マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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今回のチャンミは余裕をもってグレードA決勝まで行けましたが、決勝は2位でフィニッシュ。やっぱりルビーは強いですね。



54話 思わぬ需要とかあるよね

 

 私は強くなった。

 私は以前よりも格段に速くなった。

 武藤トレーナーは上手く行くかは分からないとはいっていたけど、あの極端なトレーニングはどうやら私には合っていたらしい。だからあの提案に乗ったのは間違いじゃなかったとはっきり言い切れる。

 だから選抜レースで勝つだけだ。なのに――

 

「くっ!」

 

 全力で駆けているにも関わらず、前を走るウマ娘の背中に追いつけない。

 相手はデビュー前から注目されていたウマ娘だ。強いのは事前に分かっている。それでも今の私なら勝てる自信があった。

 

「~~~~~!」

 

 でも現実は甘くなかった。今この通り相手に追いつけず差をつけられている。距離を詰めるどころの話じゃない。これ以上離されないので精一杯。

 ……それじゃあ勝てるはずもない。

 

 私の前を行くウマ娘がゴール板を切った。

 

 少し遅れて私もゴールに飛び込む。そして私の後ろを走っていた子たちも次々とゴールしていく。

 

「……」

 

 膝に手をつき息を整えながら、チラリと掲示板に目をやる。

一着から2バ身差で二着。

 今まで掲示板に乗るか乗らないかばかりだった戦績を考えれば間違いなく好成績。……でも圧倒されての二位だ。あんなに努力しても一着には届かなかった。

 

「おい、あの子凄いぞ!」

「いい末脚だな」

「こりゃ何としてでも採りたいな」

 

 何人ものトレーナーたちが一着の子に向かって走っていく。その光景に自分の中で嫌な感情が沸き上がりつつも、同時にあのヒトたちがああするのも理解できた。戦ったからこそわかるけど、あの末脚には恐ろしいモノを感じていた。だからあの子に魅かれるのは当然なんだろう。

 

「……はぁ」

 

 思わずため息が漏れる。それに対して二着になった自分には誰も声を掛けようとしない。

 

――またダメだった。ここまでやったのにこれじゃあ、私ではレースの世界では通用しない? もう諦めて別の道を探す時期なの?

 

そんな考えが頭を過る。そんな時だった。

 

「いい走りをするね」

 

 男のヒトの声に反射的に顔を上げる。いつの間にかジャージ姿の若い男のヒトが私の目の前にいた。

 

「もしよかったら、ちょっと話をしないかい?」

「え? ええ?」

 

 さっきまで負の感情が渦巻いていた所に、急に話しかけられたから、頭が追い付かず言葉が出てこない。そんな事をしていると、今度はスーツ姿の女のヒトまでやってきた。

 

「待った待った! 抜け駆けはダメ!」

「おいおい、こういうのは早い者勝ちさ」

「そりゃないですよ先輩。ねえ、リーフクリスタルさんだよね。折角だしお話いいかな?」

「お、スカウト合戦か、面白い! ここは一つ俺の実績でも――」

「あ、ズルい!」

 

 ワイワイやり始めるトレーナーたち。そんな二人を前に私は、

 

「えええええええええ!?」

 

 頭が真っ白になって戸惑いの声を上げるしかなかった。

 

 

 

 

 

「おいおい、大成功じゃないか」

 

 観覧席の一角。二人のトレーナーに迫られておたおたしているリーフを遠目に眺めつつ、隣のシリウスが感心した様に呟いた。

 

「いやー、正直マジで上手く行くとは思わなかったぞ」

「確かに貴様の目論見通りだが、それもリーフの努力があったからこそだ」

「そりゃそうだ」

 

 左隣の座るエアグルーヴの言葉に素直に頷く。トレーニングメニューを用意した上に、食事メニューも指定、ついでに偶にトレーニングを見たりと色々とやってはいたが、担当たちにやるようにガッツリと指導していた訳じゃない。短期間で身体を作り上げて結果を出したのは、間違いなくリーフの努力の結果だ。

 

「で、アンタのイカサマにまんまとトレーナーが釣れた訳だが、問題の質の方はどうなんだ? 見た所両方ともかなり若いぞ」

「確かスーツ姿の方はマジの新人だな。どっかのチームのサブトレをしてる奴だったはず。多分独立のために動いてんじゃないか?」

「……ふむ、貴様が言った通り、あまりトレーナーとしての質は良くないかもしれんな」

「多分、前回の選抜の資料とか見てて、今回で急に順位を上げたからそれに釣られたんだろうな」

 

 確かに俺の指導でフィジカルは強化されて走りが速くなれたが、悲しいかなそれだけだ。俺が見た限りだが指導前よりも走りのキレが増したとかはないし、特訓で走りに光るモノが出来たとかは……まあ芽が出たのかな? ってレベルだ。

 それでも声を掛けてきたって事は、事前の見立て通りそこまで奴のトレーナーとしての実力は余りよろしくないんかね? ……まあ、新人だからそこら辺はしゃーないのかもしれないが。

 

「で、もう一人の方はどうなんだよ。アイツも新人か?」

「んー? あー、あいつか」

 

 もう一人のラフな格好の若い男の方だが、幸いなことに顔に見覚えがあった。そして奴がリーフに声を掛ける理由も納得してしまう。

 

「あいつはトレーナーの中じゃある意味で有名だな」

「有名? 実力者なのか?」

「いや、そういう訳じゃないな。あいつもこの間まで専属でトレーナーをしてた新人だが、オープン勝利までで重賞勝利までは行ってない。まあその重賞もいい所まではいったらしいが」

「ん? なら何で有名になってんだよ」

「あいつ、前の担当が掛かって襲われたが、何とか生き残った貴重なトレーナーなんだよ」

「ほう」

「アンタ以外にウマ娘に勝てる奴がいたのか」

 

 驚く二人。基礎スペックを考えると、ヒトがウマ娘に勝つのってかなり難しいしな。各トレーナーが護身用の武器を持っていてもなお、ウマ娘によるうまぴょい(量産)されてる事を考えると、この二人が素直に驚く程度には貴重な存在だ。……まあ本人曰く、偶然スタンガンが上手く決まっただけらしいし、次に襲われたら普通に喰われそうだ。

 

「ありゃ多分、俺が資料に付け加えたのを見て動いたのかもな」

「資料? まさか私たちが書いていた合同練習の参加者リストの事か?」

「それそれ」

「……貴様、まさか嘘の情報を――」

「んな訳ないだろ。流石に俺の秘策()の事は書かなかったが、それ以外は事実しか載せてねぇよ」

 

 そんな事やった日にゃ、信用ぶち壊しだ。

 

「んじゃ、何書き足したんだよ」

「『彼氏持ち』って赤字で書いといた」

『……は?』

 

 おう、気持ちは分からんでもないがハモんな。

 

「いや、俺たちトレーナーにとっては担当に彼氏がいるかどうかって意外と重要だからな? 彼氏がいる=喰われる心配がないだし」

「あー、アンタらトレーナーならそうなんだろうな?」

 

 トレーナーがウマ娘にうまぴょい(トレ)されるのが日常茶飯事なトレセン学園だが、確実に喰われる心配がないのが彼氏持ちのウマ娘だ。ウマ娘の好意の矢印が彼氏に向けられてるから、うまぴょい(カレピッピ)される事はまずあり得ないからな。

 そんな背景もあるから、担当が彼氏持ちだった場合は、トレーナーも彼氏君を絶対に逃がさないためにも、全力で応援&フォローしてたりするぞ。

 

 今回はリーフが決意表明で家族に言及した時に「アイツ」ってワードが引っ掛かったから聴いてみたんよ。そしたら大当たり。地元に彼氏がいるって言ってたんよ。お陰で堂々と援護射撃が出来たぜ。

 

「多分あいつの場合は、前の担当で懲りて安パイを狙ってきたんだろうな」

「……そんなものでスカウトするのはどうかと思うが?」

「トレーナー側の気持ちにも配慮してやってくれ。それに背景はどうあれ、リーフに声を掛けたんだからいいだろ」

「ま、それもそうだな。――お、噂をすればリーフがトラウマ持ちを選んだぞ」

「むう……。いや思う所はあるが、彼女も無事に担当契約できた。これでよかったとするべきか」

 

 こうしてリーフクリスタルのスカウト問題は何とか解決された。

 

 

 

 

 

「じゃあここにサインを書いてっと。――うん、これで担当契約が出来たよ」

「はい、これからよろしくお願いします!」

「うん、よろしく」

「あ、そうだ! トレーナー、家族や彼に担当契約出来たって報告していいですか!?」

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます! ――――わっ、直ぐに返信が来た!」

「選抜レースの告知は実家にも行くからね。多分連絡を待ってたんじゃないかな」

「へー。あ、アイツからも――っえ?」

「ん?」

「…………………………………………えっ?」

「リーフ、どうしたの?」

「…………トレーナー」

「うん」

「フラれた……」

「……………え?」

「1年間一度も合えないウマ娘とは付き合えないってフラれた……」

「…………………………………………………え?」

 

 

 




Q:彼氏君はなんでリーフと別れたの?
A:元カレ「一年も会えない上に、碌に連絡を寄こさなかったし……」
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