マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
トレセン生にとって夏合宿ってのは、今後の飛躍のための重要な期間だ。弱点を克服するにしろ長所を伸ばすにしろ、集中的にトレーニングを行い今後のための糧とする。そういう意味では、一般校の部活の合宿と同じ立ち位置だ。
ただし合宿環境に目をやるとトレセン学園のそれは一般校のそれと比べると、隔絶と言ってもいいレベルだがな。つーか自治体と交渉して夏合宿用に海岸を一夏貸切るとか、学校どころかちょっとした企業でも難しい事を平然とやってのけているんだから、トレセン学園の資金力と政治力はエグイの一言。まあ、一般の海水浴客がいるところでわらわらとトレーニングをする訳には行かない、って理由もあるだろうが。
そんな学園のお膳立ての中、学園所属のウマ娘たちは合宿所のあらゆる設備を使って思いっきりトレーニングに励む事となる。
海岸の至る所で、ウマ娘たちがトレーナーの指示の下でトレーニングに励んでいる。俺たちチーム・デネボラもその例に漏れる事はない。
「Ready――GO!」
合図と共に、砂浜に伏せていた五人が素早く立ち上がり駆け出す。目指すは200m先に突き立てられている小さなバトン。全員がペース配分を考えない全力疾走だ。
「行っくよー!」
先頭を走るのはスタートが速かったマヤノ。
「クソっ……!」
「どんどん反応が良くなってるね……!」
「全く、油断ならない後輩だ!」
マヤノの後ろに付けるのは、シリウス、フジ、エアグルーヴの三人。その後方に、
「くっ、砂に脚を取られるなんて……!」
わずかに出遅れたフラッシュが駆けている。奇しくも各々が得意としている脚質順になる形だ。レースならばここから駆け引きが始まるところだろうが……、生憎と今回は200mというウマ娘にとっての超短距離戦。
『あああああああっ!』
先頭を走るマヤノを追い越そうと加速していく後方四人。だが今回の超短距離戦では反射神経と加速力がモノを言う。
「テイクオーフ!」
それ故に先頭で加速し続けるマヤノには届かない。そして、
「ランディーング!」
余裕でバトンを掴み、高々と掲げるマヤノの姿がそこにあった。
「トレーナーちゃん、獲れたよ!」
「おう、お疲れさん」
手を振り駆け寄ってくるマヤノに返事をしながら、スポーツドリンクを渡して迎え入れる。
「とりあえず10本やってみたが、結果はトップはマヤノで、後は団子か。マヤノはスタートがいいから、ビーチフラッグスに噛み合ってんだよな」
「えへへ、凄いでしょ」
「おう。後は加速力が上がれば完璧だな。これからのトレーニングは加速力を鍛える感じで行こうか」
「うん!」
大きく頷くマヤノ。今のビーチフラッグスを見て改めて分かったが、マヤノの加速力は他の四人と比べて低い。種目別競技大会の時もイマイチ加速力が足りないせいで負けてたから、その弱点を克服するのが先決だろう。
「分かっちゃいたが、スタートで失敗したらその時点で負けだな」
「だね」
「ビーチフラッグスで重要なのは反射神経だと聞く。それは当然だろう」
「お帰り。これ飲んでクールダウンしとけよ」
ついでやってきたのは、シリウス、フジ、エアグルーヴの先行組三人。ペットボトルを渡しつつ、今の10戦で見えてきた課題を纏める。
「シリウスは加速力はあるし体幹が出来てて起き上がりが速いのは流石だな。ただスタートでしくじる事が割とあるから、そっちを強化していくか」
「おう」
「フジはシリウスの逆だな。スタートと加速は良いんだが、体幹にやや難ありと見た。体幹トレーニングを取り入れてみようか」
「うん」
「で、エアグルーヴの場合はスタートと体幹は良いが、マヤノ程じゃないが加速力がやや不安。マヤノと一緒に加速力の強化で行くぞ」
「分かった」
水分を取りながら頷く三人。そうしていると最後の一人が帰ってきた。
「お待たせしました」
「お疲れさん。ちゃんと水分とっとけよ」
「はい」
フラッシュにペットボトルを渡す。
「フラッシュは最後こそスタートでとちったが、基本的にスタートは良いし、体幹も加速力もいいんだが、純粋にトップスピードが不足しているな。そこを伸ばしていこうか」
「分かりました」
しっかしこうしてみると、各々の課題が見事にバラバラだ。そんなもん当然ちゃ当然だが、指導する側からすると色々な種類のトレーニングを一辺に見ないといけないのは、中々骨が折れそうだ。ついでにトレーニング以外の「別の仕事」もあるし。こういう時サブトレーナーとかいたら楽なんだろうな。
まあないものねだりなんてしても時間の無駄だし、気合を入れて指導していこうか。そう気合いを入れ直した直後、
『こちら本部。各員、定時警戒をされたし』
腰に下げていた学園支給の無線機から音声が響いてきた。早速「別の仕事」をしなきゃならなくなった。
「やれやれ……」
周囲、特に海とは反対側の防波堤側に顔を向けて異常がないか見回す。視界の隅では同じく浜辺でトレーニング指導をしているトレーナーたちも、周囲をキョロキョロとみている。みんなちゃんとやってるみたいだな。
「どうしたの、トレーナーちゃん?」
「あー、アホやる奴がいないかの確認?」
「……ああ、警備か」
「トレーナーさんも大変だね」
「見つけたらしっかりシバいとけよ?」
色々と運営側に属しているエアグルーヴとフジ、ついでに何故かシリウスが納得した様に頷いた。事情を知らないマヤノとフラッシュは首を傾げたままだ。こりゃ気が進まないが説明しなきゃならないらしい。
「どういう事ですか?」
「夏合宿が一般公開してないってのは知ってるな?」
「はい。外部の人で合宿所に入れるのは学園に許可されたマスコミ関係者とは聞きます」
「あ、それマヤも聞いたことある。確か学園の外だと見学する人が集まっちゃって、練習に集中出来なくなるからなんだよね?」
「おおよそ合ってる」
学園の場合は塀や警備があるから見物人が入り込む事はないが、合宿所のトレーニング場は普通の海岸だからな。普通にそこら辺の一般人が見学出来ちまう。そんな所に競走バファンが大量に押し寄せた日にゃ、練習にならないのは目に見えている。そんな訳で一般公開はしないって取り決められているんだ。
「おいおいトレーナー、理由はそれだけじゃないだろ?」
「おい……」
シリウスが遊び道具を見つけた子供のようにニヤニヤしながら、そんな事を言いだした。
「見物客だけなら学園からついてきた警備員だけで追い返せるからな。今みたいに海岸にいるトレーナー全員が警戒する必要なんてないなぁ」
「確かに……。トレーナーさん?」
「あー……実際禁止しても来る奴っているんよ。具体的には見学じゃなくてウマ娘の写真とか動画を撮ろうって奴ら」
普通の海水浴場でも海水浴客の水着姿を撮ろうって奴が生えてくるんだ。基本的に学園指定の水着でトレーニングをしてるウマ娘――それも有名ウマ娘――が大量に居る合宿所なんか垂涎の的だろう。
そんな事情もあって学園所属の警備員が目を光らせたり、地元の警察協力によるパトロールもやっている。ただ残念ながら、それでも追いつかないのが現実だ。
そんな訳で合宿場にいるトレーナーは指導と並行して警戒をする事になっている。
「そう言った画像やら動画って結構高く売れるらしくて、性欲で暴走した奴だけじゃなくて小遣い稼ぎにやらかす奴も来るから、結構面倒なんよ」
「だが内容が内容だけに放置は出来ない。学園の評判に関わるからな。本来なら私たち生徒会も協力すべきだろうが……」
「女帝サマも無茶言うな。敵にわざわざ餌を与えてどうすんだよ」
「エアグルーヴは真面目だからね。でも今回ばかりはダメだよ?」
「あ、そっか。カメラを持ってくる人たちの目的って私たちウマ娘だから、生徒会もターゲットの一つなんだ」
「それでは意味がありませんね」
「つーかルドルフ、ブライアン、エアグルーヴの生徒会上層部組は奴らにとって最優先目標の一つだからな。警備する側からすると気持ちだけもらっておくさ」
最優先目標が積極的に突っ込んでいくとか、警備の意味がないからな。因みにそんな事情もあって学園からついてきている警備員は全員男だ。(ウマ娘の警備員はそっちはそっちで需要があるらしくて使えない)ついでに警備部と連携して警戒しているトレーナーも警戒は全員でやるが、とっ捕まえる際は野郎オンリーだ。
そんな感じで駄弁ってたら、
『こちら警備部小原だ。不審人物を発見。これより接触する』
そんな無線が聞こえてきた。噂をすれば、というやつか? マジで見つかるとはな。
「うわー、ホントにいた」
「私たちも気を付けないといけないね」
「全く嘆かわしい事だ」
「トレーナー、応援に行かなくてもいいのか?」
「そもそもそういうのは警備部の仕事だからな。わざわざ出張ってもしょうがない」
「それもそうですね」
不審者に対する警備も警戒も捕縛も、メインは警備部の仕事だからな。無駄に出張っても警備部のメンツを潰すだけだ。てか警備部の手伝いをする暇があったら、担当たちのトレーニングを見る方がずっと有意義だし。
「アンタも、フラグを立てるような事を言うねぇ……」
「俺らトレーナーが出張る機会なんざ早々ねぇよ。うっし、それじゃあもうそろそろ――『こ、こちら小原! 不審人物に逃げられた! 俺は催涙スプレーを食らって動けない! 応援を求む!』……フラグ回収早くない?」
最速回収とか勘弁してくんねぇかな……。頭を抱えている間にも無線は蜂の巣をつついたように大騒ぎだ。
『野郎、舐めた真似しやがって!』
『おい、どっちに逃げてった!?』
『バス停から北に走っていった!』
『人数は?』
『一人!』
『どんな奴だ! 迎え撃つぞ!』
『リュックを背負って青いキャップをかぶった中肉中背の20代後半の男! 大型の望遠レンズを付けたカメラを持っているからすぐに分かるはずだ!』
『警備部主任の三隈だ。各トレーナーに応援を要請する』
『おう! 野郎ども行くぞ! ブッ殺してやらぁ!』
なんか滅茶苦茶物騒な無線が飛び交ってるな。ついでに海岸にいる男のトレーナー陣も殺気立ってるし。
「む? バス停から堤防沿いに北という事は私たちがいる周辺か?」
「だね。……あ、もしかしてあれじゃないかな?」
「ん?」
釣られてフジが指さした先に視線を移す。そこには必死に走ってる、リュックを背負い青い帽子をかぶった男の姿があった。
――正直積極的に探し出すつもりはなかったが、わざわざ奴さんの方からくるんなら、本気を出さざるを得ないな!
「いたぞー! いたぞおおおおぉ!」
叫びながら突貫! 堤防代わりの小高い坂を駆けのぼり素早くカメ子の行く手を阻む!
「ひっ!? ど、どけ!」
カメ子は怯えた表情を見せつつも戦意までは萎えていないらしい。催涙スプレーを手に突撃してくる。だがな、その動きは素人丸出しだ。そんなもん、
「甘い!」
「えっ!? ――あだだだだだだぁああああああ!?」
「オラぁあああああああああぁああああ!」
怖くも何ともない! 素早く催涙スプレーを弾き飛ばし、流れるようにコブラツイストで締め上げる!
「こいつか!」
「盗撮するなんてふてえ野郎だ!」
「お仕置きしねぇといけねぇなぁ!」
「オラ、アンクルホールドじゃああああああ!」
「あああああああああっ!?」
盗撮犯を取り押さえてるついでに遊んでる間にも、俺の呼ぶ声に反応してついてきた男トレーナーと、追いかけてきたサングラスをかけた警備部の面々(筋肉隆々)が続々と集結してきた。夏で唯でさえ暑いのに、野郎共が集まったせいで周辺気温が余計に高くなった気がするが気にしてはいけない。
因みに盗撮犯の取り押さえについては、警察からも許可をもらってるぞ! お陰で多少暴れてもお咎めなしだ! 便利だな!
「ついでにロメロスペシャルも食らっとけやぁああああああ!」
「おおおおおおおおおおおっ!?」
「武藤さん、お疲れ様です」
「お疲れさん。こいつ持っててもらっていい?」
「はい、責任をもって引き取ります。オラ行くぞ!」
「いやだぁあああああああ!?」
「あ、コラ暴れんな!」
「ええい、面倒くせぇ! 担いでいくぞ!」
「おうっ!」
「のおおおおおおおぉおおおおお!?」
盗撮犯が何人もの警備員によって担ぎ上げられながら、合宿所の警備本部に連行されていく。多分アイツ、コッテリ絞られた後に警察に引き渡されるんだろうな。
「……学校法人にあるまじき酷い絵面を見た気がするが、私の気のせいか?」
一連の騒動にシリウスがなんか言ったような気がするが、無視しようと思う。
チャンミ用キャラを作ってはいますが、イマイチいいキャラが作れない……。今回もグレードBで戦う事になりそうです。