マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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艦これイベントE-3ラスダンが終わらん……。


43話 ムリゲーでも立ち向かわなきゃならない時って偶にある

 寺田から無茶振りされてから3日が経過。カフェと寺田が原因を解決しようと動いている中、俺は何をしているかというと、

 

「とまあ、こんな感じで彼女にサクッとフラれたんよ」

「うわー……」

 

 普通にトレーナー室で飯をつまみながらマヤノと駄弁っている最中だった。オカルトは専門外だし寺田も警戒だけしてくれって注文だから、何か行動する必要とかないしな。

今は夜の8時頃。普通この時間だと生徒は寮にいるんだが、マヤノがわざわざ俺用の弁当を持ってきてくれたもんだから、ありがたく頂いている。

 

「イップスでレスラーを辞めちゃうかもしれないからって別れちゃうなんて……。トレーナーちゃん、大丈夫だったの……?」

「お互い合コンの後にノリで付き合った同士だったし、あいつが何目的で俺と付き合ってたかも、当時から何となく分かってたからな。予想通りの動き過ぎて直ぐに切り替えたな」

「うーん、トレーナーちゃんらしいといえばらしいけど……」

 

 若干顔を暗くするマヤノ。せがまれて元カノの事を話したんだが、オトナの女にあこがれるマヤノにはちとハードだったな。もうちょいオブラートに包めばよかった。それ以前に女にフラれた話なんぞ担当にするもんじゃないが。

 

「もしその彼女さんがよりを戻したいって言ってきたらどうするの?」

「鼻で笑って追い返すな。今の俺は世間じゃエリート様だし、確実に俺のステータス狙いだ」

「だよね」

 

 そんな奴なんざタダでもいらん。確実に邪魔になるだけだ。

 

「あっ、でもその元カノさんだけど、トレーナーちゃんが追い返しても諦めなさそう」

「……あー、マジでそれはあり得るな。俺の場合同年代のトレーナーよりも金があるし」

「そうなの? ……あ、もしかしてプロレスラー時代の?」

「正解」

 

 レスラー時代はまあまあ人気はあったし、ちょくちょくとグッズも売れてたお陰で、トレーナーになる前からそれなりに金はあるんだよ。

 

「そういえばトレーナーちゃんの車ってオプションが一杯ついてるけど、もしかして」

「元々金があったし筋トレなんて金が掛からん趣味をしてるから、金が溜まるんだよ。そんな訳で、買う時に折角だからって事でオプションもりもりにしてみた」

 

 あとチームメンバーたちに割と飯とかよく奢ったりして消費してたりするぞ。それでも支出が少なくて溜まるが。

 

「こりゃアイツが顔見せたら、全力で追い返さないといけないな。最悪昔以上に金を浪費されかねん」

「……むしろ何でそんなヒトと付き合ってたの?」

「ノリと勢いで付き合った結果、大外れ引いたんだよ……」

 

 勢いが大事とかいう奴もいるが、元カノのお陰で勢いだけだとダメだってのは身に染みて分かったわ。

 そんな感じでマヤノと駄弁っていると、

 

「ああああああぁあああぁあああああ!?」

 

 不意に廊下から野郎の野太い悲鳴が聞こえてきた。

 

「え、何!?」

「あーこれは……」

 

 野郎の悲鳴なんざ聞き慣れていないマヤノが慌てているが、悲しいかな俺には心当たりがあった。

 若干気持ちがブルーになりながらも腰を上げ、扉から消灯して暗い廊下をチラリと覗いてみる。

 

「待ってくれ! 本当に待ってくれ!?」

「トレーナーさん、私もう我慢できないんです! さあ行きましょう!」

「あああああああああああぁあ!?」

 

 そこには予想通り、なんかウマ娘っぽい人影とそれに担がれた担当っぽい人影が、もの凄い勢いで去っていく姿があった。担がれてた奴と目が合った気がしたが、気のせいだと思いたい。

 

「トレーナーちゃん、あれってうまぴょ「俺たちは何も見なかった。ユーコピー?」……え?あ、アイコピー」

 

 物分かりいい子で助かる。

 

「でも本当に止めなくていいの?」

「真面目な話、俺じゃウマ娘に追いつけないから、居場所を突き止めてもほぼ事後なんだよ。後こういうのって後々面倒事にもなるし」

 

うまぴょい()を止めたら止めたでやらかした生徒の処遇とかに巻き込まれて滅茶苦茶大変なんだよ。場合によっては逆恨みすらされるし。うまぴょい(裏)を第三者が介入したがらない原因の一端はこれなんだろうな。

 

「……んー、うまぴょい(精)の時って、別にオトナな雰囲気になる訳じゃないんだね」

「少なくとも学生にうまぴょい(迫真)を迫られても、普通の倫理観を持ってるトレーナーだと拒否るからな。トレーナー側がよっぽど覚悟極まってないと、そういう雰囲気にならんて」

「それもそうだね」

「っと、もういい時間だな。そろそろ帰るから送ってい「のおおおおおおぉ!?」ってオイオイ……」

 

 また野郎の悲鳴だ。しかも今度はここからやや遠いのか、微かに聞こえる程度。

 

「これさっきの人の声じゃないよね」

「だな。流石に同時に被害者が出るのは珍し「ぬわああああああ!」……三人目かよ」

「トレーナーちゃん、こういうのって一日に何回も起こるものなの?」

「基本的にうまぴょい(天)はダブるもんじゃないぞ」

 

 そりゃ学園じゃ担当によるうまぴょい(地)は悲しいかなよくある事だが、それでも一晩に一回が基本で、二回起こるのはそうそうない。ましてや三回もあるなんぞレア中のレアケース、同時多発ぴょいという奴だ。

 

「いやー、色んな所で野郎の悲鳴とウマ娘の嬌声が聞こえるとか中々の地獄だな」

「トレーナーちゃん、どうしよっか?」

「……とりあえず、耳栓あるからそれ使ってさっさとここから出ようか」

「えー……」

 

 この地獄と化した職員棟はマヤノの教育に悪い。マヤノからの若干期待したような視線を無視して、耳栓を取りに行こうとした時、マヤノが何かに気付き声を上げた。

 

「あれ? アレなんだろ?」

「ん?」

 

マヤノの指さす先へと視線を向ける。そこにあったのは煙のような何か。

 

「靄?」

「でもここは建物の中だよ? それにアレ、生き物みたいにウネウネしてるし……」

「だよな……」

 

 二人して困惑しながら靄っぽい何かを眺めていると、

 

 

 

―――――!

 

 靄と「目が合った」

 

 

 

「――逃げるぞ!」

「え? え?」

 

 咄嗟にマヤノの手を取り、己の直感を信じて駆ける! 

 

「トレーナーちゃん! どうしたの!?」

「なんかわからんが、あれはヤバい!」

「え!? ――うん、わかった!」

 

 抜けだらけの説明だったがマヤノは意図を察してくれた。俺がなんとかついていける速度まで加速し、引っ張っていく!

 

――――!

 

チラリと後ろに目をやると、予想した通り靄が俺たちを追跡している。幸いなことに速度は俺たちよりはやや遅い程度。これなら逃げ切れるはずだ。

 目指すのは当然職員棟の出口。速度そのままで階段を駆け下りる! だが、

 

「うわわ!?」

「マヤノ二階廊下!」

 

 二階まで降りたところで別個体の靄に階段を塞がれる。咄嗟に切り返して、トレーナー室の防音性能を貫通する嬌声と悲鳴が響く廊下を走る。

 

「そこら中うまぴょい(闇)やってる中で、俺らだけガチホラーやってるとか何の冗談だ!?」

「トレーナーちゃん、今はそんな事どうでもいいよ! それより増えちゃったのをどうにかしないと!?」

「わーってる! 最悪俺が囮に――って前!」

「わわっ!」

 

 突如現れた靄に行く手を塞がれ急ブレーキをかける。チラリと背後を確認すると、案の定そちらからも靄が迫っている。完全に挟み撃ちだ。普通ならゲームオーバーだろう。

 

「まだまだぁ!」

 

だがな――この程度で諦めるほど、柔じゃない! 素早くマヤノを抱き上げ廊下のガラス窓を大きく開ける!

 

「しっかり捕まってろよ!」

「え? きゃっ!?」

「おらああああああぁ!」

 

 窓枠に脚を掛け、そして大きく飛び立つ!

 

「どっせい!」

 

 少しの空中浮遊の後に華麗に着地! 更に脇目もふらずに逃走! 二階程度の高さから飛ぶなんぞ、なんぞ屁でもねぇぜ!

 

「マヤノ、大丈夫だったか?」

「びっくりしたー……」

 

 暫く走った所で、周囲を警戒しつつマヤノを下ろす。幸いあの靄のような不定形物の姿は見えない。

 

「あれ、なんだったんだろう?」

「さあな。逃げたら追ってきたから、ただの靄って訳じゃなさそうだな」

「……もしかして幽霊とか?」

「割とあり得る」

 

 カフェや寺田が霊障関係で何か言ってたし、あの靄もそれ関係かもしれないな。

 

「トレーナーちゃんって、この前の靴下強盗の犯人を祓ったんだよね? あれも祓えないかな?」

「あの時は塩を被ってたからシバけたからなぁ」

「そっかー」

「とりあえず寺田とカフェに連絡入れておくか。……げっ、スマホトレーナー室に置き忘れちまった。マヤノ、カフェに連絡とれないか?」

「ゴメン、カフェさんの連絡先は知らないんだ」

「しゃーない、直接呼びに行くか」

「そうだね」

 

美浦寮に向かうべく、改めて歩き出そうとした。その瞬間、マヤノが叫んだ。

 

「っ! トレーナーちゃん、後ろ!」

「――っオラァ!」

 

 ――油断はしてなかった。背後に気配はなかった。だが奴がいる! 

マヤノの悲鳴に従いバックハンドブローを背後に放つ!

 

――――

 

 手ごたえは――ない。

 俺の拳は靄を切り裂いたが、ただそれだけ。

 

「ぐがっ!?」

「トレーナーちゃん!?」

 

 それどころか靄は俺を包み込むように覆いかぶさり、俺の身体に溶けるように入り込んでいく。それと共に身体に変化が起こっていく。

 

「――や……べぇ……!」

 

 思わず悪態が漏れた。

 最初に来たのは己の理性が削られていく感覚。だんだんと思考が鈍っていくのが嫌でも分かっちまう。

 これだけでもヤバいのに、更に同時に襲い掛かるは――これまで体験したことがない程にエグイ性衝動だ。

 ――このコンボはヤバい。これを放置すればどうなるかなんぞ、鈍った頭でも嫌でも理解出来ちまう。

 

「トレーナーちゃん、大丈夫!?」

「――マヤノ、離れてろ!」

 

 だからこそ最悪の事態になる前に、何としてでも自分を止める。幸いコレは意識を乗っ取る系じゃなくて、書き換えていくタイプだ。やれなくもない!

 残った理性を総動員して駆け寄ろうとするマヤノを手で制し、同時に懐から対ウマ娘用スタンガンを抜き放つと、己の腹に押し当てる! 

 

「――オラァ!」

 

 気合いと共にスイッチを入れる。――次の瞬間身体に激痛が走り、その衝撃と共に俺の意識は吹き飛ばされた。

 

 

 




武藤トレーナーは必要ならば自傷程度なら躊躇いなく出来るタイプだったりします。
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