マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
「飾り付け終わったよ! そっちはどう?」
「凡そ完成しました。メインディッシュはトレーナーさんの到着に合わせる予定です」
「ここまでは予定通りだな。例のモノの用意はどうだ?」
「私は取ってきてるぞ」
「大丈夫、用意しておいたよ」
「よし、後は本番を待つばかりだ。トレーナーも策を弄してくるだろうが……、事前の打ち合わせ通りに行くぞ」
「フォーム意識、フォーム意識! 筋トレは正しい姿勢じゃないと効果がないぞ!」
「33! 34! 35!」
今日も今日とてお仕事の真っ最中。今日はトレセン学園のジムで筋トレの指導だ。
筋トレの指導は滅茶苦茶得意だ。趣味が筋トレだからそこら辺の知識は他のトレーナーよりもあるし、この鍛え上げられた筋肉のお陰でウマ娘用のトレーニング器具相手でも補助が出来るからな。
「36! ……37! ………38!」
「あとちょっとだ、頑張れ!」
ただし、本日のお仕事はいつもとは少しだけ違いがあったりする。
「39………ラスト!」
「よーし、40回! グラッセ、バーベル戻すぞ!」
「はい! ふー……」
グラッセとバーベルを所定位置に戻す。こういった補佐は事故の防止のためにも必要だぞ。
とまあ見ての通り、指導しているのは自分の担当じゃなくてグラッセ、というよりもチーム・ファーストの面々だったりするんよ。
「関節の痛みとかはないか?」
「大丈夫です!」
「OK。ん、そろそろ時間だな。おーし、今日のトレーニングは終了! ストレッチやったら片付けやれよー!」
『はい!』
ジムの各所で各々筋トレをしていたチーム・ファーストの面々が、素直に俺の号令に従いストレッチを始める。その間に俺は各種トレーニング器具の片付けをする。使ったら綺麗にして戻すのはマナーだしな。
元々チーム・ファーストとは交流はあったし、俺が筋トレ系指導が樫本さんのお墨付きレベルってこともあって、今回みたいに樫本さんが忙しい時なんかはファーストのトレーニングのヘルプに入る事があったりする。お陰様でチーム・ファーストの面々とは、以前の樫本さんのライブで頼られるくらいには信頼関係は出来ているんよ。
「武藤トレーナー、お疲れ様です」
「ああ、樫本さん。おかえりなさい」
ちょうどダンベルの片付けが終わったタイミングで、会議を終えた樫本さんがジムに帰ってきた。
「本日はチームの指導の代理をして頂き、ありがとうござました」
「いやいや、そこはお互い様ですよ。それに今日はウチのチームの活動は休みになってますから、割と暇でしたし」
「活動を休止しているのですか? 今日は平日ですが……」
「担当たちから俺の誕生日パーティーするから、今日はフリーにしろって言われたもんで……。しかも俺の部屋でやるから、準備するためにしばらく帰って来るなって追い出されました」
「ああ、なるほど……」
樫本さんが俺の答えに納得した様に頷くが、そこには多分に同情とかそこら辺の感情が漏れ出ている。俺と担当たちとの関係については、樫本さんも知ってるぞ。てか俺がフジに告白された時に、真っ先に相談したのが樫本さんだ。
「武藤トレーナーも愛されていますね」
「あいつ等が裏で何を狙ってるか分かってるせいで、素直に喜べないんですが……」
「それは……頑張ってください」
もっとも相談したからと言って、樫本さんが解決できるような問題じゃない訳で、今現在の状況に至る訳だがな……。余談だがアオハル杯の騒動の時に樫本さんが導入しようとしてた管理プログラムは、トレーナー保護の面もあったりするぞ。
「まあ、俺の場合は相手が多人数ですから、専属と違って即喰われるって可能性がゼロだからマシなんですが……」
「そうですね。……いえ、そういえば昔チーム全員から襲われたトレーナーがいたような……」
「ここで不安になる事を言うの止めません?」
確かにレアケースでそんなんあったとか聞いた事あるけどさぁ。
「それはともかく、武藤トレーナーの誕生日となると彼女たちから何らかのアプローチがあるのは確実ですね。何か対策を立てているのですか?」
「ええ、午前中に買ってきましたよ」
視線をジム入り口に向ける。そこには今回の切り札が入ってるデカい紙袋が鎮座している。
「あれが、ですか。何を買ったのですか?」
「いわゆるボードゲームです」
「私はゲーム関係は疎いのですが……、ゲーム機を使ったゲームの方がメジャーなのでは?」
「まあ、そうなんでしょうけど、一定以上の多人数が出来るメジャータイトルのゲームって意外とないんですよね」
その場でできる多人数プレイの電子系のゲームって、最大参加人数が4人までってゲームが多い印象なんだよな。もちろん4人以上でも出来るゲームはあるんだが、それはそれでプレイ経験で実力差が出やすいし。全員で楽しむって事を考えると微妙だ。
「ボドゲなら多人数プレイは余裕ですし、ウチのメンバーもああいった遊びは余りやりませんから、全員初見プレイって事で実力差は拮抗出来て全員が楽しめると思うんですよ」
「なるほど。そういう事でしたか」
「そして俺主導で全員を巻き込んで遊び倒して、タイムオーバーを狙っていきます……!」
パーティーつーても、時間は無限つー訳じゃない。担当たちも門限がある以上、攻められる時間は限られている。
それこそが俺の勝利条件だ。
全員が楽しめる形で遊びに集中させる事で、担当たちによる攻勢を軽減させる、という俺の十八番で今回は行く。この手法は去年の俺の誕生日パーティーでも有効だった戦術だからな。実績は十分だ。去年は下準備が雑だったせいでパーティー終わりじゃ悔しそうにしてたが、今回はそれすら気付かずに、最後まで楽しんでもらおうか。
「門限ですか。確かにチーム・デネボラなら有効ですね。寮長と生徒会副会長がいる以上、そこを破る事はありません」
「フジ辺りはギリギリ狙ってきそうですが、エアグルーヴもいますからそこは抑止できます。担当たちを全力で楽しませてやりますよ」
「頑張ってください。ああ、そうそう。私からも一つ注意をさせてもらいます」
「なんですか?」
「彼女たちも策を練ってくると思われますので、注意は怠らないようにしてください」
「そうですね、気を付けます」
「あと、担当と正式にお付き合いするのは、お互いのためにも彼女たちが卒業してからにしましょう」
「唐突に何言ってんですか樫本さん……」
樫本さん、唐突にブッこんできやがった……。
「ふふ、あなた方はとてもお似合いですから」
「色々と勘弁してくださいよ……」
そういや樫本さんって「トレーナーと付き合うのは卒業してから」派だったっけか……。特に俺への圧は割と強いんだよな。
「ま、それはともかく、そろそろ行きますね。遅れたらエアグルーヴに怒られそうだ」
「そうですね。頑張ってください」
という訳で、戦場になってる自宅(寮の部屋)に移動。道中で同僚から「担当たちが部屋に出たり入ったりしてるけど、なにかあったのか?」と訊かれたからこれから起こる事を答えたら、なんかすっごい同情するような目で見られたのは気にしないようにする。
「ただいまー『ハッピーバースデー!』って、うぉ!?」
扉を開けた途端、担当たちの祝福の掛け声とクラッカーで歓迎されるという先制パンチを受けた。怯んでいる所に、間を置かずにマヤノに手を取られて、リビングに連行される。
「おかえりなさい! 準備出来てるよ!」
「お、おう。こりゃまた豪快に飾り付けしてんのな」
「当然だ。貴様の誕生日を祝わなくてどうする」
「あー、エアグルーヴが音頭とってりゃこうなるわな。そしてテーブルにある料理だけど、滅茶苦茶多くね?」
「折角の祝いの席だからな。ところでトレーナー、筋肉的に悪いから食べない、なんて言い出すような真似はしないよなぁ?」
「流石にこういう場でそんなことは言わんから安心しろシリウス。しっかし大量の料理のど真ん中に鎮座する巨大な誕生日ケーキの存在感が凄いんだが。もしかしなくてもフラッシュ作か?」
「はい、今日のために頑張りました」
「さあ、私たちからのプレゼントを楽しんでいってね、トレーナーさん」
「おう、今日はよろしく頼む」
先制攻撃を受けて流れるままに誕生日席に座らされたが、嬉しさと同時に内心ほっとしていたりする。
家主がいない間に派手に飾り付けられた室内、ウマ娘5人って事で用意されたテーブルに所狭しと並べられている料理、テーブル中央に鎮座するケーキ、そして楽し気な制服姿の担当たちの姿。
――実に、実に常識的だ!
初手で攻めてくる可能性も考えていた故に、この普通さは安心感すら覚える。
もちろん、この後にフジキセキ辺りが「特別なショーをお披露目するよ」とか言い出して愉快な事になるって可能性は滅茶苦茶高いが、この一時の平和は全力で享受したい。そしてこのまま最後まで維持したい……!
「ではトレーナーも席に着いた事だし乾杯といこうか。ああ、すまないトレーナー。流石に私たちでは貴様用の酒は用意出来なかった。今回はジュースで我慢して欲しい」
「元々酒は飲まないから、そこは気にしないでくれ。――みんなコップは持ったか? ……みんな今日は俺のためにここまでしてくれてありがとう。折角の祝いの席だ。みんなで楽しもう。乾杯!」
『カンパーイ!』
グラス同士が奏でる甲高い音がパーティー会場に響き渡った。こうして誕生日会という名の戦いが始まった!
――以下ダイジェスト!
「無制限にモノを喰える快感がエグイ……!」
「貴様はチートデイでも、ある程度は肉体の事を考えて食事をするからな」
「今日くらいは好きなだけ喰いな。ああ、皿が空いてるじゃないか。フライドポテトをよそってやるよ」
「いや、フライドポテトは脂質と糖質の塊――」
「今日は筋肉の事は考えるなって言っただろ」
「――いただきまーす! ……うめぇ」
「おー、ネクタイか」
「リクエスト通りに全員でお金を出し合って買ったプレゼントだ。まったく、普通はそれぞれから貰うものだろうに」
「去年それやって少し空気悪くなっただろうが……。もう一回やるとか勘弁……」
「ところでトレーナーさん? このプレゼントの意味は勿論分かってるよね?」
「あ、はい」
『~~~~~♪』
「おー、メンバー全員による彩ファンタジアの迫力がエグイ」
(そして全員からの俺に向けられるギラギラした視線が怖い)
「どうだったかなトレーナーさん?」
「いやー、マジで凄かったわ」
「ありがとうございます、トレーナーさん」
「こりゃ、お返しに隠し芸披露しないとな」
「へえ、トレーナーさんの隠し芸なんて、とても楽しみだよ」
「何をやるの、トレーナーちゃん?」
「現役時代に試合と試合の合間の余興でやってたやつだな。んじゃ、行くぞ――『マチョぴょい伝説』」
「ちょっ、色々アウトだよ!?」
「うおぉおおおおおぉおおおおおぉおお!」
「そしてかわいらしさの欠片もねぇな!?」
「でもダンスがキレキレだ!?」
「鉄が……鉄が来ない…………!」
「アンタ山地に開拓地を作ったのに、全然出目が振るわないな」
「山地の数値は8ですのでサイコロの出目の確率的に出やすいはずなのに、全然8が出ませんね」
「お陰で私も木が不足気味だ。もっとも私の場合は代替地があるお陰で何とかなっているが」
「マヤの番だね。いくよー。9……やった麦が出た! 都市に発展させるね!」
「私も麦だな」
「木一枚か」
「木が二枚だね」
「木一枚です。……トレーナーさんだけ何も資源が取れませんでしたね」
「……誰か2:1トレードで鉄くれね?」
「使っちゃった」
「私は持っていないぞ」
「次のターンで使うからダメだよ」
「貴重品をくれてやるほど余裕はない」
「あげたらトレーナーさんが一気に有利になりそうですので、この取引には応じません」
「…………」
――こんな感じで、パーティーを楽しんだぞ!
そんな事をしてれば、あっという間に時間なんて過ぎるもんだ。
「おっと、そろそろいい時間だな」
「む?」
チラリと置時計に目を向けると、針が担当たちの門限まであと少しという時間を指している。つまるところ、戦いの終わりを意味していた。
「そろそろお開きにするか。寮まで送るぞ」
タイムアップ――俺の勝ちだ!
思わず笑いそうになるのを我慢しつつ、穏やかに担当たちに語り掛ける。
「ふむ、もうそんな時間か」
「では準備しないといけませんね」
「だな。行くぞマヤノ」
「はーい」
エアグルーヴ、フラッシュ、シリウス、マヤノが帰り支度のためにゾロゾロとリビングを後にする。担当たちの表情からは不満とかそういうのは見られない。去年と違い上手く誤魔化せたようだ。
「フジは準備はいいのか?」
「私はもう済ませてあるよ」
「そうなんか」
「ああ、そうだ。トレーナーさんにはこれを渡しておかないとね。はい、これ」
「うん?」
フジから手渡された紙の束を反射的に受け取る。そこに書かれているのは……、
「…………………うん!?」
外泊届と印字された紙切れ! しかもご丁寧にメンバー全員分のサインと許可印が押されてる正式なモノだ……!
「や、やりやがった!?」
「折角のトレーナーさんの誕生日なんだよ? エアグルーヴじゃないけど、ちゃんと楽しまないとね」
いい笑顔してるフジだが、その笑顔に不穏なモノしか感じないんだが!?
「てかこれ職権乱用じゃね!?」
「まさか。ちゃんと規定通りだよ? ……ただし昔から学生寮で受け継がれている裏規定の、だけどね」
「んなモンあるのかよ……。因みにその裏規定はどんな時に使われるん?」
「種類は色々あるけど、主に好きな人(主にトレーナー)を落とすために適用される規定だよ」
「滅茶苦茶ピンポイントな用途だな!?」
「因みに相手の誕生日みたいに何かしらの記念日なら、ほぼ無条件で許可が下りるよ。去年はエアグルーヴのレースが近かったから自重したけど、今回はそういうのもないから遠慮なく使わせてもらったよ」
裏とはいえ制度側がトレーナーを狙うのを推進しようとしてんじゃねぇよ!? こんなんだから、トレセン学園は婚活会場とか言われんだよ!
「さて、と。今日のパーティー第一部はトレーナーさんが積極的に盛り上げたお陰で本当に楽しかったよ」
「お、おう。それは何よりだ……」
「だからね――」
「――第二部は私たちが貴様を全力で楽しませてやろう」
唐突に開かれる扉! エアグルーヴを先頭にスッゴイいい笑顔で雪崩れ込んでくる担当たち! なお服装だが――言及するのは勘弁して欲しい。とりあえず各々が俺の性癖に合わせてきたとだけ……。
「ちょ、おま……!」
「以前の海の家でのカラオケで貴様の好みの絞り込みは出来た。さあ、覚悟しろトレーナー」
「この服装は少し恥ずかしいですが、勝つためです。何も問題はありません」
「トレーナーちゃんが色んな好みがあってよかったー。これならマヤでも似合うもん」
「ストライクゾーンが広めなおかげで、全員恰好がバラバラになったな。良かったなトレーナー。色々と楽しめるぞ」
「うっそだろ、お前ら……」
好き放題言い放つ担当たちに自然と冷や汗が垂れる。流石にここまでの仕掛けをされるなんて想定外だ……!
前回の海の家()以上の攻勢を前に硬直する俺の肩にポンっと手が置かれた。振り返ると、いつの間にか着替えていたフジが笑みを浮かべている。
「さあ、パーティーはこれからだよ、トレーナーさん!」
――俺の戦いはこれからだ!
余談ですが途中で描写したボドゲシーンですが、カタンを想定しています。ボドゲの世界では有名作で面白いゲームですので、機会がありましたらぜひ遊んでみる事をお勧めします(ダイレクトマーケティング)