マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
すみません、諸事情で投稿が遅れました
「ふふふ……」
「はー……、はー……」
トレセン学園のウッドチップコースの一角、そこで一組の男女が対峙している。一方は怪しげな笑みを浮かべる鹿毛のウマ娘。まるで得物を見定めるかのように、舌なめずりすらしている。
それに対して男の方は全く余裕はない。過度の緊張のせいで息が荒く、まるで縋るようかのようにスタンガンをウマ娘に向けている。
「そろそろいくよ、トレーナーさん?」
「うっ……」
ウマ娘による事前予告。それと同時に脚を貯めている。これに男は怯えつつもスタンガンを構え直す。だがそれは完全に腰が引けている。
「!」
「ああああああっ!」
ウマ娘が猛スピードで男に飛び掛かった。いいスタートだ。ゲートとか得意なんだろうな。対する男の方も悲鳴を上げながらも、迫りくる脅威に対してスタンガンを突き出した。
「おっと」
「えっ!? うわああああああ!?」
だが男の決死の勇気なんぞ些末な物と言わんばかりに、ウマ娘はスタンガンをアッサリと躱すと、あっという間に男を押し倒した。
「うふふ……」
「あああああ……」
男にマウントポジションを取りつつ深い笑みを浮かべるウマ娘。対する男の方は呻くしか出来ない。ただでさえ相手に圧倒的優位な体制を取られている上に、頼みのスタンガンは押し倒された衝撃で飛んで行ってるんだ。完全に詰みだ。
「ゲームオーバー……」
ウマ娘からの勝利宣言。後はもう男は相手が満足するまで喰われるだけだ。
こうしてまた学園でうまぴょい(遊戯)が繰り広げられる――事はなかった。
「――」
ウマ娘が唐突に動きを止めた。同時に彼女は光を発しつつその存在が薄くなっていき、そして数秒後には完全に消滅する。
「あー、全然ダメだ……」
対するは男の方はそんな非現実的な光景を前にしても気にした様子もなく、大の字になりながらもぼやいている。
「勝てねぇ……」
「あんなへっぴり腰じゃ、そりゃ勝てねぇよ」
ぶっ倒れている男――先日うまぴょい(棒)されそうと相談してきた中里にツッコミを入れる。流石にさっきのは無様すぎるぞ。
そんな俺に中里は立ち上がりつつも、文句を返してきた。
「いや、仮に腰が引けてなくても、あんなん勝てないからな?」
「そうか?」
「……お前、感覚マヒしてないか? 普通はあんな感じになるぞ」
中里はそういって背後に目をやる。俺も釣られてそちらに目を向けると、そこには、
「ぬわあああああ!?」
「当たらない、当たらない!?」
「一発当てれば勝てるのに!?」
「ああ、捕まった!」
「くっそおおおおおぉ!」
グラウンドの各所でウマ娘たちに翻弄、蹂躙されるトレーナーたちとかいう、地獄のような光景が広がっていた。なお一部のトレーナーはその光景を黄昏ながら観戦してたりする。
「……愉快な事になってんな」
「アイツとか講習の模擬戦で全勝してたトレーナーだぞ。そんな奴がああも翻弄されてんだから、俺が勝てる訳ないだろ」
「その言い分は分からなくもないが、それを言い訳にしたところで、本番で喰われるだけだぞ」
「ぐっ、痛いところを……」
「折角上の連中が面白いおもちゃをくれたんだから、じっくり練習しときな」
――同時多発的に起きているウマ娘による襲撃、それにも関わらずパニックなし、そして突如消滅するウマ娘。まず現実じゃありえない光景だが……生憎とここは現実世界じゃない。
ここはVR空間だからな。
ただいま俺たちトレーナーはVRソフトの「メガドリームサポーター」のオプションを使って、対ウマ娘護身術の実践訓練の真っ最中なんだよ。因みに現実の肉体は箱体の中に鎮座してる。
これを導入したのは、案の定というべきかあの理事長だ。
トレーナーへのうまぴょい(電子)対策の一環って事で、鶴の一声的に持ってきたらしい。なんでもサトノの二人から、
「ウマ娘のトレーニングのサポートだけでなく、トレーナーのトレーニングをサポートするオプションを開発してみました」
なんて言われて、プレゼンを受けたとかなんとか。それで即導入する辺り、実に理事長らしいな。因みに拡張オプションの名前は「対ウマ娘戦闘訓練プログラム バーチャルファイト」だそうだ。
とはいえ、流石メガドリームサポーターを作ったサトノというべきだろうか。仮想敵として出現するウマ娘の動きが本物と変わらん。フィードバック機能の制限を掛ければ、怪我とかせずに対ウマ娘の実戦経験を積めるのは革新的としか言いようがない。これで訓練を続けていけば、うまぴょい(肉)被害は確実に減っていくだろうな。
「練習って言っても、攻略の手掛かりすら見つからないんだが?」
「今のを見てて分かったが、仮想敵の動きは直線的なモンばかりだったぞ。突っ込んできたところをカウンターとかどうよ」
「……そうは言ってもやり方が分からん。手本を見せてくれよ」
「俺が?」
「お前しかいないだろ」
「それもそうだ」
リクエストされたからにゃ仕方ない。空中に画面を出して訓練用の仮想敵の出現ボタンを押す。すると5メートル先に先程中里が戦っていた鹿毛のウマ娘が出現した。
「ステータスは初期設定のままでいいか」
「ふふ、覚悟してね、トレーナーさん」
「おっし、来な」
飛び掛からんと腰を落とす仮想敵のウマ娘。対する俺はスタンガンは抜かずに素手のまま構える。本番想定なんだから、武器は使わない。
「いくよ!」
仮想敵が突っ込んでくる。動きを見るにセオリー通り掴みかかってそのまま押し倒す算段か。
「おっと!」
とはいえその動きは直線的。突進と同時に繰り出された右手を手で逸らしつつ、更に体捌きを駆使して突進をいなす。分かっちゃいたが、仮想敵のパワーは本物のウマ娘そのものだ。油断とか出来ない。
「まだまだだよ!」
「今度はインファイトか!」
今度は仮想敵が高速で懐に飛び込み、最小限の動きで俺を捕まえようと次々と手を繰り出してきた。ウマ娘のパワーで常人ならその時点で詰みだから、この選択肢は理にかなってるんだろうな。
とはいえこの攻撃はいつかのマヤノとの戦いで経験している。後退しつつも、以前よりも冷静に攻撃を捌く。
……ここまで攻撃を受けて、再確認できた。この仮想敵、パワーとかスピードは完全にウマ娘を再現しているが、思考は完全に格闘技素人のそれになっている。これならつけ入る隙はある。
幾度目かの攻撃を逸らしたタイミングで一度大きくバックステップして仕切り直す。
「いい加減捕まってよ!」
ウマ娘が追撃すべく再度突撃してくる。――それを待っていた。
「そりゃ勘弁だ――足元がお留守だぜ」
「えっ!?」
繰り出された右手をフェイントで余裕をもって回避。更に腕と身体が伸びきったタイミングで仮想敵の右手首を掴み、更にそれを引っ張りつつ足払い!
「きゃっ!?」
悲鳴を上げながら前のめりに転ぶウマ娘。こうなってしまえばこっちのもんだ!
「嬢ちゃん良い子だ寝んねしなぁ!」
「む~~~~~~~~~!? むぅ……」
いつも通りチョークスリーパーで締め上げて〆! そしてウマ娘が動かなくなった途端に、どこからか軽快なファンファーレが響いた。ついでに空中にポップアップが出て『ウマ娘撃破!』ってトロフィーまで出てる。
「このVRってこんなギミックがあったんだな」
「いやお前、マジで勝てるのかよ……。しかも素手で……」
なんか中里が露骨に引いてる。お前、手本を見せろって言っておいてそれかよ。
「何度も戦ってるし、いい加減慣れた」
「慣れた程度でそんな簡単に勝てるか!」
「いや慣れろ。そして勝てるようになれ。出来なかったら、お前の人生プラン完全崩壊だぞ?」
「ぐっ……!」
「つーわけで、頑張れよ」
「え?」
「ふふ、トレーナーさん?」
「って、お前いつの間に仮想敵出したんだよ!? あああああああ!?」
スタングレネードを落としながら中里が遁走する。仕切り直しのために咄嗟にスタングレネードを使えるなんて、あいつも分かってきてるじゃないか。
そんな同僚の成長に感心していると、
「噂には聞いていたが、見事な腕前だ」
不意に背後から声が掛かった。振り返るとそこにいたのは、腕を組み感心したように頷いているメガドリームサポーターのサポートAIの一人、バイアリータークだ。
「ゆーて、あの仮想敵のウマ娘のパワーはうまぴょい(幻影)目的で力をセーブしてるって想定な上に、行動ルーチンも格闘技経験者のそれじゃないからな。これならやりようはある」
「ふむ、そういうものか」
「赤い蹄鉄の時みたいに本気のウマ娘が相手だと、流石の俺でもキツイけどな。俺が勝てたのは、相手が行動制限をしているってのが大きいんだよ」
「謙虚だな。普通の人間ならウマ娘相手に勝てたと誇るものだ」
「客観的な分析だよ。そもそも担当に勝ったところで嬉しいなんて気持ちは湧かん」
「……お前はいいトレーナーだな」
好き好んで自分の担当をぶん殴りたい奴がいるかよ。
「しかしああも仮想敵が簡単に倒されるとなると、これではお前の訓練にならんな」
「仮想敵のステータス画面を見たけど、体格とか体重の調節は出来るが、格闘技能の付与が出来ないんだよな。俺としてはそれが欲しい」
「ふむ。では私から開発スタッフに提案しておこう。しかし格闘技能となると完成するまで暫く時間が掛かりそうだ」
「まっ、完成するまではボチボチやっていくさ」
ない物ねだりをしてもしょうがないし。だがバイアリータークは俺の答えに小さく笑って返す。
「安心しろ。お前の訓練相手のアテはある」
「ん? 今完成まで時間が掛かるって言ってたろ?」
「それは訓練プログラムの話だ。――お前ほど戦いの技量を持っているなら安心してヤレる」
「……おい、まさか」
「ああ。――仮想敵の代わりとして私がお前の相手をしよう」
そう言い放つとスッゴイ楽しそうに構えを取るバイアリーターク。その姿は様になってるを通り越して、完全にガチの奴だ! そういやこいつ元々は軍人だったっけ!?
「いやいやいやいや! あんたが相手だと流石に死ねるんだが!? てか楽しそうに殺気を出すな! これ対うまぴょい(ガチ)訓練だよな!?」
「む、すまない。AIになってからはこのような機会がなかったから、つい興奮してしまった。では私もうまぴょい(興奮)を想定して戦わせてもらおう。懐かしいな。夫との初めての夜を思い出す」
「……因みにその時の旦那との戦いはどうなった?」
「ああ、忘れられないひと時になった」
「……あ、はい」
うん、その答えで色々察したわ。
こうして俺はスリリングな訓練相手との壮絶な戦いに身を投じる事となった……!
アプリで超科学を出してきたので、せっかくなので使ってみました。フィードバック機能実装してるとか、あの世界の技術力がヤバい