マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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今回は短いです


57話 不審者を見つけたら直ぐに通報すべし

 

 聖蹄祭。一般の学校で言う文化祭的ポジションにあたるこのイベントは、各チームやクラスによりカフェや出店、イベントが行われ、毎年学園が大いに賑わっている。

 んで、この聖蹄祭だが参加できるのは学園に所属している者だけじゃない。別名「秋のファン大感謝祭」な事もあり、学園ウマ娘の家族や友人、そしてウマ娘のファンやらが大量に訪れるんだ。

そんな訳で聖蹄祭を運営する側の人間は中々に大変だったりする。聖蹄祭全体を総括する聖蹄祭実行委員会(中心になるのは生徒会)じゃ、大規模なファン参加型イベントの運営をしたり、次々と発生するトラブルの解決のために奔走したりと各々大忙しだ。

 

 そんな各々で忙しく動き回る生徒たちだが、対して学園の教師や教官、トレーナーは暇をしているのか? と問われると、そんな訳がない。聖蹄祭の運営は生徒たちが中心ではあるが、生徒だけではどうしても上手く出来ない事というのはある。それをフォローするのが大人の仕事だ。

 そんな訳で、

 

「逃がすかぁああああああ!」

「ひいぃいいいいい!?」

「逃げろおおおお!」

 

 今やっているように、学園の中庭で違反行為をやらかしたバカ二人を追いかけ回すのも俺の仕事だ! ローアングラー死すべし、慈悲はない!

 

「オラァ!」

「ぐえっ! あだだだだだ! ギブギブ!?」

「ここにレフェリーなんぞいねぇんだよぉ!」

 

 サクッと若いバカ(オス)を後ろからひっ捕まえてそのままヘッドロックで取り押さえる! なんかタップしてる気がするが、生憎とここはプロレスのリングじゃねぇから無視だ無視!

 

「原田ぁ!? ――スマン!」

「ちょっ、久保!? 助けろよ!?」

「無理に決まってんだろ!?」

 

 バカ(推定、原田?)を〆てる間に、もう片方のバカ(多分、久保)が仲間を見捨てて逃げていく。流石の俺も分身なんぞ出来ないから、見送るしかない。だがこの程度の問題なんぞ対策は出来ている。

 

「いたぞ!」

「ふてぇ野郎だ! 行くぞ!」

「おう!」

「へっ!? あぶぇ!? ああぁあああああ!?」

「おらぁああああ!」

「ああぁあああああ!?」

 

 事前に無線を通して呼んでおいた屈強な警備部の二人が立ちふさがり、久保という名前らしいバカをツープラトンでラリアットをかましてぶっ倒した上で、アームロックで取り押さえた! これで盗撮魔×2の捕獲完了だ!

 

「お疲れ様です。いやー、助かりました」

「お疲れ。コイツ引き取ってもらっていい?」

「ご協力ありがとうございます。オラ行くぞ!」

「ぬおおおおおぉお!?」

「せめて関節技止めろぉおおおお!?」

 

 警備部の二人により盗撮魔×2が連行されていく。周りに来てたお客がなんかざわついてるが無視だ無視。こういうの毎年やってるしな。実際生徒の方は、あの光景とか慣れてるからスルーしてるし。

 野郎四人を見送っていると、不意に後ろから声が掛かった。

 

「ご苦労だったな、トレーナー」

「ん? ああ、エアグルーヴか。今の見てたのか」

「トレーナー室に帰る最中に貴様が走っているのを見かけてな」

「そりゃご苦労さん。行くか」

「ああ」

 

 人込みを掻き分けてやってきたエアグルーヴと合流し、俺たちを見てざわつくお客をスルーして二人並んで駄弁りながら歩いていく。

 

「しかし感謝祭では毎回不届き者が現れるな。どうしたものか……」

「不特定多数を受け入れるってなると、ああいう奴らの対策なんて立てようがないから、そこは割り切るしかないな。まあそこら辺の対処は俺らの仕事だから、気にしなくていいぞ」

 

 春にしろ秋にしろ、ファン感謝祭だと普段閉鎖されている学園に入れるって事で、色んなヒトが来園するんだが、その中には変な事をやらかす不届き者も混ざるからな。そんな奴らの対処なんて生徒にはさせられないから、警備部やら武闘派の教師や教官、トレーナーが対処している。

 

「そうか。……だが貴様に一つ言いたいことがある」

「ん?」

「職務に忠実なのは良い。だがな……」

 

 エアグルーヴは小さくため息を漏らすと、俺に視線を向けた。

 

 

 

「なぜメイド服など着ている……?」

 

 物凄いジト目でツッコまれた。

 

 現在の俺が着てるのは、ディスカウントストアで買った安っすいメイド服(XL)だ! 多分お客が動揺してるのは、三十路のマッチョがメイド服(微妙に小さくてピッチピチだぞ!)で練り歩いているせいだな!

 とはいえ、こんなもんを着てる理由はちゃんとあるぞ。

 

「ウチのチームの出し物って執事喫茶じゃん」

「ああ。フジキセキが張り切っていたな」

「ああいうのって、ウマ娘が普段着ないような服を着るギャップを見せるってのもあると思うんだ」

「ふむ。そういう見方もあるな」

「だから俺もそれに習ってみた」

「たわけ、実行するな」

「まあ、こういう女装ってウケ狙いが基本だし、ネタとしてはアリだろ。アレだ、芸人が女装する感覚」

「それは分からなくもないが、貴様は欠片も似合っていないぞ。……って待て。まさかその格好で接客までしていないだろうな?」

「当然「ああ、流石にそこまでは――」やってるに決まってるだろ」

「たわけ! 裏方に専念していろ!?」

 

 なんか普通に怒られた。

 そんな感じで、エアグルーヴと駄弁っているその時だった。

 

「――真!」

 

 不意に俺の名前を呼ぶ、聞き慣れない女の声が耳に飛び込んできた。

 この学園で俺をその呼び方をするような奴に心当たりはない。声のした方に顔を向けると、そこには鬼気迫る表情をその顔に浮かべながらバタバタとこちらに駆けてくる中年の女の姿があった。

 

「貴様の知り合いか?」

「いや、知らん。あんな奴見た事ないぞ?」

「だがわざわざ苗字ではなく名前を呼んでいるぞ?」

「いや、マジで心当たりないんだが……」

 

 訳が分からず、エアグルーヴと二人して首を傾げていると、女は俺の元まで辿り着き縋りつくように腕を掴んだ。

 

「やっと、やっと見つけた!」

「いや腕を掴むな、爪が食い込んで痛ぇ。てか急に何すんだ」

「ずっと探してたのよ!?」

「いや、そんな事言われても俺はあんたの事知らんし」

「アナタ私の事を忘れたの!?」

「うーん……」

 

 推定知り合いにブンブンと振り回されつつ、記憶を探ってみる。そもそもの話、ヒトの事を名前で呼ぶ奴なんて早々いないから候補は直ぐに絞れるんだ。だが……正直自信がない。

 

「あー、もしかして爺ちゃん家の三つ隣の田中のおっちゃんの所の娘さん? おっちゃん元気してる?」

「違うわよ!」

「んじゃ、村上師範の奥さん? なんか若返ってません? アンチエイジング?」

「誰よそれ!?」

「ならレスラー時代に住んでたアパートの隣の部屋に住んでた中島さん? お子さんと上手く行ってます? 思春期ですから色々難しいかもしれないですけど、暖かく見守っていきましょう?」

「だから違うわよ!?」

「うーん…………」

「本当に私の事が分からないの!?」

 

 ヤバい、候補者が全滅した。マジでわからん。そんな俺の態度にイラついたのか、中年の女は勝手にヒートアップしていく。そんな様子を見かねたのか、エアグルーヴが割って入ってくれた。

 

「落ち着いてください。そしてトレーナー、流石にこの方に失礼だろ」

「ゆーて実際に分からんし……」

「アナタねぇ……!」

「とりあえず、正体を明かしてくれないか? ここまで心当たりがないと、誰かと間違われてるかもしれないし」

「たわけ、火に油を注ぐような真似をするな」

「なっ……」

 

 埒が明かないので、本人に直接訊いてみる事にした。ストレートすぎる上に雑な物言いなせいでエアグルーヴに怒られたが、ゆーてここまで物理でぶん回されたら雑にもなるからそこは分かって欲しい。

 それはともかく、中年女に反応はあった。顔を紅潮させ、怒気を放ちながら叫ぶ。

 

 

 

「アナタ――自分の母親の顔を忘れたの!?」

 

 

 

「……は?」

「ふむ……」

 

 女の正体にエアグルーヴが目を見開き呆気にとられた様子で声を漏らした。まー、その気持ちは分かる。まさかの答えだもん。

 で、俺の方だが……正直な話全く予想できなかったから驚いてはいる。いや、ホントここでこんな言葉が出てくるとは思わなかったわ。

 

 ともかくこの女の正体は分かった。分かった上でやらなきゃならない事をしよう。静かにポケットから警備担当者に配られているトランシーバーを取り出し、スイッチを入れる。

 

「あー、こちらトレーナーの武藤。警備部、応答してくれ」

『はい、こちら警備部』

「すまないが、俺の母親を自称する不審者を見つけたから引き取ってくれ」

『了解』

「ちょっと!?」

 

 不審者の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 




今回からしばらくシリアスが続きます。
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