マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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前回書き忘れたおまけ。

武藤「これ自分で抜けばよくね?」
寺田「抜いてもハロン棒は変わりませんよ?」
武藤「うん、知ってた」


45話 ミスって割と重なるモノ

 わからない。なんでおいしいキリがなくなってるの?

 たべたらつよくなれるキリがなくなってる。

 ここままだすこしのこってるけど、ぜんぜんたりない。さがしにいかないと。

 

でもここにはあぶないやつもいる。

 じぶんとおなじやつをつれてるウマむすめ、ウマむすめといつもいっしょにいるヒトみえないはずのぼくにきづいてた。たぶんあいつらのせいでキリがなくなってるんだ。

 

 こころあたりはまだのこってる。ウマむすめがいっぱいるいえ。あそこにはなぜかあのふたりははいってこない。あそこでおなかいっぱいたべよう。

 

 

 

 

 

「ここは……、あった!」

「こちらも見つけました」

 

 トレーナーちゃんが倒れて、しかもトレーナーちゃんの大切な場所が大変な事になった事が分かった次の日の夜。消灯してみんなが寝静まった中で、アタシはフラッシュさんと一緒に栗東寮の物置部屋を家探ししていた。

 立てかけられているテーブルの影を覗いてみたアタシたちが見つけたのは紙コップ。それには水が入っており、よくみれば二種類の長い毛が結ばれたモノが浮かんでいる。おまじないで使われたコップだ。

 

「お塩をサラサラっと」

 

 持ってきている塩を小さじ二分の一くらい入れて、ちゃんと溶けるまでかき混ぜる。これで作業は終わり。コップはまた元の場所に戻しておく。これで10個目だ。

 

「次はどこかなー?」

「あ、すみませんマヤノさん。私の塩が無くなったので分けてもらえますか?」

「うん、いいよ」

 

 そんな風におしゃべりをしながら、アタシたちはまたコップ探しを始める。

 

 おまじないのコップを探し出して、それに塩を入れるの繰り返し。アタシたちは消灯してからこれをずっとやっていた。

 

「でも簡単でよかったね」

「ええ、私は何か儀式をするのかと思っていました」

「それマヤも思ってた。まさかお塩を入れるだけなんて思わなかったな」

 

 なんでこんなことをしているのかと言えば、勿論学園で起こっている霊障の解決のためだ。

 

 カフェさんが言うには、霊障の原因はいっぱいあるおまじないのコップなのだから、ある程度の数を無力化させるだけで、後は自然消滅するらしい。

 「無力化ってどうすりゃいいんだ?」ってトレーナーちゃんが訊いたけど、「これをコップに入れればいい」って寺田トレーナーが手渡してきたのが、料理でよく使われるお塩だっ

た。

 

「日本では塩は魔除けとして使うと聞きます。少量を入れるだけで効果があるのでしょう」

「カフェさんも悪いものを祓う時にお塩はよく使うって言ってるしね」

 

 お清めの塩ってかんじなのかな? そんなことを考えながら、見つけた段ボールを開けてみる。やっぱりここにも水が入った紙コップがあったから、また塩を入れる。

 

「でも本当に多いね、おまじないのコップ」

「そうですね。学園で流行っているのは把握していましたが、この部屋だけでも15個あるとは思いませんでした。学園全体だとどれだけ隠されているか想像もつきません。幸い全部処置しなければいけない訳ではありませんが……」

「だね……」

 

 フジ先輩とエアグルーヴさんはマヤと同じく栗東寮、シリウスさんとカフェさんが美浦寮、寺田トレーナーは校舎、そしてトレーナーちゃんは職員棟と、みんなでコップの無効化のために働いている真っ最中。(昨日みたいな危険はないから、みんなで手分けしてやってるんだ)

霊障の原因が学園にいっぱいあるおまじないのコップだから、手分けして無効化させるのは正しいんだけど、この様子だとどれだけ時間がかかるか分からないや。

 なんか気が滅入っちゃった。話を変えよ。

 

「そういえばフラッシュさん。新しいおまじないって思いついた?」

「おまじないですか……。私も調べているのですが、色々とありすぎて逆に絞れていません」

「恋のおまじないなんて、いっぱいあるしね」

 

 今あるコップを処理しても、何も知らない人たちがおまじないをしてコップを隠してしまうから、ただの鼬ごっこになっちゃう。

 だからその対策に今とは違う新しい恋のおまじないの噂を流さなきゃいけない。幸い学園は恋のおまじないがブームだから、新しいおまじないを流したら直ぐに受け入れられる、ってフジ先輩が言ってたっけ。

 

「消しゴムに好きな人の名前を書いて、それを使い切ったら結ばれる、とかは有名だよね」

「ですね。ただそれは今流行ってるおまじないに取って代われるとは思えませんが」

「そうなの?」

「消しゴムを使い切るのには、それなりに時間が掛かりますからね。あまり手軽さがありません」

「そっかー」

「それに今流行っているおまじないは、ウマ娘にしかできないものですからね。その特別感も流行した一因なのでしょう」

「んーそれじゃあ、お手軽でかつウマ娘にしか出来ないおまじないじゃないといけないって事?」

「そうなりますね」

「んー、それでも色々とありそうだよね」

「ええ、その通りです。お陰で候補が絞り切れないんです」

「そっかー。あっ、そういえばシリウスさんがネット掲示板に新しい恋のおまじないを流してみたって言ってたけ。アタシはまだ見た事ないけど、それじゃダメなのかな?」

「流石にアレはちょっと……」

 

 フラッシュさんがスッゴイ渋い顔で首を振ってる。シリウスさん何書いたの……?

 そんな素朴な疑問を抱きながらもクローゼットの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 たいへんだ。このおおきないえのキリもへっていってる。

 のこってるキリをたべてるけど、ぜんぜんたりない。

 なんにんかのウマむすめたちが、キリがでるみずにへんなことをしてるせいだ。

 

 なんとかしないと、おいしいキリがなくなっちゃう。

 

ちいさなハコのなかにのこってたキリをたべながら、どうしようかかんがえる。そうしているとちいさいウマむすめがちかづいてきた。

 

……このちいさいウマむすめはあまりつよくなさそうだ。ちからいっぱいとびかかればかてるとおもう。そうすればウマむすめたちもにげるんじゃないかな?

――とびらがひらいたのとどうじに、ちいさなウマむすめとびかかった。

 

 

 

 

 

 ポケットに入れていたスマホから呼び鈴が鳴ったのは、職員棟2階の倉庫でどれだけコップがあるんだと辟易しながら12個目のおまじないコップを無効化した直後だった。

 画面を見れば、今回の霊障解決メンバー用のグループトークが表示されている。

 

「あー、こちら武藤だ。何かあったか?」

『トレーナーさん!? よかった、繋がった!』

 

 聞こえてきたのはフラッシュの慌てたような声だった。

 

『トレーナーさん、すぐにそこから逃げて下さい!』

「おい、どうした?」

『マヤノさんが寮から飛び出しました!』

「寮から出た? ……その時のマヤノの様子は?」

『クローゼットを開けて暫く黙り込んでいたのですが、唐突にトレーナーさんの名前を連呼しながら駆け出したんです! 私も声を掛けたのですが、全く反応しませんでした!』

「おいおい、そりゃ……」

 

 フラッシュからの報告は明らかな異常だ。同時にその異常行動の原因なんざ一つしかない。

 

『しまった……憑かれたのか!』

「寺田か! おい、昨日の騒動で発散出来たから危険はないんじゃなかったのか!?」

『そのハズです。昼間にカフェと一緒に学園を見て回って確認しましたよ!』

「ゆーて、こりゃ明らかに靄に憑かれた時の症状だぞ!?」

『……っ! 失敗しました……! 武藤トレーナー……聞いてください……!』

 

 何かに気付いたのか、俺たちの会話にカフェが割り込んできた。

 

『マヤノさんが憑かれたのは……恐らく学園の外から来た「よくないもの」です』

「よくないものの方かよ……。って待て、マヤノの症状はどちらかと言えば、俺が憑かれた靄の症状に近いぞ? よくないものに憑かれても、そうなるんか?」

『いえ……普通ならあり得ません。……恐らくおまじないから漏れたものに引き寄せられたよくないものが、靄を取り込んでその性質まで取り込んだのかもしれません……!』

「……っち、そういう事か」

 

 背景が見えて、思わず悪態が漏れる。そういや寺田が靄に惹かれて雑多な霊が入り込んでるとか言ってたな。って事は、昨日の靄と目が合った感じは気のせいじゃなくて、実際に靄を取り込んだ悪霊と目が合ったって事か。

 

『武藤トレーナー、申し訳ありません……』

「いや、起っちまったモンはしゃーねー。それよりもどうやればマヤノからよくないものを引きはがせる?」

『憑かれたといっても、精々雑多な霊です! 僕やカフェなら余裕で祓えます!』

『私も……今から職員棟に向かいます』

「OK。俺は――」

 

 不意に微かにだが物音が聞こえた。思わず頬を歪ませつつも会話を続ける。

 

「あー、因みに俺が何とかする方法ってのはあったりするか?」

『……マヤノさんの意識を無くせば「よくないもの」は追い出されるはずです。……後は以前の靴下の事件の時と同じ――、……武藤トレーナー、まさか』

「このまま迎え撃つ」

 

 持ってきていた塩を頭から被りつつ倉庫から出る。廊下には当然障害物になるようなモノなんてなくて、がらんとしている。明かりは非常灯だけなもんだからなかなか薄暗いが、まあ動けなくもない。

 バトルフィールドを確認していると、話を聴いていたであろうエアグルーヴ、フジ、シリウスが割り込んできた。

 

『貴様、何を言っている!?』

『早く逃げて!』

『私も今カフェと一緒に職員棟に向かってる! 合流できるまでどこかに隠れてろ!』

「まあ、それがベストなんだろうけどな?」

『おい、何が言いたい!?』

「そうも言ってらんねぇんだわ、これか」

 

 軽い足音がどんどんと近づいてくる。しかも探している様子もなく一直線に、だ。

 首を回しながら、今回のレギュレーションを頭の中で再確認。俺の勝利条件はマヤノの意識を落とし、かつ幽霊をシバキ上げる。敗北条件は喰われた時。

 

『そうも言ってられないって……まさか!』

「そういうこった」

『――!?』

 

 フラッシュは俺の言いたいことが分かったらしい。まあ直ぐに俺が頷いたから、他の面子も気づいたようだがな。

 

 ――今回のレギュレーションの一番の特徴は、武装及び技の制限。

 不本意に暴走している担当に護身用の武器なんぞ使えるはずがない。スタンガンとスタングレネードは使用禁止。

 ついでにだが、取り押さえるのにあたって怪我をさせる訳にはいかない。だから拳や蹴りといった打撃技も全面禁止。

 ……ここまではフラッシュの暴走の時と同じレギュレーションだが、今回は更に縛りがある。

 投げ技の一部使用禁止。

 これが今回の特別ルールだ。フラッシュの時と違ってここは廊下だからな。投げた先にクッションになるようなものがない。取り押さえるに当たって怪我を最小限に抑えるためにも、投げ技の制限が必須だ。

 

 既にすぐそばまで来ていた足音のする方向に向き直る。しばしの間。そして、

 

「見つけたよ、トレーナーちゃん」

「よう、待ってたぜ。マヤノ」

 

 明らかに正気を失ったような瞳を湛えたマヤノと対峙した。

 

 




今回は制限戦だ! マヤノに怪我をさせたら負けだぞ!
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