マッチョトレーナーがこの先生きのこるには《完結》 作:とらんらん
『かんぱーい!』
という訳で場所は変わってトレーナー寮の俺の部屋。生徒会主催のクリスマスパーティーが無事に終わり、片付けも終わったって事で改めてチームのメンツだけでのクリスマスパーティーが始まった。
食事の方はさっきのパーティーで済ませてきたってのもあって、用意してあるのは精々ちょっとした菓子類やデザートと寂しいものだが、メンバーの士気は大いに高い。全員がこの時のために用意した衣装(コンプライアンスギリギリ攻めた奴)に身を包み、ギラついた目で俺を見てる。みんなヤル気十分だ!
ここからは、油断したら俺の精神を削り切られて、ここにいる誰かとその場でゴール(うまぴょい)という、過酷な戦いが待ち受けている。俺も気合いを入れ直さないといけない!
まあそれはそれとして、
「あ、先に言っとくが、折角の祝い事だしレース関係の話はなしだからな?」
「それはいつも通りか」
「トレーナーさんはオンとオフはしっかりと区切るからね」
俺も折角の祭りを楽しみたいし、チームメンバーにも楽しんでもらいたいとは思う。そのために色々と用意はしてあるしな。
「しっかし9時から二次会パーティー始めてこのテンションとは、お前らも元気だな。特にエアグルーヴなんかはさっきまで主催者側で動いてただろうに」
「この程度どうという事もない」
小さく鼻を鳴らすエアグルーヴ。
「それにパーティーといっても貴様が主導してくれるのだろう? なら問題はない」
「若いっていいね……」
おっちゃんの歳になると、エアグルーヴみないたことやったら流石にキツイんよ……。
「しかしこの時間帯でしたら、皆さんでおしゃべりをしたり遊んでいると思いますよ?」
「だね。さっきのパーティーで一緒になったマヤのクラスメイトも、この後みんなで遊ぶって言ってたし」
「んで、当然トレーナーとパーティーをしてる奴らも遊んでる訳だ。遊びの内容はそれぞれだろうがな?」
面白いモノを見るかのようにシリウスが笑った。こいつ分かってて言ってるな……。
――幕間その4 割とマシな方な哀れなトレーナーの結末 多分これが一番穏便編
「クリスマスプレゼントは――私だよ、トレーナーさん?」
「あっ……。――うおおおおおおおおぉお!」
「うん、来てトレーナーさん! ずっとずっと愛し合おっ!」
「ゆーて、チームで集まって遊ぶって奴は少ないんじゃないか?」
「それはそうかもね。あ、チームで集まると言えば、会長が随分と機嫌がよさそうにトレーナー寮に入っていったけど、何か知ってる?」
「そのことか。なんでも会長はトレーナーに二人きりでのパーティーに誘われたらしい」
「……ん?」
なんかエアグルーヴが変な事言わなかったか? そんな疑問が湧き上がった所に、シリウスが口を挟む。
「待て、前にシービーがトレーナーからクリスマスパーティーに誘われたって張り切ってるのを見たぞ」
そして更に新たな情報が投下された。これには担当たちも顔を見合わせるしかない。
「ええ? どういう事?」
「ダブルブッキング、なのかな?」
「しかしあのお二人のトレーナーがこんな大事な事でそんな失敗をするでしょうか?」
「会長のトレーナーとは生徒会の仕事で偶に話をするが、有能なトレーナーなのは確実だ。この大切な時にダブルブッキングなどというミスを犯すとは思えん」
「ならどちらかが嘘をついてるって事か? それこそあり得ないだろ」
思わぬ事態にワイのワイのと議論を重ねる担当たち。そんな中俺はというと、
「あぁああああああ……」
同僚のやらかしに思わず顔を覆って天を仰ぐ。慣れない事やったから多少のミスは出るかもしれないが、それでもやらかしの度合いがヤバすぎる……。
「トレーナーさん、何か知っているのですか?」
「……あいつ、最近担当同士の仲が悪いからクリスマスパーティーを利用して仲良くしてもらおうって言ってたんよ……」
「……え」
「……トレーナー側の伝達ミスか担当側が勘違いしたかは分からんが、お互いの認識が致命的にずれてやがる」
「おい……。おい……!」
この場にいる全員がそのヤバさに気付き、そして全員の顔が真っ青になった。
――裏話その1 クソボケがやらかしたようです
「どういう事だいトレーナー君……」
ルドルフは激怒した。かの邪知暴虐のトレーナーを分からせねばならぬと決意した――!
「二人きりでクリスマスパーティーじゃなかったの、トレーナー……」
そしてシービーも激怒している。自然と私たち二人は手を結び、壁際にトレーナーを追い詰める……!
「あ、あの……。もしかして二人とも怒ってる……?」
「ううん、怒ってないよ? ただあんな事言って誘ったのに何でルドルフもいるのか訊いてるだけだから」
「ああ、怒ってないとも。呼ばれてないはずのシービーがここにいる件について、納得できる説明を求めているだけさ」
「二人とも笑顔だけど、目が笑ってないよ!?」
訳の分からないことを叫ぶトレーナー君。どうも反省の色がみられないようだね。――覚悟してもらおうか。
「さーて、今回は何やる?」
三冠チームはもうフォローも出来ないという事で頭から追い出して、改めてパーティーを始める。遊ぶのがメインだからパーティーとは違う気がするが、気にしちゃいけない。そもそもこのパーティーって二次会ポジだし。
「アンタは相変わらずそういうスタンスなんだな」
「駄弁るのも良いんだが、それだけで時間を潰すのもな。また買い足したから、気になった奴を選んでくれ」
「ふむ。なら夜も遅いしプレイ時間が短いゲームがいいだろうな」
「んじゃ、10分から15分で出来る奴で行くか」
そういう短時間で出来るゲームもちゃんと買ってあるぞ。頭の中でいくつかピックアップしていると、シリウスが待ったをかけた。
「ゲームをするのはいいが、普通にやってもつまらないだろ」
「ん? なんか罰ゲームでもするのか?」
「ああ、いい罰ゲームがあるぜ」
「ほー」
「最下位は一枚脱ぐんだ。これはヒリつくだろ?」
「待とうか」
唐突に何言ってやがるこいつ。ぶっ飛びすぎて他のメンバーも引いてるじゃねーか。
「シリウス先輩、流石にそれはやりすぎでは……」
「マヤもそれは恥ずかしいかなー」
「もう少し健全なものにしませんか?」
「おいおい、何言ってやがる。これはチャンスでもあるんだぜ?」
「チャンス?」
フジを筆頭に首を傾げるメンバー一同。そんな中、シリウスが獰猛な笑みを浮かべる。
「勝ったらそこのマッチョの服を合法的に剥ぎ取れるんだぜ? お前らも視たいだろ?」
「いや、俺の裸とか誰が「うん、見たい」即答かよマヤノ「私も視たいよ?」フジ……」
「トレーナーの身体を視たいのは同意ですが「いや、同意しないでくれフラッシュ」問題は私たちの方です。皆さん薄着ですから、直ぐに大変な事になってしまいます」
「おいおい、私たちの目的を忘れたのか? トレーナーを墜とすために来たんだぜ? だったら負けて脱いじまっても、このマッチョに見せつけりゃいいだけだろ」
『!?』
「悪魔かお前は」
そしてお前らその手があったかって顔すんじゃねぇ。
「……これは一考の余地があるな」
「私は賛成かな」
「考え直せ副生徒会長&寮長」
ルール側に属する奴らが二人揃ってそっち側に行くんじゃない。
この後、俺による全力の説得によりトップが最下位に命令を下す王様ゲームスタイルに落ち着いた。
――裏話その2 とりあえずパーティーしよう? ね?
「はい、ゴール。今回は私が一着だね」
「む、今度は二着か。だがこのゲームにもだいぶ慣れてきたな。次は勝たせてもらうぞシービー」
「……」
トレーナー君からこのクリスマスパーティーの趣旨を聞き出した後、私たちは改めてパーティーを再開し、今はトレーナー君が持っているゲーム機を使って三人で某有名なレースゲームを楽しんでいる真っ最中だ。
この手の遊びは余り経験はないが、中々に面白い。ゲームにのめり込む者が多いのも納得だね。
「トレーナー君は五位か」
「……そうだね」
今回のレースはシービーが一位、私が二位、そしてゲームの持ち主であるトレーナー君が五位。ここ数レースでトレーナー君の連敗が続いている。
「トレーナー、腕がなまったんじゃないの?」
「……それもあるけど、君たちが二人連携して妨害してきたら流石にキツイよ?」
「たまたまだよ?」
「そうそう、たまたま」
「……」
本当に偶然だよ、トレーナー君。それはそれとして、だ。
「それじゃあ最下位は罰ゲームだね。それじゃあトレーナー、一枚脱いで」
「あの……、これ脱いだらパンツ一丁になるんだけど……」
「そうだね。それで?」
「……ルドルフ」
縋るような目でトレーナー君が私を見つめた。うん、君の言いたいことは分かるさ。でもね?
「ルールはルールだよ、トレーナー君?」
「あの……もしかして二人ともまだ怒ってる?」
「そんな事ないよ? だから脱いで?」
「ああ、怒っていないとも。だからトレーナー君、そのシャツを脱ぐんだ」
「やっぱり怒ってるよね!?」
ソンナコトハナイヨ?
「えっほっえっほっえっほっ」
「トレーナーさん、もっとぎゅっとしてください」
「あいよ」
「ふふっ」
お姫様抱っこ中のフラッシュのリクエストに応えて、ポジションを直す。ただいま罰ゲームって事でフラッシュをお姫様抱っこでトレーナー寮を一周中だぞ
あいつ等ゲームを始めてから一位争いしながら、俺を最下位にするために無駄に連携取ってくるんだよな。お陰で運で一位になれた一回以外は全部最下位だ。お陰で担当たちのコンプラギリギリを攻める要望を叶えてばっかだ。しかも後半になるほど過激になっていくもんだから理性が削れる削れる……。
「それにしても今日のトレーナー寮は随分と騒がしいようですね」
「よく聞こえるな」
「ウマ娘は耳が良いですから」
「それもそうか。まあウチみたいにトレーナーの部屋で担当たちが遊ぶって奴らも多いしな。特にウマ娘がアッチに目覚めてない女トレーナーの所なんかは、滅茶苦茶健全に遊んでるんだろ」
「いえ、それも聞こえますが、ウマ娘が喜んでいる声も聞こえます」
「それ野郎の悲鳴も一緒に聞こえてない?」
地獄かな?
駆け足をしながらそんな雑談をフラッシュと交えていると、フラッシュが何かに気付いた。
「あっトレーナーさん、あれは……」
「ん?」
釣られてフラッシュの指した方に目を向ける。そこには寮の出入り口からルドルフとシービーが自分のトレーナーを各々脇を固めて出てくる姿があった。なお件のトレーナーはぐったりしているのに対し、ウマ娘二人は些か黒いオーラを放っている。
「あいつ、上手くやれなかったみたいだな……」
「ルドルフ会長もシービーさんも怒っていますね……」
俺たちは夜の街に消えていく三人を見守るしか出来なかった。
……なお俺たちの姿を見たウマ娘二人が、フラッシュに羨ましそうな視線を向けたのは気にしてはいけない。そして連行されているトレーナーが助けを求めるような視線を向けていた気がするが、それも気にしてはいけない……。
――幕間その5 色々受け入れたトレーナーと勝ち取ったウマ娘の話 一番いい空気吸ってる編
「さっ、着いたよ」
「わー、凄いホテル!」
「折角のクリスマスだからね。奮発したんだよ」
(あとここうまぴょい互助会の息が掛かってるから、割引してくれる上に諸々の事情も把握されてるから、色々と安全なんだよね)
「ありがとうトレーナー! ……それじゃあ、私もお返ししないと、ね?」
「うーし、そろそろ電気消すぞー」
「うん」
流石に徹夜で騒ぐと俺もしんどいし担当たちも明日に響くから、そこそこいい時間に皆でリビングで雑魚寝する事にした。前回の誕生日で今後もこんな事がありそうだから、全員分の毛布を買っておいてよかった。
「しっかしアンタもここで寝るんだな」
「流石に担当たちを床に寝かせてるのに、自分だけベッドでぐーすかする気分にはなれんよ」
「ベッドで全員で横になれればよかったんだけどね」
それはそれでヤバいんだが?
そんな雑談をしつつ電灯のスイッチに手を伸ばした所で、先に毛布をかぶっていたマヤノが、何か思いついたのかガバっと身体を起こした。
「あっ、そうだ」
「ん、どうしたマヤノ?」
「ちょっとこのクッション借りるね?」
そう言ってマヤノは一つクッションを手に取りリビングから出る。そして一分も経たずに帰ってきて、俺に期待するように目を輝かせながら毛布をかぶる。なお先程持って行ったクッションはない。
「おいおい、クッションはどうしたんだ?」
「置いてきたんだー」
「置いてきた、ですか。どこにですか?」
意図が読めず首を傾げるフラッシュ。そんな彼女にマヤのはいい笑顔で答えた。
「うん。ベッドに」
「ベッドに? ……ああ、なるほど」
「ほう、つまりシングルベッドに枕が二つか」
「これはトレーナーさんに期待かな?」
「いいねぇ」
「いや、露骨ぅ!?」
皆さん全力でうまぴょい(進めば二つ)を誘ってやがる!
「さあ、これから私たちは眠るから無防備になる。好きな担当を選べ」
「選んだらその瞬間愉快な事になるんだが?」
「選ばないのは構わねぇが、焦れた誰かがぴょい場(愛の巣)に引きずり込むかもしれないから気を付けろよ?」
「犯行予告やめよ?」
これ今夜寝れるかなぁ……?
――幕間その6 その1から5の面々のその後 ぶっちゃけ全員やってることは同じ編
……へんじがない ただのうまぴょいちゅうのようだ
――トレーナーたちにとっての悪夢の夜が明けた!
俺の部屋で皆で朝飯を食い、そして学園に登校&出勤すべく皆で通学路を歩いている真っ最中だ。
「ふー……」
担当たちに囲まれながら歩く俺だが、実に清々しい気分だった。次々と押しかける誘惑に耐えきり、何とか健全な関係を維持できたこの達成感はそうそうに得られないだろう。気持ちよく仕事が出来そうだ
「……ヘタレめ」
「あそこで何もしないのは、どうかと思うよ?」
「股にブツがついてんのか?」
「もっと強引に行くべきでしょうか……?」
「むー……」
対して担当たちの方は露骨にむくれてやがるがな……。
「前からお前らが成人してから、って言ってるだろうが……」
我慢しきれなくなって襲ってこなかったのは褒めるけど、これについては変わらんからな?
そんな俺の答えにエアグルーヴは小さくため息を吐く。
「……貴様の言いたいことは分からんでもないが、周りを見てみろ。トレーナー寮を出てからあんな幸せそうな生徒ばかり見ているんだ。愚痴の一つも言いたくなる」
通学路には多くのウマ娘たちが行き交っているが、その中には滅茶苦茶幸せそうな顔をしたウマ娘もちょくちょくとみられる。何があったかはお察しだな。
……うん、まあお前たちの気持ちは分からんでもないよ? でもな?
「そのスッゲー幸せそうにしてるウマ娘に引っ付かれてるトレーナーの方もちゃんと見てやれよ……」
そいつ等大概は死んだ目をしてるぞ。……何があったかはお察しだな!
「うーん、確かにそういうトレーナーもいるけど、お互い幸せそうにしてるカップルもいるよ?」
「そいつ等の大体はクリスマス前からくっついてる奴だからな? うまぴょい(幸福)は当然やってそうだけど」
そんな感じで皆で駄弁っていると、
「ねぇ、あれ……」
「うわぁ」
「なんかすごい事になってるね」
「……ん?」
不意に周りの生徒たちがざわつき始めた。
「あれ、みんなどうしたんだろ?」
「皆さん、後ろを見てますね。あれは――あっ……」
「おい、どうし――あー……」
振り向いた途端、間の抜けた声を上げるフラッシュとシリウスに釣られて、視線をそちらに向ける。そこにいたのは、
「みんな楽しそうにしてるね。ねっトレーナー、ルドルフ」
「そうだねシービー。皆が幸せなのはいい事だ。そうだろうトレーナー?」
「そ、そうだね……」
ルドルフとシービーが自分のトレーナーを各々両脇で捕まえて三人で歩く――というよりトレーナーを引きずっていた。なおウマ娘二人の顔はどこかスッキリしてはいるが少し不穏な空気を醸し出しており、その間に挟まれているトレーナーは死んだ目をしてグッタリしている。この構図昨日も視たな……。
「これは……もしかして3ぴょい(挟撃)?」
「でもそんな雰囲気じゃなさそう……」
「むしろあの二人が牽制し合ってるような?」
好き勝手言う周囲の生徒たち。そんな中、俺たちは突如現れた珍客について意見を交わす。
「なあ、シリウス。あの三人どう思う?」
「あ? 少なくとも確実に言える事は、他の幸せそうにしてる生徒みたいにうまぴょい(アブノーマル)はしてないだろうよ」
「確かにうまぴょい(幸福)まで出来たら、あの二人の内どちらかはここにはいないだろうしね」
「しかし、もしかしたら3ぴょい(挟叉)をした可能性も――いえ、あのお二人の雰囲気を考えるとあり得ませんね」
「……恐らくだが二人とも自分のトレーナーに想いの丈を伝えたんだろう。あのトレーナーの消耗具合を考えると、一晩中じっくりとやったに違いない」
「あの二人も大変だね……」
……とりあえずアレだ。喰われなくて良かったな三冠トレーナー、とだけ言っておこうか。……あと、なんかまた助けて欲しそうな視線が飛んできてる気がするが無視だ無視。触らぬ神に祟りなしだ。
――こうして愉快な学園のクリスマスは大きな事件もなく無事(トレーナーは除く)に幕を閉じた。
ルドルフ&シービーによるお出かけ(強制)により、三冠トレーナーのデバフ「クソボケ」は解消されました。
今後、トレーナーを巡る戦いは激化するでしょう