マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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作者が警察の動きを殆ど考えずに本編を書いてたら、警察が中々の無能になってしまった……。
前作ではそこら辺は気を付けてたんですけどねぇ……。


29話 勝ったと思った瞬間が一番危険

「花火をするとなると、浴衣は着ないといけないな」

「そうだね。花火に浴衣は定番だしね」

「それじゃあ、夏祭りに行く前にみんなでレンタルしよっか」

「そうですね。後は花火ですがトレーナーさんはどのような物が好きなのでしょうか」

「それは私も分からないな。後でトレーナーに確認しておく」

 

 夏祭りへの道すがら、私を含めたチーム・デネボラのメンバーはこれからの予定の相談、というよりもトレーナーへの攻勢についての最終確認をしながら、ボチボチと歩みを進めていた。

 とはいえメインで話題を進めてるのは、私を除いた四人だ。私は適当に頷きながら最後尾をプラプラと歩いている。正直な話、テンションが上がらない。

 こんな事になってる原因は……私も理解している。本来ならこの場にいるはずだった筋肉ダルマがいないのが原因だ。

 

――なんてことしやがる!

 

 こんな事になった犯人に心の中でありったけの罵倒を叩きつけつつ、小さくため息を吐く。

あの赤い蹄鉄とかいう訳の分からん奴らのせいで台無しだ。自分の主張のために私のトレーナーを巻き込んでんじゃねぇ。

 そんなイライラが募っている最中だった。

 

「あれ?」

 

 先頭を歩いていたマヤノが、地面に落ちている何かに気付いた。

 

「何か落ちてる」

「ん?」

 

 マヤノの視線の先にあるものに、私も目を向ける。そこにはプラスチック製の何かが粉々になったゴミがあった。

 

「ただのゴミじゃねぇか。珍しいもんじゃないだろ」

「全く、道路にゴミを捨てるなど嘆かわしい」

「中の機械までバラバラになってるね。自転車にでも轢かれたのかな?」

「その割には壊れ方が酷いですね。まるで車に轢かれたようにも思えますけど、ここは歩道ですし……」

 

 私も含めたマヤノ以外のメンツはゴミには殆ど興味はなかった。強いて言えばフラッシュが多少は興味をそそった位か?

 だがマヤノはそのゴミが気になるらしい。

 

「んー、でも何でこんな所にこんなにバラバラになった機械があるの――あっ」

 

 立ち止まって観察し始め――慌ててそのゴミを拾った。

 

「待って、コレ見て!」

「あん? だからただのゴミ………は?」

「……なに?」

「え?」

「これって……」

 

 そのゴミ、正確にはそこに描かれてる模様をつい最近見た覚えがった。

――警察章だ。

 そして改めてバラバラになったゴミをよく見ると、前回トレーナーが襲われた日の夜に見せてもらった、警察からもらったという防犯ブザーとそっくりで……。

 

「―――まさかっ!」

 

 エアグルーヴがスマホを取り出し、どこかに電話を掛ける。誰に掛けたのかは分かっている。トレーナーだ。全員が緊張した面持ちでスマホに注目するが――。

 

「くっ、なぜ出ない!?」

 

 いつまで経ってもアイツと電話が繋がらない。

 

「ちっ!」

 

 反射的に来た道を走りだす。ウマ娘が専用レーン以外を全力疾走するのは禁止されているが、そんな事なんざ今はどうでもよかった。

 

 アイツは自分でこの時間は部屋で仕事をしていると言っていた。ならエアグルーヴからの電話に出られないはずがない。

 

 嫌な予想ばかりが頭を過る中、学園が利用している宿泊施設に駆け込み、一直線にトレーナーの部屋に飛び込んだ。

 

「―――――」

 

 そこにあったのは、手足を縛られ猿轡をされている従業員の女と、虚しく鳴り響くアイツのスマホだった。

 

 

 

 

 

「ついた。ここだよ」

 

 ウマ娘の集団に拉致されて連れてこられたのは、郊外のあまり人が立ち入らなさそうな林だった。

 

「ほー、ここでやるんか。いや西日がキツイな。ホントにサングラス持ってきてよかった」

 

 そんな林の中央付近にある、木々がなく代わりに雑草が生い茂っている7メートル四方の開けた空間。そこに俺たち四人はいた。

 

「てか思ったより近くないか? 車に乗ってたの30分もなかっただろ」

 

 正直どっかの山奥にでも連れてかれるか、こいつ等のアジトにでも連れ込まれて公開リンチとか考えてたから意外だった。

 

「あんな雑な誘拐なんてしたから、バレるのは時間の問題だしね。貴方を長々と連れ回してたら、検問に捕まる可能性もあるし」

「要するに邪魔な荷物をさっさと片付けてから逃げようってか?」

「そういう事よ。ここなら殆ど人が来ることはないでしょうし、思いきって出来るわ」

「だろうな。この時間に郊外の林にいるなんざよっぽどの物好きだ。しかも今日はどっかの神社で夏祭りがあるから、余計に来なさそうだし」

 

 黒鹿毛のウマ娘の言葉に素直に同意する。つまるところ、この場所に連れてこられた時点で、外から救援が来る可能性はほぼゼロになったって事だ。

 

「それで? ここで殴り合うとしてルールなんてあったりするのか? お前ら全員叩きのめせば俺の勝ちってのは分かるが」

「へえ、面白い事言うね。私たちに勝てると思ってるんだ」

 

 栗毛ウマ娘がバカにしたように嗤った。

 

「俺の勝利条件はそれで合ってるだろうに」

「ふんっ。……貴方には私たち全員と戦ってもらうよ。ルールはなんでもアリ。ただし私は銃は使わない。銃はあくまでも脅しのために持ってきただけからね。ただし逃げようとしたら――」

 

 栗毛ウマ娘が銃を抜いて、俺に向けた。

 

「身体に穴が開くから、その時は覚悟していてね」

「OK。接近戦オンリーの殴り合いか。んでさ」

「なに?」

「……そいつの武器はありなん?」

 

 視線を栗毛の隣に佇んでいる葦毛ウマ娘に、正確にはそいつが持っている特殊警棒に向ける。

 

「素手でやるから、使わない――」

「使う」

 

 栗毛を遮って、思いっきり使用宣言し始めたぞこの葦毛。

 

「待った。男相手に警棒なんて使わなくてもいいでしょ?」

「使う。アレに触りたくない」

「あのねぇ……」

「ヤダ」

「……申し訳ないけど、使わせてもらうわ。頑張りなさい」

「アンタも苦労してんのな」

 

 目元を抑える黒鹿毛に、思わず慰めちまったよ。それはともかく話は分かった。ウマ娘たちに背を向け、リングになってる草地を歩く。

 

「バーリトゥードの1対3の変則マッチか」

「そういう事。いくらでも抵抗してもいいけど、勝てると思わないでね」

「おいおい、随分余裕だな。もう勝った気でいやがる」

「そういう貴方も随分と余裕があるわね」

「その余裕、叩き壊す」

「おお、怖い怖い」

 

 余裕綽々のウマ娘たちの言葉に肩を竦める。アイツ等もう勝った気でいやがる。

 

「やれやれ……」

 

 状況だけ見りゃ絶体絶命だ。ウマ娘3人に俺が正面から挑んで敵うはずがない。だがアイツ等慢心しまくってて、致命的なミスをしでかしている。

 

「折角だし、俺の担当にいつも教え込んでる事をお前らにも教えてやろうか」

 

 スマホを捨てさせてGPS頼りで救援を防いだのは褒められる点だが、そこで満足したのはアウトだ。

 

「へえ、どんな事?」

「それはな」

 

 ブザーを自分でぶっ壊したのを見て満足したのかは知らないが、――まさかボディチェックすらしないとか舐めプにも程があるぞド素人共。

 

 

 

「勝ったと思った時が一番危ないんだよ」

 

 振り返ると同時にスタングレネードを放り投げ、耳を塞ぐ。

 使うのは学園支給の対ウマ娘用スタングレネードだ。ヒトと比べて耳がいいウマ娘のために人間用と比べて音が小さく調節してある。人間なら耳を手で塞げば動ける程度に、だ。

 だからこそ、

 

――閃光と爆音。

 

「なに!?」

「ぐっ!」

「ああああっ!」

 

 スタングレネードの奇襲をもろに受けて怯むウマ娘たちに対して、サングラスと簡易耳栓でグレネードを無効化し、速攻を仕掛ける! 距離を一気に詰め、

 

「寝てろ!」

「うあっ!」

 

 懐から抜いたスタンガンで、耳をやられてふらついた栗毛を撃破!

 

「ばかにしてえええええええぇ!」

 

 葦毛のウマ娘が警棒を滅茶苦茶に振り回す。だが目がやられているのか狙いも何もあったもんじゃない。

 

「もういっちょ!」

「あああああああっ――あ」

 

 サクっとサイドから潜り込んでスタンガンを押し付けて無力化する!

 これで二人目。最後に残った黒鹿毛に目を向ければ、まだグレネードの影響から抜けきっていないのか、手で顔を覆っている。

 

「ラスト!」

 

 そのチャンスを逃さず、スタンガンを叩き込もうと繰り出す! だがその瞬間、

 

「―――!」

 

 不意に言葉では言い表せない不穏な何かを覚えた。慌ててスタンガンを繰り出す手を止める。……それが結果的に功を奏した。

 

 次の瞬間、目の前を高速で何かが通り過ぎたと同時に手に強い衝撃を受けた。

 

 痛みはない。だが手元を見れば……持っていたスタンガンの上半分が消し飛んでいた。

 慌ててバックステップで距離をとる。

 

「惜しいわね、今のを当てれたら一発だったのに」

 

 蹴り上げた脚を下ろしつつ、黒鹿毛のウマ娘が残念そうに呟いた。その光景に思わず頬が歪む。

 ――カウンターでの回し蹴り。

 あの時自分の直感を信じて手を止めてなかったら、スタンガンどころか腕まで持っていかれてた。

 

「ちっ……」

 

――技能持ちか! 順序をミスった!

 

 己のミスを呪いつつも、砕けて使い物にならなくなったスタンガンを捨てて構える。どうやら戦いはここからが本番の様だ。

 

 

 




本編じゃ普通に語っていますが対ウマ娘護身術は生徒には機密になっている分野であり、それに伴いトレーナーの護身武器についても機密扱いです。(もっとも学園内じゃ有名な話のためあまり意味はありませんが)
更にこの機密、学園外に公表されてはいません。(公表なんぞしたら、バッシング間違いなしだし)。そのため赤い蹄鉄の三人が武藤が護身武器持ちなんて知る由がなく、結果的に奇襲が綺麗に成功しました。
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