マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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チャンミ育成キッツ……。サポカパワーが低すぎてUFにすら行かねぇ……。


61話 ヤバいの種類が変わっただけ

 

 生徒会長による色ボケ演説は、内容こそトレーナーたちが悲鳴を上げるような代物ではあったが、トレセン学園を確実に変える一打だった。

なんとあの演説によって長年悩まされていた担当によるうまぴょい(好色)だが、以前と比べて発生件数を大幅に減らすという、誰も出来なかった偉業を成し遂げたんだ。

 

「な、納得いかない……」

 

 この結果には長年うまぴょい(偉大)被害に悩まされていたトレセン学園上層部の面々は物凄く微妙な顔をしたらしいが、実際に数字として出てる以上何も言えないらしい。

 

 そんなちょっと平和になったトレセン学園のある一室。今日も今日とて定例会議って事で多くのトレーナーが集結していた。

 

「あー橋本。お前のチームだけど理事長から現状維持の命令が出たぞ。お疲れ」

「マジですか! よかったー」

「とはいえギリギリだから油断はするなよー」

「はい」

「次、秋野。この間担当が重賞勝ったよな。これで来期から担当枠を二人体制に増やせるんだがどうする?」

「うーん、今担当を増やしても上手くやれる自信がないんですよね……。これって今すぐ答えなきゃいけないですか」

「いや直ぐじゃないな」

「それじゃあもう少し考えさせてください」

「分かった。将来のキャリアに関わるからジックリと考えてくれ」

 

 定例会議恒例のゆるーい空気が漂う中の各自報告が続く。んでこれが終わるといつもだったら対うまぴょい(硬)対策会議が始まるんだが、

 

「あー、今期のうまぴょい(軟)被害だが……、何と以前と比べて大幅に減っている。このまま頑張れば更に被害を減らせるかもしれない」

『おおー』

 

 そんな訳だから、いつもの不毛な会議が丸々消し飛ぶという愉快な事態が発生。他に緊急議題がある訳でもなく、定例会議はそのまま軽い雰囲気の中でちょっとした交流会という名の駄弁りに移行した。

 

「しっかし原田、お前前より血色がよくなったな」

「あー、最近はしっかり飯を喰えるようになったからな。やっぱゼリー飲料とエナジーバーとビタミン剤だけだとやっぱダメだわ」

「前はそんな食生活だったのかよ……。よく倒れなかったな」

「本当にな。担当がご飯を作ってくれるお陰で、最近は身体が軽いよ」

「おいおい担当に飯を作らせるのはダメだろ――って言いたいけど、俺も最近弁当を貰う事があるからなんも言えねぇ」

「あ、それ俺も」

「僕もだね」

「おいおい、半分近くが担当から弁当を貰っているのか……。それはマズ――いや、お陰で健康になるのならいい事なのか?」

 

多忙なトレーナー業故に食事を疎かにするってトレーナーは多いからな。そのせいで身体にガタが来てるって奴もいるし、教え子のお陰とは言えそれが改善されるのはいい事だろうよ。

――決して前からチートデイの時なんかは担当から弁当を貰ってた上に、最近じゃ普段でも弁当をもらってるから賛成に回ってる訳じゃないからな?

 

「食事繋がりだと、最近よく自分の家に担当が来るようになったんだよな」

「あー、あるある」

「俺の所はご飯作りに来てくれるようになったな。流石に申し訳ないとは思って断ろうとしたんだが、強引に押し切られちまった」

「お前は少し前まで食事が三食カップ麺だったし、それでよかったんじゃないか?」

「僕の所ですと、お菓子とかゲームを持ってきて遊びに誘ってきますね」

「それ俺の担当もやってるな。担当たちとワイワイしながらゲームをしてると、学生時代を思い出して楽しい」

「俺初めて担当を部屋に上げたら『汚い』って引かれたんだが……」

「それはお前が悪い」

 

 仮にも客に汚い部屋を見せるのはアウトではあるな。……俺の部屋はエアグルーヴのストレス発散の場でもあるから、自分じゃ適当な掃除しかしないけど。

 

「んじゃさ。自分の仕事を担当が手伝ってくれてるってヒトいたりする」

「おま、まさかお前やらせてんのか?」

「流石にそこまではなぁ。担当に見せられない書類とか資料とか割とあるし」

「俺もそれはしないなー。あーいや、そういえば書類仕事をしてたら、手伝おうかって担当が言ってきた事があるな……」

「んー、これ言っていいかわからんけど、ぶっちゃけるな? 実は俺は担当に圧し負けて仕事を手伝ってもらう事がある」

「おー、中々のぶっちゃけだな。で、どうだった?」

「書類整理してくれるだけで、結構楽になる」

「うわ、ちょっと羨ましいかも」

「……」

「ん? 武藤どうした?」

「いや、何でもない」

 

 実は大分前から偶にエアグルーヴやフジに仕事を手伝って貰ってるっていうのは、流石に黙っておこう。色々と言われそうだし。

 それはともかくそんな感じで、トレーナーたちは笑いながら和やかーに談笑が続いていたんだ。するとトレーナーたちの身の上話を前に聴き手に回っていたチーフトレーナーが小さく頷いた。

 

「なるほど。中々面白い事になっているようだな。ところで一つ気になったんだがいいかな?」

「なんですか?」

 

 

 

「君たち、担当と健全な関係を築いていけそう?」

『いやー、きついでしょ』

 

 

 

 この瞬間、みんなの心は一つになった。

 

「誘い受けスタイルがあんなにキツいなんて思いもしなかった……」

「うまぴょい(襲来)被害が減ったって聞いた時は俺も喜んだんだよ……。直ぐに別の意味で地獄に叩き落された……」

「こう……理性が削られるよな……」

 

 さっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら。まだ担当に喰われてない面々が遠い目をし始めた。

 

「いや、でも自分が耐えればいいだけなんですから、僕みたいに担当にうまぴょい(万来)を仕掛けられるより楽なんじゃ?」

 

 そんな質問をするのは、担当に喰われてた側の人間の小林後輩だ。

こいつが言いたいことは分かる。うまぴょい(千客)と違ってウマ娘による誘い受けって行動の決定権はトレーナーにあるからな。誘いに乗るって行動を取らなければ勝ち確なのは確かなんだ。

 

「誘われる側からすれば、そうも言ってられないんだよ……」

 

……ただ問題は、この誘いの破壊力だ。

 

「ウマ娘って系統はそれぞれだが全員美女だからな。そんな奴が美貌を武器に誘惑してくるのは、仕掛けられる側からすると結構メンタルを削られるんだ……」

「俺も担当に抱き着かれた時は、何度諦めようとしたことか……」

「成人してないとはいえ、高等部は勿論、中等部でも身体が出来上がってる子も多いからな。そんな子の身体を使った誘惑とかエグイぞー」

「それに小さい子でも結構――いや、何でもない」

「お前、ヤバい事言おうとしなかった?」

 

 最後になんか変なものが混じったが、ともかく仕掛けられる側の意見は概ねこんな感じだ。美女が己の美貌を武器に全力で墜としに掛かるとか、受けてる訳でもないトレーナーにとって滅茶苦茶キツイ案件なんだよ。

とはいえ、これだけならまだマシだったりする。

 

「いやー、抱き着かれるみたいな誘惑だけだったら、まだ何とかなりますよ……」

 

 部屋の隅に陣取っている若いトレーナーが声を上げた。なお彼は悟りを開いたような表情をしている。

 

「寮の部屋にまで押しかけられるようになったら、もっと大変な事になりますから……」

「あー、そうだよな。引っ込み思案気味な子とか、学園だと控え目なアピールだけど、トレーナーの部屋で二人きりになったら大胆なアピールをし始めるのはよくあるし」

「……もしかして、お前の所の担当がそれ?」

「ああ。普段とのギャップでヤられるところだった……」

「ああいえ、それもありますが、僕が言いたいのは自分の生活の中に担当が入り込んでるという意味です」

『あー……』

 

 彼の言いたいことを瞬時に理解し、この場にいる多くのトレーナーたちが納得した様に頷いた。

 

「最初は普通に遊びに来たって感じだったんですけど、次第に僕の家に入り浸るようになっていって……。今じゃ朝と晩は家で一緒にご飯を食べてます……」

「これは重症ですねぇ……」

「もう自然にくっつく流れじゃん……」

「……正直、僕も彼女がいない生活とか思い出せなくなってきましたし、このまま担当と一緒になるのもいいかなって思ってます」

「重症どころかそっち側に逝ってたかー……」

 

 このトレーナーはもうダメなようだ……。冥福だけは祈っておこう。

 

「実際生活力が高い子が俺たちのプライベートに入り込むようになると、あっという間だからなー。そうそう耐えられんって」

「そう考えると、俺みたいに休みの日に遊びに来るとか大分マシなのか……」

「マジでマシだから、幸運を噛み締めろ。まあ押しかけられてる時点でヤバいのは変わりないがな」

「だよなー。お陰で碌に自分の性欲の処理も出来ん」

「いや唐突に下ネタをぶちまけるなよ。てかそんくらい普通にやっちまえばいいだろ」

『……』

 

 唐突に差し込まれたシモ事情に呆れたようにツッコミを入れる短髪のトレーナーだが、帰ってきたのは多くのトレーナーたちの沈黙だった。……どうやらあの短髪トレーナー、事の重大さが分かってないな?

 

「ハロン棒の処理とかやると、家に来た担当に普通に気づかれるよな……」

「あるある。ウマ娘って鼻がいいから後始末してても分かるんだよな」

「んで、気が付いた後の反応は、怒るか更に迫ってくるかの二択なわけだ。お陰で碌に処理出来ん」

「むしろその二択の方が気が楽だぞ? 俺なんて担当に自分の下着を置いて行かれたんだぞ……」

「こう……あれだ。生きろ?」

「な、なるほど、そういう事情があるのか……。なら夜の店に行けば――」

「あー、それもいつもと違う石鹸の匂いがするって言い出してバレるぞ。むしろ夜の店とか更なるアプローチを誘発させるし、最悪掛かってうまぴょい(夜鷹)ルートだ」

「な、なるほど……」

 

 短髪トレーナー沈黙。やっぱり実例(俺の実体験含む)があると納得の度合いが違うな。

 

「改めて見るとキッツいなこれ……」

「いっそ地方にでも――いや、だめだ。地方も同じだった……」

「本当に大変ですねぇ。……あっ」

 

 そんな感じで愚痴大会が続いてたんだが、最初の質問以降黙って聞き役になっていた小林後輩が何かに気付いたように口を開いた。

 

「どうしたよ」

「皆さんの話を聴いてて思ったんですけど」

「おう」

「……担当からアプローチを受けてるトレーナーって、その時点で詰んでません?」

『……』

 

 小林の爆弾発言に、何かを察したかのように全員が沈黙する。そんな中でも小林の言葉は語り続ける。

 

「ウマ娘の誘惑に耐えられなくなって手を出したら、その時点でアウトですよね。しかもこれまでと違ってトレーナーから手を出したって形ですから、学園としても規則的にも庇うのは出来ませんし」

「せやな」

「ただトレーナーはもちろんウマ娘も直ぐに辞める事になるのは不本意かもしれませんから、ウマ娘の方が庇うかもしれませんけどね」

「『私からうまぴょい(偽装)した』って言えば、学園も文句は言えないだろうな。代わりに担当に雁字搦めにされるけど」

「それは今まで通りなような……。それはともかく、別パターンも想定してみましょうか? トレーナーが頑張って耐えたとしても、それでウマ娘が諦めてくれるはずがないですよね。我慢の限界を迎えて、最終手段のうまぴょい(強襲)を使って来るでしょう。トレーナーたちもVRの訓練で護身術のレベルは上がってると言っても勝率で言えばまだまだ低いですから、うまぴょい(勝ち確)は有効です」

「もしくはウマ娘が作戦を立ててくる可能性もあるな。トレーナーの抵抗を警戒して、食事に睡眠薬を盛って、ジックリうまぴょい(寝起きドッキリ)とかされたら、流石の俺でも勝てん」

「ですね」

『……あぁー』

 

 小林の説明にアプローチを受けまくってるだろうトレーナーたちが、頭を抱えて机に突っ伏した。

 

「気付いてたけどさ……、薄々気付いてたけどさぁ……!」

「改めて言葉にされると刺さる……」

「いっそのこと滅茶苦茶な指導でもして嫌われるか? いや、流石にそれは心情的にもキャリア的にもダメだ……」

「やっぱり地方に逃げるか?」

「普通に地方にも追ってきそう……」

「あり得る……」

 

怨嗟の声があちこちから上がる。薄々分かっていたものの、気のせいだと必死に目をそらしていた絶望の未来を正面からぶつけられたらこうもなるか。

 会議室が阿鼻叫喚となる中、どこか満足げな小林に息を吐きつつ小声で話しかける。

 

「小林よ、もうちょっと手心をだな……?」

「いえ、いつまでも目をそらしていてもどうせ担当に捕まりますし、ここで現実を見せた方が皆さんのためになるかなって」

「流石にストレートすぎだろ。見ろよ、あいつなんてガチ泣きしてるぞ」

「どうせいつか泣くことになるんですし、それが早まっただけですよ」

「うーん、辛辣」

 

 本当に逞しくなったね、この後輩。

 

「てかここまでやらかすとか、何か企んでるだろ? お前――というより、うまぴょい互助会が」

「あ、わかります? 互助会的にも今回の方針転換は歓迎してますからね。全力で乗っかる事になったんですよ。ウマ娘は婿を迎えやすくなってヨシ、トレーナーは今の内に覚悟を決められてヨシ、そして互助会は勢力を増やせてヨシの三方ヨシです」

「トレーナーだけ利益少なくね?」

「そこは多少はね? いやー、先輩がナチュラルに僕に合わせてくれたお陰で、いい感じの説明になりましたよ」

「ノリで口を挟んだら愉快な事になっちまったなぁ……」

 

 発言する時は考えてからしないと、滅茶苦茶な事になる。お陰様でよーくわかったわ。

 

「そもそもこれまでみたいに強引にうまぴょい(パワー系)じゃないだけマシじゃないですか。どうせ逃げられないなら、合意でヤリましょうよ」

「喰われたトレーナーの嫉妬交じりの本音が出てきたか……」

「というか、先輩もいい加減こっちに来ましょうよ。みんないい子じゃないですか」

「誰かを選んだ瞬間、修羅場になる件について」

「そこはまあ、先輩が頑張ってください」

「おい」

 

 そこをぶん投げるなよ。

 

「話を戻しますが、僕たちトレーナーは本質的にはウマ娘の幸せを願っているじゃないですか。その範囲がちょっと拡大しただけですよ」

「そのちょっとが大きいんだが?」

「ええ、そうですね。でもトレーナーにとっても担当と一緒になるのにメリットがあるのは知っているでしょう?」

「まあなー」

 

 目の前の小林を始め、俺の交友関係にはウマ娘と結ばれたトレーナーってのが多い分、そいつらがどうなってるかも知っている。

 

「担当は好きなヒトと一緒になれて幸せ、トレーナーも結果的にはコンビを組めるほど相性のいい美人のウマ娘と結ばれて幸せ。それでいいじゃないですか。――皆で幸せになりましょうよ」

 

 周囲のトレーナーたちが嘆きの声を上げる修羅の中、既に喰われた側の小林はハイライトがない澄み切った瞳で言い切った。

 

 




ウマ娘に好かれる事はトレーナーにとって俗にいう詰みなのです。
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