マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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チャンミは予選が上手く行かずB決勝になってしまいました……。
なお艦これの方は、なんとかE-6のラスダンに挑戦中。なんだかんだでやっとここまで来れました。


46話 縛りプレイってしんどい

「電話切るぞ」

『待て――』

 

 マヤノと対峙しながら、スマホから響くエアグルーヴの抗議を無視して通話を切る。最悪R18な音声がライブ配信するかもしれんからな。俺とマヤノの名誉と他のメンバーのトラウマ回避のためにも、ここからのやり取りを担当たちに聴かせる訳にはいかない。

 

「電話は良いの?」

「構わんよ」

「ふーん。……ねぇそんな事より、トレーナーちゃん」

「ん?」

「あの靄に憑りつかれたお陰でいい事が分かったんだけど、教えてあげよっか?」

「いい事?」

 

 明らかに正気を失った瞳を湛えて怪しく笑うマヤノを前に、相手の調子を合わせて訊き返す。単独戦闘を想定してはいるが、基本的に時間ってのは俺の味方だ。時間が経てば応援が来るからな。マヤノがわざわざおしゃべりして時間を浪費してくれんなら、付き合わない理由はない。

 

「トレーナーちゃんのおち――「よーし、それを言うのはアウトな?」えー?」

 

 だからってマヤノにコンプラ的にヤバい事を言わせるのはアウトな! てかやっぱり方面の話かよ!

 

「じゃあなんて言えばいいの?」

「あー……ハロン棒で」

「うん。――トレーナーちゃんのハロン棒を爆発させない方法があるんだけど、……やってみない?」

「ほー。……ちなみに方法は?」

 

 嫌な予感しかしないし話のオチも見えてるが、一応聞いてみようか。

 

「簡単だよ? マヤとうまぴょい(神聖)すればいいの」

「うーん、捻りも何もない回答が来たな」

 

 あの靄の性質を身をもって知ってるから、ツッコミを入れる気も起きん。

 

「でも、これは本当の事だよ? トレーナーちゃんはおまじないの靄に憑りつかれたから、ハロン棒を収めるにはおまじないをしてるマヤとうまぴょい(聖天)するのが一番なの。おまじないって願いが叶うと効力が消えるしね」

「一応それっぽい理屈はあるのな」

「そうそう、おまじないを受けた人同士のうまぴょい(同意)って気持ちいいみたい。昨日気絶したトレーナーちゃんを運んでる時に、職員棟の近くを通ったんだけど、男の人が楽しんでる声が聞こえたし」

「それお互い理性が消えた上で性欲がぶち込まれたせいで、愉快な事になってたんじゃね?」

 

てか、そんなやべぇ所通るなよ……。

 

「ともかく、んな事やらんからな?」

「何で? 確実にトレーナーちゃんのハロン棒は守れるよ?」

「その代わりにお互い色々と終わるんだよ……。てか、俺のハロン棒問題は例のおまじないをする奴がいなくなれば落ち着くって話だし」

「でもそれって、絶対時間が掛かるよね?」

「せやな……」

 

 昨日の同時多発ぴょいのせいで効果が実証されたようなもんだし。絶対それにあやかっておまじないをやる奴はいるだろうなぁ。

 

「私たちも新しいおまじないの噂は流すつもりだけど、それが流行るか分からないし、もし失敗したら本当にトレーナーちゃんのハロン棒が破裂しちゃうかもしれないよ?」

「怖い事言わないでくれよ……」

「……あの時マヤを守ってくれたトレーナーちゃんが、そんな事になるなんて絶対ヤダ。――だからね?」

 

 マヤノが前傾姿勢を取り、足に力を貯める。

 

「トレーナーちゃんのためにもアタシのためにも、強引にでもうまぴょい()するよ?」

 

 ハイライトの無いマヤノの瞳が俺をロックオンする。放たれたその言葉には、恐ろしい程に強い意志が宿っている。

 俺も腰を落とし、マヤノの動きに備えて構える。

 

「……安心しろ、マヤノ。お前に憑いてるヤバい奴なんざ直ぐに引っぺがしてやるからな」

「こんな時でも人の心配なんてトレーナーちゃんらしいね。でも――行くよ!」

 

 マヤノが脚に貯めていた力を解放し一直線に突撃してくる。

その光景に瞬時に迎撃方法はいくつも浮かんだ。正拳突きによるカウンター。フジの事件の時のようなDDT。フラッシュの時のような力比べ……。ここで採れる選択肢は幾らでもあった。

 だが俺は、

 

「おっとぉ!」

 

 フェイントを交えてのサイドステップにより、マヤノのタックルを回避する。

 

「結構本気だったのにこんな簡単に避けられるなんて、トレーナーちゃんホント凄いね」

「わざわざ自分で合図を出してくれたからな」

「なら、これはどう?」

「――ちぃ」

 

 懐に飛び込み掴みかかろうとするマヤノを、体捌きと払い除けでやり過ごす。だがそんな程度でマヤノも諦めないのか、次々と手を繰り出してきた。

 

「ほらほらほらほら!」

「~~~~っ!」

 

 まるで試すかのように差し込まれる手を、後退しつつ己の技術を総動員して全力で凌ぐ。マヤノは格闘に関してはド素人だから何とかなってはいるが、ウマ娘相手にインファイトは肝が冷える。ついでにこの戦いによる絶対のルールは、「出来る限りマヤノに怪我をさせない事」だから、使える技が制限されてるのもしんどい。

 もっとも愚痴をこぼしたところでやることは変わらない。

 

――そろそろ仕掛ける!

 

攻撃を捌きつつポケットにしまっていたスマホを取り出し、マヤノの顔に向けて軽く投げる。

 

「ヘイ、パス!」

「わわっ!?」

 

 俺の唐突な謎行動に慌てるマヤノ。だがこれが俺の狙いだ。

 

「せっ!」

 

 マヤノの意識が一瞬宙を舞うスマホに向けられている隙を突いての足払い一閃! 

不意打ちからの足払い。対ウマ娘戦術のセオリー。格闘技の技能を持たないマヤノは対処できずに倒れる――

 

 

 

「マヤ、分かってたよ」

「!?」

 

 はずだった。

 マヤノは俺の足払いを「分かっていたかのように」跳躍して回避。

 

「えい!」

「がっ!?」

 

そのまま流れるように飛び掛かり、技の隙で動けない俺をそのまま押し倒した。

 

「捕まえたよ、トレーナーちゃん」

「捕まったな……」

 

 俺の腹筋に乗っかり妖しくも満面の笑みを浮かべるマヤノに、顔を歪めるしかない。

 

「まさか足払いを避けられるなんてな」

「だってトレーナーちゃんがそうするって分かってたもん」

 

 ……なんかとんでもない事言われたんだが?

 

「と、いうと?」

「――トレーナーちゃんは優しいからね。こうしてマヤがトレーナーちゃんを襲っても、トレーナーちゃんは護身用の武器を使うどころか、絶対にアタシの事を傷付けるような攻撃はしないもん」

「せやな」

「そしてヒトの対ウマ娘戦術の基本は『相手の意表を突く』」

「……確かに前に教えたな」

「この二つの事を考慮してトレーナーちゃんがどう動くか考えたら、『何かしらの不意打ちをして転ばせようとしてくる』って分かっちゃったの」

「うーん、思いっきり動きを読まれてたかぁ……」

 

 暴走してるくせにキッチリ状況を読み切ってやがる。いや、マヤノが格闘ド素人だからって、雑な動きで何とかなるって考えてたのが敗因か。

 己の凡ミスに頭痛がしてきたが、事態は待ってはくれない。俺の上に乗っかっているマヤノが目をギラギラさせながらジャージの前を開いた。

 

「……もうそろそろみんなが来そう。折角だし、みんなにマヤたちのうまぴょい(共同作業)を見せつけてあげよっか?」

「全方位にトラウマをぶん投げようとするんじゃない。てかうまぴょい(絶望)とかやらんからな?」

「うん。だからマヤが頑張るね? 大丈夫、絶対に気持ちよくなれるから」

「大丈夫な要素が何処にもないんだが? そもそも、この程度で俺が諦める訳ないだろ」

 

 とんでもない事を宣うマヤノに不敵に笑って返す。そんな俺を見たマヤノは、笑みを深めた。

 

「筋肉自慢のトレーナーちゃんだけど、パワーじゃマヤには敵わない。その上トレーナーちゃんは倒れてて、マヤはその上に載ってる。そんな状況でどうやって逆転するの? トレーナーちゃん?」

 

 確かにマヤノの言う通り今の状況はかなり不味い。ただでさえヒトとはパワーが桁違いのウマ娘相手にマウントポジションを取られてるんだ。普通のトレーナーならこの時点で詰みだ。

 

「折角だし良い事教えてやろうか」

 

 ただし、だ。それは唯の野郎ならの話だ。

 

「マヤノの体重って結構軽いよな」

「……乙女に体重の話をするのはダメだよ?」

「アスリートなんだから、そこは我慢しろよ……。それはともかく、マヤノは俺が余裕で抱き上げられるくらいには軽いんだよ」

「昨日も靄から逃げる時にお姫様抱っこしてもらったね」

「そうだな。で、マヤノがそんくらい軽いとな?」

「うん」

 

 

 

 

 

「こんな事も出来るんだぜ!」

「えっ?――きゃっ!?」

 

 

 

 

 マヤノが腹に乗ったまま身体の筋肉を総動員して全力でブリッジ! 唐突に起こった下からの突き上げについていけずマヤノは前方向に吹き飛ばされた! 

 

ウマ娘はパワーはヒトを圧倒しているが、体重はヒトのそれと変わらない。ましてや相手は小柄なマヤノ。その程度なら俺の筋肉なら余裕で吹き飛ばせるんだよ!

 

「わわわっ!?」

 

 俺にブリッジで飛ばされて混乱しながらコロコロと転がっていくマヤノ。そんな隙を俺が見逃すはずがない。素早く体制を整え突撃!

 

「ビックリし――むぐっ!」

「やっと獲れた!」

 

 予想外の攻撃に混乱しつつ身体を起こそうとしていたマヤノに、背後からリア・ネイキット・チョークを仕掛ける!

 

「む~~~~きゅう……」

 

 完璧な形で入ったチョークだ。マヤノは碌に抵抗もする暇なく、締め墜とされた。

 そしてマヤノの身体から力が抜けた次の瞬間、

 

――!?!?!?!?!?

 

 マヤノの身体から不定形の人型のような何かが飛び出した!

 

「こいつか……!」

――!!!!!!

 

 マヤノをそっと寝かし、マヤノについていたふざけた悪霊に構えを取る。

 だが不定形の何かは随分と慌てているようで、わき目もふらず窓をすり抜けてそのまま飛んでいこうとしている。

 どうやら悪霊にとって俺がマヤノを下したのは予想外だったようで、大分混乱している様子だ。おおよそ体勢を立て直すために撤退しようって魂胆だろう。

 だがな、

 

「逃がすかボケ!」

 

 マヤノが憑りつかれたのにおめおめと逃がす程、俺は甘くはねぇ!

 即座に窓を開けて空中に飛び立ち、悪霊をひん掴む!

 

――!?

「オラ暴れんな!」

 

 滞空している僅かな時間に強引に引っ張り、悪霊を上下逆様に仕立て上げる!

 

「トレーナー!?」

「……!?」

 

なんか下から聞き慣れた声が聞こえた気がするが今は技に集中! 今からやるのは、昔団体の企画で人形相手にやったきりの技で練度が低いから、集中しないと失敗しちまう!

 重力に従って落下が始まる中、素早く悪霊の両腿部分を掴み、更に相手の首を肩口で支える!

――この技は危な過ぎるが……相手が悪霊なら問題はない!

 

「オラぁあああああああああ!」

――!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

 その体制のまま悪霊と共に着地! その衝撃により首折り、背骨折り、又裂きを同時にブチかます! 

これがみんなの憧れ――キン肉バスターだ!

 

――!?!?!?…!?……!………?

 

 流石の悪霊もこの一撃には耐えられなかったらしい。悪霊は足先からドンドンと薄くなっていき、そして完全に消滅した。

 

「マジかお前……」

「……相変わらず、滅茶苦茶ですね」

 

 いつの間にかいたシリウスとカフェが呆然とした様子で呟いている。

どうやら丁度駆けつけてくれていたらしく、二人とも一連の除霊を目撃していたようだ。……観客がいたんなら、応えないといけないな!

 

「しゃおらぁああああああああ!」

 

 右腕を高々と掲げて、勝利の雄叫びを披露する!

 

――こうしておまじないから始まった一連の騒動は終わった!

 

 




事件の度に怪我をしていた武藤ですが、今回は完全無傷で切り抜けられました。成長していますね。
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