マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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艦これはアトランタが何とか間に合いました……!


48話 避けられない戦いもある

 

 モチベーション維持のために担当の誕生日を祝う、というのは、チームトレーナー、専属トレーナー共に、スタンダードな手法だ。特に専属だとやらないトレーナーはいない程にメジャーだな。

 

 そんな誕生日についてだが、注意点がいくつかある。

 

まず渡すプレゼントの値段だ。

相手は未成年の子供ではあるが、小さい子供って訳じゃない。面倒臭がって適当に安いものをプレゼントした所で、担当は何も響かん。それどころかモノによっては逆にモチベーションを落とす羽目になるぞ。よくわからない? 誕生日プレゼントで仰々しく百円均一のモノを渡された所を想像すればいい。

 

 そういう訳で安物は論外という話なんだが、なら逆に高いモノならどうなんだって話が出てくるな。結論から言えば基本的に問題はない……が、場合によっては面倒な問題が発生する事もある。

 トレーナー側の負担については置いておこう。よっぽどのモノをプレゼントしようって思わなければ大人の財力で十分だからな。

問題になるのは受け取り手の担当の心理だ。高すぎるモノをプレゼントされた際、逆に引かれるんだ。アレだ、渡す側の愛が重すぎて受け取り側がドン引きするって奴だ。仮に引かれなくても、それはそれで過剰な期待と捉えられて余計なプレッシャーになってしまうのもある。

プレゼントの値段については各々のトレーナーに任せるとして、プレゼントを選ぶ際は相手が年頃のウマ娘という事を常に頭に置いておいて欲しい。

 

 またこの値段問題だが、チームを率いているトレーナーの場合は更に別の注意点もある。具体的には担当に上げるプレゼントに値段で差をつける行為だ。

 これは本気でアウトだ。冗談抜きでチームの不和に繋がりかねない。最悪空中分解もあり得る――というより実際に大昔に誕生日プレゼントの差が原因でチームが解散したという記録が残っている。

「プレゼントに差をつけてチームを解散させたアホなトレーナー」の称号が欲しい奴でもない限りは、担当にあげたプレゼントの値段は絶対に覚えておくように。

 

 そうそう、この値段問題だが担当本人に何が欲しいか訊くのは中々いい解決案だったりする。ほぼ確実に相手が満足できる内容になるからな。相手が気を使ってしまう場合もあるだろうが、そこはトレーナー側が相手に一歩踏み込んで訊き出して買ってやればいい。上手くやれば、より担当とのコミュニケーションが円滑になるぞ。

……もっともこの方法はチームトレーナーだとやや難しいかもしれないがな。それぞれの欲しいモノ次第では、どうしても差が産まれるというのはあり得る。そこは各トレーナーが上手くやらないといけないな。

 

 おっと、大分長くなってしまった。そろそろ次の注意点を提示しようか。先程まではおおよそ担当たちが被る問題だが、ここからは君たちトレーナーが被る問題だから、心して聴いて欲しい。

 

問題になるのはプレゼントの内容だ。

 高めの化粧品、アロマグッズ、インテリア雑貨、フラワーギフト、アクセサリー……。担当に送るプレゼントの候補は色々とあるだろうが、事前に調べておかないと大変な事になる。

男性トレーナーたちが担当にプレゼントするモノとして割とスタンダードなのは、アクセサリー類だな。これ自体は問題ない。異性に渡すプレゼントとしては一応妥当な範囲にあるからな。だが中には一発でアウトなモノも混ざっているから注意が必要だ。

 

 まず最初に言いたいことはだな……、指輪だけはダメだ。

 

 自分で選ぶのは当然として、担当にねだられても何としてでも断るんだ。本当にこれだけは一発でアウトだ。

 根負けして指輪なんて渡してみろ。奴らは何のためらいもなく左手薬指にはめるぞ。そして同じものをトレーナーにも着けさせようとするんだ。即死だな。

 なに? 多少なりとも事情を知ってるトレーナーなら、少し想像するだけで分かるような事だろって? ……いや、実際その通りなんだが、意外とやらかす奴はいるんだ。特に女性トレーナー。同性だからって油断してたってのはよくある話だ。

 

 後は足に着けるタイプのアクセサリーの代表格のアンクレットも注意が必要だったりする。

 アンクレット自体が元々はお守りの意味を持っていたし、昔からウマ娘にとってアンクレットは足を災いから守るお守りとして重宝されていたから、担当へのプレゼントという意味では最適である。

 だがこの意味合いからか、一部の中東地域では男からウマ娘にアンクレットをプレゼントするのは「婚約する」という行為とされていたりする。言ってしまえば指輪と同じポジションだな。一応この話は日本ではマイナーな分類ではあるが、そういう意味で捉えられる可能性はあるから、十分注意が必要になる。

 またアンクレット関係で有名な話だと、アンクレットを付ける脚で意味合いが変わるという事も覚えておいて欲しい。

 右脚は「恋人募集中」、そして左脚「彼氏、彼女がいる」だ。

 少女漫画なんかだと、ウマ娘がイケメンに左足にアンクレットを付けてもらうってのは、よくあるシチュエーションだな。

 アンクレットを左足に躊躇いなくつけたり、着けてもらおうとねだられたら、その時点で詰み一歩手前と考えた方がいい。……私はこれでやらかした。

 

 無難なプレゼントとして花を選ぶトレーナーもいると思う。それ自体は問題はない。よっぽど変な花でもない限りは、好意的に受け取ってくれるだろう。

 だが花でもモノによっては、大変な事になる事も忘れて欲しくはない。プレゼントする花の花言葉次第では、指輪並に大惨事になりかねん。

 ……君たちの中にはいないと思いたいが、とりあえずバラはやめておけ、と言っておこう。特に赤いバラ。プロポーズじゃないんだぞ?

 またこの花言葉だがネガティブな意味合いを持つこともある事も頭に入れておいて欲しい。プレゼントした花の花言葉を深読みしてしまって、メンタルにダメージを与えてしまう、という事もあり得る。花を選ぶ際は、しっかりと花言葉を調べる事を勧めよう。

 

 ……そうそう、プレゼント繋がりで少し話が変わってしまうが、君たちの中には自分の誕生日などで担当からプレゼントを渡される機会があるかもしれない。

 これが健全な関係を築けているトレーナーとその担当の関係であればいい話で終わるエピソードだろうが、相手がトレーナーに恋心を抱いていた場合はアプローチの一種として危険な兆候にある。プレゼントの内容次第では、今後自分の担当の動きに注意を払う必要が出てくる事も頭に入れておいて欲しい。

 危険なプレゼントだが、そこは先程までの説明と被る項目が多い。指輪や愛に関する花言葉を持つ花などだな。これについては本講座と関係は薄いから、各自手元の資料を確認して欲しい。

 ああ、そうそう。担当の掛かり具合によっては「プレゼントは私」という言葉が飛んできてうまぴょい(プレゼント)ルートもあり得るからな。そうなった場合は……、こう……強く生きて欲しい。私は今日も強く生きているから……。

 

 

 

「……やっぱ、大したことは言ってないな」

 

 壇上で初老のベテラントレーナーが若干悲壮感を纏いながら語ってるのをぼんやりと眺めつつ、思わずため息が漏れた。

 ここは定期的に行われているトレーナー向けの講習会。今回は「担当との上手な距離の取り方-プレゼント編-」なんてお題目を掲げてたから、何かためになる話でもないかと思って出席してみたんだが……、話してることが全部知ってる事ばっかりなんで正直ガッカリだ。

 この先どうやって暇をつぶそうかと、ぼんやりと考える。そうしていると、隣で講習を聴いていた小林が小声で話しかけてきた。

 

「先輩、随分とつまらなそうですね……」

「そりゃ、今更感のある事しか聞かされてもつまらないしな。いっそ、トイレって事で抜け出すか」

「まだ始まったばっかりですよ……」

「ゆーて、中堅以上は俺と同じくほぼ全員真面目に聴く気なんてなさそうだぞ?」

 

 目立たないように周囲を見回せば、どことなくやる気がなさそうな雰囲気を醸し出しているトレーナーが結構いる。こいつ等も恐らく評価にも影響するから出席しただけの面子だろうな。

 

「……まあ、今回の講習は主に新人向けって話ですしね」

「まあそもそも事前の告知には、中堅以上は出席は自己判断っとか言ってたな」

 

 今回の講習会で真面目に聴いてるのは新人トレーナー位だろうさ。そんくらい基礎的なことしかやってない。

 

「てかお前はなんでここにいるんだよ。もう喰われた後だから、こんなん聴いててもしょうがないだろ」

「いえ、デュオへのプレゼント選びの参考になりますよ? ここで言う避けなければいけない事って、僕みたいな立場からすれば積極的に踏んでいけって意味になりますし」

「お、おう……」

 

 こいつも中々逞しくなったな……。

 

「そういう先輩は何で今回の講習に出てるんですか? いつもの先輩なら新人向けの講習会なんて出ないでしょ?」

「せやな。目新しい事なんぞない講習に出る暇があったら、ライバルの分析とかしてるな」

「なら、何でです? 今回の講習的にプレゼント関連ですか?」

「まあ、合ってるな。……渡す側じゃなくて、貰う側だけど」

「あぁ……」

 

 納得したような、それでいて同情の視線の小林後輩。……その生暖かい視線が、絶妙にウザいな。

 

「何かの記念日ですか?」

「来週が俺の誕生日」

「定番ですね。ということは……」

「誕生日が近いってことで、担当たちが張り切ってんだよ……」

 

 純粋に誕生日を祝ってくれるのは――オッサン的には年を取る=ダメージなのは右に置いておくとして――良いんだよ。そこは問題はない。

だが担当たちがお祝いにかこつけて、どんな仕込みをしてくるか警戒しないといけないと思うと気が重くなる

 この講習には担当からトレーナーへのプレゼントに関して何か新しい情報とかないかと一応参加したんだよ。……講習内容はおおよそトレーナーからのプレゼントの話ばかりだから、宛てが外れたが。

 

「今朝もエアグルーヴから、当日のお祝いは俺の部屋でやるから遅れないようになんて言われたし」

「あー……頑張ってください。僕からはそれしか言えません」

「因みにお前からの仕事という名の救援は――」

「先輩の担当たちに睨まれたくないのでやりません」

「知ってた」

 

 その答えは何となくわかってたわ。

 

「参考になるかはわかりませんけど、先月あった僕の誕生日の時の話に需要はありますか?」

「……喰われた側の奴の話とかマジで参考にならなさそうだが、一応頼む」

「僕の場合ですけど、当日は休みだったので丸一日デートしましたね」

「速攻で惚気かよ」

「で、僕の部屋で二人でお祝いパーティーもしました。デュオも張り切ってご馳走を作ってくれたんですよ」

「おう。そこはまだ普通だな」

「そしてパーティーが終わったら、一晩中お祝い(うまぴょい)もしました」

「お前のシモ事情には興味はない」

 

 マジで何の参考にもならない話をするんじゃねぇよ!

 完全に色ボケしている後輩に頭痛を覚えつつも、迫りくる担当たちからの脅威に対抗すべく、頭を必死に働かせる羽目になった。

 

 

 

 

 

 

「そちらの準備は出来たか?」

「はい、計画に寸分の狂いはありません」

「私も準備万端だ。後は本番に臨むだけだ。フジキセキはどうなんだ? アンタが一番大変だろう」

「大丈夫、私の根回しは済んだよ。マヤノちゃんはどうだい?」

「うん、トレーナーちゃんに急な仕事が入るとかはなさそう」

「よし。――では当日は計画通りに」

「おう」

 

 




次回、誕生日攻防戦!
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