マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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やっぱりウインディが来ましたね。これは引くべきかどうか……。


37話 取材するならとことんしよう

 日本においてウマ娘によるレースは昔から人気のあるコンテンツであるが、当然の事だが、それと並行するように創作分野でもレースを題材にしたモノも多い。昔からレースを題材にした映画やドラマなんかはコンスタントに世に出されているし、漫画やアニメといったサブカル分野でもレースに焦点を当てたモノはよく見られる。

 そんな事情もあり、トレセン学園にはそういった分野の業界人からの取材の申し込みってのは、そこそことあったりする。この際に担当への取材が行われる場合、それに許可するかどうかの判断を下すのもトレーナーの仕事だ。

 だからこそ、だ。

 

「こういうのは普通は理事長が気に掛ける案件じゃないのでは?」

「だね。たづなさん、どういう事なんですか?」

 

 理事長秘書に呼び出された俺とフジは首を傾げていた。それに向かいの席で駿川さんはこの反応を予測していたのか一つ頷く。

 

「お二人の疑問は尤もです。……こちらをご覧ください」

「これは?」

「先方から提出された申請書のコピーです」

「私も見せてもらっていい?」

「あいよ」

 

 駿川さんから手渡された書類を、横のフジにも読みやすいようにさせつつ目を通す。

 

「えーと、名前は芝野ヨシ。職業は漫画家で、現在某少女漫画誌で『ターフが繋ぐ絆』連載中」

「取材対象は私とトレーナーさんで、目的は漫画の取材のためだね。この『ターフが繋ぐ絆』っていう漫画は読んだことあるよ。レース漫画というよりも主人公のウマ娘と担当トレーナーの恋愛漫画だね。評判は……あまりよくなかったかな?」

「あー……あったな、そんな漫画」

 

 俺も護身と話題作りのためにそこら辺も一度は目を通してるが、少女漫画って月刊誌ばっかりだから、よっぽど目立った奴じゃないと一度読むだけじゃ内容を忘れるんだよな。ましてや打ち切り圏内の漫画とか印象に残らん。

 それはともかくとして、申請した奴が変な相手って訳でもなさそうだが。

 

「問題は取材の内容です」

「内容? って、まさか」

 

 あ、何となくわかった。わざわざ俺ら二人を取材したい、なんていう輩なんざ目的はアレしかない。

 

「はい、安田記念記者会見襲撃事件に関連する取材です」

「あー、やっぱりかぁ」

 

 小さくため息を吐きながら頭をかく。またセンシティブすぎる内容が来たな。事件自体は無事に解決ってなってはいるが、内容が内容だけにフジだけでなく俺にとっても余り触れたくない内容なんだよな。

 

「なんでも漫画でこの事件をモチーフにしたストーリーを描きたいとの事で、事件の当事者二人に取材をしたいそうです」

「あの事件の題材に漫画を描くのかよ。事件の詳細については俺が取材陣の対処をしたから、そこら辺調べればわかるだろうに。あれじゃダメなんですかね」

「生の声を聴きたいと言ってきています」

 

 また面倒な事言ってんな。因みに襲撃事件に対するマスコミの取材だが、全て俺が引き受けていて、フジへの取材は完全にシャットアウトしていた。これについてはフジの保護って事で、学園もGOサインを出している。(因みにその前の脅迫事件の方はそもそもフジには秘密にしてあるって事で、取材のターゲットがフジに向けられる事はなかった)

 

「てか、『ターフが繋ぐ絆』って恋愛漫画なんだろ? あの事件のモチーフの展開なんて、使いどころなんてあるのか?」

「んー、それは流石に分からないよ。ただシチュエーションは恋愛漫画としては美味しいんじゃないかな?」

「フジキセキさんの見立ては当たっています。先方も事件そのものではなく、事件が起きる前、つまり武藤トレーナーがフジキセキさんを護衛していた時期について聴きたいそうです」

 

 シリウス曰く、あの事件の時の俺の行動って完全に王子様ムーブだからな。恋愛漫画のシチュとしてはアリなんだろうか?

 

「ゆーて俺がやってた事って、言っちゃなんだが王道通り越して古典だぞ? そんなん使った所でウケるんかね?」

「さあ、流石にそこまでは……」

「そこは漫画家さんが色々と手を加えるんじゃないかな」

 

 まあ、創作なんてそんなもんか。

 

「……今回の要請ですが、学園としては扱いに些か困っています。先方は襲撃事件の取材ではなく脅迫事件の取材をしたいと主張しています」

「アウトゾーンギリギリのグレーゾーンを攻めてきたか。中々ロックな奴だな……」

 

 安田記念記者会見襲撃事件に関する取材について、俺や学園は各マスコミにフジへの取材をシャットアウトすると公言しているが、それの一つ前のフジへの脅迫事件については言及していない。広義では殺害予告状も襲撃事件の一環なんだが、狭義だと襲撃事件と脅迫事件は別案件だ。今回はそこをゴネてきやがった。

 

「このような事情もあり、本件についてはお二人に判断を任せる事となりました」

「面倒事をぶん投げてきたな……。俺だけが取材を受ける、もしくは断るのは?」

「先方はお二人への取材を希望していますので、武藤トレーナーのみの取材は受け入れないでしょう。断る方は可能です」

「うーん……」

 

 頭をガシガシと掻き毟りつつ唸る。

 正直俺としてはお祈りメールでも送り付けてやりたい所だ。襲撃事件周りはフジにとってトラウマだ。無駄に刺激をしたくはない。資料自体はあるんだから、しっかり調べた上で想像力を働かせて漫画描いとけってんだ。

 だが、フジの方は違ったらしい。

 

「私は……受けてもいいかな」

 

 フジからまさかの答えが返ってきた。

 

「フジ、いいのか? 言っちゃなんだが、無理しなくてもいいんだぞ?」

「ううん。あの事件の事については私も整理出来てるから大丈夫だよ。それに今回は恋愛漫画で使うシチュエーションの調査みたいだしね。事件の事を深く訊かれる事はないと思う」

「……まあお前がそういうなら」

 

 見た所フジはリラックスしていて、無理をしているような雰囲気はない。この様子なら、よっぽど変な事を訊かれない限り、いつも通りにやるだろう。……担当がお望みなら、叶えてやらないとな。

 

「分かりました。今回の取材は受けましょう」

「はい。では先方にも連絡を入れておきます」

「ああ、その代わりこちらからも要望を出しておいてください」

 

 ただしもしもの時のための予防線は張っておこうか。

 

「要望ですか?」

「質問への黙秘権。我々の判断による取材の即時打ち切り。この二つを漫画家先生にぶん投げておいて下さい。出来ないなら、今回の話は無しで」

「随分と強気に行きますね」

「言っちゃなんですが、積極的に取材を受けてやる必要とかないですからね」

 

 レースなんてやってる以上、マスコミとはそれなりの付き合いってのは必要だろうが、テメェがグレーゾーンを突くんなら、これくらいのリスクくらい飲んどけってんだ。

 

「分かりました。先方には伝えておきます」

「んじゃ、お願いします」

 

 

 

 

 

――こんなやり取りがあったのが、1週間前。んでもって、取材当時に実際にその芝野ヨシって漫画家先生に会う事になったんだが、

 

「おはよおおおおおおおおぉおございますううううううぅううう!」

「うわぁ……」

「テンションたっか……」

 

 なんか目の下にクマが出来てる上に目が血走ってる俺と同年代くらいの女が、校門で待っていた俺たちの下に突っ込んできやがった。

 

「えーっと、貴女が芝野ヨシさんですか?」

「はいいいい! 本日はよろしくお願いしますうううううう!」

「うん、俺らって別に耳が遠い訳じゃないから、とりあえず叫ぶの止めような?」

「はいいいいい! 失礼しましたぁあああ!」

「うーん、全然治ってないね」

「私徹夜するとテンションがハイになっちゃうんですよぉおおお! 気にしないで下さいぃいいい!」

「いや、寝ろよ」

「最近打ち切りを食らう夢ばっかり見るせいで、碌に寝れないんですぅうううううう……!」

「これ深夜テンションというより、無理矢理テンションを上げて不安を紛らわしてるだけなんじゃ……」

「漫画家の闇が出たな……」

 

 とりあえずいつまでも校門前でハイテンションやってる漫画家先生を放置するのもアレなので、取材場所として俺のトレーナー室に移動。なお道中で口にペットボトルの紅茶を突っ込んだり、強制的に顔を洗わせたりして、何とかテンションを下げさせるために寄り道しまくったせいで、予定時間はずれ込んだが。

 

「改めまして漫画家の芝野ヨシです。本日は取材の許可を下さりありがとうございました」

「フジキセキです。今日はよろしくお願いします」

「トレーナーの武藤だ。事前の通達通り質問内容によっては拒否権を使わせてもらうが、出来る範囲では答えるようにしていくつもりではあるから、安心して取材してくれ」

「はい。では早速最初の質問――というのも変ですが、……事前に読んでもらった私の漫画についての、忌憚のない意見をお願いします」

「あー、あの漫画かー」

 

 取材を受ける事を先方に通達して2日後、この漫画家先生の名義で現時点で単行本化されている「ターフを繋ぐ絆」が郵送されてきていた。(現在3巻まで刊行してる) 同封されていたメッセージには、ぜひ読んで下さいってあったから、俺たち二人とも取材を受ける前に目を通している。

 

「うーん……」

 

 芝野さんの問いかけに、フジが困ったように俺に視線を向けた。気持ちは分からんでもないが……、本人がいいって言ってんだから、ズバッと言ってやった方がいいんだろうな。

 

「俺は恋愛漫画はほとんど読まないが、それ抜きにしても面白くはなかったな」

「どストレート……」

「キャラクターに魅力がないよね。新入生の明るくて無邪気なウマ娘と元陸上経験者の新人イケメントレーナーの恋愛模様が主題みたいだけど、主人公のウマ娘にしろトレーナーにしろ、設定も性格もインパクトが薄いし」

「うっ……」

「絵はまあ良いとして、ストーリーも微妙だったな。内容が薄い」

「ううっ……」

「あと単純に展開が遅いよね。主人公がトレーナーと担当契約するが4話目とか、月刊誌連載なのに遅すぎないかな」

「ごめんなさい、ここまででお願いします」

 

 二人でボロクソに言ってやったら作者からストップが掛かった。いやー、見事に打ち切り漫画によくある要素ばかりだったぞ、あの漫画。

 

「てか、恋愛メインの漫画なのにフジの襲撃事件の取材をしたいって事は、編集からテコ入れしろとか言われたんじゃねーの?」

「……はい、その通りです。担当からこのままだと打ち切られるから、何とかテコ入れしないとマズいって言われました」

「漫画家も大変だね……」

「それでテコ入れ内容がフジの事件ってのは、チョイスとしてどうなんだ?」

「いくつか案がありましたが、一番読者に受けそうなのがフジキセキさんの事件でしたかので」

「……まあアンタらがそれでいいんだったら、部外者が口を挟むつもりはないが」

 

 確かにフジの事件って世間じゃ派手に語られちゃいるが、単純に乗っかった所でテコ入れになるんかね?

 

「さっきも言ったが、フジの事件に関しちゃ答えられないところもあるぞ? それでもいいのか?」

「ああいえ。正直なところ事件自体には興味はありません」

「え? どういう事ですか?」

「あの事件って犯人の動機がありふれたものですので、そのまま漫画のネタに使うには弱いんです。それに事件の代名詞になっている武藤トレーナーのプロレス技のシーンについても、欲しい情報はもう手に入れましたし」

「まあ俺も当時はマスコミ相手に色々喋ってたしな」

 

 今更取材するような事はないってか。そこまで聴いたフジが、不思議そうに首を傾げる。

 

「あれ? それじゃあ芝野さんはどんなことを取材したいんですか?」

 

 不思議そうに首を傾げるフジ。そんな彼女に漫画家先生は待ってましたと言わんばかりに、大きく頷いた。

 

「はい、その疑問は当然ですね。今回の取材ですが――ズバリ、脅迫事件後に武藤トレーナーが行っていた、フジキセキさんへの護衛について詳細にお聞きしたいのです」

「あの時期の話かぁ……」

 

 思わず頬が歪む。今だから言えるが、あの時の護衛って割とガバガバだったからあまり話したくないんだがなぁ。

 

「ああ、なるほど。確かにあの頃の話は、恋愛漫画なら美味しいシチュエーションだね」

 

 対するフジの方は割と食いついてるようだ。そういえばフジとシリウスに詰問されかけた直後からは、割とノリノリで俺に引っ付いてきてたっけか。

 

「んじゃ、そこら辺のエピソードとかを話す感じでいいか? フジもそれでいいか?」

「うん、大丈夫」

「ありがとうございます。ではまずは――」

「ああでも」

「え?」

 

 フジは漫画家先生の質問を遮ると、いい笑みを浮かべながら続ける。

 

「話を聴くだけじゃ創作に落とし込むのは大変ですよね?」

「ええまあ……」

「なら、護衛の実演をしましょうか?」

『え?』

 

 一瞬ポカンと口を開けたままになる漫画家先生。ついでに俺も話についていけなくて、思考停止中だ。

そんな事をしている間にも、漫画家先生が再起動して食い気味に身を乗り出した。

 

「いいんですか!?」

「校内限定になりますけど、それでいいなら」

「全然構いません! あっそうだ。厚かましいですけど、温めてたシチュエーションの実演もお願いできますか!?」

「いいですね。折角ですし、それもやりましょう!」

「ありがとうございます!」

「え? ……フジ、待て!?」

 

 遅れて俺も再起動したが、なんか物凄い速さで話が進んでたもんだから、慌ててストップをかける。

 

「何がどうしてそうなる!?」

「漫画の取材を受けるなんて滅多にないからね。折角だし思いっきり楽しまないと」

「言ってることはお前らしいが、それ絶対別の事狙ってるだろ!?」

「うん。いい機会だから、ここでみんなと差をつけないとね」

「誤魔化しすらしねぇ!?」

 

 こいつ取材を盾に合法的にやらかす気満々じゃねーか!?

 

「おい、漫画家先生! スマンが今の話は――」

「では早速やりましょう! まずは廊下を歩くシーンからお願いします!」

「聞けよ!?」

「興奮しすぎて部屋から飛び出しちゃったね。待たせるのも悪いし私たちも行こっか、トレーナーさん?」

「クッソ、どうしてこうなった……!」

 

 こうして当初の懸念とは別の方向で面倒な取材が始まった。

 

 




ウマ娘世界の文化を考察してみたら、こんな話が生えてきました。
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