マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
「着いたぞ」
「はい」
「アクアさん。頑張ってください」
「ありがとう。……でもいいんですか?」
「何がだ?」
「武藤トレーナーにここまで協力して貰えたのは助かりましたけど、これから私がやろうとしている事ってトレーナーの立場からすると止めなきゃいけない事なんじゃ?」
「何の事を言ってんだ? 俺はただ単に独り言をつぶやいてただけだぞ。ついでにここには偶々俺も行く用事があっただけで、フラッシュからアクアもここに用事があるって聞いたから、ついでに誘っただけなんだが?」
「つまりそういう事です。後はアクアさんが上手くやるだけですよ」
「そっか。それじゃあ行ってきます!」
「おう、存分に暴れてこい」
合コン当日の夜、トレセン学園から少し離れた繁華街の一角に俺たち中央の新人トレーナーたちは集結していた。
「皆、準備はいいか!」
「おう!」
「最近は仕事で忙しかったから、こういうのはかなり久々だからな。気合い入れてきたぜ」
「それ俺も。今日のために服も新調してきた」
集まったメンバーは俺も含めやる気は十分だ。トレセン学園に来て以来、覚える事とやる事が多すぎて大変だったからな。そのせいか皆活気づいている。
「柿崎、お相手はどんな感じだ?」
「昼に確認したが綺麗所を厳選してきたらしい」
「おおっ!」
「よっしゃ、今夜はイケるぞ!」
「待て、それだけだと怖い」
「そういや、中央のトレーナーとか人気あるけど、その分碌でもない奴まで寄ってくるかもしれないんだったな」
「俺がいるチームの先輩トレーナーも、合コンで釣った彼女が外れだったせいで痛い目に遭ったって言ってたぜ。そこんところ、どうなんだ?」
「そこもバッチリ調査済みだってよ」
「すげぇ。こりゃ一層頑張らないといけないな!」
「仕事が仕事だから、少ないチャンスをしっかりとモノにしないといけないしね」
中央のトレーナーってエリートだけど、忙しすぎて出会いとかないしな。俺も含めて全員が今回の合コンで彼女を作る気満々だ。
ここに今世間で話題になっている武藤さんがいれば完璧な布陣だったんだが、残念だが速攻で不参加を表明している。てかあの人、俺が武藤さんの名前を使った事にかなり怒ってたな。今度謝りに行こう。
ただ不安があるとすれば、
(あの忠告だな……)
俺の担当のアクアブルーが合コン計画に勘づき始めているって聴いた時は焦った。計画段階の時点で念のために全力でカモフラージュしてるから今回の合コンはギリギリ大丈夫だとは思うが、ウマ娘の執着心ってのを先輩たちから嫌という程聴かされているせいで、若干不安は残っている。
「もうすぐ時間だな。そろそろ行こうぜ」
「おっと、こんな時間か」
まあ仮にアクアが合コン計画に気付いていたとしても、今回は大丈夫なはずだ。細心の注意を払ってトレセンから出発したお陰か尾行されている気配はなかったし、待ち伏せも会場の場所を知っているのは合コンメンバーのみだから封殺している。
後は合コンでいい子を見つけた上で、明日アクアを言いくるめれば全て完璧だ。
「よっしゃ、乗り込むぞ!」
「おう!」
威勢のいい掛け声と共に、俺たちの戦場に向けて足を踏み出そうとし――
「みーつけた」
見慣れた青鹿毛のウマ娘が俺の前に立ちふさがった……!
「しかし、アクアさんをここに連れてきてよかったのですか? 事と次第によってはトレーナーさんの立場が悪くなるかもしれませんよ?」
「ん? ああ良いんだよ。あいつ、勝手に俺の名前を使ってアレコレやった上に、反省もしてないからな。この調子だとまたやらかすだろうし、今の内にキッチリとお灸をすえておかないといけないんだ」
「……お灸というよりも、ガソリンをかけて火をつけたようにも見えますが」
「知らん」
「な、なぜここに!?」
瞳からハイライトがどっか行ってるアクアに思わず後ずさりしてしまう。対するアクアは悪霊を彷彿とさせる気迫を滲ませながら、じりじりと距離を詰めてくる。
ヤバいヤバいヤバい! 何とか誤魔化さないと!
「私はここに遊びに来ただけだよ? それよりトレーナーはなんでこんなところにいるの?」
「こ、これから同僚と飲み会をするんだ……」
「嘘だよね」
静かに、だがハッキリとアクアは俺の嘘を切り捨てる……!
「私ね。トレーナーが今から合コンに行くって知ってるんだよ?」
「え……」
「……ねえ、何で嘘つくの?」
更ににじり寄るアクア。しかも雰囲気が悪霊から悪鬼にランクアップしてる……!
「す、スマン。確かにこれから合コンなんだ。でもこの合コンはこう……話の流れで俺もいく事になったんだ! 断るのもアレだからさ!」
「へえ……、じゃあトレーナーは別に行きたくなかったって事?」
「そうそう! 別に彼女とか作る気なんて――」
「――それも嘘」
再び嘘が真正面からぶった切られる……!
「私ね、トレーナーが合コンを主催してるの知ってるんだよ?」
「……え」
「渋々ならわざわざ主催者なんてやらないよね?」
「あ、あの……」
「ねえ…………なんでそんなつまらない嘘を吐くの?」
距離をほぼゼロにまで詰められ、俺の顔をじっと覗き込んでくるアクア。ついでに背後に纏っている空気が悪鬼から阿修羅に進化してる。滅茶苦茶怖い! どうしてこうなった!?
「そういえば、合コンの情報をどのように手に入れたのですか? アクアさんは情報収集に苦戦していましたが」
「そりゃ簡単だ。柿崎の奴、わざわざ俺に合コンの日付と場所をメッセージで送ってきてたからな。俺が来りゃ合コンが盛り上がるって魂胆だったらしいが、それがアダになるんだから笑えるわ。あっ、アクアが柿崎を捕まえたか」
「これで柿崎トレーナーは逃げられませんね」
「だな。これであのアホの命運も尽きた。んじゃ、俺らもそろそろ帰るか」
「はい。――アクアさん、頑張ってください」
「もう埒が明かないね」
「ひっ!?」
腕をがっしりと捕まれた。反射的に振りほどこうとしたが、ビクともしない。そうこうしている内に、ひょいっと肩に担がれてしまう。
「この近くに二人だけでお話出来るいい所をしってるから、そこでジックリお話しよ?」
「ま、待ってくれアクア!? 誤解だ!」
「言い訳は後で聴くね」
「クッソ、ダメか!? おい、助けてく――」
「ねえねえアクアちゃん。他の娘とか来てたりする?」
「いえ、来たのは私だけです。一応他の子にも声はかけたんですけど、『それくらい、いいんじゃない?』って言われました」
「よっしゃ、セーフ!」
「助かったー!」
「じゃあな柿崎! 俺たちは全力で楽しんでくるから!」
「二人で楽しんで来いよ!」
「おおおおおおい!?」
コイツ等アッサリと俺を切り捨てやがった!? 血も涙もねぇ!
「いや、そこは助けろよ!?」
「いやーこの状況でお前を助けるのとか無理だし」
「まーお前も頑張れ。骨は拾ってやるから」
「裏切者おおおおおお!」
「それじゃあ、行こっかトレーナー」
「いやああああああああああ!?」
こうして俺は担当に担がれて、物凄い勢いで夜の街を引きずり回される羽目になった……。
武藤は基本的にやられたら即座にやり返すタイプです。