マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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牛飲馬食(ぎゅういんばしょく):大いに飲み食いすること。

今回は夏合宿編の後日譚になります。


幕間7 32・5話 牛飲馬食 とある寿司屋にて

「む、そろそろ時間か。店を開けるか」

 

 ネタの仕込みが終わった所で時計に目を向けると、丁度いい時間である事に気づき、俺は厨房から離れた。道中で若干年季が入っているものの大事に使っている「浜場鮨」と大きく店名が描かれた暖簾を拾っていく。

 

「よっと」

 

大して広くない接客スペースを抜けいつものように玄関口に暖簾を掲げる。親父の下での修業時代を含めて、もう何十年もやってきた身体に染み付いた作業だ。一時期は息子にやらせていたが、アイツが独立して別の所で店を開いたもんだから、この作業はまた俺の仕事になっていた。

 

「さて、今日は6時から予約があったな」

 

 厨房に戻りながら、今日の予約を入れた常連の顔を思い出した。老年の夫婦で昔からの贔屓の客だ。二人の好みのネタはしっかりと仕込み終わっている。今回も満足してもらえるだろう。

 そんな事を考えていると、不意に電話が鳴った。聞き慣れた電子音が鳴り響く中、受話器を取る。

 

「はい、こちら浜場鮨です」

『もしもし、おやっさん?』

「ん? その声は――武藤さんですかい?」

 

 電話の主は、昔ウチに偶に来ていた懐かしい声だった。

 

『何年も来てないのに、よく覚えてますね』

「贔屓して下さったお客は何年たっても覚えているもんです。それに最近はテレビで色々と武藤さんの話題が出ていますから」

『まあ、あれは不本意なんですがね』

 

 電話の先で武藤さんが苦笑しているのが分かる。プロレスを辞めてトレセン学園のトレーナーになったとは聞いてはいたが、俺もあんな風に有名人になるなんて思いもしなかった。

 

『それはともかく、おやっさん来週の土曜日の6時って空いてますかね?』

「ええ、その時間でしたら問題ありませんよ」

『んじゃ、そこに予約、いや貸し切りをしたいんです』

「貸し切りですか」

『んで、ちょっと問題がありましてね……』

「どうされました?」

 

 言い淀む武藤さんに先を促す。どうやら厄介事を抱えているようだ。

 

『連れが俺の教え子たちなんですよね……』

「武藤さんの教え子っていうと、当然――」

『ええ、ウマ娘なんですよ。それも結構な人数なもんで……』

「……もしかして、他の店に断られましたか?」

『正解。教え子たちからのリクエストが回らない寿司屋って事で色々探したんですが、キャパオーバーになりかねないって事で渋られたんですよね。おやっさんの店ならもしかしたら、って事で電話させてもらいました』

 

 なるほど、武藤さんがウチに電話してきたのもよくわかった。

ウマ娘は基本的に大食いだ。それ故に俺のような飲食店にとって、単価の高い客として重宝されている。だが薬も過ぎれば毒となるとはよくいったモノだ。ウマ娘が大人数で押し掛けた場合、業務が回らなくなってしまうケースがある。そのためよっぽど体力がある店じゃない限り、大人数のウマ娘の入店は断られる場合が多い。

 ましてや武藤さんの場合、連れてくるのは一般のウマ娘よりも確実に喰うであろうアスリート。目に見えた地雷なんて誰も踏みたくはないだろう。

 

『行けますかね? あいつ等喰う気満々なもんだから、相当用意して貰わないといけないんですが……』

「ええ、どうぞいらっしゃってください」

 

 だが、そんな相手であっても俺は快くOKを出す。

 折角、昔馴染みのお客がウチを頼ってくれたんだ。ここで追い返すのは寝覚めが悪い。だがそれ以上に、この浜場鮨はよく喰う客の相手は得意だ。

 

『助かります、おやっさん。でもいいんですか?』

「ええ、構いません。ウチはPUプロレスには贔屓にさせて頂いていますから、大丈夫ですよ」

 

 近くにPUプロレスの練習場があるのもあって、普段からそこのレスラーの皆さまがよく来てくれる。更に半年に一回は社長の蝶野さんと所属しているレスラーの皆様がウチで宴会をするものだから、お陰様で大食いする集団の相手は慣れているんだ。

 

「それで、何人いらっしゃるんで?」

『えー、俺と担当と+αだから……、計21人です』

「……」

 

 待ってくれ、武藤さん。つまりウマ娘20人? それが全力で喰う? そりゃ普通の飲食店じゃ断るぞ。 ……いや、それ以上にその人数のウマ娘だと、PUプロレスの宴会よりも喰いかねない。そうなると流石のうちでもキツイ……!

 

『おやっさん?』

「……あー」

 

 だが武藤さんもウチなら出来るって考えて電話してきたんだろう。その期待は裏切れない。それ以上に一度やれるといったくせに今更断るなんぞ、俺には出来ん!

 

「分かりました、21名ですね。かしこまりました」

『はい、お願いします。それじゃあ、失礼します』

「来週土曜日、六時にお待ちしています」

 

 武藤さんからの電話が切れたのを確認した後に受話器を置く。一つ息を吐いて、

 

「やっちまった……」

 

 思わず天を仰いだ。

 

 

 

 

 

「OK出たぞ」

「マジか。ウマ娘20人が押し掛けられる寿司屋なんてよくあったな」

「今電話かけた所は、ちと特殊でな」

「ほー。それじゃあ、私は連れに連絡を入れておくぞ。目一杯喰わせてもらいから、覚悟しておけよ?」

「任せろ」

 

 

 

 

 

「ノリがいいのはアンタのいい所だけどねぇ」

 

 ウマ娘集団襲来当日。朝からやっていたネタの仕込みが時間ギリギリにようやく終わり一息ついている所、長年連れ添っている女房がお客の迎え入れのための準備をしつつも頬を引き攣らせて愚痴をこぼしていた。

 

「だからと言って何事にも限度があるんだよ? なんだい、ウマ娘20人の団体客って。アンタ本当に捌けるのかい?」

 

 いや、愚痴じゃなくて俺への文句だこれ……。

 

「出来るって言っちまったからなぁ。やるしかねぇ……」

「気合いだけで何とかなるなんて思ってないだろうね」

「流石の俺でもそりゃ無理だ。だからこそこうして準備をしてたんだ」

 

 客席のテーブル席には、昼の稼ぎ時すら店を開けずに仕込みしたウチ自慢の寿司たちが所狭しと並んでいる。PUプロレスの宴会の時のメニューを流用した上で更に量を加えた仕様だ。

 

「あれだけの量に加えて、俺が追加で握ってやればなんとかなるだろ」

「……本当にそれで大丈夫なのかい?」

「任せな」

 

 俺の見立てが正しけりゃ、ウマ娘集団が喰う量はPUプロレスを上回るって所だろうが、それでも大幅に上回るって程じゃないはずだ。その増加分を事前に用意しておけば、対応は可能なはずだ。……本来ならまた別の形で迎えてやりたかったんだが、事情が変わっちまってこんな形にするしかなかったんだがな。

 

「本当なら念のために応援を呼びたかったが……、あのバカ息子、自分のケツは自分で拭けってほざきやがった」

「正論だろうに。アンタが文句言う資格ないよ」

 

 女房にバッサリ切り捨てられた。……いや、確かに正論なんだが、ちったぁ慰めてくれてもバチは当たらないんじゃないか?

 そんな漫才をしていると、

 

「……む、来たな」

 

外からガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。その声は若い女の声しかせず、しかも段々とこちらに近づいてきている。チラリと時計に目をやれば、ちょうど六時。十中八九武藤さんの所だろう。そんな当たりを付けた所で、玄関が勢いよく開かれた。

 

「お邪魔します。おやっさん、久しぶりです」

 

 そこにいたのは、相変わらずガタイのいい武藤さんの姿だった。

 

「らっしゃい。久しぶりですな」

「今回は無理言ってすみません」

「なにいってんの、武藤ちゃん。ウチの旦那はPUさん所で鍛えられてるから全然大丈夫よ!」

「女将さん、ありがとうございます」

 

 客商売上文句を言う訳には行かないとはいえ、相変わらずそこらへんを隠すの上手いな女房よ……。

 

「トレーナーさん、後ろがつかえてますのでそろそろ」

「っと、悪いフラッシュ。おやっさん、いいかい?」

「ええ、構いませんよ」

「うし、みんな入ってくれ」

 

 武藤さんが後ろに振り返り呼びかけると、ウマ娘たちがぞろぞろと暖簾を潜ってきた。

 

「ふむ、ここが貴様が言っていた寿司屋か」

「へぇ、結構中は広いんだな」

「あ、あそこの壁に色紙が飾られてある!」

「PUプロレス一同って書いてあるね」

 

 ウマ娘たちがワイワイと店内を物珍しそうに見渡している。まあ、若い子にとってはウチみたいな本格的な寿司屋なんて新鮮なんだろう。しっかし、武藤さん本当にウマ娘を20人も連れてくるとは……。中々豪胆な事をするな。

 

「うわ、見渡す限りお寿司だらけ!」

「すっご……!」

 

 おっと、ウチの宴会料理に驚いているようだな。若い子向けってのがちと分からないから普段通りに握っちまったが、ウケてくれてよかった。

 

「今日の宴会は今出ている料理に加えて、リクエストがあったら俺が握る形式にしてますんで、お願いします」

「事前の打ち合わせ通りですね」

「はい。そうそう、皆さんの飲み物はどうしますかね?」

「まずはニンジンジュースを人数分で」

「武藤ちゃんは何がいいかい?」

「運転手なんでアルコールはNGなんですよ。俺もニンジンジュースでお願いします」

「はいよ。ニンジンジュース21本」

 

 この日のために大量に仕入れておいたニンジンジュースを配っている間に、俺も追加で握るための準備を始めておく。事前準備でも相当な量を握ったが、本番はここからだ。

 

「皆ジュースは行き渡ったか?」

「そうみたいだね。トレーナーさん、始めちゃおう」

「おう。――この前の騒動の時は色々と迷惑をかけたな。お詫びと言っちゃなんだが、今回は俺の奢りだから存分に喰ってくれ。あー、長々と駄弁っててもしょうがないし、さっさと始めるか。皆お疲れさん、乾杯!」

『カンパーイ!』

 

 さー、俺の料理とウマ娘の胃袋、どちらが上か勝負といこうか!

 

 

 

 

 

「うっま!」

「ネタもシャリも大きいね。食べ応えが凄い」

「回転寿司なんかと比べ物にならないよ」

 

 連れてきたウマ娘たちがワイワイ言いながらも、次々とテーブルにある寿司に手を伸ばしている。お陰様で事前に用意されている宴会料理がもの凄い勢いで消費されてるな。若干不安があったが、幸いな事にどうやらお気に召したようだ。

 

「しっかし、ウマ娘を20人も受け入れられる店なんてよく知ってたな」

「ここは俺がレスラー時代に偶に行ってたんだ。しかも団体主催の忘年会なんかも大体ここでやってるから、よく喰う団体客の相手でもいけるのを思い出したんよ」

「ほー、だからあそこの壁にレスラーのサイン色紙が飾られてんのか」

「そういう事」

 

 シリウスと駄弁りながら、マグロの握りを口に放り込む。うん、流石おやっさんだ。相変わらず美味い。っと、俺の皿がなくなりそうだな。

 

「おやっさん、マグロ、イカ、エビ、エンガワ、サバを一貫つづ頼む」

「あいよ!」

 

 俺の注文にすぐさまおやっさんの威勢のいい返事が返ってくる。チラリと目を向ければ、おやっさんが高速で寿司を握っている真っ最中だった。ただ前と比べて握る速度が遅い気がするな。歳か?

 

「ところで、支払いは大丈夫なのか? これ相当掛かるだろ」

「退院した後に学園から見舞金が出たから大丈夫……だと思ったんだが、宴会用の料理の時点で足が出ちまった。お陰でボーナスも引っ張り出す事になったぞ」

「そりゃ災難だったな。大将、大トロ5貫」

 

 今の話聞いて躊躇いなく高いヤツ頼む辺り、お前もいい性格してんな……。

 

 

 

 

 

「マグロ8貫、ハマチ11貫お願いしまーす!」

「こっちはイクラ5貫!」

「あいよ!」

 

 ウマ娘たちの注文に全力で寿司を握りつつも、頭に過るのは己の認識の甘さだった。

 

――予想以上に消費速度が速い……!

 

 今回の人数はPUプロレスの宴会より少ないにも関わらず、料理の消費ペースが今回の方が圧倒的に速い。食べ始めて1時間も経っていないにも関わらず、事前に用意した料理も3割程度しか残っていなかった。俺も宴会が始まってからはずっと握ってはいるが、握った端から物凄い勢いで寿司が消えている。しかも、

 

「すみませーん、私が注文したタマゴってまだですか?」

「ごめんなさいね。今準備してるから」

 

 寿司の提供に遅れまで出始めていやがる。このままだと本格的にマズい! そんな焦りを覚えた始めた時、女房が動いた。

 

「みんなよく食べるわねー」

「学生はここみたいな本格的な寿司なんて早々喰えませんからね。皆喰いまくるって張り切ってましたよ」

「ウチにも偶にウマ娘さんは来るけど、ここまで食べたって人はいなかったわね。流石スポーツやってる学生さんねー。そうだ、皆まだまだ食べられそうだし、海鮮丼はいかがかしら? ウチは海鮮丼も売りにしてるのよ」

「いいですね。食べたいやつ手を上げてくれ。全員か。んじゃ、20人前お願いします」

「はい。あとアサリの味噌汁もあるけどどうかしら?」

「そっちも人数分お願いします」

「それじゃあ、海鮮丼を作るわね。暫くの間は個別の注文は出来ないけど、ごめんなさいね」

 

 勝手に海鮮丼を注文する流れになっちまった。思わぬ状況に慌ててアイコンタクトを送る。

 

(おい、なに勝手にやってんだ!?)

(なに言ってんだい。アンタ寿司待ちがいるのにチンタラ握って待たせてんだろう? あの子たちが可哀そうじゃない。今ある注文を握ったら、海鮮丼作んなさい)

(だからってなぁ!)

(アンタだってそろそろしんどいでしょうに。海鮮丼を作ったらちょっとくらい休みなさい)

(ぐっ……)

 

 こんな事いわれちゃ何も言えん。実際宴会が始まって1時間近く経っているのに、食べるペースが一向に落ちてない。対して俺は今朝からの仕込みで疲労が蓄積している上に、宴会が始まってから休みなく握っているせいで、調理ペースが落ちている。女房の言う通り、ここで一息入れないとマズい。

 俺に出来るのは、思惑通りに黙って人数分の海鮮丼を作るだけか。

 

(待て、海鮮丼20人前を作るだけでもかなり骨だぞ?)

(頑張んなさい)

 

 

 

 

 

「武藤さーん! 周りの友達が皆トレーナーを見つけてて、私だけ取り残されちゃったんです! 助けて下さーい!」

「俺も……」

「私もです……」

「おおう……」

 

 おやっさんからマグロを受け取ったタイミングで、若干沈んでいるシリウスの取り巻き面子に囲まれちまった。しかも滅茶苦茶深刻な悩みまでぶつけられたし……。

 

「もう武藤トレーナーが拾って下さいよー……」

「落ち着け、色々と妥協すんな。後、俺一人で見れるのは五人が限界だから勘弁してくれ」

 

 チームでいや最小規模とはいえ、今の俺じゃこれ以上担当を増やしてもちゃんと見てやれる自信がないんだよ。そう考えると樫本さんとかマジで凄いな。

 

「それじゃあ、誰かいい人紹介して下さいよー」

「このままだとマジでしんどい……」

「あー……分かった。来週、一緒に探してやるから」

「お願いします……」

 

 

 

 

 

「あ、これも美味しい」

「醤油取って」

「ニンジンジュースお代わりお願いしまーす」

 

 ワイワイと海鮮丼に舌鼓を打っているウマ娘たちを店の隅から眺めるつつ息を吐く。

 

「ふー……」

 

 海鮮丼のお陰でやっと落ち着けた。なんか武藤さんが焦ってるようだが、俺はそれどころじゃない。客商売故に表面上はニコニコしてテーブル席を眺めちゃいるが、疲労困憊している。この店でここまで忙しくなるなんて、これが初めてだ。

 

(だが流石にここまでくりゃ、後は消化試合だろうよ……)

 

 事前に用意しておいた料理たちに加えて随時握っていた寿司、更にさっき出した大盛りの海鮮丼に味噌汁。ついでに言えば宴会が始まってそれなりに時間が経ったから満腹中枢が刺激されている。流石のウマ娘でもこれだけの要素があれば、腹いっぱいになっているはず――

 

「んー、もうちょっと食べれそうかな?」

「うん、私も」

 

 ――だったんだけどな? 嬢ちゃんたち、まだ食えるのか……。

 

「タイ5貫お願いしまーす」

「私はウニ6貫でー」

「マグロ3貫」

「……………………あいよぉ!」

 

 畜生、やってやらぁ!?

 

 

 

 

 

「そういえば、海水浴の時に行ったカラオケで誰が一番だったか、感想が訊けてなかったね」

「ここでヤバい質問すんの止めない?」

 

 ボチボチと料理をつまみつつ駄弁ってたら、唐突にフジが爆弾を投下してきやがった! 

 

「あの時はあえて訊かなかったが、確かに気になるな」

「今後のためにも訊いておきたいですね」

「あの時は楽しかっただろう、トレーナー?」

「トレーナーちゃん、マヤも頑張ったでしょ?」

 

 更にエアグルーヴ、フラッシュ、シリウス、マヤノも、いい笑顔で寄って来る! 皆笑ってるけど、私を選べって圧が凄いな! で、この質問に対する俺の答えだがな。

 

「ノーコメントでお願いします!」

 

 言える訳ねぇじゃん! これ何答えても荒れるんだから、全力で沈黙するしかないんだよ!? 

 

「たわけ。その答えは最悪だぞ」

「なんか言ったら、大荒れ確定だろうが」

 

 皆そこんところ分かってくれよ……。最悪チームがバラバラになりかねないんだよこれ……。

 

「んー、仕方ないなー」

 

 フジが素直に引いてくれた。分かってくれたか。そう思ったのもつかの間、

 

「それじゃあ、カラオケの時のトレーナーさんの反応をみんなで分析してみようか?」

「物凄い羞恥プレイが始まった!?」

 

 更にヤバい事言い始めやがった!?

 

「だね。それじゃあ、フラッシュさんの借りた水着姿を見た時のトレーナーちゃんだけど――」

「待て待て待て!?」

 

 

 

 

 

「ん、そろそろいい時間だな」

 

 半分程頭が回らない中でマグロを握っていると、時計を見た武藤さんがそんなことを言い出した。釣られて俺も時計に視線を向ける。もう8時半だ。武藤さん達は府中から来ているし、帰路を考えると丁度いい時間なんだろう。

 

「だね、帰った頃には門限ギリギリかな?」

「ん? 私はまだ食えるんだがな」

「流石にトレーナーがいるのに門限破りさせる訳にはいかないだろシリウス。女将さん、会計お願いします」

「はいはい。お代はこれね」

「……おお、流石にエグイ値段してんな。……ここってカードは出来ないんでしたよね?」

「現金払いだけなのよ。ごめんなさいね」

「ですよね。――じゃあこれで」

「ちょっと待ってね、確認するから。……はい、確かに頂いたわ」

 

 女房が武藤さんから中々に分厚い札束を受け取った。中々に金持ってるじゃないか武藤さん。中央のトレーナーってのはそんなに儲かるんかねぇ。

 

「うーし、皆帰るぞー。全員バスに乗れー」

「ああ。しかし貴様がマイクロバスを運転できるなんて知らなかったぞ」

「レスラー時代に中型免許を取ってたのが、ここで役に立つなんて思わなかった。おやっさん、ごちそうさまでした」

『ごちそうさまでしたー!』

 

 威勢のいい声と共に、ウマ娘たちがゾロゾロと店から出ていく。最後の一人が出ていくと同時に扉が閉められ、先程とは打って変わって店内が一気に静かになった。

 

「…………はー、終わった」

 

 近くの椅子に脱力して座り込む。

 PUプロレスの宴会以上の忙しさで、本当に疲労困憊だ。次にウマ娘の集団を相手する時は、何としてでもバカ息子を呼ばないといけないな。

 そんな事をぼんやりと考えている内に、一気に眠気がやってきた。抗えない欲求に身を任せ――

 

「何寝てるんだい。寝るんだったら、片付けてからにしな」

「……はい」

 

 女房に叩き起こされて、俺は店の片付けを始めた。

 




アスリートウマ娘×20VS個人経営の寿司屋 という酷い構図が繰り広げられましたw

八丈島編を書きたいですけど、ネタが生えてこない……。何か思いついたら、ボチボチ書いていこうと思います。
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