マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》   作:とらんらん

71 / 107
今回はトレーナーたちの対クリスマスのお話。クソボケトレーナーの話を期待してた人はスミマセン。出番はもう少し後になります。




63話 戦いの前は備えないといけないぞ

 

 クリスマス

 某一神教における聖人の生誕を祝う日ではあるが、こと日本においては主に行事にかこつけてバカ騒ぎする日の一つだ。

 当然トレセン学園もそのバカ騒ぎと無縁な訳もなく、商業施設から生徒にイベントの依頼が来たりもするし、学園の方でも生徒会が主催になってクリスマスパーティーを開催するのが毎年の恒例だ。イベントの方はライブで毎年大盛り上がりだし、学園のパーティーも学園の生徒が半数以上参加する盛況具合を見せている。

 

そんな多くの奴らが楽しむクリスマスではあるが――このイベントを楽しめないどころか恐怖している奴らもいる。

誰だって? それはトレーナーっていうんだよ。

 そんなクリスマスを楽しめないであろう奴らは今、職員棟の一角にある教員室に大集合して大騒ぎしている真っ最中だ。

 

「くっ、やっぱり駄目だったか……」

「うっそだろ……。最近ヤバいから何とかしたかったのに!」

「やった……! やったぞぉおおおおおお!?」

「うお、マジか。ダメ元だったけど当たった!」

「ああああああぁぁ……」

「これからどうするかな……」

「頼む! 俺と変わってくれ! 2万、いや5万なら出せるから!」

「やだよ!?」

 

 教員室の一角のコルクボードにデカデカと張り出された紙を前に、ガッツポーズしてたり頭を抱えてる奴らがたむろしている。なおその割合は頭を抱えてる奴の方が圧倒的多数だがな。

 そんな愉快な光景が広がっている教員室で俺はどうしてるかというと、部屋の隅で同僚とくっちゃべっている最中だ。

 

「――って感じでやってんな。そうすりゃある程度フラストレーションも解消できる」

「なるほど……。ありがとう、本番で試してみるよ」

「おう、まー頑張れよ」

「――あっ、もうこんな時間か、それじゃあ」

「おう」

 

 去っていく同僚を見送り、改めて終わる寸前で中断していた仕事に取り掛かる。脇に抱えた薄っすい書類を、ちょうど席を外しているチーフトレーナーのデスクにそっと置く。中身? ちょっとした申請書だ。なお提出期限ギリギリな。チーフトレーナーがいたらグチグチ言われてたから、いないタイミングを計ってたんよ。

 

「……それ提出期限が正午までの奴なんじゃ?」

「ギリギリ期限内だからセーフ」

「ギリギリすぎますよ……」

 

 ひょっこりと現れた小林後輩に堂々と返事をする。なお今の時間は午前11時半。一応提出期限は守ってるぞ。それはそれとして小林を連れてさっさとチーフのデスクから離脱。あそこで駄弁っててチーフが帰ってきたら煩いし。

 

「所で先輩はアレ視に行かないんですか?」

「そもそも申請出してないしなぁ。てかこの時期の申請なんて一度もやった事ないぞ」

「相変わらずのストロングスタイルですね」

「そういう小林はどうなんだよ」

「僕はほら、申請する意味がないですし」

「せやな」

 

 駄弁りながら二人同時に振り返る。未だにコルクボード前に多くのトレーナーたちがたむろっているが、ボチボチと諦めて肩を落としながら帰っていくトレーナーの姿も見えた。まあ、気持ちは分からんでもない。

 

「クリスマス出張ねぇ。昔あれの立候補者が滅茶苦茶多いって聞いた時はどんだけ仕事熱心なんだって呆れたもんだが、実情を聴かされて頭痛くなったな」

「でも理論は分かりますよね」

「まあな。担当にうまぴょい(論理)を狙われてるトレーナーにとって、クリスマスなんて地雷そのものだし」

 

 クリスマスってのは12月の特大イベントで有名ではあるが、同時に24日21時から翌25日3時までの六時間は1年で最もヤッる奴が多い事でも有名だ。いわゆる「性の6時間」って奴だ。

 当然トレーナーを狙っているウマ娘たちがそんな大イベントを見逃すはずもなく、ウマ娘たちはクリスマスに乗じて色仕掛けをしたり物理で襲い掛かってくるのが毎年の恒例行事だ。お陰様でクリスマスは卒業シーズンと並んで、トレーナーが担当に喰われる確率が最も高いイベントの一つだったりする。

 当然トレーナーもそれは分かっているから、各々何とか喰われまいと努力しているのだが――、学園側からのトレーナーへの援護として行われているのが、クリスマスイブ及びクリスマスに掛けての出張命令、通称「クリスマス出張」だ。

 

「クリスマスっつーヤバい時期に担当から物理的に逃げられれば、そりゃ喰われる事はないわな」

「ですね。ただ学園もトレーナーを大量に出張に出せないですから、クリスマス出張に行けるのは志願制の上に抽選を潜り抜けた幸運の3人だけですけど」

「で、その3人になれずにふるい落とされた奴らは、学園で担当との戦いに挑むことになる、と」

 

 クリスマス出張ってあくまでも一時避難だし、担当の方もクリスマスをトレーナーと過ごせなかったフラストレーションを貯める事になるから、後から暴発する可能性って高くなるんだけど、それはまあ置いておこうか。

 ともかく多くのトレーナーたちは、担当からの攻勢をあの手この手で躱す必要があるんだが、その手段は人それぞれだ。

 

「担当に会わないようにすればいい、って事でワザと事前に仕事を貯め込んで、それを理由に逃げるスタイルもよく聞くよな」

「僕の同期たちはそのスタイルをよく使いますね。ただクリスマスっていう特別な日を理由に、担当がトレーナーを連れ出そうと押しかけてくる事も多いそうですが」

「だろうな。あと今年は前よりも押しかけてくる奴が多くなりそうだし、仕事で逃げようとするのはキツイかもな」

「? なんでです?」

「最近のトレンドは誘い受けスタイルだからな。差し入れって事で突貫してくるぞ」

「あぁ……」

 

 ついでに仕事で逃げるのはクリスマス出張と同じで、ウマ娘にフラストレーションを与えるから、その点で見てもヤバい。

 

「そもそもの話、ウマ娘も担当トレーナーとクリスマスを過ごすためにトレーナーが仕事を貯め込んでいないかとかのチェックはしてますから、仕事を理由にした回避方法ってかなり難しいでしょうね」

「そうなると、担当とクリスマスを過ごすのは確定って前提で動いた方が有意義だろうな」

「ですね。そうなると例年通りトレーナーは生徒会主催のクリスマスパーティーを活用するんでしょうね」

「生徒会のパーティーに便乗する事で担当と二人きりになる危険性を回避しつつ、担当と付き合う事でフラストレーションを解消。パーティーが終わったらそのまま寮まで送れば完全勝利だからな」

 

 ここでいう生徒会主催クリスマスパーティーだが、文字通り生徒会が中心になって開催しているパーティーだ。このパーティーだが中々の大規模で、毎年学園全生徒の5割は出席するという中々エグイイベントだったりする。

 そんなお題目をわざわざ生徒会が用意しているんだから、上手く使おうとするのはトレーナーにとっては当然だろうな。

 

「ただこの方法もウマ娘が嫌がるかもしれないらしいですよ?」

「そうなん?」

「デュオから聞いたんですけど、今年は二人っきりでクリスマスパーティーをしようと狙ってるウマ娘ばかりらしいです。そのために料理の練習をしたりする娘も多いみたいですし」

「ここでも誘い受けスタイル流行の煽りが出てるのか……」

 

 まあウマ娘側がやりたいことも分かる。この一大イベントで一気に攻めてトレーナーをモノにしたいんだろうな。ただその攻めが文字通りルール無用なのが問題なんだが……。

 

「多分結構な人数が担当に圧し負けて、二人でパーティーをする事になるんでしょうね。そして担当にあの手この手で攻められて、耐え切れずにうまぴょい(聖夜)するのが毎年の定番ですね」

「そこまで来ると死中に活ありって事で戦い抜くしかないんだが、その活の入手難度が恐ろしく高いんだよなぁ」

 

 流行の誘い受けスタイルを前提とした場合、確実にチャンスと言わんばかりに仕掛けてくるだろうさ。それこそ健全なアピールだけじゃなくてお子様に見せたらアウトな誘惑を仕掛けてくる可能性は高い。

 更に言えばこの最大のチャンスでトレーナーをモノにせんと、誘い受けスタイルを投げ捨ててくる可能性だって十分あり得る。食事に睡眠薬を混ぜられてたせいで寝落ちして、次に目を覚ましたら担当が隣で寝てたとか割とあるし、お互いの食事に媚薬を自爆同然に(なおウマ娘の目的を考えるとノーダメ)を盛って、お互い前後不覚でくんずほぐれつしてたってのも定番シチュだ。

 ホント怖いなクリスマス!

 

「とりあえず、無事に帰ってこれるように祈っといてやろうか」

「……なんか他人事みたいに言ってますけど、そういう先輩はどうなんですか? 前の誕生日の時は目論見が外れたってやつれてましたけど」

「あん? エアグルーヴが立場的に生徒会のパーティーを欠席できないのを考慮して、最初は全員で生徒会パーティーに行って、それが終わったら俺の部屋で改めてパーティーだそうだ」

「まさかの二次会?」

 

 ビックリだろ? 俺もびっくりだよ……。しかも今回は事前予告で外泊届出してるって言ってきてるから、熾烈な戦いが確定してるんだよ……。

 

「……今度こそ喰われちゃうんじゃないですか?」

「あいつ等どういう訳か全員で連携して俺に攻めてくるが、流石に最終目的的にも誰かが喰いに行こうとしても他が止めるだろ。……多分」

「多分って……」

「そういうお前はどうなんだよ」

「え? その日はちょっと遠くの有名なレストランの予約を取ったので、そこでデュオとディナーですね。その後は……こう……アレです」

「あー、はいはい」

 

 この後輩の所はホントに平和そうだな。やってる事がヤッてる事なだけに、トレーナーとしては羨ましくないけど。

 

「とりあえず、先輩は頑張ってください。一歩先に進んだ場所から応援していますんで」

「その場所は踏み入れたらアウトな場所なんだが?」

 

 頭が痛いがどうにかしないといけない……。

そんなこんなしている内にも俺たちトレーナーの戦いは一歩一歩近づいている――。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、さっき三冠トレーナー(ルドルフとシービーを担当するトレーナー。二人とも三冠バだから、こう呼ばれている)と話してたようですけど、どうしたんですか? あのトレーナーが先輩に話しかけるなんて珍しい」

「なんでも最近、担当同士の仲が悪いからクリスマスパーティーを機に仲良くしてもらおう、って考えてるらしい」

「それで第三者からは上手くやってる様に見える先輩にアドバイスを貰ってたんですか。……あれ? あの二人が仲が悪くなるのって三冠トレーナーを巡って争ってる時だけだったはずですけど」

「なんか空回りしてるよな、あいつ」

 

 

 




次回、クリスマス前編!(クリスマス編書いてたら長くなったので分割する事になった……)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。