マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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今回はウマ娘二次創作でよくみられるパワーワードについて考察してみました。


20話 パワーワードが生えてくるのにはちゃんと理由がある

 

「ところで」

「なんだ?」

 

 学園近くにあるビリヤード場。客同士の雑談や玉が当たる音が響いているにも関わらず、どこか静かな雰囲気が漂うホールの片隅で、俺はビリヤード台を眺めながら、台の脇でキューにチョークを塗っているシリウスに声を掛けた。

 

「トレセン学園は婚活会場って言葉あるじゃん」

「ああ」

「あれって、いつから言われ始めたんだろうな」

 

 割とよくトレーナーが掛かったウマ娘にうまぴょい()されて、実家にお持ち帰りされたなんて事があるトレセン学園。そんな色々とアホな事が頻繁に起こっているせいか、俺たちトレーナーの間じゃ、半分ジョーク的に「トレセン学園は婚活会場」なんてフレーズがまことしやかに囁かれている。

 それはともかく、唐突にそんな事を言いだした俺に、シリウスは首を傾げた。

 

「いきなりどうした?」

「いや、何となく気になってさ。俺が新人の時にはあったし」

 

 俺なんかはトレセンに入って初日で聞いたせいで、大分混乱したぞ。まあ直ぐにそんな言葉が出来た理由が分かったけど。

 

「で、なんでそれを私に聴こうと思った?」

「知ってそうだし」

「直球だな」

「シリウスの所は家が家だしな。噂程度でも伝え聞いてると思って」

 

 シンボリ家はレース業界にも長く関わっているから、そう言った事情も理解していると当たりをつけていた。

 

「そんなん私が知るか――いや、昔お袋がそんなことを言ってた覚えがあるな……」

「マジか」

「……思い出した。確かトレセン学園創立から数年後には、そんな事が言われてたらしい」

「クソワードのくせに歴史長すぎない? え? てことはトレーナーがうまぴょい(笑)されて消えてくのって、大昔からあったのか?」

「そうなるな」

「なにそれ怖い」

 

 衝撃の事実過ぎるんだが。若干引いている俺に、シリウスは小さく鼻を鳴らした。

 

「ま、そうなるのは仕方ないだろ」

「つーと?」

「アンタも元プロレスラーなら分かるだろ? レースで活躍するウマ娘、いやトレセン学園所属ってステータスがある時点で、そのステータス目当てに言い寄ってくる奴らが生えてくるんだ。実際私もそんな奴らをごまんと見てきた」

「あー、あったあった」

 

 普通に理解できた。実際、元カノもそんな感じだったし。

 

「対するウマ娘は、そんなモンよりもちゃんと自分を見て欲しい訳だ。もちろん言い寄るやつにもそういう奴もいるだろうが、金と名声狙いの奴らの中から探し出すのは難しい」

「せやな」

「で、そんな時にウマ娘は思い出すんだ。……すぐ身近に自分の事を考えてくれる男がいるじゃないか、ってな」

「で、そいつがトレーナーって訳か」

「そういうこった」

「はー……」

 

 身を屈めて別の角度からビリヤード台を眺めながら、感嘆の声を上げる。何となくウマ娘側の理由ってのは分かった。ただ同時に疑問も湧いてくる。

 

「ゆーて、トレセン学園のトレーナーって相手としてはどうなんだ? 確かにエリートとか言われてるし、合コンとか見合いだと売り手市場らしいけど、仕事で担当に付きっ切りになるせいで相手が色々と苦労するとか聞いたぞ?」

 

 実際、トレーナーの仕事が多忙なせいで嫁に愛想をつかされて離婚されるなんてのが、割とあるとかなんとか。

 俺の質問にシリウスも軽く頷いた。

 

「ああ、それは合ってる。URAの調査だとトレーナーの離婚率ってのは、他の職種と比べて離婚率は高いっていう資料は見た事があるな」

「だろ?」

「だが同時にその資料には面白い事も書いてあった」

「面白い事?」

「夫婦がトレセン学園卒ウマ娘とそいつを担当していたトレーナーだった場合の離婚率」

「いや、やけにピンポイントなモン調べたな……」

 

 暇かよURA。

 

「それでどうだったんだ?」

「なんとまぁ、そのケースだと日本の夫婦の離婚率よりも大幅に低いときたもんだ」

「具体的には?」

「なんと4%だ。因みに日本の離婚率は30パーセントを超えている」

「マジか」

 

 そんなに低いんか。

 

「それってあれか。元々担当されてたから、旦那の仕事に理解があったとかか?」

「それもあるな。旦那が中々帰ってこないのが許せない奴なんかはトレーナーを辞めさせてるから、残っているのは旦那の仕事に重々承知の上な奴だけだしな。他にもお互いの相性がいいってのがある。トレーナーがウマ娘に逆ぴょい(桃)されるってとこは、裏を返せばそれだけトレーナーと相性が良くてウマ娘に信頼されているって事だからな。相性が悪ければ、そもそもそんな事にはならない」

「あー、それもそうだよな」

 

 姿勢を戻してビリヤード台を別角度から眺めつつ頷く。

 言われて見りゃそうだよな。ウマ娘の担当採用は、お互いの性格の相性も重要項目の一つだし。今考えると担当契約って見合いに思えてきた。

 

「後はトレーナーが人間的に出来た奴ばかりなのも大きいな。そもそも変な奴は例外なく面接で落とされている。トレーナー採用試験が難関だって言われている理由だ」

「そうなのか? 確かにトレーナー採用試験は筆記は難問だし面接もキツイとか言われてたけど、俺が受けたときは難しいって印象はなかったな」

 

 俺の場合は一回目は筆記で落ちて、二回目は筆記はギリギリ突破で面接は特に変な事を訊かれずに合格したし。

 

「今だから言えるが、当時は現役ヒールレスラーだったから色々言われるって思ってたのに、なんも言われなかったら肩透かし食らったぞ」

「アンタはなんだかんだお人好しだからな。それを見抜かれたんだろ」

「見抜かれた?」

 

 ボールを見ながらも、思わず首を傾げる。そんな俺にシリウスは肩を竦めた。

 

「一から説明するぞ。筆記よりも面接が難しくなっている理由はトレセン学園が所謂お嬢様学校ってのに関係がある」

「ああ、それは聞いたことがあるな。学園の生徒は実家が太い生徒が多いから、その実家目当ての奴を入れないために厳しく面接してる、だったか。身元も公務員並みに調査してるとか」

「そこは知ってたか。なら話は早い。その面接官の中でも一番ヤバいのが理事長だ。先代にしろ今の理事長にしろヤバいレベルで勘が鋭い。少しでも邪な事を考えていたら即座に見抜かれて一発アウトだ」

「……そういえば昔樫本さんが、毎年試験を受けるも毎回面接で落とされる人は少なくない、なんてボヤいてたけど、もしかしなくても理事長がブロックしてたからか?」

「恐らくな。お陰でトレセン学園のトレーナーってのはどいつもこいつも、レースに狂ったいい子ちゃんばかりだ。まっ、変な奴が潜り込んでいるよりは健全だがな」

「せやな」

 

 トレセン学園所属のウマ娘の平和は理事長によって守られているらしい。それはともかく、

 

「つまり離婚率の低さは、『理事長による厳選』×『担当契約で分かる相性の良さ』×『嫁が旦那の仕事に理解がある』の合わせ技?」

「そういうこった」

「……そりゃ、トレセン学園は婚活会場とか言われるわ」

 

 ウマ娘にとっては高確率で良縁だし。うまぴょい(ピンク)されて担当とくっつく事になったトレーナーには、担当に振り回されて大変だなって同情していたが、結婚生活に何気にメリットあったりするのは知らなかった。

 

「そういえば、生徒の中には名家の出身とかいるよな。そいつらはどうなんだ? やっぱり家の都合とかあるんじゃないか?」

「そこは家次第だな。ただメジロ家みたいにレースを重視している家系は、結婚相手が担当トレーナーだったってのはよくある話だ」

「はー……」

 

 前に筋トレ仲間のライアンが「私のトレーナーさんはメジロになりますから」とか言ってたが、あのトレーナー近い内に婿入りする事になりそうだな。

 

「いやーつくづく怖いわ、トレセン学園。華々しいレースの裏で別のレースやってんだもん」

「特にアンタの場合は完全に当事者だしな」

「それな。いや『アンタを私のモノにする』ってイケメンムーブで迫った奴が言うなよ……」

「知るか」

 

 俺のツッコミをバッサリ切り捨てるシリウス。

 俺も色々覚悟を決めてトレーナーになったけど、こんな方向で問題に直面するとは思ってもみなかった。

 

「つーかな、トレーナー……」

 

 若干呆れた様子でシリウスがため息を吐いた。

 

「いい加減諦めろ。どんだけ時間かけてんだ」

「……」

 

 6番の的玉を狙おうにも進路上にある別の球が障害物になっているせいで詰んでいるビリヤード台を前に、何も言い返せずに沈黙。

 因みにさっきからの駄弁りは、半分くらいは打開案を閃くための時間稼ぎな。

 

「いや、ここで落とせなかったらシリウスの腕的にも負け確定じゃん。てか賭けにも負ける事になるじゃん……」

「ナインボールで3点先取したら勝ちのルールで、私がストレートで2点獲得済み。んで、第三回戦でも今のアンタは詰んでいる。来週のパーティーが今から楽しみだ」

 

 普段は見せないすっごいいい笑顔してるよシリウス。

 何がどうなってるかって?

 シリウスからビリヤードを誘われて遊んでたけど、途中で「普通じゃつまらないし賭けでもしないか?」って言われてホイホイと何も考えずにOKしたら、俺が負けたらシンボリ家のパーティーに付き添いとして出る事になっちまったんだよ。んで、今の状況はシリウスが仕掛けたセーフティ(ファールを誘う技)のせいでほぼ負け確だ。クソが。

 

「てか俺をシンボリ家のパーティーに連れてって何するつもりなんだよ」

「あ? そりゃ会長サマを煽るに決まってんだろ。パーティーの日はちょうどシービーのレースの日だから、アイツが一人でパーティーに出るのは確定だからな。思いっきり笑ってやる」

「お前もいい性格してんな……」

 

 中々愉快な事考えてやがるなコイツ。てか煽るのに俺を使うの止めろ。後々メンドくさくなるだろうが。

 そんな未来を回避するためにも、今はこの難局を何とか突破するしかない。

 

「しゃーねー、勝負するしかないか……」

 

 ため息を吐きつつも、覚悟を決めてキューを構える。その様子にシリウスが若干呆れたように呟いた。

 

「セーフティを仕掛けた私が言うのもアレだが、アンタの実力じゃそこから狙うのは無茶だろ」

「いや、クッションに四回バウンドさせればギリ行ける。筋肉を信じろ」

「脳筋スタイル止めろ。てか無理だろ」

 

 シリウスのツッコミをスルーしつつ集中。軌道を思い描きながら腕に力を籠め、

 

「ふんっ!」

 

 全力で手玉を突く。コースはドンピシャ。手玉は高速でクッションに当たり――ビリヤード台から勢いよく吹っ飛んでいった。

 

「……」

「……まあ、そうなるな」

 

 シリウスが呆れた様な目をしながら、飛んで行った手玉を拾って6番の隣に手玉を置く。

 

「ファールだから、私の手番だな」

 

 すっごく冷静なシリウスがサクッと6番を沈め、続けて7番8番9番もあっさり沈めてゲームセット。ここで俺の完全敗北が決まった。

 

「……」

「今度のパーティー楽しみにしてるぞ」

「はい……」

 

 こうして来週の予定は埋まった。

 

 

 




本作の「トレセン学園は婚活会場」は、トレセン学園に代々受け継がれる歴史あるパワーワードです
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