは負担の軽減になるし、生徒会の仕事の中にはトレーナー側の視点で意見を求めたい案件もあるので、トレーナーの応援はありがたいのも確かだが……、やはり目の前の人材をフル活用できない事に歯がゆさを感じてしまう。
そんな事をぼんやりと考えていると、再びトレーナーが声を掛けてくる。
「エアグルーヴ」
「なんだ?」
視線を向ければトレーナーは私を見つめていた。その手には百円玉硬貨が握られている。
「『いくぞ』」
その言葉と共に、トレーナーは百円玉を指で弾く。高速回転する硬貨は放物線を描いて私に向かって飛来する。それを私は取ろうと手を伸ばし、
「むっ……」
伸ばした手は空を切って、私の胸元に当たった。そんな私にトレーナーは苦笑しながら立ち上がった。
「んじゃ、見回りでも行くか」
「くっ……仕方ない」
若干思う所があるが、ルールはルール。席を立ちトレーナーと共に生徒会室を出て歩き始める。
「トレーナー、今回のコインは不意打ちじゃないのか」
「何言ってんだ。ちゃんといくぞって言ったろ」
「ぐっ……。次は取る」
「はいはい」
そんな談笑を交わしながら、学園の様々な所の巡視していく。
……もっとも巡視といっても、トレーナーは私の業務に関わるようなところには殆ど足を運ばないが。
「自販機前も異常なし、っと。茶でもいるか?」
「頂こう」
「おう」
トレーナーからペットボトルの紅茶を受け取り、口を付ける。
トレーナーが私を生徒会の業務を切り上げさせて行う巡視は、カフェテリアや屋上、校舎裏や私たち二人で管理している花壇と、トラブルや異常が起こり難そうな所ばかり見て回っている。
トレーナーは「普段見回らない場所でも、偶には行って確認した方がいい」と、もっともらしい言い訳をしているが……、本質は私を巡視の名目で休ませるためのモノだ。
「次は花壇でも行くか?」
「ああ。先日植えたマリーゴールドの様子も見ておきたい」
――トレーナーが投げたコインを取れなかったら、仕事を切り上げて巡視をする。
これはトレーナーが私との専属契約をしていた頃、生徒会の仕事が立て込んでいた私を気に掛けて作ったルールだ。トレーナー曰く「お前油断するとのめり込み過ぎて根を詰めちまうからな」だった。
当時はこの言い分に若干不快感を覚えて拒否しようとしたのだが……、私たちのやり取りを見ていた会長が即座にトレーナー側についてしまい、結局私も不承不承ながらも了承する事になってしまった。
「あっ、エアグルーヴ先輩!」
「む、ハープエンドか」
「よお、怪我の方はどうだ?」
「昨日、病院に行ったら後一週間くらいで完治するって言っていました」
「ほお、それは良かったな」
「ですので、今度の合同練習での指導をお願いしたいんです。早くレース勘を取り戻さないと」
「ふむ、歓迎しよう。トレーナーも構わないか?」
「OK」
そんな騒動の末に始まった巡視ルールだが、トレーナーは不定期にこのルールを適用する。経験則なのか観察眼なのかそれとも両方なのか、トレーナーは仕事に没頭し疲弊しているとみると直ぐにコインを投げ、そして私を巡視という名の休憩に連れ出した。
このコイン投げは私の疲弊度の指標の確認であるため、私がコインを取れないという事は、即ち私がそれ程疲弊しているという事でもある。なので休憩に連れ出されても文句は言えない。
そしてこの巡視は私にとって効果覿面だった。巡視から帰った時には少し疲れが取れていて、気持ちを新たに仕事に打ち込むことが出来た。また思わぬ効果として、巡視によって後輩との交流が増え、彼女たちの新たな一面も見る事が出来るようになった。
お陰で今ではこの巡視ルールは、私たちにとって当たり前のモノになっている。
「マリーゴールドは……、おっ、芽が出てるな」
「ああ。大切に育てていくぞ」
いつもの巡視ルートの終着点である私たちが世話をしている花壇を見て回る。先日蒔いたマリーゴールドが芽を出し始めている光景に思わず頬が緩む。
「おう。んじゃ、早速世話をするか?」
「いや辞めておこう。今から始めたら時間が掛かりすぎる」
「間引きならすぐ終わるだろ」
「たわけ、巡視を始めてもう一時間近く経っている。これ以上生徒会室を開ける訳にはいかない」
それに私の疲労もある程度抜けた。そろそろ仕事を再開するにはいい頃合いだろう。私はポケットからスマートフォンを取り出し、早速生徒会で使っているアプリを開いて手早く情報をチェックする。これも仕事を再開する前に行っている習慣だ。
「む、目安箱か」
すると生徒からの要望を聞くためのアプリ、通称「目安箱」に新着のアイコンが付いていた。迷わず目安箱を開き、投稿されたメッセージを確認する。
「ふむ……」
「なんかあったか? ……おいおい」
メッセージを読んでいると、トレーナーが私の手元のスマートフォンを覗き込み、そして若干顔を顰めた。
メッセージにはこのような事が書かれていた。
『購買部にウマシィを置いて欲しい』
このウマシィの名前は、テレビCMでよく流れているので知っている。簡単に行ってしまえばウマ娘向けの結婚情報誌だ。私も以前興味本位で読んでみた事があるが、ウマシィ本誌が「4か月読んだら十分」と言い切っているだけあって、結婚から新婚までの流れについてのあらゆる情報を事細かに記載されていたのを覚えている。同時に圧倒的な量の結婚及び新婚生活に纏わる広告も見せつけられたのだが。
「流石にこれはどうよ」
「ふむ……」
トレーナーが呆れたように呟く。学園に所属している生徒たちは当然の事ではあるが、全員未成年。将来はともかく、今現在では必要ないものだろう。
「ふーむ……」
しばらくの間思考を巡らせ、そして結論を下す。
「要検討だな」
「待とうか」
なぜか信じられない物を見るような目をしたトレーナーに止められた。
武藤トレーナーに唐突に襲い掛かる重馬場仕様……!