マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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本作は前作に引き続き年始だろうと投稿ペースは変わりません。


32話 大切な物は大事に仕舞っておきたいもの

 赤い蹄鉄のウマ娘三人組との死闘が終わった後だが、やはりと言うべきか色々と大騒ぎだった。

 

「おい、誰か救急車呼べ!」

「いや、身体中痛いが怪我自体はそこまでじゃない。むしろコイツ等の収容のために警察呼んだ方がいいだろ」

「アホですか武藤さん! いいから病院行きますよ!」

「いくら武藤トレーナーが頑丈だからってウマ娘と殴り合ってタダで済むわけないじゃないですか!? そもそも頭から血が出てますし!」

「こんなん現役の頃なんかは偶にあったから大丈夫大丈夫。まー、肋骨辺りは折れてそうだけど」

「それ重傷ぅ!」

「誰かタオル持ってないか! 止血するぞ!」

「はい!」

「シリウスさん、この捕まえたバカ三人はどうしましょうか?」

「あん? ……〆るか」

「ですね。二度とバカな真似できないようにしてやりましょう」

「待て待て待て。それやったら後がクッソ面倒臭くなるからやめろ。とりあえず逃げられないようにしといてくれ」

「はーい」

「警察と救急車呼びました!」

 

 まず、シリウスとシリウスが連れてきた取り巻きの面子とわちゃわちゃやる事になった。もっとも俺自体は殆ど何もしなかったがな。警察や救急への通報も、俺の止血も皆やってくれてたからやる事がなかったし。

 

「はあ!? ウマ娘と殴り合った!?」

「まぁ結果的には。で、多分肋骨辺りが折れてると――」

「レントゲンとMRIとCTスキャンの準備! 急げ!」

「はい!」

「あの、こういうのって普通問診とかからやるんじゃ……」

「本気のウマ娘に殴られるなんて交通事故と同じなんですよ!? 直ぐに治療に入ります!」

「いや、肋骨が痛いの以外はそこまでじゃ――」

「自分では大丈夫だと思っていても、見えないところにダメージがあるかもしれないんです! すぐに検査しないと大変な事になるかもしれないんですよ! そもそもウマ娘と喧嘩してタダで済むわけないでしょう!?」

「それさっきも同じこと言われたんだけど……」

「あの武藤さん。少し事情の方を伺いたいのですが」

「ん? ああ、警察か。どこから話した方がいい?」

「では誘拐される直前――」

「テメェら話聞いてたのか! 今から検査するんだから、んな暇ねぇんだよ! てか仕事の邪魔じゃ! テメェの仕事なんざ後にしろやクソ公僕!」

『ひぇ……』

 

 病院についたらついたで、医者に怒られた上に色々検査を受ける事になった。色々検査をするもんだから辟易したが、据わった目をした医者が滅茶苦茶怖かったから黙ってた。ついでに一緒に来てたお巡りさんも隅っこで黙ってた。なお予想はしていたが、そのまま入院する羽目になった模様。

 

そんなドタバタから一夜明けて、

 

「……前回といい今回といい、やたら頑丈だなアンタ」

 

 見舞いに来たシリウスが、開口一番に言ってきたのがこれだった。

 

「いやー、それ医者にも警察にも言われたわ。つーても、まともに食らった打撃は一発だけだったし、それ自体も警棒を差し込めて直撃は避けられたからな。まだ肋骨が折られるだけで済んだ」

「かすり傷っぽく言ってるが、肋骨骨折は普通に重傷だからな?」

「直撃してたら内臓も逝ってたからセーフ」

「……そうか」

 

 シリウスは納得してなさそうだけど、マジで内臓がヤラられるよりはマシだからな?

 

「後アイツ等に何度もぶん投げられたとか聴いたが?」

「2回雑に投げられたな。どっちも地面に叩きつける投げじゃなかったから助かった」

「ウマ娘に本気で投げられるとか、普通は身体中の骨がバキバキに折れてるからな?」

「そこはほら。プロレスラーなんて上手い事受け身が出来ないとやってられない仕事してたし」

「それで大丈夫なのはアンタだけだ」

「あと筋肉が鎧替わりになってたな」

「はいはい筋肉筋肉」

 

 今思うと昨日の喧嘩で打撃中心で攻められてたら流石の俺も大怪我してたと思う。そこら辺は運が良かったんだろうな。

 

「もっともあれ以上ボコられてたら、流石の俺も死んでたがな。ホントにシリウスたちが来てくれて助かった。ありがとう」

「おう、存分に感謝しな。それとマヤノにも礼を言っておけよ? ブザーの残骸に気付いたのも、アンタの居場所を特定したのもアイツだ」

「マジか。そりゃ拝み倒さんといけないな」

 

 マジでMVPじゃん。だが同時に疑問が生えてくる。

 

「ブザーは憂さ晴らし半分とはいえワザとあそこに落としたからいいとして、俺がいた現場はどうやって特定したんだ? 流石のマヤノでもノーヒントでアタリをつけるのは無理だろ」

「ああそれだが……、私たちトレセン生は合宿所近くの人が余り立ち寄らないデートスポットを知ってんだよ」

「……待て、それまさか襲撃ポイントなんじゃ?」

「ん? アンタらトレーナーはそう呼んでるのか。私たちの間じゃ、うまぴょいスポットって呼ばれてるぞ」

「お、おう……」

「話を戻すぞ。マヤノは赤い蹄鉄の目的から勘案して、住宅地から離れたうまぴょいスポット、それも街から一番離れてて早々に人が来ないようなスポットに連れていかれたかもしれないって推理したんだ。んで、私はマヤノの推理を信じて直行してみたら、大当たりだったって訳だ」

「マジかよ……」

 

 連れてこられた時は、なんかいい感じに開けた場所だなーとか思ってたが、あそこ襲撃ポイントだったのかよ。お陰で助かったけど、なんか複雑な気分だ……。

 

「てか、言っちゃなんだが大分苦しい推理だな。更に別の場所に行ってる可能性だってあっただろうに」

「そこはマヤノ本人も分かってて、推理が外れているかもしれないとは言っていたな。もっともこの推理を聞かされた時には、アンタが誘拐されてそれなりに時間が経っててな。これ以上捜索に時間をかけると危険だったから、確率が低くともマヤノの推理に賭けるのが最善手だったんだよ。ついでにマヤノの推理は合ってると私の直感が囁いていたしな」

「勝負勘がここで生きたか」

「そういうこった」

 

 マヤノの閃きとシリウスの直感の合わせ技が今回の救出劇に繋がったって事か。そういえば、

 

「ところでシリウス。俺が入院した後は大丈夫だったのか? 確か学園からは直ぐに帰るように連絡とか来てたんだろ?」

「あん? 私も周りの奴らもチーフトレーナーからは連絡が取れなかったことにグチグチ言われたが、それだけだったな」

「ああ、なら良かった」

 

 状況的にシリウスが動いてなかったら人ひとりが死んでたし、それを考えてお咎めなしにしたんだろうな。この調子なら、URAが今回の件でシリウスたちにペナルティを出すことはないだろう。

俺を助けに来たせいで不具合とか受ける事になってたら、流石に居たたまれなかったし、この程度で済んでよかった。

 

「むしろ事情聴取で来た警察の方が面倒だったな。学生が危険な事をするな~とかグチグチ好き放題ほざいてきやがった」

「いやまあ、実際鉄火場に飛び込んだようなもんだけどな?」

「ま、テメェらが仕事してれば私たちの出番はなかったって言ってやったら、一発で黙ったがな」

「言い負かされるなよ警察……」

 

 弱いなオイ。……推測だが、シリウスたちがウマ娘三人組相手に暴れた時も、最低限の攻撃で鎮圧してたから、警察側も仕事してなかったのも相まって強く言えなかったんかね?

 

「そういうアンタはどうなんだ? 私が帰った後も検査やら警察の相手やらあっただろ?」

「俺の方は平和だったな。検査の後にバトった時の状況を説明したら、医者も警察もドン引きされたくらいだ」

「それが普通の反応だからな? それはそれとして退院はいつだ?」

「状況が状況だから経過観察として明後日まで入院だとさ」

「となると、ちょうど合宿終了日か」

「おう。――学園に帰ったら、お詫びって事で今回の事件の当事者全員に飯でも奢るか」

 

 特にシリウスとシリウスの連れとマヤノには、金一封でも進呈したいくらいだ。が、ここでシリウスが呆れたようにジト目になった。

 

「おいおい、私があれだけ苦労したのに、礼が飯だけってのは割に合わないな」

「おっと? ここで攻めてきたか」

「折角アンタに恩を売れたんだからな」

「それ本人に堂々と言うのかよ」

 

 まあシリウスらしいけどさ。

 

「で、俺にどうしろと?」

「なーに、簡単さ」

 

 シリウスはニヤリと笑って見せた。

 

「合宿から帰ったら私と旅行でもしようじゃないか」

「……旅行?」

「ああ旅行だ。行き先は決まってるぜ。なんと八丈島だ。ガイド頼むな?」

「……あー、そう来たか」

 

 思わず天を仰ぐ。これ絶対ただの観光じゃねーよ。じいちゃん家まで行って色々とやる気満々じゃん。しかも言ってる事自体はそこまで無茶じゃないから断りづらいし……。

 

「で、答えは?」

 

 ニヤニヤと笑うシリウスに、両手を上げて降参する。

 

「オーケー、今回ばかりはしゃーねぇ。しっかりガイドしてやるよ。泊まるのは俺のじいちゃん家でいいな?」

「お、ちゃんと分かってるじゃないか。なら話が早い。しっかりとエスコートしろよ?」

「へいへい」

 

 一難去ってまた一難って感じになっちまったが、想定していた一番ヤバい案件よりはマシだからセーフって事にしておこうか。

 

「てかそういう形で攻めてくるとはな」

「あん?」

「一応、命の恩人なんだから私のモノになれ、とか言われないか覚悟はしてた」

「なんだそういう事か」

 

 シリウスはつまらなそうに鼻を鳴らすと、俺に向き直った。

 

「いいか。私はアンタの全てが欲しいんだ。当然アンタの心もな。そんな下らないモノでアンタを縛っても、私は嬉しくとも何ともないんだよ」

「……わーお、マジでイケメン」

 

 トレセン生にシリウスのファンが多い理由がよくわかるわ。俺ですらちょっとドキッとしたもん。……いやキモイな俺。

 

「ま、それはそれとしてだ。退院してからも油断はするなよ?」

「ん?」

「アンタは武器を使ったとはいえ、ウマ娘三人相手に大立ち回りして生き残った奇跡の男なんだぞ? UUUみたいなヤバい奴らがほっとく訳ないだろ」

「あー……」

 

 シリウスの説明に頭を抱えたくなる。そういやそうだよな……。武道の世界じゃ有名な話だが、同レベルの技能かつ接近戦オンリーに限定した場合、「ウマ娘の戦力=成人男性15人」ってのが常識だ。(パワーとスピードが圧倒しているため、そうなるらしい)その常識を俺がブチ破っちまったもんだから、色々と面倒な奴らに目を付けられるのは想像に難くない。

 

「うわー、メンド……」

「ああそうだ。これからアンタにゃ面倒事が嫌って程湧いてくるだろうさ。だから今の内にこれを渡しておくぞ」

「ああ、ありが――」

 

 軽い感じで手渡されたもんだから、反射的に受け取ったが、その正体を見て思わず言葉に詰まった。

 

 なんでって? 渡してきたのがさ――銀色の指輪なんよ……。

 

「ストレートに重いヤツ来たな!?」

「そいつはGPSが埋め込まれている上に、このボタンを押せば私のスマホに通知が来る特注品だ。ちゃんと着けとけよ?」

「やめよ? マジでやめよ?」

「あ? これさえ着けときゃ、何かあってもすぐに助けてやれるんだぜ? 今回のような事件なんざ、私が絶対に起こさせはしねぇ」

 

ツッコミを無視して指輪の機能の説明してるシリウスだが、よく見りゃハイライトさんがおさらばしてるし……。

 

「因みに左手薬指につけるのを勧めるぞ。てかそこに着けろ」

「色々アウトだからな? てかGPSつき指輪とかやべーよ」

「あ? これでもアンタに配慮はしてるんだぞ?」

「マジ? これで? 因みに配慮無しだと?」

「シンボリ家の力をフル活用して、孤島にある別荘で三年くらい私と一緒に缶詰だ」

「こえーよ……」

 

 結局、全力で拝み倒した上で譲歩に譲歩を重ねて、チェーンで繋いでネックレスっぽくして身に着けるスタイルで許してもらった。

 

 





〇需要があるかはわかりませんが、今回出てきた赤い蹄鉄メンバーがなぜ事件を起こしたのかについての簡単な説明。

 今回赤い蹄鉄を名乗るウマ娘三人組だが、元々は唯の中規模半グレ集団にいたウマ娘であり、当時から三人で行動していた。なおこの半グレ時代でも色々とやらかしていた模様。
 本編軸10話辺りで、三人そろって独立して三人をトップとした組織を設立。この際、日本のUUU界隈で有名な「赤い蹄鉄」を名乗って、組織を手っ取り早く大きくする事を画策。しかしその程度で人が呼び込めるはずもなく、弱小のままだった。
 この状況を打破するために、派手な行動をしてアピールしようと画策していた所で、フジキセキの事件が発生。この事件後、不良グループの間ではウマ娘を侮るような輩が出始め、この三人も他のグループに絡まれ面倒な思いをすることになる。(なおこのウマ娘を侮る輩はあっさりフルボッコにされた模様)
 そんなもらい事故でイラついていた所に、23話の脅迫事件が発生。丁度いいやという事で、八つ当たり兼絶好のアピールの場として武藤の襲撃を行った。


――つまるところ今回の赤い蹄鉄は、特に偏った思想がある訳でもなく、自分の都合で襲っただけだったりします。
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