マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
対ウマ娘戦術の考察?
……いや、アンタらの方がそういうの考えるプロだろ。そりゃ俺も昔は格闘で喰ってはいたから多少はそこら辺も分かるが、民間人の俺よりそういうデータとかそろってんじゃないのか? アメリカなんか色んな国に首突っ込んでるから人間VSウマ娘の事例とかあるだろ。……マジ? そういうの機密になる事あるんだ……。
あーOK。んじゃ説明しようか。あんまり期待はすんなよ?
今回の事件でウマ娘とド突き合いになったが、やった事自体はこれまでの常識と変わらん。「奇襲して初手で潰す」と「転ばして撃破」だな。転ばして撃破の方は弾詰まりのせいでえらい目に遭ったけど。
奇襲の方はスタンダードな戦い方だな。スタングレネードで怯ませてその隙を突いてスタンガンで撃破。そうそう、本当に教科書的なやつ。これで撃破した二人は動きが素人丸出しだったから、この戦術がモロに刺さったんだろうな。
ただまぁ、この戦法でいっぺんに倒せるのは、精々二人までだな。ウマ娘って結構タフだし、気絶までさせるにはウマ娘用のスタンガンでも人間相手よりも長く押し付けないといけないから、今回みたいに三人目に取り掛かる前にグレネードの効果が切れちまう。
あとこの戦術は相手が素人だから効いたってのもあるな。相手のウマ娘がそういうのに心得があると思わぬ反撃とかあるかもしれん。そこら辺の対策は専門家の方で考えてくれ。
ん? スタングレネードを食らったウマ娘は暴れるんじゃないかって?
そりゃ暴れるだろ。あいつ等が手足を全力でバタつかせるだけでも結構な破壊力があるからな。俺の担当にも襲われて目つぶしとかで視界が効かなくなった時は、手足を全力でぶん回せって教えてるし。
そんな奴にどうやって近づくんだって? そんなん隙を見て搔い潜れば良くね? え、無理? ……頑張れ。
で、次の転ばしの方だが、アンタらが聴きたいのはこっちの事だよな。……だろうな。んじゃ行くぞ。
最初にスタングレネードを使ってでも武器拾った理由は分かるよな? ああ、まんま攻撃力の上昇狙いだ。警棒で骨をへし折るか改造銃で風穴開けられればその時点でほぼ勝ちだからな。素手じゃこうもいかん。
そうなると、俺が林に飛び込んだのも理解してんだろ? ああ、少しでも自分に優位なフィールドで戦うためで正解だ。んじゃそこら辺は省略――ん? 説明した方がいいか?
開けた場所なんかに居たら、あいつ等容赦なくスピードで圧倒してくるからな。あの時少しでも動きに制限を押し付けられる場所ってのは、林しかなかったんだよ。林なら木が障害物になって動きをある程度抑えられるからな。他にも樹を使って隠れるとかも出来るし。
ん? ああ、当然俺も行動制限食らうぞ。とはいえあの黒鹿毛を自由にさせるよりはマシだ。あと俺の場合は空手道場に通っていた頃に、偶にああいう林で実践的な稽古をやらされた事もあったから、慣れてたってのもあるな。
黒鹿毛戦の戦法だが、チャンスがあったら接近戦もやったが、基本的に銃を基幹にして出来る限り相手に近づけさせない事を意識していた。一撃必殺がある飛び道具があると相手も警戒するからな。
もっとも、そこまでやっても相手にクロスレンジまで何度も踏み込まれたがな。あの黒鹿毛も飛び道具がないからそうするしかないのは分かるが、銃持ち相手によくやるわ。
接近戦に持ち込まれた時の対処法? 銃の乱射で強制的に距離を取ったぞ。それでも拳や蹴りとかも飛んできたけどな。そこら辺は動きを予想して何とか躱したけど。え、それが難しい? ……そこは頑張って避けろとしか言いようがないな。
黒鹿毛を撃破寸前までやった時の方法だが、「足払いでこかして攻撃」だ。対ウマ娘戦じゃメジャーな戦法だな。警察や自衛隊でもそこら辺は教えてんじゃないか? ……今思えば、あの時踏みつけで脚をへし折るのが正解だったな。反省。
……出来る限り相手に怪我をさせずに取り押さえるとしたら? スタンガンで気絶させるとかどうよ。素手の場合? ……脚関節技かなぁ? 技を掛ける時に暴れられたら逆にこっちが危ないけど。
んじゃ、次は何を聴きたい? あん? しくじってからの話? ……言っちゃなんだが、参考なるような話はないと思うぞ? 一発食らって動きが鈍くなってからは、やられっぱなしだったし。そこも大事? そういうもんか。
分かっちゃいると思うが、ウマ娘の攻撃ってのは基本一撃必殺だ。直撃なんぞしたらまず動けなくなる。俺が動けたのも警棒である程度ダメージを緩和出来たからに過ぎないしな。ん? 普通はそれでも動けない? 筋肉があればそれが鎧になるから身体作りを頑張れ。
後投げられた時だが、これはマジでどうする事も出来なかったな。あいつらマジで力任せでぶん投げるからどうしようもないんだよ。精々上手く受け身を取るくらいか。
……あいつ等の打撃を防げる防具とかあったら、あんな無様を晒さなかったんだけどなぁ。警察や自衛隊で使ってるボディアーマーって、ウマ娘の攻撃とか防げたりする? 格闘技用のプロテクターじゃ防げなくてさ。 ……あー、やっぱ衝撃はかなり来るのか。んじゃどのみちダメだな。機動力を考えるとむしろ防具無しの方がやりやすいかもしれない。
とりあえず一通りの流れはこんなもんか。他に何かあるか?
教訓か。そうだな……、俺が痛感したのは「飛び道具が重要」って事だな。改造銃拾ってなかったら、マジでヤバかった。テーザー銃とか欲しくなるな。
んで護身武器についてだが、スタンガンの方はまあ良いとしても、相手を怯ませる手段がスタングレネードだけなのがしんどかったな。催涙スプレーもあったらもうちょい戦いやすかった。
後は……ウマ娘との戦いって、最終的にモノを言うのはフィジカルって事だな。俺も日頃から鍛えてたから蹴り食らっても肋骨折れるだけで済んだし、最後の最後で黒鹿毛にパワーボムで決着をつけられたしな。
「それで、貴様の講習会の反応はどうだったんだ?」
生徒たちの昼休み時間。食後の隙間時間を使って花壇の手入れをしているエアグルーヴと一緒に土いじりをしていると、不意にそんなことを訊かれた。
「講習会っつーと、昨日のアレか?」
「ああいった方々がトレセン学園に訪問するなどこれまでなかったからな。私としても気になる」
昨日は理事長の命令で、学園のトレーナーと招待客向けに合宿中に俺が巻き込まれた事件についての講習会をしていたんよ。名目はあの事件の教訓から護身術をどうアップデートしていくべきか、ってやつだった。やってる事自体は偶に学園主催でやっている対ウマ娘用護身術の講習の延長線だな。
ただこの講習会、観覧していた面子が普段じゃまずお目に掛かれない奴らだったんよ。
「まー、普通は学園に警察庁の官僚やら防衛省にいる自衛官が大挙して押し寄せるとかまずあり得ないしな……」
「ファインから聴いたが、貴様の講演にはSP隊も参加していたらしいな」
「ああ、全員来てたぞ」
事前の説明じゃ学園のトレーナーに向けとか聞かされてたんだが、当日顔を出したら観覧席にファインモーションの所のSP隊の皆さんが勢揃いしていた上に、学園外からの観覧者として警察庁から来た官僚やら防衛省から来た幹部自衛官といった滅茶苦茶浮きまくってるメンツまで参加してやがった。
理事長曰く、そもそも今回の講習会だが警察と自衛隊が俺に聞き取り調査させてくれってしつこかったから、そいつらを黙らせるためにやる事になったらしい。
……一応トレーナー向けがメインって名目なのに、観覧席の三分の二が学園外の人間で埋まってたのはどうなんだろうな。うまぴょいされないかヒヤヒヤしているって事で出席したトレーナーたちが、なんか居心地悪そうにしてたし。
「てか面子が面子なだけに、後半のフリータイムは出席してたトレーナーが空気になってたな」
「……それは講習会としてどうなんだ?」
「過半数はイキイキしてたからセーフ」
「……そうか」
エアグルーヴが若干納得いかないような表情だが、セーフって事にしておいて欲しい。
昨日の講習会は講習会の体ではあるが、内容が内容だけに研究会議のそれに近い。そんな訳で俺とSP、警察、自衛隊の招待した武闘派の面子による白熱した議論をする事になったんよ。後半なんかは実験って事でSP隊の隊長さんと軽く手合わせする事になったりと、中々面白い体験だった。
「お陰様で招待客はおおむね満足して帰ってったな」
「ふむ。お客様に満足していただけたのなら、よかったという事にしておこう」
講習会が終わった頃にはSP隊にしろ、警察にしろ、自衛隊にしろ、いいデータが取れたとどいつもこいつも晴れやかな表情だったな。今回の資料を参考に戦術のアップデートをするそうだ。
「代わりにトレセン学園のトレーナーは、すっげー微妙な顔してたけど」
「それはそうだろう……」
ただし、トレセン学園のトレーナーたちからのウケは悪かった。
「貴様や招待客の皆様と違って、学園のトレーナーは戦う事に関してはまるっきり素人なんだぞ。当然だろう」
「いやまあそうなんだけどさ……」
素人目線からの意見とか割と期待してたんだけどなぁ。
「そもそも簡単なウマ娘への対抗策とかないのか、とか言われても困る」
「うーむ、言いたいことは分からなくもないが……」
「んなモンあったら、誰も苦労してないんだよなぁ」
それを研究しようってのがあの講習会なんだから、俺が知ってる訳ないだろ。
因みにそんな事をほざいたトレーナーは、招待客全員から凄い顔で睨まれたせいで、講習会が終わるまで黙ってた。
「俺の教訓的に飛び道具があるとかなり便利なのが分かったから、学園でテーザー銃の導入とか出来ればいいんだが、警察の許可が下りるか微妙だな」
「今トレーナーたちが持っている護身用の武器も、『最小限の護身手段』という名目で警察から特別に許可を得ているのだったな。今以上に装備を増強するとなると名目から逸脱してしまうかもしれない、か」
「そういう事。ついでに言うと、今回の事件で俺が今の装備でもウマ娘を制圧出来るってのを証明しちまったから、そこをつつかれると苦しい」
スタンガンとスタングレネードのコンボでウマ娘二人を沈められたのは、俺自身が戦い慣れていたって要素が大きいんだが、民間に武器なんぞ持たせたくない警察からすると、俺の戦果は格好の判断材料として使い倒すだろうな。そう考えると、催涙スプレーの方も通らないと見ていい。
「ではどうする? 言いたくはないが、今のトレーナーたちが持っている護身用武器では戦い方が限られるのではないか?」
「全く持ってその通りなんよ。とりあえずスタングレネード+スタンガンのコンボは有効だから、それを主軸にするしかないだろうな」
この戦術の有効性は俺が証明したからな。シリウスやヤエノムテキのような戦闘技能持ちじゃなければ効くだろう。
ただなぁ……、
「このコンボ、トレーナー陣からは結構難しいとか言われたんだよな」
「ん? どういう事だ?」
「スタングレネードの段階で怯んで動けないなら良いんだが、目が見えない状態で暴れ回る可能性もあるからな。そんな奴に突撃とか出来ないだとさ」
「ああ……」
納得したようにエアグルーヴが頷いた。ウマ娘の全力のパワーで腕や足を振り回すだけでも、破壊力は十分あるからな。それにビビッて懐に飛び込めないって気持ちは分からんでもない。
「そもそもの話なんだが、トレーナー陣って根本的にフィジカルが足りないんだよな。これのせいで選択肢が限られてくるんだよ」
「フィジカル……、まさか貴様の様に極限まで鍛えろと言うつもりか?」
「いや流石にそこまでは求めんて」
俺の身体がトレーナー陣の中じゃ上澄み中の上澄みってのは、流石に理解しているからな?
「ウマ娘と戦うにしろ逃げるにしろ、ある程度のフィジカルは必要なんだよ。レースで言えば、戦術やら駆け引きの知識はあっても実際に身体を鍛えてないようなもんだ」
「確かにそうだな。だがどの程度鍛えればいい? 貴様程ではなくとも、相当に鍛える必要はあるのではないか?」
「そうだな……、ベストは自衛官や警察官レベル」
「……それは難しいだろうな。トレーナーたちも多忙だ。貴様のように趣味でもない限り、そこまで身体を鍛える時間はない」
「それな」
新武器なし、新戦術も微妙となると、どうすることも出来ん。
「理事長から護身術についての意見書を出せとか言われてるけど、どうすっかな……」
「こればかりは仕方あるまい。改善案自体はあるのだから、貴様が思った事を素直に書けばいい」
「それしかないか」
後から文句言われそうだけどあくまで意見書だし、好きに書けばいいか。
こんな風に花壇でやるには些か物騒な談笑を交えつつ、休み時間が終わるまで花の世話に勤しんだ。
現代日本でヒトとウマ娘がガチで殺し合った上で、ヒト側が勝利した事案なんていう稀少事例に各業界が注目した結果、異質な面子が集結しましたw