マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

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今回のチャンミはA決勝に行ったものの2位で終了しました。次は艦これイベントだ……!


5話 自分が好きだからって相手が答えてくれるかは分からない

 

変態幽霊を成仏(物理)させてから1週間。あれほど騒がれた靴下強奪事件も多少は落ち着き始め、学園内部は相変わらず出てくるはずのない変質者を警戒して厳重な警備が敷かれているものの、生徒たちの日常は平常運転に戻っていた。

 

「てか、一週間で落ち着くもんなのか。……4」

「んー、3日目くらいから話題には出なくなったかな。はい、11」

 

 そんな平穏が戻った学園の片隅にある一室。相談室と表札が掲げられている小部屋で、とある仕事の合間に担当のマヤノトップガンと駄弁っていた。

 

「いや早いな……。12」

「靴下が盗まれなくなったしね。15」

「被害がないならそれでいいって感じなのかね」

「そんな感じ。あ、でもお気に入りの靴下が返ってこないって嘆いてた娘もいたよ?」

「あー……」

 

 中々痛い所を突かれた。

 

「流石にアレを返すのはなぁ……。8」

「……そうだね。7」

 

 被害者には悪いが、あの謎の液体でベトベトになった靴下を返す訳には行かない。

 

「てか、あれを思いっきり触っちまった俺も、色々とメンタルに来たんだが……」

「あ、ごめんねトレーナーちゃん……」

 

 あのねちょっとした感触は当面忘れられそうにない。てか今にも思い出しそうになったので、強引に話を方針転換する。

 

「てかマヤノは良いのか? 5」

「なにが? 10」

「今日休みなんだし、遊びに行っていいんだぞ?」

 

 本日は日曜日。トレーニングも休みにしてあるので、担当は各々好きなように過ごしているのだが、物好きにもマヤノは俺の所にやってきていた。

 

「んー、それも考えたんだけどね?」

「なんかあったのか? 16」

「レースが近いからって追い込みをしてたり、トレーナーとデートするって娘ばかりなの。やったクリティカルで20!」

「げ……。で、暇だったから遊びに来たと」

「それにトレーナーちゃんがやってるお仕事も興味あったしね」

「生徒会がやってる相談室の事か?」

「そうそう」

 

 シンボリルドルフが「生徒の声を直に聴く手段が必要だ」との提案の下作られたのがこの相談室だ。相談室が開けられるのは定期的ではあるが、相談員の方は固定されておらず、その時手が空いている生徒会メンバーか生徒会の協力者が受け持っている。

 因みに今日は協力者の立場で相談員をしている。

 

「で、実際に手伝ってみた感想は? 8」

「んー、実は結構真面目な相談ばっかり? 10」

「せやな。三人来たけど、トレーニングメニューの相談だったし。てか、俺が受ける相談は大体レース関係ばっかだ」

「エアグルーヴさんからはなんでも相談していい場所って聞いたけど、もしかしてここって結構お堅い所? 暗黙の了解とかあったりする?」

「いやそういう訳でもないぞ?」

 

 確かにこの相談室で受け持つ相談は、中々勝てない事への不安とか、トレーナーとの相性についての問題、出場レースの方針といったレース関連はあるが、そういうのは全体の割合からすれば精々3割程度。勉強の事や友好関係、プライベートに纏わる相談が多数派だ。

 

「はた目からみりゃ、俺はG1バを出してるトレーナーだからな。自然と相談者がトレーニングを見てほしいって娘は多くなるんだよ。げ、ファンブル」

「そっか。8」

「後、相談役が野郎ってのがな。やっぱりプライベート系は同性の方がやりやすいらしい」

「それもそうだね」

 

 実際、勉強はともかくプライベート系とかそっちの相談をされても返答に困るのは目に見えているから、レース系オンリーなのは割と助かるんだがな。

 

「それじゃあ、ここの仕事って本当は忙しかったりするの?」

「そうだな。フジやエアグルーヴみたいな人気がある奴だと行列が出来るぞ」

「んー、そうなるとトレーナーちゃんってもしかして人気がない?」

「……うん、あってるけどな?」

 

 どストレートに心に刺さる言葉吐くのやめよ?

 

「まあ、そんな訳で俺の時は割と暇って訳だ。12」

「そっかー。9」

 

 実際他の相談員と比べて暇なのは間違いない。そのためいつもはノートPCを持ち込んで仕事をしていたり遊んでいたりする。

 

「でも暇だからって遊んでてもいいの?」

「いや、見つかったらアウト」

 

 特に偶に様子を見に来るエアグルーヴ辺りに見つかったら雷が落ちる。実際、昔落とされた。

 

「じゃあ、マヤたちがやってるこれもダメなんじゃない?」

「ん?」

 

 マヤノが視線をテーブルに向ける。そこにあるのは厚紙で出来た盤面、その上には人を模した駒が置かれているおり、更にその横には10面体のサイコロが二つ。

 端的に言おう。お互い相談者が来なくて暇なので、今の今までマヤノとボードゲームで遊んでいる真っ最中だ。因みにさっきから会話の中に数字が紛れていたが、これ全部ダイスの目な。

 

「なーに、これなら言い訳が出来る。11」

「どうやるの? 6」

「このゲーム、ウマ娘のレースを模した奴だろ」

「うん」

「つーことで、二人でレース戦術の勉強してた、で押し通す」

「あ、トレーナーちゃんすっごい悪い顔してるー!」

 

 マヤノがそんな事を言っているが、こいつも中々にいい笑顔をしている。勘が良いだけに言いたいことをすぐに理解してくれるのは本当に助かる。

 

「つー訳で、誰か入ってきたら話を合わせてくれ。5」

「んー、どうしようなかー。トレーナーちゃんのお願いだけど、これ悪い事だしなー。5」

「おう、露骨にチラ見すんなよ。……んじゃ、仕事が終わったら甘いモノでもおごるかね。8」

「デートだね! はい、19でゴール!」

「って、負けたか」

 

 買収成立、これでエアグルーヴも怖くない。ただしゲームには負けたが。

 

「大差負けかー」

「トレーナーちゃん、全体的に出目が良くなかったね」

「サイコロ系だと、出目次第でこういう事にもなるからな」

 

 ダイス目次第で良くも悪くもゲームが盛り上がるのは、ボードゲームあるあるな。

 

「まだ時間もあるし、もう一戦やるか?」

「うん! じゃあ今度は有馬記念で!」

 

 いそいそと駒とボードをセッティング。そんな時、部屋にノックの音が響いたと思ったら、すぐさま扉が開かれた。

 

「邪魔するぞ――って何やってんだ、アンタら」

 

 入ってきたのは俺の担当している生徒、シリウスシンボリだった。彼女はこちらをどこか呆れたような目をしている。

 それを確認すると一瞬だけマヤノに視線を向ける。すると彼女は小さく頷いた。

 

『レース戦術の勉強』

「息ぴったりか。てかそれ寮の共用スペースにも置いてあるボードゲームだな。大方暇だから遊んでただけだろ?」

「いやこのゲーム、リアル志向のハードモードルールってのがあってだな」

「でもさっきまで普通に遊んでたろ」

「はい」

 

 普通にばれた。まあシリウスなら黙っててくれるから大丈夫だろう。因みに戦術勉強にも使えるハードモードルールがあるのはマジな。

 まあそれは置いておいて、

 

「しっかし、こんなところに来るなんて珍しいな」

「だね。シリウスさんって会長が嫌いだから、生徒会に関係がある相談室には来ないと思ってた」

 

 生徒会長のシンボリルドルフに色々と複雑な感情を持っているシリウスが、末端とはいえ生徒会に関連する場所に足を運ぶとは思いもしなかった。

 それを指摘されて、シリウスは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

「相談室に用事があるんじゃない。アンタに用事があるんだ」

「俺?」

「アンタ前に言ったよな。『何か困った事があったらいつでも相談に来い』って」

「おう。……って事は?」

「……私だけじゃ手に負えない事案が起こっちまった」

「おいおい、マジか」

 

 シリウスの言葉に思わず居住まいを直す。あふれ出るカリスマで周囲の生徒を虜にしたり、不良の王様を自称してはみ出し者を集めてグループを作ったりと中々愉快なことをしている奴だが、本人のスペックは非常に高い事は知っている。そんな彼女が手に負えないと素直に言い切るとなると、相当な事件が起こっている事を意味していた。

 

「笹針持った不審者にでも目を付けられたか? 任せろ、今度こそキ〇肉バスター決めてやる」

「手に負えないの言葉で、最初にそれが出てくるのがそれなのはどうなんだ? ……正確には私じゃなくて元は私の所にいたやつだ」

「元?」

「トレーナーが付いたからな」

「なるほど。で、そいつが何か問題を抱えている、と」

「その娘、どうしたの?」

「……まあ見てもらった方が早いな。ワルツナイト、入っていいぞ」

 

 シリウスシンボリの声におずおずとウマ娘が相談室に入ってくる。ボブカットが特徴の青鹿毛のウマ娘で、第一印象は大人しそうな娘といった所だろうか。

 

「あー、よろしく」

「あの……シリウスさん?」

 

 ワルツナイトと呼ばれたウマ娘が、俺をチラ見すると気おくれした様にシリウスに助けを求め始めた。若干凹む。

 

「こいつは私のトレーナーだから安心してくれ。見た目は少しアレだが変な事はしないし、割と頼りになる」

「この人が……」

「いや、俺の扱いよ……」

「それにお前の悩みを解決するとなると、私だけじゃ手が足りない。相談の内容が内容だから恥ずかしいのは分かるが、ちゃんと相談するべきだ」

「……はい」

 

 ワルツナイトはしばし沈黙すると、意を決した様に口を開いた。

 

「実は……トレーナーを好きになったんです」

「あー、それはLike的な意味で? それともLoveの方?」

「……Loveの方です」

「あー、なるほど。うん、青春だな」

 

 本人はそれなりに覚悟をもっての発言の様だったが、トレーナー業をやってる側からすれば、色々と問題があるとはいえ悩み自体はよくある奴だ。ウマ娘は気に入った人間に執着しやすい&多感な思春期、という相乗効果のせいで、身近で親身になってくれているトレーナーを好きになるというのはよくある。そのせいで色々と愉快な事になりやすいのは、まあここでは置いておこう。

 ともかく、悩んでいる原因は分かった。が、同時に疑問も湧いてくる。

 

「……これお前だけで十分じゃね?」

 

 小声でシリウスに問いかける。悩みの内容はスタンダードであるし、言っちゃなんだがシリウスが少し手助けするだけで結果はどうあれ解決は可能な程度なはずだ。

 だがそんな問いかけに、シリウスは遠い目をしながら小さくため息を吐いた。

 

「まあ見てな。……ワルツナイト、そのトレーナーってのはどんな奴なんだ?」

「トレーナーさんですか?」

 

 ワルツナイトは目を輝かせた。

 

「田川トレーナーは本当にキレイなヒトなんです。身長は169cmの長身で上から86、63、82でスタイルもいいですし、体重も――いえこれは流石に教えられませんね。そんなトレーナーさんですけど、とても凛々しいし頼りになる方なんです。トレーニングも私の調子に合わせて細かく調節してくれますし、レースでの戦い方もとても分かりやすく教えてくれたお陰で、レースではいい成績を残せています。それにレースの事だけじゃなくてプライベートの事でも相談に乗ってくれて何度も助けてもらえましたし、本当に感謝してもし切れません。そうそう、田川トレーナーは運動神経もいいですよ。去年の夏合宿の時に一緒に遠泳をしましたけど3キロくらい平気で泳いでいましたね。それにフォームもキレイでしたし、多分水泳をやっていたんだと思います。ただ苦手な事もあるみたいで、料理は出来ないみたいですね。合宿の時に一緒にご飯を作ったんですけど、包丁さばきが危なっかしかったですし、味付けも私のフォローがなかったら失敗しそうになってた時が何度かありました。でも人間だれしも苦手な事がありますし、それは仕方ないですよね。それに差し入れでお弁当を持って行った時なんかは、とっても美味しそうに食べてくれましたし、あの顔を見れたので逆に良かったです。

 そんなトレーナーさんですけど、付き合ってる人はいないそうです。あんなにカッコいい人なのに。本人は『こんな仕事だからね』って半分諦めているみたいですけど、男の人は見る目はないんでしょうか。あ、でもそれのお陰でトレーナーさんがフリーだから、むしろ感謝した方が良いでしょうか。お付き合いできるようになったら、色々な所に行ってみたいですね。これまでもレース関係で日本各地には行っていますけど、あまりゆっくりとは回れませんでしたし、有名な場所とか一緒に見て回りたいです。それで将来は、結婚したいですね。トレーナーさんは男装が似合いそうですけど、ウエディングドレスも似合いそうですね。女性だから結婚は出来ませんけど、最近はパートナーシップ制度とかあるから大丈夫ですよね。結婚生活ですけどトレーナーさんも今の仕事を続けたいでしょうから、私が家庭を支える事になりそうですね。トレーナー業はあまり健康にはよくありませんし、私がしっかりとあの人を支えないと。そういえば家庭で思い出しましたけど、子供も欲しいですね。男の子女の子ウマ娘、どれでも嬉しいですけど、出来ればウマ娘が良いかな? やりたいことがあるならそっちが優先ですけど、もし競走バを目指すなら家族みんなで子供を応援するって素敵ですね。ただ流石に子供は無理かな? やるとしても養子になりそうですね。あ、でも将来はiPS細胞でどうにかなるとか聞いたことがあるような。科学技術の発展に期待ですね。後は――」

「お、おう……」

 

 なんか唐突に滅茶苦茶語り始めたよ。この娘。思わずシリウスに視線を向けると、

 

「……ここに来る前に2時間くらい惚気を聴かされたよ」

「お、お疲れさま、シリウスさん……」

 

 めっちゃ煤けてた。そのあんまりな姿にマヤノも慰めてる。

 ただ、

 

(トレーナーにうまぴょい(桃)を狙ってない時点で、実は軽症とか言っちゃいけないんだろうなー)

 

 多分シリウスが折れる。そんな事を考えながらも、この面倒事をどうしようか考える事にした。

 

 

 

 




Q:トレーナーに惚れたウマ娘はどうなるの?

A:大体の奴は掛かる。気づかず放置したりミスるとうまぴょい()されるので、慎重に対処すべし。(一敗)
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