マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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連続投稿3日目。今回は話的に区切れなかったので、結構長くなりました。


4話 除霊方法って定番がいくつもあると思う

 

 

「つまるところ、あいつの正体は幽霊って事で良いんだよな?」

「はい……それで間違いありません」

「……」

「……」

 

 昨日の騒動から翌日。結局取り逃がした警備部が犯人を血眼になりながら探しているのを横目に、俺とエアグルーヴ、フジキセキは、大きな紙袋を手にしているマンハッタンカフェに連れられて、ある場所に向かっていた。

 

「……でも、昨日のあれは普通の『お友だち』、『よくないもの』には見えませんでした。……大きい『よくないもの』を包むような『殻』があり、更に小さい『何か』が集まった結果、ウマ娘の形になっているように感じました。多分実体化した原因はそれです……」

「んー、そいつは動物の群れ的な感じなのか?」

「いえ……小さい方は一つ一つには意思はないようでした……。強いて言えば、人が服を着ている感じです……」

「で、幽霊がその服を着た結果、実体化できるまで強化されたと。服ってよりパワードスーツか」

「……SFはよく知りませんが、その認識で良いかと」

「……」

「えぇ……」

 

 なるほど、幽霊が相手じゃ捕まえられんわけだ。俺たち常人じゃどうにもならん。

 

「しっかし、何でその幽霊は靴下なんて盗んでんだ?」

「……さあ? 流石にそこまでは……。ただ何かこだわりがあるんだと思います……」

「幽霊になるような奴は何かしらに執着している、だったか? 本人に聞くのが早いか」

「ねえ、ちょっと?」

「……二人とも待て」

「ん?」

 

 声に釣られて振り返る。そこにはジト目でこちらを見ているエアグルーヴとフジがいた。

 

「なぜナチュラルに幽霊がいる前提で話を進めているんだ」

「普通は幽霊って言われたら疑うものじゃないかな?」

「あー……」

 

 まあそうだよな。滅茶苦茶ナチュラルにカフェと話を進めてたけど、普通は幽霊って言われても「はいそうですか」とはならんよな。

 ただ俺の場合、ちと事情が違った。

 

「いやまあ、昔幽霊関係の怪異に遭遇したしな。疑うも何もないし」

「……武藤トレーナーは、前に私と私のトレーナーとお話しをしていた時に霊障に巻き込まれたんです」

「えぇ……。大丈夫だったの?」

「……まさかよくないもの相手に関節技を掛けて解決するとは思いませんでした」

「悪霊にイラっときたから、つい」

「何をやっているんだ貴様は」

 

 幽霊がクッソふざけた事を言い出したもんだからダメ元でぶん殴りに行ったら触れたから、流れでキャメルクラッチかましたんだよな。あれで霊障が解決するとは思わなかったけど。

 

「因みにその時はシリウスも巻き込まれてたりするぞ」

「……前に彼女が少し様子が変な時があったけど、それが原因だったんだね」

「割と危なかったからなぁ」

 

 あれは事件の後のフォローは大変だった。それはともかく、エアグルーヴが一つため息を吐いた。

 

「……とりあえず、背景は分かった。俄かには信じられんが、貴様がこんな事で嘘を吐かない事は分かっているから、犯人が幽霊だという事で話を進めるぞ。――結局、一連の事件を解決する事は出来るのか?」

「正確な事は言えませんが……、少なくとも『よくないもの』を弱体化させる事は出来ます」

「弱体化?」

「はい……」

 

 首を傾げるフジを余所に、カフェは続ける。

 

「……先ほども言いましたが、今回の事件を起こした『よくないもの』は『小さい何か』を纏っているから、実体化出来るまで強くなっています」

「そうか、なら逆に言えばその『小さい何か』をどうにかすれば……」

「はい……それを取り除く事が出来れば無力化とは言いませんが、今よりもずっと弱くする事が出来ます」

「要するにあのクソボケ幽霊の服をひん剥きゃ良い訳だ」

「たわけ、もう少し言い方があるだろう!?」

 

 分かりやすく言っただけなのにエアグルーヴに怒られた。解せぬ。

 

「まあまあ……。因みにその『小さな何か』ってどういうものなの?」

「……あれは負の感情の塊です」

「負の感情?」

「……怒り、不安、悲しみといったものです。……あれはそういった感情が一つになったように見えました」

「負の感情、ね」

「……あれだけの量の感情の塊を『よくないもの』一人で集めるのは不可能です。何か……負の感情が蓄積されている場所から持ってきたのだと思います……」

「負の感情が集まる場所? ……あ、もしかして」

 

 フジが何かに気付いたようだ。それにカフェは小さく頷くと共に、立ち止まる。話している内に目的地に無事に到着した。

 

「はい……このトレセン学園にはそういった負の感情を吐き捨てる場所。それがこれです」

「――なるほど。それがこの大樹のウロか」

 

 エアグルーヴが納得した様に頷いた。悔しい事やつらい事があった時に思いの丈を叫ぶ場所、それが大樹のウロだ。いつからあったかは知らないが、これは俺がトレセン学園に就いた時には既にあった物だ。そりゃ年単位で大勢の生徒の思いの丈を受けていれば大量に負の感情が蓄積されるもんだ。

 

「……あの『よくないもの』の力の源はここですので、きれいにすれば力は弱まります」

「で、どうする? お焚き上げって事で焼くか?」

「大火事になるわ!」

「いえ……そこまでしなくても大丈夫です。……これを使います」

 

 カフェは持っていた紙袋の中からいくつもあるビニールで包まれた袋の一つを取り出した。ラベルには食塩とデカデカと印刷されている。

 

「塩か。オカルトじゃ定番だな」

「……ウロの中に一つかみ程度入れれば効果はあります」

「うし、じゃあ俺が入れてくる」

「はい……お願いします」

 

 カフェから塩の袋を受け取り、袋を開けながらウロに近づく。その時だった――

 

『そんなことをやらせると思うか?』

「――っ!」

 

 聞き慣れない低い声が響くと同時に背後から何かが迫る気配を感じ取り、咄嗟にサイドステップ。背後からのそれを何とか躱し切ったが、手に持っていた塩の袋が弾き飛ばされていた。

 慌ててその何かに視線を向けると――そこにいたのは、昨夜見た制服姿の長い栗毛のウマ娘。

 

『ふん。よくぞここまで「死ねぇえええええ!」ってちょっと待て!?』

「知るか! 見た目ウマ娘のくせに声がオッサンとかキモイんだよ! さっさと成仏しろやぁあああああ!」

『ぬおおおおぁああああ!?』

 

 速攻でぶん殴りに行ったが、滅茶苦茶素人臭い動きでよけられた上に、高速バックステップで逃げられた。ウマ娘相手でも速攻かませばワンチャンあると思ったが、そこまで甘くはなかったようだ。

 

「ちっ、ここで仕留められれば楽だったのに」

『いきなり殴りかかるとか何を考えている!?』

「……この人ならやると思っていました」

「別に咎めるような事をしていないな」

「うん、変態を捕まえるのに躊躇する理由ってないよね」

『お前ら慣れすぎだろ!? ……って、お前は!?』

「……え?」

 

 幽霊がカフェを見て、いや正確にはその後ろに視線を向けて驚愕し、後ずさりする。

 

『なぜ黒髪幽霊がここに!?』

「黒髪幽霊って、要するにカフェに似た『お友だち』か?」

「多分そうかと……」

『あの時は危うく消滅するかと思ったが、今は違う! 前の様にはいかんぞ!』

「……そういえばあの子が前に変な『よくないもの』がいたから懲らしめたとか言っていました。なんでも……寮のお風呂を覗こうとしたとか……」

「なんだ、ただの変態か」

「その時に滅んでればよかったのに」

「おう、お前らとりあえず変態に近づかないように下がっとけよ」

 

 手をひらひらとさせて後ろのメンツを下がらせる。だがそこまで言った所で、カフェは首を傾げた。

 

「でも……あの子が追い払ったのはおじさんと言っていました……」

「だが目の前の幽霊はウマ娘だぞ? 声は男性のそれだが」

「それにあの幽霊の仕草もどちらかというと男の人のそれだね」

「ならさっき言ってた『小さな塊』のお陰でウマ娘になっているって事か?」

「いえ……『小さな塊』はあくまでも服のようなものですので、性別までは変わらないはずです……」

 

 首を傾げる一同だったが、答えは本人から飛んできた。

 

『当然だ。何せ私はウマ娘の霊を取り込んだからな!』

「は?」

 

 思わぬ答えに反応できずに固まる。そんな俺たちを余所に変態は続けた。

 

『事故で死んで幽霊になったあの日、これ幸いとトレセン学園の寮の風呂に突貫しようとして黒髪幽霊にボコボコにされ這う這うの体で逃れた私は、この大樹のウロで回復を待っていた』

「……唐突に語りだしましたね」

「よっぽど誰かに自慢したかったんじゃないかな?」

「隙だらけだぞ。トレーナー、やれ」

「いやさっきの方法じゃまたよけられるし、別の方法で行くぞ」

 

 俺たちの呆れたような視線を余所に、変態幽霊の語りは続く。 

 

『考えていた事は常にあの黒髪幽霊へのリベンジだ。何日かウロの側にいたらウロに溜まっていた霊魂を取り込めるようになったお陰で力を増したものの、黒髪幽霊には敵いそうにはなかった』

「……どうやらウロの地縛霊になったようです。因みに……ウロにあるのは負の感情の塊ですので、霊魂ではありません」

「便宜上霊魂ってした方がわかりやすいし、それでいいんじゃね?」

『どうしようかと頭を悩ませている時に、グラウンドで「恨めしい、足を寄こせ」と煩い浮遊する球体の霊を見つけた』

「おいなんか明らかにヤバいもんが出てきたぞ」

『ウロにある物よりも上質なそれに私は惹かれ、そして取り込んだ。取り込むのになかなか苦労したが、ウロの霊魂との相性が良かったお陰で終わってみれば私は黒髪幽霊に匹敵するほどの力を手に入れていたのだ。もっとも代償として私の身体がウマ娘になっていたが、些細な事だな』

「性別変わるのは全然些細じゃなくね?」

『私にとっては些細な事だ』

「お、おう……」

 

 本人が気にしてないなら、こちらも深くは追及しない。

 

「てか幽霊って別の霊を取り込めるのか?」

「恐らく……それはウマ娘の霊ではなく、人々のうわさが起因で発生した霊障です。……発生したばかりで弱かったから取り込めたのだと思います。……なぜウマ娘になったのかは謎ですが」

「なるほど。因みに靴下を強奪する理由は?」

『それはウマ娘の霊魂を取り込んだ時に目覚めた嗜好だ。まさか私が靴下フェチに目覚めるとは、人生何があるかわからんものだ』

「おう、堂々と性癖を暴露するなや」

「……これは霊障を取り込んだせいで、意識が変化した可能性があります」

「んー、霊障の脚への執着+変態の性欲=靴下フェチ?」

「恐らくそうかと……」

「なにその悪魔合体」

 

 頭痛くなってきた。

 とはいえ、無駄に本人がベラベラ喋ってくれたお陰で、一連の事件の背景は分かった。要するにパワーアップした変態幽霊が性癖の赴くままに暴れてただけだ。お陰でやる事自体は変える必要はない。

 

「まあいいや。とりあえず今ここでこいつをぶっ殺せば丸っと解決だ」

「そうですね……」

 

 頭を切り替えて今度こそぶん殴るべく腕を回してウォーミングアップをする。だがそんな俺を、ウマ娘の形をした変態は鼻で笑った。

 

『フン、貴様がいくら鍛えていようとも、唯の人間程度にウマ娘になった私が負けるわけがないだろう』

 

 癪だがこれもまた事実。G1勝利経験のあるエアグルーヴとフジキセキから逃げ切ったこの変態の身体能力は相当な物だろう。下手をすればG1レースのレコードを更新しかねないレベルだ。策もナシに正面からぶつかった所で敗北するのは目に見えている。

 

「おいおい、随分余裕じゃねーか」

 

 もっとも根本的な話だが、別に俺も真っ向勝負なんぞするつもりはない。いやもうする必要がない。

 

「お前が食っちゃべってたせいで、詰んでんだぞ?」

『何?――ぐあああああぁ!?」

 

 変態が訝しんだ次の瞬間、奴の身体から黒い煙のようなものが噴出した。

 

「うわっ、キモっ」

「穴という穴から煙が出ていますね……」

 

 中々ヤバいビジュアルをしているが、本人はそうも言っていられないらしい。地面に倒れてのたうち回っている。

 

『貴様ら何をやった!?』

「あん? ここに来た目的を果たしただけだぞ」

『何を言って……あっ!?』

 

 俺の視線の先にあるものに気付いたのか、変態幽霊が目を見開いた。まあそんな反応にもなるよな。何せ――

 

「効果覿面だね」

「もう少し入れるか」

 

 力の源になっている大樹のウロに、エアグルーヴとフジが黙々と塩を撒いてたんだからな。

 

『いつの間に!?』

「そりゃお前がくっちゃべってる間にだよ」

 

 具体的には俺が「別の方法でいくぞ」って言った後。

 初手で殴りに行った俺と「お友だち」が控えているマンハッタンカフェというインパクトがあるメンツがあいつの自慢に付き合う事で、エアグルーヴとフジを意識から外すように誘導。その間に二人はそっと離脱して弾き飛ばされた塩の袋を回収し、その足で大樹のウロに取り付いた訳だ。

 あいつが思いっきり慢心してたからこそ出来た策だな。

 

『ぐ……あぁ……』

「大分……弱まったようです。でも……まだ力が残っていて祓えません……」

「あー、最初から『弱体化』って言ってたしな。今のあいつってどのくらい力が残ってるんだ?」

「……並の霊障程度には。身体能力で言えば……小学校低学年のウマ娘程度かと……」

「そこそこ強いな」

「……多分、別の霊障を取り込んだのが原因です」

 

 この変態、余計な事をしやがって。

 

『クソ、こんなことになるなんて!』

「……いい加減、諦めて下さい。あなたも……これまで好きにやれたでしょう?」

『後ろの黒髪幽霊がシャドーボクシングやってる状況でそれを言うか!?』

「うーん、この降伏を許さないスタイル」

『クソ、逃げなくては!』

「あっ、やべ」

 

 俺たちに背を向けて一目散に駆け出す幽霊。そのスピードは昨日程ではないにしろ、ウマ娘スペックのお陰で驚異的な速度だ。だが10メートルほど走った所で、

 

『ぶっ!?』

 

 目には見えない壁のようなものにぶつかったかのように、幽霊が弾き飛ばされた。

 

「どうなっているんだ?」

「……お友だちが四方に壁を作ってくれました。これであの『よくないもの』は逃げられません……」

「なんでもありだな」

「……疲れるので、あまりやりたくないそうですが……」

 

 カフェのアグレッシブな「お友だち」のお陰で助かった。

 

「あいつを祓うにはどうしたらいい?」

「……塩を身体に纏わせて、以前あなたが霊障に巻き込まれた時と同じようにすれば」

「よっしゃ任せろ」

「うーん、ヤル気満々だね」

「幽霊を払う方法に暴力はどうなんだ……? ……ん? トレーナーの足元に文字が浮かんできたぞ?」

「えーっと……『ヤレ』?」

「……除霊の方法としては問題ないらしいな」

 

 なんか一部がごちゃごちゃ言っているが無視して、カフェから予備で持ってきていた塩の袋を受け取り、封を切って塩を頭から被る。

 それじゃあ、トレセン学園を騒がせた事件を解決するために一肌脱ごうか。

 

 

 

「行くぞオラああああああぁ!」

 

 

 

 変態幽霊に向かって突貫! 相手は今頃になってようやく立ち上がったようだが、もう遅い!

 

「オラァ!」

『ぶふっ!?』

 

 開幕ラリアットで再度変態を地面に叩きつける! だがそのままゆっくりと寝かせるつもりはない。腕力にモノを言わせて無理矢理立たせて、

 

「もういっちょぉおおおおお!」

『ぐあああああぁ!』

「あれは確かフロントスープレックスか?」

「そうだね。しかも投げるんじゃなくて落としてる。トレーナーさん本気だ」

 

 己の体重を乗せて三度地面に沈める! だが幽霊はまともに食らったにも関わらず、若干ふらつきながらも素早く立ち上がった。弱体化したとはいえウマ娘化しているお陰で大分タフになっているらしい。

 

『調子に乗るな!』

 

 怒り狂った変態幽霊が拳を繰り出す。その速さは男にはまず出せないような速度を出しており、まともに食らえば唯では済まない。だが、

 

「おっと」

『!?』

「んなテレフォンパンチ食らうか!」

『ごふっ!』

 

 ド素人の見え見えの拳なんぞ怖かない。余裕で躱してカウンターでガラ空きの顎に掌底を食らわせる!

 ふらつく幽霊。この機を逃さず追撃を入れようとする。そんな時だった。

 

――!

『ごはっ!?』

 

 俺が膝をかます前に幽霊が横に弾き飛ばされた。入れ替わるように現れたのは、見事な着地を見せるマンハッタンカフェによく似たシルエットの金色に輝く影。

 

「……あの子も参戦するそうです」

 

 解説のカフェさん。影に再度目を向ければグッと親指を立てている。これには思わず口角が上がってしまう。

 

「よっしゃヤルか、変則タッグマッチ!」

――!

『いや、それ反則だろおおおおおおぉ!?』

 

 変態がなんか喚いているが無視して、即席ながらも連携して襲い掛かる。勢いをそのままに大地から飛び立ち、蹴りを叩きつける!

 

「もう一回吹っ飛んでろ!」

『ぎゃああああぁ!』

――!

『ゲフ!?』

「ドロップキックからのエルボードロップ!」

「鳩尾に入ったぞ。容赦ないな」

「……容赦する必要はありませんから」

 

 鳩尾攻撃に悶絶している幽霊に駆け寄ると無理矢理立たせ、羽交い絞めにする。傍目から見れば些かヤバい絵面だが、こいつの中身はオッサンだから問題ないな!

 

「よっしゃ、やれ!」

――っ!っ!っ!っ!っ!っ!

『ブっガっちょっ待ってっ!?』

「羽交い絞めにした相手に手刀を連打するのは反則では?」

「技はプロレスだけど、これは別にプロレスって訳じゃないからいいんじゃないかな? あっ、今度は塩を持ってきて幽霊の口に押し込み始めた」

「あの量の塩は幽霊じゃなくても辛いな」

 

 チョップ乱れ撃ちと塩で弱らせた所で、今後は影と協力して相手の首を掴み上げる!

 

「いくぞ!」

――!

「せーのぉ!」

『ゴっ!』

「ツープラトンでチョークスラムだ! 即席でここまで出来るなんて!」

「……しかし先程から気になっていたが、随分とプロレスに詳しいな?」

 

 フジにはショーの参考にしたいって言われたから、プロレスのあれこれを教えたしな。

 それはともかくそろそろ決着をつける事にしようか。ぶっ倒れている幽霊を視界に収めつつ、大樹のウロに登る。リングのコーナーと比べてかなり低いが、この高さでもやれない事はない。

 

「よーし、覚悟は良いなぁ……!」

『ま、待て! もうここの生徒に手は出さないから!』

「あっ? ここの生徒に手は出さないって事は、要するに他の奴には手を出すって事かぁ!?」

『いや違――』

 

 中々にふざけた事を抜かす幽霊には、現役時代のフィニッシュホールドを食らわせてやらなきゃならないようだなぁ!

 

「行くぜオラぁあああああっ!」

 

 幽霊に背を向けウロから飛び立ちバク転! 幽霊に向かって重力に従って降下する!

 

「永眠してろおおおおおおおぉ!」

『ごはあああああああああああああっ!』

 

 ムーンサルトプレスが完璧に決まった! そして次の瞬間、幽霊の身体に異変が起きる。

 

『お…おお……』

「むっ、奴の姿が段々と薄くなってきている?」

「どうなってるの?」

 

 エアグルーヴが指摘した通り、幽霊は呻きながらもその姿を消し始め、10秒もしないうちに完全に消滅してしまった。

 唐突な消滅に困惑するエアグルーヴとフジ。だがこの現象を俺とカフェは知っていた。

 

「……これで還す事が出来ました。手段は……かなり強引でしたが……」

 

 要するに除霊完了である。

 

「おっしゃあああああああああぁ!」

――!!!!!!

 

 マッチョと金色の影の勝ち鬨が辺りを木霊した!

 

 

 

 

 

「……これを提出した所で突き返されるだけなのでは?」

「あ、やっぱそう思う?」

 

 変態幽霊をどつき回した翌日。トレーナー室のソファーで数枚のA4サイズの用紙を見ながら呟くエイシンフラッシュを前に、思わず頷いてしまった。

 

「そもそもなんですか、一連の靴下窃盗事件の犯人が幽霊で、挙句にトレーナーさんがプロレスで成仏させた、って。トレーナーさんだけでなくエアグルーヴさんとフジキセキさんも当事者ですから私も信じられますが、そうでなければ私だってこんな報告をされても、ウソだと思いますよ」

「だよなー……」

 

 フラッシュから昨日俺が適当に書いた今回の事件の報告書を返してもらいつつ、俺は苦笑するしかなかった。

 確かに靴下を強奪する変態幽霊を強制的に成仏させた事で事件自体は解決はした。だがそれを知っているのは、あの時大樹のウロにいたメンツしかいないのだ。そのため学園全体に事件が解決した事を知らせるには、当事者が学園上層部に報告を入れなければいけないんだが……「事件の内容が色々とぶっ飛んでたせいで正直に話した所で誰も信じてもらえない」なんて問題が生じていた。

 

「正直に言ったところでまず信じてもらえないしな。適当に誤魔化して報告するか」

「それは賛成しますが、事件はどうするんですか?」

「あー、それなんだよな……」

 

で、適当な理由で事件解決って事にしようとするとネックになるのが犯人の所在。何せ真犯人は俺が消滅させちまったから、この世のどこにも犯人が存在しない。適当な奴を犯人に仕立てる訳には行かないから、誤魔化す場合シナリオはどうあれ結局「犯人は逃げた」ってことになってしまう。

 

「仮に俺が『フルボッコにしたからもう犯人は現れない』って言った所で、間違っても『はいこれで解決』ってならないよなぁ」

「それですと、結局犯人を逃がしていますから、生徒会も学園上層部も事件が解決したとは考えませんね。少なくとも昨日のような警戒態勢は続くでしょう」

「だよなー」

 

 面倒くさい事この上ない。因みにこの問題、学園運営に関わりを持っているエアグルーヴとフジにも降りかかっていて、俺と同じく頭を悩ませている。なおマンハッタンカフェの方は学園への報告とかはする気は一切ないらしい。

 

「やはり一番穏当なのは、トレーナーさんを始めとした事件解決の当事者が全員沈黙を保つことかと」

「つまり一昨日の追跡劇で犯人は犯行を諦めたって感じにして時間経過で自然解決させるってわけか。確かに楽だ」

 

 まあこれが一番妥当なんだろうな。エアグルーヴかフジが何かいい案を持ってこない限り、これで押し通す事になりそうだ。ただ、

 

「……それだと、ちと惜しい事になるんだよな」

「惜しい、ですか?」

「理事長が犯人を捕まえた奴には金一封を贈呈するとか言っててな」

「そっちですか……」

「金は大事、金は大事。つーても今回は諦めるしかないけど」

 

 あの理事長の事だから金一封の中身も太っ腹だろうから、マジで惜しいんだけどな。

 肩を竦めながらレポートをクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げ捨てる。こんなもんを置いておいた所で、何の意味もなさない。

 

「そういえば」

「ん?」

「一昨日の事件で思い出しましたけど、盗まれた靴下ってどこにいったのでしょうか?」

「……そういえばそうだな。てっきり犯人の根城にでも隠してるんじゃないかって考えてたが……」

 

 変態幽霊を強制的に成仏させた後、エアグルーヴが周辺が汚されているかもしれないと言って大樹のウロの周辺を色々と見て回ったが、特に異変はなかった。そうなると別の場所に隠されている事になるが……。

 

「幽霊が犯人ですから、家なんてあるはずもありませんし……」

「マジでどこだ?」

 

 二人して考え込む。そんな時、外から軽いながらも軽快な足音が聞こえてきたと思ったら、

 

「トレーナーちゃん!」

 

 勢いよく扉が開かれた。ドアに顔を向けると、そこには俺の担当のマヤノトップガンの姿があった。

 

「マヤノさん。幾ら急いでいるからと言って扉を乱暴に開けてはいけませんよ?」

「う……ごめんなさい。って、それどころじゃないの! 裏山で凄いモノ見つけちゃった!」

「凄いモノ?」

「うん、これ!」

 

 そういって床に置いたのは、所々土で汚れた一抱え程はある麻袋だった。マヤノは意気揚々と紐で縛られている袋の口を解く。するとそこにあったのは、

 

「これ……全部靴下ですね」

「凄いでしょ! これって一昨日の靴下強盗の犯人の奴じゃないかな?」

「多分そうだな。いやホントに凄いなマヤノ。ちょうどフラッシュと盗まれた靴下の行方を考えてたんだ。ありがとう」

「えへへ」

 

 マヤノを褒めながら袋を受け取り中身を確認する。種類やサイズは色々あるが中身はどれも靴下であり、名前も書かれたモノも多い。犯行自体が数か月前から始まっていたって事を考えれば、これだけの量になっていてもおかしくはない。

 

「おー、書いてある名前がバラバラだ。こりゃ確実にあの変態が……ん?」

「どうしました、トレーナーさん?」

「……」

 

 袋の中身に手を入れた所で感じた奇妙な感触にしばし考え込み、そして沈黙する。

 

「トレーナーちゃん?」

「……マヤノ」

「なぁに?」

「……この袋を持ってくる前に、中身を触ったりしたか?」

「え、触ってないよ? 中身を見てすぐにトレーナーちゃんの所に来たから」

「よーし、いい子だ」

 

 いやホントマジで。お陰で被害が俺だけで済んだ。

 

「何か……ありました?」

「こう、な。この靴下湿気ってんだよ」

「……え?」

「具体的には、なんかヌメヌメしててねりゃねちゃしてんだ……」

「……えぇ」

「うわぁ……」

 

 靴下についている汁の正体とか考えたくない……。てか二人とも引くなよ。地味に凹む。

 手早く袋を紐で力一杯縛って中身を封印。手は念入りに洗う事を心で強く誓う。

 

「……どうしましょうか、これ」

「そんなもん決まってるだろ……」

 

 こういう色々とヤバいもんの処理法は一つだけだ。

 

「焼くぞ」

 

 この後焼却炉に突っ込んで、最大火力でチリも残さず焼いた。

 

 

 




除霊(物理)も結構メジャーですよね!

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