マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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アトランタ堀りが終わらん……


47話 問題が解決したら別の問題が出てくる事は割とある

 

「あれ、トレーナーさん? 頭に埃がついてますよ?」

「え、本当? しまったなぁ」

「ああいえ、そっちじゃなくて後ろです。……はい、とれましたよ」

「いやー、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」

 

 ある日の昼下がり。昼休みでごった返している校舎のラウンジの片隅でウマ娘とそのトレーナーらしき男によるちょっとしたやり取り。何も事情を知らない奴がそれを見ても、雑踏の中で行われたそれは別段目に付くようなものではないちょっとした一場面だ。

だが逆に言えばある程度事情を知っていれば、その裏の意図を直ぐ察せるような場面でもある訳で……。

 

「……相変わらずやってんのな」

「だね」

 

 ラウンジの自販機前でマヤノと駄弁っていた所で、こんな光景を見せられたらゲンナリしちまうのも仕方ないだろうよ。

 

「相変わらず人気だな」

「だって効果があったんだもん。みんなやるよ」

「まあ、それもそうなんだが……、当事者の一角としては割と複雑な気持ちになる」

「あ、うん。トレーナーちゃんはそうだよね」

 

 俺の言葉に苦笑いして返すマヤノ。

 マヤノに憑りついた悪霊をシバキ倒して早二週間。このトレセン学園はまあ見ての通り、相も変わらずおまじないブームは続いている。

 相変わらずトレーナーに恋するウマ娘はトレーナーの髪を狙っているし、学園の様々な場所にはウマ娘の尻尾の毛とトレーナーの髪が入った紙コップが日々増えている。

 

「今だから言える話なんだけどさ」

「うん」

「……マヤノに憑りついてた悪霊を強制除霊した時、おまじない問題が全部解決したーって勝手に考えてたんよ」

「え、何で?」

「こう……、目に見えて分かりやすいヤバい奴をブッ倒せたっていう達成感のせいかな」

 

 騒ぎを聞きつけた栗東寮組が来た時までは、後は今流行ってるおまじないの後継を考えないとなーとか呑気な事考えてたりしたんだよ。……直ぐに現実を突きつけられたけど。

 

「悪霊ぶっ潰してもハロン棒が収まってなかったのに気付いた時なんかはガチで凹んだ」

「……シリウスさんから幽霊を退治してしばらくは機嫌がよかったのに、何故か急に落ち込んだって聴いたけど、そのせいだったんだ……」

「俺が憑かれた時の状況的に、絶対あの悪霊が関わってるって思ったんだよ……」

 

 靄問題の見立ては間違ってたのに俺のハロン棒問題は間違えてなかったのは、ホントに泣きたくなった。流石の俺もこんなアホな理由で漢の象徴を失いたくない。

 

「しかも新しく流行らそうとしたおまじないが殆ど見向きもされなかった、ってのが分かった時とか、絶望感が半端なかったぞ」

「今までのおまじないで実際に成功例があったし、実績を考えるとわざわざ新しいおまじないに飛びつく必要ってないしね」

「ホンマそれな」

 

 製作者のカフェ曰く、新しいおまじないは「これまでのおまじないを安全にしたもの」だとかなんとか。少なくともこの前のような靄が自然発生するような事はない代物なんだが、実際にやる奴がいなかったら意味がない。

 これには流石の俺も頭を抱えたぞホント。あんまりな状況を見かねて、エアグルーヴとフジが何とかしようと奮闘してくれたのに殆ど効果がなかったのも、更に絶望感がましたし。

あの頃の俺は、このままハロン棒とお別れするか、色々と投げ捨ててマヤノに土下座してうまぴょい(悲哀)するかの二択を真剣に考えてた。

 

「あの時は確かカフェさんがこのペースだと5日くらいで耐えられなくなるって言ってたっけ。本当に間に合ってよかったね」

「ああ。本当に、本当に間に合ってよかった……」

 

 だが幸い俺のハロン棒は爆発する事なく無事に残っていた。

 それもこれも突然ある噂が広まった事で、新しい方のおまじないが急速に流行ったお陰だ。

 

「新しいおまじないをやった直後にカップル成立っつー成功例はデカかったな」

「だね。しかもそこまでの過程が恋愛漫画みたいに王道パターンだったらしいし、みんな憧れるよ」

 

『新しいおまじないをやってトレーナーに告白したら、その場でOKしてもらえた』

 そんな噂が立った瞬間、多くのウマ娘が飛びついた。

 最早日常茶飯事だから忘れがちだが、ウマ娘にとってのうまぴょい(全力)ってのはあくまで最終手段だ。強硬手段に出たウマ娘は大体引け目を感じるとかなんとか。

 だからウマ娘にとって、うまぴょい無しで普通にOKが出るならそっちの方がいいらしい。

 

「あの噂ってエアグルーヴさんやフジ先輩が流したのかな?」

「俺もタイミング的にそう思って二人に訊いたんだが、二人とも関与していないらしい」

「じゃあ、本当にカップルが成立したって事?」

「そうなるな。トレーナーがよっぽど覚悟極まってたら、そうなる展開はあるっちゃあるし」

 

 トレーナー側は良識と常識に縛られてて発生しにくいが、うまぴょい(影)とかそういうの無しにそんな関係に奴らはいるっちゃいるしな。今回はそのレアケースに助けられた訳だ。

 

「本当に運がよかったんだね、トレーナーちゃん」

「ホンマそれな。お陰様で俺の問題は完全に解決出来たわ」

「よかったー。アタシ本当にトレーナーちゃんが危なくなったら、嫌われてでもうまぴょい(実力)しようと思ってたもん」

「あー、それは気持ちだけ受け取っておくな?」

 

 そんな覚悟で来られたら流石の俺も抵抗できるかどうかわからん……。

 

「でもトレーナーちゃんって、最近本当に危ない目にばかりあってるよね」

「そうか?」

「……今年に入って入院しなきゃいけない程の怪我を二回もしてるのって普通はないからね?」

「あ、うん。せやな……」

 

 状況的に両方とも死んでても可笑しくないから、入院で済んでるあたり割と運がよかったって思ってたが、よくよく考えればそもそも怪我をするような事件に巻き込まれた事自体が不運なんだよな。

 

「だからね? はい、コレ!」

 

 笑顔のマヤノから手渡されたのは、赤を基調とし、大きく「厄除け」と刺繍されているお守りだった。

 

「悪霊から助けてもらったお礼!」

「それについては別に気にしなくていいんだが」

「マヤが渡したかったからいいの。それにフジ先輩もフラッシュさんもトレーナーちゃんへのお礼にプレゼント渡してるし」

「あの二人は、こう色々と拗らせた感が……」

 

 因みに二人の首輪は自室の引き出しの奥に仕舞ってあるぞ。それはともかく貰ったお守りをまじまじと眺める。ぱっと見どこかの神社で買ってきたのかとも思ったが、よくよく見るとそれにしてはどこか違和感がある。そして裏返せばそこにあったのは彗星の刺繍。こんな刺繍があるお守りは普通の神社にはないだろう。って事は、

 

「これもしかして手作りか?」

「うん! トレーナーちゃんのレスラー時代のリングネームが『コメート・ムトウ』だから、彗星の刺繍を入れてみたんだ!」

「いや、マジでスゲェな……」

「お守りを作るのにカフェさんにも協力して貰ったから効果はお墨付きの特別なお守りなんだ! ちゃんと持っててね?」

「ああ。ならカバンに着けさせてもらうな」

 

 フジやフラッシュ、シリウスの時と違って、今回はお守りだからな。しかも性能もガチとなれば、俺も気兼ねなく貰えるってもんだ。

 早速いつも持ち歩いているカバンに着けようとお守りをいじる。

 

「……ん?」

 

着ける際にお守りを少し握ったのだが、手に慣れない触感が伝わる。少しお守りを揉んでみると、ザラザラとした感覚があった。

 

「これ、中身が御神璽じゃないのか?」

「うん、マヤの髪だよ?」

「唐突に重いの来たな……」

 

 髪ってお前……。折角色んな意味で安全だと思ってたのにこれって……。思わず引いてしまう俺だが、対するマヤノは頬を膨らませる。

 

「むー、トレーナーちゃん。お守りに髪を入れるのは昔からある事なんだよ? そんな事言わないでよ」

「あー、悪い悪い」

 

 そういえば、オカルト的には髪って結構重要なアイテムなんだっけな。そう考えるとお守りに髪を入れるのは変じゃないのか。

 

「でもこれ触った感じ、結構な量が入ってるぞ。こういうのって、こんなに入れるもんなのか?」

「実は髪以外にも色々な所の毛を入れたんだー。だからちょっとだけお守りが膨らんじゃった」

「色々な所?」

「うん、色々な所」

「具体的には?」

「えーと、一番多いのは髪の毛で、尻尾の毛も入れたっけ。耳の毛も入れたし……。カフェさんが後は一番効果があるって言ってたアン――」

「よーし、それ以上は言わなくていいからな?」

「えー?」

 

 コンプラ的にアウトな案件が出かけた気がするのは気のせいだ。イイネ?

それはともかく、こうして俺の手元に非常に強力なお守りが転がり込むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえカフェ」

「……なんですか、トレーナーさん?」

「最近新しく流行り始めたおまじないについてなんだけど、一つ訊きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい……どうぞ」

「……なんであのおまじないを作ったんだい?」

「……質問の意味が解りません」

「君が作ったおまじないが流行ったお陰で、確かに前みたいな霊障は起きなくなった。お陰で武藤さんの身体の異変も収まったって言ってたよ」

「なら……いい事なのではないでしょうか?」

「そうだね。でも問題はその新しいおまじないそのものだよ」

「……」

「あのおまじないは簡単なものではあるけど本物の恋のおまじないだ。呪術的な意味で、ね」

「…………」

「しかも効力だけ見れば前の奴よりもずっと強い術だ。あの術だったら両想いなら確実にカップルが成立するだろうね。――たとえ相手が立場に縛られているトレーナーであっても」

「……ええ、そうですね」

「なんでそんな強い術を広めたんだい? 君だったらもっと穏便な術を作れたのに」

「……それは簡単な事です」

「簡単?」

「……私も……恋するヒトの応援はしたいですから」

「……」

「それに……あの術はトレーナーさんのためにもなります」

「僕のため?」

「はい……。だって……

 

 

 

 

 

 

トレーナーさんも、自分と同じ立場の人は欲しいでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 




因みに最後のカフェさんですが、ハイライトはありません。
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