マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
最近、育成が上手く出来ない……。(グラライでもSS+が限界)
黒鹿毛のウマ娘との戦いは幸いなことに未遂で終わった。正直あの場面で正面からド突き合いなんぞしてたら流石の俺でも死んでたので、相手が引いてくれたのは運が良かった。
ただこういった事件ってのは、後始末が付きまとう。それが滅茶苦茶面倒くさいんよ。
「おい、何があった!?」
「俺宛ての客だ。相手は引いたが再襲撃の可能性がある」
「例のアレって解決したんじゃないのかよ!? ……全トレーナーに通達! トラブルが発生した! すぐさまトレーニングを中止し点呼を取れ! 確認後は即刻生徒たちを宿泊施設に送るんだ!」
「休暇組も呼び戻せ! 出先で出くわしかねん!」
まず発生するのがトレーニングの一時中止だ。人様に暴力を振るうような危険人物が出た上にそいつを取り逃がしちまったんだから、そりゃ警戒だってする。お陰様で今日のトレーニングは丸々中止になった上に、生徒も宿泊施設に缶詰にしなきゃならなくなった。
夏合宿なんて集中してトレーニング出来る時期にトレーニングを中止する羽目になるとか頭が痛くなる。
「――とまあ、こんな風に回避したんですわ」
「いや待って? 普通ウマ娘のパンチなんて避けられないんじゃ……」
「そりゃノータイムで殴り掛かられたら俺でも無理だが、今回は話してる最中で雰囲気が変わったからな。お陰でギリギリ避けれたんよ」
「……いや、それでも普通は無理だからね?」
「格闘技で飯食ってる奴らなら、こんくらいならできるぞ?」
「格闘家ってどんだけヤバい奴らなんだ……」
次にやったのは警察呼んで事情聴取と現場検証だ。普通に刑事事件だし犯人も逃げてるから、そりゃ警察に通報する。
……正直な所、襲撃されたとはいえ俺が避けたから結果的に未遂になってるし、警察も適当に済まされるかもとか思ってたが、現場に来た警官は真面目に仕事をしてたのは驚いた。
多分、トレセン学園っていう超巨大組織からの通報だから、適当に済ませるとか出来ないんだろうな。
「で、今後どうするよ」
「出来れば明日から再開したいが、犯人が捕まっていないのがな……」
「最悪生徒が巻き込まれかねん」
「それなんだが、俺がウマッターとかで派手に宣伝して帰るとかどうよ? 埋め合わせとして学園のトレーニング施設の優先使用権とかもらうけど」
「シレっと自分の要求ねじ込むなよ、お前……。でもそれはそれとして武藤の案はアリだな。襲撃犯の狙いはお前だし」
「確かにターゲットがいなけりゃ、犯人もどっかいくだろうしな」
「しかし武藤トレーナーに全ての負担を押し付けるはどうかと……。それに武藤トレーナーを学園に帰らせるとなると、チーム・デネボラのメンバー全員も合宿の途中で帰らせなければなりません」
「あー、その問題があるか……」
「トレーナーの問題に生徒を巻き込むのはマズい……」
「サブトレがいりゃ押し付けられるんだが、デネボラにはいないからな」
「後、襲撃者が赤い蹄鉄って時点でヤバい。これ見てみ。アイツ等が昔やらかした事件とか調べたら頭痛くなるぞ」
「なになに? 地方トレーナーへの襲撃事件か。動機は……男がウマ娘に指図しているのが気に喰わなかった?」
「……あれ? もしかして俺らもヤバい?」
「間違いなくヤバい。武藤を帰らせてもターゲットが俺らに向く可能性がある」
「えぇ……」
で、警察が帰ったら今後の方針を決めるためにトレーナーに緊急会議だ。流石に事が事だから空気が重苦しかった。そんな訳で早々に俺だけ先に学園に帰る案を自分から提案して対価を貰おうと画策したんだが、赤い蹄鉄が昔やらかした事件のせいで事を簡単に収められそうにないってオチが付いた。
結局、今回の件で警察の巡回が強化されるって事で、俺が合宿所の敷地内から出ないって事で様子見する事になった模様。
ここまででやる事がありすぎて滅茶苦茶疲れたんだが……、悲しいかな俺の仕事ってのはまだ終わってない。てかここからが本番だ。
「帰ってきたな。では事情を説明してもらおうか?」
やっと部屋に帰ってこれたと思ったら、部屋のど真ん中で仁王立ちのエアグルーヴにお出迎えされた。ついでにその脇には他のチームメンバーも全員揃ってる。
……正直ここが一番説明が大変だった。上手く説明しないと後が面倒な事になるんよ。そんな訳で俺も頑張ったんだが……ダメだった。
「馬鹿者! なぜそんな大事な事を言わない!」
「ちっ、んな事になってのかよ」
まずエアグルーヴに怒られて、シリウスに睨まれた。いや事が事だし、そもそも終わった事件のはずだったんだが……。
「そんな……」
「トレーナーちゃん、大丈夫なの……?」
次にフラッシュとマヤノに心配された。実際大丈夫だから心配するな、って言っては見たが、反応が変わらなかった。
で、一番ヤバかったのは……。
「トレーナーさん、ごめんなさい……」
「よーし、落ち着け! 別にんな事ないからな!?」
顔を真っ青にさせて泣き出したフジだ。コイツからすれば自分の事件が巡り巡って別の事件を誘発しちまったって考えたんだろう。モロにメンタルにきちまったらしい。その後はしばらく俺も含めて全員で慰める事になった。
んで、やっと落ち着いた所でようやく平和な話し合いになった。
「それで、これからアンタはどうするんだ?」
「あーそれなぁ」
シリウスの言葉に曖昧に頷く。
「警察が襲撃犯を捕まえるまでは、宿泊施設とトレーニング場に缶詰って事で様子見」
「へえ。てっきり合宿所から帰らされると思ってたんだがねぇ」
「俺もそうなると思ってたんだが、色々とあってこうなった」
普通の襲撃犯ならそれで通ったんだが、襲撃者の正体がヤバすぎて下手に動けなくなっちまった。お陰でなあなあな感じの対処療法だよ。
するとフラッシュは口に手を当て、どこか思い詰めた表情で呟いた
「……外出を控えるだけでトレーナーさんの安全が確保できるのでしょうか?」
「というと?」
フラッシュの疑問の意図が分からず、首を傾げる。
「外出を控えると言ってもトレーニングには同行するのですから、襲われるリスクの点で見ればこれまでと殆ど変わりません」
「うん、トレーナーちゃんが襲われたのって私たちのトレーニングを見ている最中だもんね。休みの日だけ宿泊施設に居てもそこまで意味がないんじゃないかな?」
「いやまあ、実際その通りなんよな」
フラッシュとマヤノの意見はもっともだ。トレーニング日に襲われたのに変わらずにトレーニング日に顔を出すとか、閉じこもってる意味ないし。
「警備部や警察からは何か言ってたりする?」
「警備部からは警備が厚めの所でトレーニングしてくれって要請が出てるからそれで対処だな。警察はパトロールを強化。まあこれでどこまでやれるかは分らんが」
「トレーナーさんの見立てだとどうなの?」
「正直期待はしてないな」
「うーん……」
今度はフジが何とも言えない顔で唸る。ウマ娘の襲撃者相手にどれだけの効果があるのか未知数だ。警備を見て引いてくれるならいいが、俺への執着心次第ではなりふり構わない特攻とかもあり得る。
「いっそ私が護衛として側についてやろうか?」
「シリウス先輩、急に何を言っているんですか」
「相手がウマ娘ならこちらもウマ娘で対抗すればいいんだよ。腕には多少は覚えがあるぜ」
「いやー、流石に血生臭い所にシリウスまで巻き込むのは勘弁」
いくら相手がウマ娘とはいえ、自分の担当に相手をしてもらうのは嫌すぎる。ついでにそんな事やった日にゃ、世間様からのバッシング不可避だ。
「んじゃどうすんだよ。流石のアンタも本気で殺しに来るウマ娘相手に素手で挑むのは無茶だろ」
「ああ、無茶を通り越して無謀だな。だから明日からは護身武器を持ち歩く」
脅迫事件のこともあって、学園には事前に許可を得て合宿所に持ってきている。しかも学園が合宿所の外でも護身武器を持ち歩けるように、警察から許可証までもぎ取ってくれたからな。ここまでお膳立てしてくれたのだから、俺も堂々と利用させてもらおうじゃないか。
「そんなん持ち込んでたのか」
「つーても、トレセン学園で配布されてるやつしかないがな」
「スタンガンとスタングレネードでしたっけ」
「おう。さっき来た警察にも護身武器とか貸してくれって言ったのに、思いっきり断られたから、学園標準装備が俺の武器になるな。警察からなんか警察章が描いてある防犯ブザーとかもらったけど正直いらんし」
「たわけ。警察に無茶を言うな」
ゆーて実際持ってても意味ないんだが。
「あれ? でもトレーナーちゃんって、前にそういうのは嫌いって言ってなかったっけ?」
「正確には生徒に使うのとか勘弁、だな。今回は相手が相手だから容赦せん」
相手が害そうと突っ込んでくるんだから考慮してやる必要とかないし。つーか相手を考えると考慮する余裕がないし。
「とりあえず俺の方は言っちまえば様子見だ。そこんところは頼む。つーてもトレーニングについては、これまで通りにやれるから安心してくれ。んで、エアグルーヴ」
「なんだ?」
「すまないが、明日の肝試しの手伝いは出来そうにない。人手が減るが大丈夫か?」
「ああ、そういう事情があるなら仕方あるまい」
エアグルーヴが小さく頷いた。肝試しは合宿所近くの林を借りてやる行事だからな。俺の外出制限に引っ掛かる。
「後、週末に行く予定だった神社の夏祭りも俺は行けないから、お前たちで楽しんできてくれ」
「そちらも楽しみにしていたのですが、仕方ありませんね」
「そうだね。私たちも色々と考えていたけど、また次の機会にしよう」
「何考えてたんですかねぇ……」
「ひみつ」
あれか。コイツ等この前の海水浴みたいなこと企んでたんか。
それはともかく、第二ラウンドに向けての準備は着々と進められる事となった。
需要があるか分かりませんが、本編に出てきたUUU過激派組織「赤い蹄鉄」について解説。
〇赤い蹄鉄
近年ではウマ娘至上主義結社、通称「UUU」の内でも、暴力、脅迫事件を度々起こしている過激派組織と目されている。
ただしより正確に分類した場合、「赤い蹄鉄」と呼称されている組織は1980年代前半に日本で1年ほど暴れ回り、突如として姿を消したウマ娘の集団の事を指す。
・始まりの事件:80年代前半の某日、某運送企業社長を誘拐され、翌日に「赤い蹄鉄」を名乗る人物から身代金と事実の公表を要求される。
警察の捜査が行われるも捜査は難航。そうこうしている内に某企業社長は解放された。
企業社長自宅へは「情報は得られたから金は要らない」との電話があった。なお某社長は犯人の顔は分からなかったが、複数のウマ娘によって誘拐されたと証言している。
・運送企業連続脅迫事件:誘拐事件から一か月後、日本の複数の運送会社に「某運送会社のようになりたくなければ、事実を公表しろ」との脅迫文が、「赤い蹄鉄」名義で各会社本社及び各マスコミに一年に渡って次々と送られ、世間をにぎわす事となる。またこの間に、脅迫されたある運送企業の幹部が複数のウマ娘に襲撃され、大怪我を負う事件も発生している。
警察は運送企業社長誘拐事件と関連があるとして大がかり捜査が行われるも、犯人は特定できずにいた。
だが事件発生から一年後、マスコミ各社に赤い蹄鉄から「用事は終わった」との内容の手紙が送付され、この終息宣言後、完全に犯人の動きはなくなった。以降、警察の懸命の捜査が行われたものの犯人の特定には至らず、最終的に未解決事件となった。
・世間の反応:脅迫された企業の共通点だが、ウマ娘を違法に低賃金で重労働を強いていた点があった。この共通点から世論は「赤い蹄鉄」は、これら不正への是正のために動いているUUU、もしくはそれに近いウマ娘の集団であると見るようになった。
またこの頃、各運送会社へのバッシングが行われるようになり、各企業の業績は大幅に低下。2社が倒産する憂き目に合っている。
・模倣犯:誘拐事件から始まった一連の事件は「赤い蹄鉄事件」と呼称されており、その義賊的な手法も相まってセンセーショナルを巻き起こした。
が、同時に自らを「赤い蹄鉄」と名乗る模倣犯も多発するようになり、現代に至るまで度々暴力事件を起こすようになった。彼女らの手腕は初期こそ「赤い蹄鉄事件」を模したものだったが、時が経つにつれ雑多な暴力事件を起こすようになっていった。
なおこれら模倣犯はウマ娘至上主義者が多い傾向にある。
参考にしたのは、グリコ・森永事件と攻殻機動隊S.A.Cの笑い男事件です。
今回出てきた赤い蹄鉄ですが、当然模倣犯になります。