マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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チャンミは満足できるキャラが揃えられなくて、結局グレードBで戦う事にしました。


30話 死闘

 

「フラッシュ、もう一度言ってくれ」

 

 夕方の街中。仕事終わりなのか夏祭り目的なのかは分からないが、多くの人が行きかう通りを駆けている中、スマホでフラッシュから伝えれられた言葉に思わず聞き返した。

 

『このままでは、トレーナーさんが無事に帰ってこられる可能性は限りなく低いです……』

 

 スマホから聞こえてくるフラッシュの声は涙声混じりだった。それだけでも事態がどれだけヤバい事になっているかが分かる。あまりの言葉に自分でも血の気が引いていくのが分かった。

だがそれでも、何があったかを聞かざるを得なかった。

 

「どういう事だ。警察だって来てんだろ!?」

 

 そもそも警察だってアイツが襲撃されて以降はパトロールの頻度を増やしているし、襲撃犯の捜査だってしているはずだ。そこに使っていたリソースをトレーナーの捜索に回せるはずだ。

 

『確かに警察による捜査は始まっています。それと桐生院トレーナーからの情報ですが、周辺の警察署から応援を呼んでこの街から出る道路に検問を敷いたとも聴きました。脅されていた従業員さんの話と状況を照らし合わせると、トレーナーさんが誘拐されてからそこまで時間は経っていませんから、まだこの街にトレーナーさんはいると予測されています』

「なら袋のネズミじゃねぇか! それなら怪しい車なり怪しい場所を探せばいいだけだろうが!」

『――この合宿地がある街は、山や海、川と多くの自然が残っている田舎町です。つまり……この街には誰にも知られる事なくトレーナーさんを傷付けられる場所が無数にあるんです』

「っクソが!」

 

 思わず悪態が漏れる。無数にある候補地から短期間でトレーナーがいる場所を特定するのは流石に難しいだろう。もちろん襲撃犯が間抜けにも車に乗ってウロウロしている可能性もあるが、多少でも自分たちがやった誘拐劇が雑であることが分かっていれば、この街のどこかをトレーナーの処刑場とするだろう。

 

「なら、町内の捜査の応援は!?」

『近くの警察署から応援を頼んでいるとの事ですが、その応援が捜査に合流出来るのは早くても1時間はかかるそうです』

「遅すぎる……!」

 

 余りの警察の動きの遅さに歯噛みする。

 

「何でそんなに時間が掛かるんだよ!」

『早急な検問の敷設のために人員のリソースを割かれていたようです。それに犯人が複数のウマ娘であることが確実であるため、通常よりも多くの人員が必要となり、その分合流が遅くなるそうです』

「……誘拐犯は最低でもウマ娘二人。それに対抗するためにも面子を集めなきゃならない、ってか」

『しかし1時間も掛かってしまいますと、トレーナーさんは……』

「最後まで言うな、それは私も分かってる!」

 

 最悪の事態を言葉にしようとするフラッシュを遮る。今回の誘拐はよくある身代金目的なんかじゃない。アイツ自身を傷付けることを目的とした誘拐だ。1時間なんて時間は致命的過ぎた。

 ――警察は宛てに出来ない。なら、

 

「私たちはこのままトレーナーを探す! フラッシュは何か情報が入ったら連絡しろ!」

『はい。……それとチーフトレーナーより、外出していると事件に巻き込まれるかもしれないからと、全生徒に合宿所に戻るように通達が出ました』

「オーケー、学園からの電話は気付かなかったって事でスルーする!」

『……現在、私たちだけでも捜索に出れるように、エアグルーヴさんとフジキセキさんが説得を試みていますが、成果は芳しくありません。恐らく却下されるかと思われます』

「……そうかい」

 

 思わず顔を顰めるが、心のどこかの冷静な所は学園側の判断を肯定していた。相手は最低でも二人、それもあの部屋で縛られていた従業員曰く拳銃のようなものを持っているような凶悪犯だ。そんな奴ら相手に、荒事に慣れている私以外のチームメンバーが立ち向かった所で、被害が無駄に出るだけだろうさ。

 

「ともかく、私はこのまま捜索を続ける。お前は情報収集を続けてくれ!」

『はい。シリウスさんもお気をつけて』

 

 フラッシュとの電話を切ると、すぐさまスマホに入っているアプリのグループトークを起動する。

 

「私だ! そっちはどうだ!」

『シリウスさん!? ダメです、まだ見つかりません!』

『こちら第一班です。海岸にもいませんでした!』

『海岸にもいないの!? ならどっかの空き家にいるんじゃない!?』

『なら住宅街? でもあのトレーナーをリンチするんだから、人が多い所にはいかないんじゃないの?』

『あのトレーナーなら大暴れするだろうし、周りがすぐ気づくよね』

 

 スマホから次々と声が飛び交う。グループトークに参加しているメンツは私が面倒を見ているウマ娘たちだ。事情を説明し、トレーナーの捜索に協力してもらっている。

 

「このまま捜索を続けるぞ! グループトークは繋げたままにしろ! あと学園から電話が掛かってくるだろうが、気付かなかった体で無視だ!」

『はい!』

 

 連れたちに指示を出しながら、必死に駆ける。土地勘のない場所だ。それ故に思いついた場所を虱潰しに探すしかなかった。

 

「どこだ……!」

 

 もう何度目かの外れを引き、次の候補へと駆け出す。刻一刻と時間が過ぎると嫌な想像が頭を過り、それが私を焦らせた。

 そんな時、スマホから着信音が響いた。電話の主はマヤノ。すぐさま電話に出る。

 

「どうした!」

『シリウスさん! もしかしたら――』

 

 

 

 

 

「スタングレネードにスタンガン。そんなもの持ってるなんて思わなかったわ」

 

 怒りを露にしつつメリケンサックを装備し、拳を構える黒鹿毛のウマ娘。その姿はイヤに様になっていた。

 

「参ったね……」

 

 小さく息を吐きつつこちらも構える。

 ヒトによる対ウマ娘戦において最も重要なのは、先手を取って一撃で無効化させる事だ。それに失敗したのは、非常にマズい。

 しかも最後に残ったウマ娘も問題だ。前の襲撃といい、さっきの蹴りといい、今の構えといい、いい加減分かった事がある。目の前で相対しているウマ娘は、何かしらの格闘技能を取得しているんだろう。でなきゃここまで動けん。

 タダでさえ身体能力の差があるのに、格闘技能まで持ってるとなると、中々にしんどい事になる。

 となれば……、大昔に俺が通っていた空手道場の師範が言ってたように、少しでも有利な状況を作るしかない。

 

「行くわよ。覚悟しなさい!」

 

 黒鹿毛のウマ娘が突撃しようと足に力を入れる。

 

「そら勘弁だ!」

 

 そのタイミングでバックステップしつつ、二個目のスタングレネードを俺と相手の中間に放り投げる。

 爆音と閃光が辺りを包む。

 

「また……!」

 

 だが効いた様子はない。閃光は腕で防いでいるし、音の方は耳栓でもしているんだろう。――だが突撃は阻止出来た。

 

「っとぉ!」

 

 その間に倒したウマ娘二人から銃と特殊警棒を拾い上げ、更に奥の林へ飛び込む!

 さっきの草地と違って、樹木という障害物がある分行動制限があるが、それは相手も同じ。むしろ木々を利用して隙あらば攻め込む気概でいかないと、この戦いでは生き残れない。

 

「逃がさないわよ!」

 

 黒鹿毛ウマ娘が林に飛び込んだ。そのまま俺に突撃してこようとするのを、

 

「んなろっ!」

「っ!」

 

 右手の銃を連射して迎撃。ウマ娘が弾かれたように横っ飛びで躱され、弾丸は樹を抉る。

 エアガン、それも他人の改造銃なんぞ触ったのがこれが初めてなもんだから、狙いも何もあったもんじゃない。だが牽制目的なら十分だ。俺の手に一撃必殺の武器があるって事実は、相手を一定レベルで躊躇させられる。そしてその躊躇が隙となる!

 

「おらっ!」

 

 横っ飛びで体制を崩した黒鹿毛に一気に距離を詰め、正拳突きの要領で左の特殊警棒を突きを放つ! 狙いは人体の弱点の一つであるノド! 

 

「舐めないで!――って、それやめなさい!」

「止める訳ねぇだろ!」

 

 だが渾身の突きを難なく躱され、仕切り直しのために銃を乱射し強制的に距離を取る。カウンターを貰うリスクを最小限にするために追撃は出来ない。ヒットアンドアウェイに専念する。

 ――とはいえそんな事がそう簡単に上手くやれるハズがない。

 

「この――」

「ちぃっ!」

 

 黒鹿毛ウマ娘が突っ込んでくる。それを銃で迎撃するが、ランダムな横移動と樹を盾にする動きを織り交ぜられているせいで、全く当たらず接近を許してしまう。

 

「いい加減にしなさい!」

「っ!」

 

 クロスレンジに入られ、剛拳が飛ぶ。それを咄嗟にしゃがみこんで回避。先程まで頭があった所を剛拳が通り過ぎ、背後の樹に命中。轟音と共に樹の幹を抉った。

 

「っ!」

 

 必死に相手の攻撃レンジ内から逃れながら銃を撃ち、必死に距離を取って仕切り直す。

 

――場所も分からぬ林の中で、このような攻守が激しく入れ替わる戦いを繰り広げられていた。

 

 幾度目かもわからない攻防。傍目から見れば、この戦いは両者拮抗していると見えるかもしれない。

 ……だが実情は俺の不利は続いている。

 これまでの攻防で分かったが、黒鹿毛ウマ娘の格闘技能は俺よりレベルが低い。更に場馴れしてないのか、動きもイマイチだ。……だが俺が有利な点はそれだけだ。

 いくら俺が鍛えているとはいえ、パワーもスピードもスタミナもウマ娘には勝てない。これまでのリング上を含めた戦闘経験をフル活用して何とか戦ってはいるが、近い内に押し切られてしまうだろう。

 またそれ以上に深刻なのは武器の消耗だ。栗毛ウマ娘から奪った改造銃があるからこそ、何とか拮抗状態まで持ち込めている。弾切れを起こした瞬間、戦力バランスが相手に傾き圧倒的不利になってしまう。

 それ故に――狙うは短期決戦。

 

「そろそろ面倒臭くなってきたな」

「なら大人しく殴られなさい!」

「お断りだ!」

 

 幾度目かの黒鹿毛ウマ娘による突貫。それに合わせて後退しつつ最後のスタングレネードを投擲する!

 炸裂するグレネード。だが、

 

「そんなもの、もう効かないわよ!」

 

 ウマ娘は腕で閃光を防いていた。音の対策もこれまでの戦闘を鑑みるに、耳栓でもしているんだろう。確かに奴さんは全く効いてないんだろう。だが、

 

「その隙が欲しかった」

 

 反転し逆に突撃を仕掛ける! その相対速度故にあっという間にクロスレンジに突入する!

 

「なっ――くっ!」

 

 黒鹿毛ウマ娘は俺が突貫するとは思っていなかったのか露骨に焦ったように拳を繰り出そうとした。それをフェイントを入れて余裕で躱し、

 

「せっ!」

「えっ――きゃあ!?」

 

 足払い! この動きに対応できなかったのかウマ娘はうつ伏せに転倒する。

 

「貰った!」

 

 この最大のチャンスを逃す理由なんざない。流れるように銃の照準を定める。

 ――狙うは脚。そこに風穴でも空けば、流石のウマ娘でも動けなくなる。

 

 躊躇いなく引き金を引き――

 

 

 

 弾丸は発射されず、代わりにガチリっというこれまで聞いた事のない音だけが響いた。

 

「――――は?」

 

 一瞬何が起こったか分からず思考が止まったが、すぐに原因に思い至る。――弾詰まり。粗雑な改造銃が武人の蛮用に耐えられるハズがなかった。

 

 そして――この一瞬の意識の逸脱が明暗を分けた。

 

「しっ!」

 

 ――意識を黒鹿毛のウマ娘に向けた瞬間、綺麗な蹴りにより吹き飛ばされた。

 

 

 




ウマ娘側が格闘技能持ちではありますが素人レベル+改造銃という飛び道具があったお陰で武藤は何とか粘っていました。銃がジャムったせいでパワーバランスが崩れてしまいましたが……。
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