マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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LOHは気楽に出来るから、色々と遊べそうですね。


55話 人材不足はどこの業界も大変

 

「トレーナーさん、こちらお約束した名簿です」

「昼休みなのに悪いなフラッシュ」

 

 ある日の昼下がり。昼休みって事で生徒たちが飯を喰ったり、駄弁ったり、遊んだりと各々思い思いに過ごしている中、俺は職員棟にある教員室でフラッシュから来週の合同練習の参加者名簿を受け取っていた。

 

「本当なら合同練習関連は俺が管理しなきゃいけないんだが、上から仕事を押し付けられちまってな……」

「確かトレーナーさん宛てのテレビ出演の依頼ですね? しかも武道関連の」

「それそれ。しかも元プロレスラーって立場で出てくれだってよ。本職トレーナーなんだがなぁ」

「トレーナーさんにとっては複雑な気持ちかもしれませんが、世の中のインパクト的にはフジキセキさんの事件や夏合宿の事件って大きいですからね……」

「だよなぁ……。お陰で別の司会からそこら辺を滅茶苦茶聞かれたし」

「お疲れ様です」

「後、共演者の中に俺にやたらと絡んできた総合格闘技出身の野郎がいてな」

「はい」

「ごちゃごちゃ煩いから、面倒臭くなって総合格闘のルールで試合する事になったんよ」

「……待って下さい。なぜそのような事に?」

「こう……流れ? で、そいつを秒殺したら、場が滅茶苦茶愉快な事になった」

「なにをしているのですか……」

 

 ミドル級の相手に100㎏オーバーのマッチョマンによる飛び膝蹴りは流石に大人げなかったな。いやー、防具つけててもらってよかった。

 

「その時は爽快感が凄かったんだが、後が大変だったな」

「ですよね? 番組の撮影となると台本もありますし、それを滅茶苦茶にしてしまったのですし」

「いや、試合自体はADがGOサイン出したから良いんだが、問題は相手が所属してるジムだったみたいでさ。売り出し中の新人選手(イケメン)が一方的にKOされるシーンとか流せないって事になって、結局試合シーンはお蔵入りになっちまった上に、また今度撮影し直す事になった」

「ですよね……。そもそも体重差があるとはいえ、トレーナーさんは現役の格闘技の選手に勝てるのですね……」

「ゆーて、ちょくちょく殴り合ってるバイアリーよりは弱かったし……」

「軍バの女神様と比べるのはやめましょう」

 

 そんな感じで駄弁っていると、不意に後ろの方から不穏な言葉が耳に飛び込んできた。

 

「チーフ、俺地方に移籍したいです……」

「待ってくれ……」

「ん?」

「え?」

 

 振り返ると教員室の隅っこで、学園のトレーナーたちのまとめ役ポジションのチーフトレーナーと、どこか疲れた様子の若いトレーナーが顔を突き合わせていた。

 

「なんかやってるな」

「しかも不穏な言葉が出ていますね」

 

 二人して顔を見合わせている間にも、トレーナー二人は俺たちの事に気づいてないのか、話し合いが続く。

 

「急にどうしたんだ?」

「もう俺のメンタルが耐えられないんです……」

「何があったんだ? あれか、やっぱり激務のせいか?」

 

「あー、よくある奴」

「トレーナーの仕事は多忙ですからね」

 

 トレーナーの仕事ってのは新人でも給料は結構良いんだが、同時に仕事量が半端ない量が飛んでくるんだよな。更に担当する人数が増えるとその分仕事も増えるから、事務仕事に適性がないとマジでエグイ事になるぞ。……それ考えると、樫本さんマジで凄いな。

 

「いえ、そっちではありません」

「なら担当を勝たせられない事か? 確かにお前の担当は未勝利だが、まだジュニア期だ。まだまだチャンスはある」

 

「これもよくある奴だな。これメンタルにくるんよ」

「ウマ娘が勝てなくて悩むと言いますが、トレーナーも苦しいですからね」

 

 トレーナーを志し、そして高難度の試験と面接を突破し、晴れてトレーナーなった奴に突き付けられるのは、華々しいレースの世界の現実だ。

 ウマ娘が全員活躍出来るはずがない。幾ら走っても勝てない、怪我に泣く、その他諸々の事情、それらが原因でウマ娘がレースの世界から去っていく光景は日常茶飯事。非情だがスポーツの世界は弱肉強食。こんな話はごまんとある。

 そんな現実を知識としては知っていても実際に体験して苦しむ羽目になる新人は多いと聞く。

 

「いえ、それも違います。確かに未勝利戦を突破できていませんが、手ごたえはあります」

「? なら何で辞めようとしているんだ?」

「この学園、ヤバいですよ。具体的にはうまぴょい(辞)関連……」

「………………あー」

 

「そっちかー、そっちかー……」

「?」

 

 ジト目で零す新人に、チーフが色々と理解して呻いている。ついでに俺は思わず遠い目になっちまったよ。そしてフラッシュさん? よくわからないと言わんばかりに首を傾げるの止めよ?

 

「そもそもどうなってんですかこの学園。性質的に普通の学校と違った雰囲気になるのは分かりますけど、なんでうまぴょい(違)なんて風習がまかり通ってんですか」

「あー、うん。お前の気持ちはよーく分かる」

 

「ド正論で殴ってきてる……」

「……ああ。これまで普通に受け入れていましたが、普通のヒトからすれば変に感じますね」

 

 新人君の気持ちはよーくわかる。俺は学園に長くいたせいでもう慣れちまったが、初日に諸々の事情を聴いた時は頭痛くなったもん。

 

「だが急にどうした。これまで君はそれについての不満は漏らした事がなかった――、待て、まさか……」

「……最近担当が俺を見る目が妖しくなってきていて……」

「あっ……」

「致命傷になる前に今の内に地方に移籍したいんです」

「あー夢を壊すようで悪いが、地方もうまぴょい(前後の移動)はあるぞ」

「嘘でしょ……」

 

「ドンマイ後輩……」

「狙われてるからといって、全部投げ出して逃げるのはどうかと思いますが」

「気持ちは分かってやって?」

 

 色々と酷い事言い出すフラッシュにツッコミを入れつつ、とりあえず後輩の今後の健闘を祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 ――武藤とフラッシュが新人トレーナーの苦悩にワイワイやっているのと同時刻。

 

「全く面倒な事になった」

「ええ」

「ふん……」

 

 生徒会室で会長、ブライアン、私の三人は、テーブルを囲んで頭を悩ませていた。

 

「こんなもの、私たちがああだこうだ言っても、聞くはずがないだろ」

「そんなことはない……はずだ」

「否定するなら言い切れ」

「む……」

「ブライアン、そこまでにしよう。ともかくやらねばならない事は確かだ」

 

 事の起こりは会長が受けた理事長からの辞令だ。

 

「遺憾! 近年ウマ娘によるトレーナーへのうまぴょい(悩)が増加傾向にある! 抑止のためにも、生徒会長である君からも生徒たちに注意を促すように!」

 

 ……この理事長の辞令は合理的だろう。うまぴょい(注)の被害の総数については生徒会でも把握は出来ていないが、年々徐々にではあるが増えていると漏れ聞いている。この問題の解決は至上命題だ。

だが学園の経営陣が道徳の講義にうまぴょい(徳)を戒める内容を教えたり、トレーナーたちが担当からうまぴょい(戒)されまいと必死であるにも関わらず、その被害は留まるところを知らない。

だからこそ生徒に絶大な人気を誇る会長を通して、生徒によるうまぴょい(絶頂)を抑止したい、という狙いもよくわかる。

 

「そうは言うがな会長」

 

 だが問題は――

 

「私たちがトレーナーを狙うなといっても、説得力がなさすぎるぞ」

 

 ここにいる全員がトレーナーを狙っている事だ。

 

「私も会長も自分のトレーナーを狙っているからな……」

「そしてブライアンに至ってはトレーナーと付き合うを通り越してうまぴょい(合意)済みだったね。……むしろ秘訣を教えて欲しいくらいだ」

「? 普通に一生私と一緒にいるように言ったら、当然のように頷いたぞ? 初うまぴょい(一生モノ)もレースで滾った日にやった」

『羨ましい……』

 

 どれだけ順調なんだこの猛獣の皮を被った家猫……。

 

「……話を戻そう。確かに我々にとって無茶な注文ではあるが、理事長の言い分も分かる。怠慢忘身。本来であればうまぴょい(怠惰)は惚れたトレーナーを手に入れるための最終手段だが、最初からうまぴょい(初手)をしてトレーナーをモノにする者も多いと聞く。流石にこれは問題だ」

「私たちにとっての理想は、強硬手段は用いずにブライアンのように自然な形で結ばれる事ですからね」

「ああ、実に嘆かわしい事だ」

 

 担当にうまぴょい(嘆きの牢獄)されて学園を去ったトレーナーでも、なんだかんだで幸せに暮らしている者は多いとは聞いた事があるが、その幸せに至る過程も見なくてはならない。

 

「だがうまぴょい(強襲)はほぼ確実にトレーナーを手に入れる手段なのは事実だ。ここ最近はトレーナーのVR訓練でウマ娘を撃退できる確率は上がってはいるが、それでもウマ娘優位であるのは変わらん」

「実績がある分、その実績に縋るウマ娘は多い、か」

「その結果責任を感じたトレーナーが学園を去ってしまうのは、ウマ娘にとっては良いだろうが、学園にとってはつらい」

「うまぴょい(去就)されたトレーナーの離職率は高いと聞きます。トレセン学園の長年の悩みですね」

「ああ。トレーナー不足が酷くなれば、学園の指導力の質が低下につながり、ひいてはウマ娘たちの幸せが遠のく」

「確か学園にとって一番痛いのは即座の退職だったな。昔トレーナーが愚痴をこぼしていたのを覚えている」

 

 現状でもトレーナー不足は問題視されているのに、これ以上減っては大変な事になる。何かしらの手を打たなければいけない。

だがこの問題が容易に解決できるようなモノでもないのも事実だ。

 

「だがそんな根が深い問題を私たちが解決できるとは思えん」

「もちろん私もそれは分かっているさ。理事長が私に生徒への注意喚起を命じたのも、抑止の手段の一つに過ぎないだろう」

「……そこまで分かっているなら、適当に注意する程度でいいんじゃないか?」

「それは流石に不味いだろ、ブライアン」

 

 ブライアンの言いたいことは分かるが、手を抜いていい問題ではないはずだ。すると会長は苦笑しながら口を開いた。

 

「それも一つで手だが、私としてもここ最近のうまぴょい(歓喜)偏重には思う所があるからね。少し工夫を凝らして生徒たちに呼びかけてみるよ」

「工夫、ですか?」

「幸い理事長はトレーナーとウマ娘が平穏に水面下で付き合うのなら問題としないと零していた。これを利用しようと思う」

「ほう? 会長は何か企んでいるようだな?」

「なに、大した事は考えていないさ。彼女たちに道を示すだけだよ」

 

 小さく笑う会長。こうして私たち生徒会は生徒たちに訴えかけるべく、準備に取り掛かかる事となった。

 

 




会長は何かを企んでいるようです
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