マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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今回のイベントは、競技場の拡大版って感じで、偶にはこんなイベントもいいですね。報酬も美味しいですし。


50話 上も下も同じ悩みを共有するのはいい事ではある

 何かしら大きな成功をすると、周囲が注目するってのは極々普通の事だ。これはトレセン学園のトレーナーも例外はない。

 自分の担当がG1でも取った次の日には、担当を持たない生徒たちがアドバイスを貰おうと集まってくるし、学園上層部からも注目されその後の活躍次第ではチーム結成の打診が入ってくる。

 当然俺もその一人だ。エアグルーヴとコンビを組んでクラシック期のティアラ戦線を戦い抜いた事で、学園上層部は俺にチーム結成を指示。すったもんだありながら今のメンバーをスカウトし、チーム・デネボラを率いている。また専属時代からやっていた合同訓練の方も、初期と比べて参加する人数は増えている。

 ここまではトレーナーによくある出世街道の第一歩の模範例だ。

 ……ただ俺の場合、あるやらかしのせいで、ちょっと愉快な事になってたりする。

 

「史上最強のトレーナー(ガチ)」「ヒト息子の最終兵器」「対ウマ娘人型決戦兵器」

 

 ……これが俺の世間一般からの評価だ。フジの事件のDDTと赤い蹄鉄事件で立て続けにウマ娘をブッ倒したインパクトがデカすぎて、こんな称号がついちまった。因みにネットなんかだとトレーナーとしての評価の前に、格闘家としての評価の方が先に出てくるぞ。

 

 で、そんな欲しくもない称号なんざ持ってるとだな、

 

「……担当との戦い方を教えてくれないか?」

「お前は唐突に何言ってんだ……」

 

 こんな相談が飛んでくるんだよ……。同僚の中里に居酒屋に飲みに(俺は酒は飲まないが)誘われたら、スッゲー深刻な顔でこんな事訊かれるんだぞ。テンション下がるわ。

 

「最近担当が俺を見る目が、完全に獲物を前にした獣なんだよ! 少しでも隙を見せたらうまぴょい(ビースト)一直線確定だぞ!? 今はあの手この手で逃げてるけど、そろそろ限界なんだよ!」

「あー、分かった分かった……」

 

 てか外でうまぴょい(パワー)とか言うな。

 

「てか逃げるってどうやってんだよ」

「そりゃ地方への出張を上に打診したり、書類仕事が溜まってる様に見せかけたり。後普段は、全力で人目があるところにいて、一人にならないようにしてる」

「それで接触を最小限にしてるって事か」

「ああ」

 

 なるほど、中里のやってる事は分からんでもない。危険から遠ざかるのは護身の基本中の基本だからな。……ただこの対応は諸刃の剣でもある。

 

「それ担当のリボンジュピターがフラストレーション貯めないか?」

「ああ、必ず顔を合わせなきゃいけないトレーニングの時なんか、会うたびに圧が強くなってる」

「だろうな」

 

 露骨に避けてりゃ不審に思うだろうし、次の手を打とうとするだろうさ。距離を取ろうとしたら、担当が思い詰めた末にうまぴょい(圧)は定番パターンだ。

 

「この前なんて、いっそ監禁ぴょい()で分からせようかな、なんて怖い事呟いてたし」

「中々大胆な子だな? ……どっかに遊びに行ってガス抜きしたらどうだ?」

「話聞いてたか? 今更無理に決まってるだろ。遊びに行った帰りにうまぴょい(食)がオチだ」

「だろうな。そこまで行ったら高確率で喰われそうだし」

「お前分かってて、そんな事言ったのかよ……」

「今ならワンチャン平和に終わるかもしれないし」

「……その平和に終わる確率は?」

「だからワンチャン」

「要するにほぼ社会的死が確定じゃねーか……」

 

 いや、ちゃんと生き残るチャンスはあるぞ? アウトの確率の方が圧倒的に高いだけで。

 

「ともかく、タイミングは分からないが、リボンは確実にうまぴょい(時)を仕掛けてくるんだよ。今の俺じゃどう頑張っても喰われちまう。だから――」

「俺に相談って訳か」

「本気で殺しに来るウマ娘相手に大立ち回り出来るお前なら、何か襲って来るウマ娘の対処法とか知ってるだろ? マジで教えてくれよ。折角これまでトレーナーとして上手くやってこれたのに、このままじゃ秋田に強制移住になっちまう」

「あー……」

 

 縋りつくように頼み込む中里を前に、曖昧に頷きながら目の前の同僚の身体スペックを推測する。

 

「見た所中肉中背って所か……。対ウマ娘用護身術はちゃんと受けたか?」

「それはちゃんと受けた」

「講習で模擬戦やったよな。戦績は?」

「正直あまり勝てなかったな」

「うーん、因みにジムには行ってるか?」

「気が向いたら行く程度」

「なら、何か格闘技の経験は?」

「高校の授業で柔道をやらされたくらいかな」

「……スポーツ経験は?」

「部活は文科系だったんだよ。科学部な」

「……」

 

 プラス要素がほぼ無なんだが? このクソみたいな条件でウマ娘とどう戦うかを脳内でシミュレーションしてみる。襲い来るウマ娘相手に戦う中里の姿が幾度となく再現される。

 そしてたっぷり30秒使って分かった事は、たった一つのシンプルな答えだった。

 

「無理だな。諦めろ」

「おおおおおい!?」

 

 絶望した表情を浮かべながら悲鳴を上げる中里。そんな光景に思わずため息が漏れる。

 

「うまぴょい(襲)目的で怪我させないように力加減してくれているウマ娘相手とはいえ、フィジカル並、格闘経験無しの野郎が勝てる訳ねーだろ。どうシミュレーションしても喰われたぞお前」

「いや、そこを何とかだな!? スタンガンとか当たれば一撃なんだろ!?」

「そりゃスタングレネード+スタンガンのコンボならやれなくもないがな?」

「ならそれでいいじゃないか!?」

「……お前、グレネード食らって目が見えない中で滅茶苦茶に暴れ回るウマ娘相手に突撃とか出来るのか?」

「う……」

 

 俺の問に中里が押し黙った。以前エアグルーヴにも愚痴った問題は、未だに有効な解決方法が見出されていない。格闘に心得がない奴は、誰もが無理と答えるんだ。

 仮にこいつがやけくそで突撃できたとしても、ぶん殴られるのがオチだ。そうなったらうまぴょい(上下)ではなく、傷害という別のヤバい問題まで生えてきちまうだろう。これじゃあ何の意味がない。

 

「……なら暴れる相手に、安全に近づける方法とかないのか?」

「んなモンあるか。武器がスタンガンしかない以上、お前が取れる選択肢は飛んでくる攻撃を躱して接近戦しかないんだよ」

「……それが出来るようになるにはどうすればいいんだよ?」

「何かしら武術を一定レベルまで習得するのがベストだな。それ以外だと『暴れるウマ娘相手に飛び込んでスタンガンを押し付ける』ってシチュを何度も実戦経験して慣れるしかない」

「おい、それってどっちも……」

「ああ、無理だろうな。今更ウマ娘と戦えるまで格闘技を極める時間なんてないし、実戦経験の方もそんな限定的なシチュを経験出来る場はない。だから諦めろって言ったんだよ」

「うっそだろ……」

「ま、護身術の講習は受けてんなら、貰った資料を見ながら素振りでもしとけ。なんもしないよりはマシだろ」

 

 力なく項垂れる中里。そんな悲壮感しかない同僚に、俺は今できる最後の足掻きを勧めながら氷が解けて若干薄くなったウーロン茶を飲み干した。

 

 

 

 

 

 さて、このうまぴょい問題。直接危険にさらされているトレーナーたちが解決策を求めて右往左往しているのは当然として、彼ら以外にもこの危険を問題視している者たちは存在する。

 トレセン学園の一角に設けられているある会議室。スーツ姿の中年から初老の男たちが集結していた。

 

「今年に入って何人目だ……」

「そんなもの数えたくもない」

「目を逸らした所で何も変わらんぞ。しっかり確認しろ」

「今年はペースがかなり早いな。このまま行くと去年を超えるぞ」

「くっ、来年もこのペースだと本当に人員不足に陥りかねん」

 

 各々タブレットを操作しつつ議論を勧める男たち。だがその誰もが映し出される資料を前に顔を歪ませている。

 

「トレーナーはウマ娘の婿ではないんだぞ……」

 

 誰かの吐き出すような呟きが漏れる。その言葉はこの場にいる全員の総意であった。――彼らはトレセン学園運営の責任者たち、ようするに学園の上層部の面々である。(なお秋川理事長は所用のためただいま不在)

 

「諦めろ。トレセン学園は婚活会場だ」

「本当にふざけたパワーワードだ……。話を戻そうか。うまぴょい(捕食)されたトレーナーたちの直近の予定は?」

「三割が担当卒業後もトレーナー業を継続予定。五割が担当卒業と同時に離職、あるいは離職の可能性あり。二割が即時退職だ」

「即時退職が二割か。思ったより少なかったな」

「八割が当面残るなら、時間は稼げる」

 

 事前予想よりはまだマシな被害に安堵する学園上層部の面々。

 彼らが危惧している問題はもっぱら、うまぴょい(本能)からくるトレーナー不足なのだ。彼らにとって一番痛い即時離職が少ない事は喜ばしい事である。

 

「……これ一般常識だと全員アウトなのだが」

「それは今更過ぎるだろ……」

「普通の教育機関ならそれでいいんだろうが、生憎とここは天下のトレセン学園だ。そんな常識は通用せん」

 

 URAの権益とか、生徒の実家の力とか、学園の世間への影響力とか、秋川家の方針とか、そんな事やったら速攻でトレーナー不足になるとか、その他諸々の事情とかがスパゲッティコードよろしく複雑に絡み合いまくったせいお陰で、トレーナーたちは担当にうまぴょい(パスタ)されても基本お咎めなしなのが現状のトレセン学園である。(逆にトレーナーが権力を傘にやらかした場合は速攻で処分されるが)

 

「話を戻すぞ。この離職数なら来年の採用トレーナーで補充は足りると思うか?」

「足りるは足りるが、人員はギリギリだな」

「いつもの通りか……。トレーナー養成所からの情報は?」

「目立った成績優秀者はいるっちゃいるが、どいつもこいつも性格に難があるとの注意書きがついてきた。最悪優秀者全員落ちるぞ」

「本当に最悪のシナリオだな……」

 

 先程の数値で見ての通り、うまぴょい(社会的死)されたトレーナーの多くは、担当が卒業するまでは学園に残る者が大半なので、彼らが離職するまでにはタイムラグが存在する。その貴重な時間で新しいトレーナーを補充する事が出来れば、自転車操業とはいえ何とかトレセン学園が回せるのだ。

 だがそれは薄氷を履むが如し。離職者が予想以上に多い、もしくは採用できるトレーナーが少ない場合、脆くも崩れ去ってしまう砂上の楼閣でもあった。

 

「新陳代謝が常に行われている、と言えば聞こえはいいが、実体は優秀なトレーナーがうまぴょい(外聞)されて辞めていくだけだからな。欺瞞もいい所だ」

「全くだ。お陰で人事部はいつも胃痛に悩まされている。生徒たちも少しは我々の事情を考慮して欲しいものだ……」

「そもそもうまぴょい(実状)なんぞなければ、こんな苦労はしなくて済むんだがな」

「ない物ねだりをしてもしょうがないだろう……」

 

 トレセン学園設立からわずか数年で発生し今なお長らく続く大問題に、各所から思わずため息が漏れる。

 

「……昔学園の教育プログラムからアプローチしてうまぴょい(実践教育)被害を減らそう、なんて試みがあったな」

「昔どころか今も継続中だぞ。ほぼ効果はないが」

「悲しいなぁ……」

 

 彼ら学園上層部も、うまぴょい()によるトレーナーの離職問題を放置してきた訳ではない。現状を何とかしようと色々と策を巡らせているのだ。

 一例として学園の倫理の授業で、一般的な教科書を使った教育内容に加えて、学園オリジナルの資料を配布し、「トレーナーは必ずしも結婚相手ではない」「学園の外にもいい出会いは沢山ある」と、教え込んではいるのだ。

 ……もっとも先程彼らが語ったように、効果はないようなモノなのだが。

 

「そもそも担当がつく前の生徒って、大半は一般的な倫理観を持ってるんだよな……」

「んで担当トレーナーを持ち指導を受けるようになると、これまでの倫理観はどこへやら、恋心を暴走させてうまぴょい(本能)かましたって事例は数知れず、だ」

「恋する乙女はムテキってか?」

「勘弁してくれ……」

「指導の過程でウマ娘がトレーナーに恋心を抱くからなぁ。そこを何とか出来ればいいんだが……」

「そこは現場のトレーナーも何とかしようと頑張っている。もっとも有効手段はまだ見つかっていないがね」

「マニュアルこそあるが、そんなもので何とかなるほどウマ娘は甘くはない、か」

 

 余談だが、昔あるトレーナーが「いっそ完全に事務的に指導してみるか」と言い出して、実践してみた事があるのだが、結果は散々だった。件のトレーナーは確かに担当には喰われなかったものの、それ以前に担当との信頼関係を築けずそのせいで全く勝てなかったりする。担当ウマ娘を指導し、レースで勝たせるためにトレーナーがいるのに、これでは全く意味がない。

 

「最終防衛ラインとして襲って来るウマ娘と戦い撃退するというのもあるが……」

「対ウマ娘護身術、護身用の武器としてスタンガンとスタングレネードの配布。……やる事はやったは、正直効果は微妙としか言いようがないな」

「そもそもの話、そんな小細工した所でウマ娘に勝てるかと言えば……。もちろん無いよりはマシだが……」

「武藤レポート曰く、テーザーガンのような飛び道具が有効らしい。言いたいことは分かるし、私としても是非とも導入したい所ではあるが、警察が全力で拒否している」

「あの公僕どもめ……」

「現実を見ない奴はこれだから……」

 

 苦々しく呪詛を吐く面々。そもそもの話、基本学園内限定とはいえ武器になるモノを携帯できることの方が特例中の特例なので、警察の面子的にもこれ以上の武装強化はとても許可できないのだが、被害を被っている側からすればそんな面子などただの邪魔である。

 

「後実践的な訓練が出来る機会がない、という問題もあるな」

「どういう事だ? 講習では模擬戦もやっているのだろう?」

「だがそれはトレーナー同士による模擬戦だ。基礎を学ぶという点ではそれでいいのだろうが、そのまま実戦では戦えんだろう。実戦となると圧倒的なフィジカルを持つウマ娘が襲って来るんだぞ」

「……実際のウマ娘の動きを体験していないが故に、碌に戦えないという事か」

 

 トレーナーはウマ娘のフィジカルを間近に見ている存在ではあるが、流石の彼らもその圧倒的フィジカルが自分に向けられる経験を持つ者は圧倒的に少ない。襲い掛かられた時、その圧倒的なスペック差に翻弄されるトレーナーが大半なのだ。

 

「これについては慣れればいいらしいが……これ本当か? ウマ娘の動きに慣れた所で、勝てる気がしないぞ?」

「まあ初見でウマ娘と対峙するよりはマシじゃないか?」

「そんなもんか。……で、これはどうしたらいいんだ?」

「……ウマ娘の護身術の講師を呼ぶ、とか?」

「そんな都合のいい講師なんているのか?」

「それに講師を呼べたところで、定期的な講習程度でトレーナーがウマ娘の動きに慣れるとか出来るのか? 俺だったら無理だぞ」

「私もだ」

 

 半ば愚痴になっている意見を交わしつつ、頭を悩ませる面々。そんな時だった。

 

「提案! 話は聞かせてもらった! 私にいい考えがある!」

 

 会議室の外から彼らにとって聞き慣れた女児の声が響いたと同時に、勢いよく扉が開かれた。

 




前作で散々書いたオッサンたちの会議シーンが、滅茶苦茶書きやすい……(なお中身は愛が重馬場仕様なためシュール)
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